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リアクション
そんな平和なシーンの次に信長が撮影意欲を沸かせたのは、種もみの塔で行われるレースだ。
企画したのはブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)。今日はゆるキャラになっている。
彼は種もみの塔のご塔地キャラ『もみもみ太郎』というゆるキャラに扮し、レース参加者の一人、アイリス・ブルーエアリアル(あいりす・ぶるーえありある)の体をもみほぐそうとして──ぶっ飛ばされていた。
もみもみ太郎は、種もみの塔をうまくデフォルメしたかわいいデザインなのだが、どうやら中の人のいやらしさがその手からにじみ出ていたようだ。
「種もみの塔のゆるキャラなんて知らなかったよ。いたんだね」
「瀬蓮……これはこいつらが勝手に作ったものだろう」
のん気な高原 瀬蓮(たかはら・せれん)に答えたアイリスの視線の先には、もみもみ太郎と虹キリンがいた。
「オレは関係ねーよ!」
アイリスの視線に気づいた虹キリンが叫んだ。
「君は何故ここに? ミツエの傍にいなくていいのか?」
今日はミツエも招待されている。
虹キリンは言いにくそうに答えた。
「ミツエは友達と騒いでるさ。オレはあれだ……大変不本意だが、お前の馬になるんだよ。オレは馬じゃねーっての」
「もみもみ太郎、説明してもらおうか。私はパーティの余興の一つであり、来年の福を呼び込む神事のようなものと聞いたのだが……?」
「虹キリンは瑞兆だからね。まあ、確かに馬じゃないけど縁起担ぎにはぴったりだと思うよ」
「虹キリンはそれでいいのか?」
「まあ……仕方ねぇさ。ヒマしてたし、あの赤兎馬と競えるのもおもしろそうだ」
虹キリンはそう言うが、アイリスは何となく違和感を覚えた。
それもそのはずで、虹キリンはブルタの誘惑にまんまと乗せられていたのだ。
──アイリスのあのすばらしいボディを乗せて走る姿を想像してごらん?
(……いい! オレ、かっこいいかも! そして、アイリスの感触……!)
虹キリンは夢想に負けた。
ところが、このレースに出場してもらうはずだった関羽と赤兎馬が来れなくなってしまったのだ。
代わりに来たのは長曽禰 広明(ながそね・ひろあき)とメカ赤兎馬だった。
「悪ぃな。あの人も興味をみせてたんだが、なかなか時間を作れなくてさ。代わりと言っちゃ何だが、オレがパワードスーツの開発中に作ったこいつで勘弁してくれ。本格的に走らせるのはこれが初めてなんだが、馬力は赤兎馬に劣らねぇはずだ」
「乗り手はキミかい?」
来れないなら仕方ないと、ブルタはそれ以上は聞かずレースに話題を移した。
広明は「う〜ん」と唸った後、首を横に振った。
「オレは記録を取っておきたいしな……あんた、出てくれ」
こうして、メカ赤兎馬の騎手はブルタになった。
「用意はいいかー?」
広明の呼びかけに、馬上の人となったブルタとアイリスが頷く。
「じゃあ行くぞ……GO!」
鋭いかけ声と共に、メカ赤兎馬と虹キリンは力強く地を蹴った。
コースは種もみの塔一階から屋上まで。途中の障害は階段のみだが、何と言っても六十階ある。生き物にも機械にも負担は大きいだろう。
ブルタは、メカ赤兎馬の勢いに興奮していた。
「これはすごい! もしこれが量産できれば最強の騎馬隊ができあがるに違いない!」
しかし、虹キリンも負けてはいなかった。
これでも彼は拳法の達人だ。契約者ではないが、実力は彼らに並ぶものを持っている。
「アイリス、もっとしがみつけ! 首のあたりにこう……ギュッと胸を押しつけろ! そうすりゃブッチギリで勝ってやるぜ!」
「こ、こうか?」
「オオ〜ッ! いいぜいいぜェ〜!」
一頭と一機はたちまち十階を駆けのぼった。
一階でメカ赤兎馬のデータを取っている広明も、この時点では満足そうにしていた。
「ここから……だな」
三十階を過ぎ、四十階に差し掛かった頃、突然虹キリンが転んだ。
「足つったァ!」
「イタタ……大丈夫か?」
投げ出されたアイリスが打ち付けた箇所をさすりながら起きあがる。
「あ……何だか無理そうだな。残念だが棄権するか」
「いや、オレは行くぜ」
「だがその足では無理だろう」
「そうだな、とても走れねぇな。だから、次はお前が馬になれ! オレを担いで行くんだ!」
「無茶言うな。……とはいえ、ここに留まるわけにもいかないか」
