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リアクション
(何でこんなに薄着な子が多いんだ)
早川 呼雪(はやかわ・こゆき)は不思議に思いながら、隅の席でヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)と共に、クリスマスパーティを楽しんでいた。
テーブルの上には、ヘルが持ってきた2人分の料理とケーキ、飲み物が置かれている。
「この唐揚げ、衣も脂身もすくなくて、あっさりしてて沢山食べれるね〜」
ヘルは弁天屋 菊(べんてんや・きく)が提供した唐揚げやシチューを美味しそうに食べている。
呼雪はケーキを食べながら、人々の様子を見ていた。
気にかけているアレナは、友人やユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)と共に、ミニスカサンタ服で、給仕をしている。
少し頬が赤いような気がするが、友人達と一緒に楽しげな笑顔を浮かべていた。
呼雪はふと、百合園生が集まっているテーブルに目を留めた。
パーティには百合園の生徒も沢山訪れており、活き活きと楽しんでいる。
(こうじて無事にクリスマスを過ごせて、良かったな)
呼雪は楽しそうな彼女達を見て、ごく軽く笑みを浮かべた。
(んー)
野菜ジュースを飲みながら、ヘルは呼雪の表情をちらりとのぞき見ていた。
(今年もいろいろあったけど、百合園もひと波乱あったんだってねぇ。複雑だよね……)
呼雪から公になっている範囲のことを、ヘルは聞いていた。
「またさ、みんなで何処か遊びに行こうよ!」
ヘルがそう呼雪に言うと、呼雪はヘルの方に目を向けて「そうだな」と頷いた。
「ゼスタも大変だったみたいだから、後でケーキでも差し入れようかな」
「うんうん。おでかけは、何処が良いかな〜♪」
陽気に言い、ケーキをぱくぱく食べるヘルとは対照的に。
呼雪は手を止めて――なんとなく、視線を自分の手に向けた。
(この両の手で出来ることは、とても小さい)
呼雪は無気感とやるせなさを感じていく。
そっと、自分の胸に掌を当てる。ここには、小さな傷跡がある。
腕の中に僅かな時間あった命を。傷の痛みと共に、思い浮かべる。
決して忘れないように。
「……寒くはないか?」
それから、ヘルにそう尋ねると。
「大丈夫、これ食べたらポカポカしてきたよー」
ケーキを指差して、ヘルが赤い顔を向けてきた。
「そういえば……そういうことか」
くすっと呼雪は微笑んだ。
「でも、これは俺がそうしたいから」
と、呼雪はヘルの手を取って、自分のコートのポケットに入れた。
「なんのご褒美ですかっ?」
喜んで、ヘルはポケットの中で、呼雪の手をぎゅっぎゅっと握りしめる。
ヘルの熱と、踊る指を感じて呼雪は目を伏せて微笑んだ。
少し面映いとも思ったが、今日くらいはと、呼雪もヘルの手で遊んだ……。
(僕にも言わずに悩んでる事もあるだろうけど、何も出来なくても、こうして傍にいるよ)
ヘルはその思いを言葉には出さなかったが、返事をするかのように呼雪の首が縦に揺れた。
「さぁ、今のうちに行きましょう」
ブラヌがどこか遠いところに行ったチャンスに、ユニコルノはアレナを連れ出した。
「どこに行くのですか、ユノさん?」
「お仕事をしに、空に行くのです」
アレナの手を引いて、ソリに乗せて。
「ブラヌさんの代わりに、一緒にサンタさんのお仕事をしましょう」
手綱を手に取って、サンタ帽に赤いワンピースを纏ったユニコルノは、サンタのトナカイで空へと飛び立った。
「わあ……っ。お星さま、沢山」
アレナは驚きの声を上げながら、空と地上を交互に見る。
「アレナさん、足元の白い袋開けてください」
「はい。……小さな袋がいっぱいはいってます」
「ええ、皆様へのプレゼントです」
小さな白いファーの袋の中には、飴やクッキーが入っている。
ユニコルノはアレナと一緒に、地上にそっとプレゼントを落としていく。
「……綺麗ですね」
会場を眺めて、アレナの横顔を眺めて、微笑み合って。
それからもう一度会場を見て――自分のパートナーや、アレナが大切に想っている人達の様子を眺めていく。
「ゼスタ様周りでも、色々あったようですが……雨降って地固まる、となるでしょうか……」
ユニコルノの呟きに、アレナは不思議そうな顔をしていた。
「来年はもっと良い年になると良いですね」
微笑んでユニコルノがアレナにそう言うと、アレナも笑みを浮かべて「はい」と首を縦に振った。
プレゼントと、空の散歩を少しだけ楽しんだ後。
ユニコルノはアレナを友人達のところに、送り届けたのだった。
「こんなところに来れるなんて。クリスマスなのに暇なのね、お互い様だけど」
崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)は、神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)を連れて、少し遅れてパーティ会場に到着した。
「それとももしかして、私のために空けといてくれた?」
優子の顔を見てそう尋ねる。
優子は「あ……」と何かを答えかけたが。
「はいはい、どうせ警備や監視も兼ねる、とか言うんでしょ。それなら私のこと、しっかりエスコートしてくださる? 今なら私の要注意人物だし、離さないでおいてくださいな」
亜璃珠がそう言うと、優子はくすっと笑った。
「いつだってキミは、目を離せない要注意人物だよ」
そして、優子は亜璃珠の腰に手を添えてエスコートし、椅子を引いて礼をして座らせた。
「そんなこと言って……全然見てくれてないくせに」
ため息をつきつつ、亜璃珠はテーブルの上にあった、ケーキを引き寄せる。
「さ、食べましょう。夏に減らしたんだからノーカンよ」
「リバウンドしましょうって言っているようなものだぞ、それは」
優子がケーキを奪おうとするが、亜璃珠は皿から手を離さない。
「聞いたわよ、アナタ人の想いをいいことに、背中に発信機つけて、ナビ代わりにしたんですって?」
軽く睨んで言うと、優子の力が弱まった。
そのチャンスに、亜璃珠はケーキを腕の中に確保する。
「それ自体は有効な策だからいいとして……一つ貸しだと思うんだけど? ねえ?」
「いやだから、今日は仕事を代わってもらって、亜璃珠の快気祝いも兼ねてサービスしようかと」
「なるほどね、それで今日空いていたと。でもアナタ、今日、私以外の人にも誘われてるでしょ?」
亜璃珠がそう言うと、優子は苦笑しながらワインボトルを引き寄せた。
「快気祝いもお互い様よね。そちらはもう大丈夫なのかしら?」
「なんともないよ。今は年末で忙しいけれど、そのうちきちんと時間を作るから。許せ、亜璃珠
」
言いながら、優子は亜璃珠のグラスにワインを注いだ。
「別に怒ってないわよ。貸しはきっちり返してもらいますけれどね。……さあ、食べましょう。疲れた時には甘いもの」
亜璃珠はケーキを小さく切って、ホークで刺した。
「一緒に食べましょう、気づけばいつもどちらかだけだったりしたわけだし……」
ケーキを優子の口の方へと運ぶ。
「嫌いだっけ、こういうの?」
「ん……」
困った顔をしている優子に、まるで親か先生のように