アイリスはため息を吐くと、虹キリンを背負った。
その頃、まさに爆走と呼ぶにふさわしいメカ赤兎馬は、最後まで速度を落とすことなく見事に屋上まで駆け上っていたのだが……。
地上で端末を見つめる広明は焦った声をあげていた。
「いかん! もみもみ太郎、すぐ離れるんだ!」
無線で繋がってるわけでもないので、聞こえるはずがなかった。
メカ赤兎馬は爆発した。
息を切らせたアイリスがようやく屋上に到着すると、メカ赤兎馬の残骸と真っ黒に焦げたもみもみ太郎、爆発に巻き込まれた如月 和馬(きさらぎ・かずま)が待っていた。
立っていたのは煤けた和馬だけだ。
和馬はアイリスの疲労などお構いなしに七界の剣を突きつけた。
「アイリス、オレと勝負しろ」
「……何のために?」
「オレを認めさせるためだ」
「意味がわからないな」
「いいから剣を抜け。抜かなくても攻めるがな」
和馬の本気を感じ取ったアイリスは、虹キリンを屋上の端に横たえた。
それを見ながら和馬は自分に言い聞かせた。
(オレは、アイリスが疲れているからといって手加減はしない。これは好機なんだ。勝つための好機は見逃さないと言われるパラ実の麒麟児というのが、このオレだ)
麒麟児云々は和馬の自称である。
アイリスも剣を抜いた。
「そうこなくっちゃな。さすがはオレが惚れた女だ」
「惚れた……?」
「ククッ。惚れた奴に勝負を挑むのはおかしいか? オレはそうは思わねぇな。……それじゃ、いくぜ」
空気がピンと張りつめた。
アイリスも真剣な表情で切っ先を和馬に向ける。
まともに行ったら勝ち目はない、と和馬は思った。
(勝負は一瞬で決まる)
そんな確信があった。
ブルタの小さな呻きが合図になった。
両者が同時に突進する。
和馬が剣を上段に振り上げたのに対し、アイリスは突きの構えをとった。
剣と剣が交差とすると思われた直後、和馬の剣がアイリスへと投げられた。
ハッとしたアイリスがとっさにその剣を弾き飛ばす。
(これぞ好機!)
和馬は大きく一歩踏み込み、拳を握りしめた。
「盛大に鼻血ぶちまけて死にさらせ!」
全開のラブセンサーをアイリスに向けると、それは彼女の剣を飛ばした。
続けて和馬はシャイニングラブに乗せてアイリスへの想いを解き放った。
和馬の拳がアイリスの顔面に届くと思われた瞬間、彼女の姿が視界から消えた。
姿勢を低くして和馬の側面に回り込んだアイリスの頭部が龍に変わる。
シャイニングラブの爆発の中、和馬はその腕にがぶりと噛みつかれた。
「君はつくづく愚かな人だ……」
シャイニングラブの反動で仰向けに転がった和馬を、アイリスが呆れた顔で見下ろす。
和馬は口の端で笑った。
「恋は、人を愚かにするものさ」
「何をかっこつけて言ってるのか。さっきも惚れたのどうのと言っていたが、君はそういう相手に攻撃をするのか?」
「甘い恋もいいが、オレはそういうのはな……」
和馬が思い描く関係は、恋人同士であっても殴り合いのケンカができるような、戦友のような関係だ。
「そもそも何で私なんだ? 校長だからか? 元百合園生だからか?」
「そんなんじゃねぇよ。そうだな……身も蓋もなく言えば、その素晴らしいボディラインだな」
「……」
「待て、話は最後まで聞けよ。最初は見てくれだ。だがアイリスは、綺麗なだけじゃなく腕っぷしも強かった。弱肉強食が掟の恐竜騎士団じゃ、その強さは際立っていた。珍しいと思ったね。それから、そんな異彩を放つ者を支配したいと思った。お前の強さを欲し、うらやましく思い、憧れた。気づいたら恋になってたんだ」
黙って聞き終えたアイリスは小さくため息を吐くと、膝を着き和馬の頭を一撫でして言った。
「私は少し君のことを誤解していたようだ。君は本当に、どうしようもない人だな」
言葉とは裏腹にアイリスはやさしい微笑みを和馬に向けていた。
その時、アイリスの携帯が鳴った。地上の瀬蓮からだ。
『種もみの塔が大変なことになってるよ!』
「大変なこと?」
『えっとね、アイリス愛死帝流……アイシテル? そんな文字が電球でピッカピカに光ってるの!』
アイリスが和馬を見ると、彼はついに力尽きたのか眠りに落ちていた。
「それはきっと、パラ実流の歓迎だろう。ありがたいな」
それからアイリスは、ここでくたばっている連中を運ぶための人員を集めてくれるよう、瀬蓮に頼んだのだった。
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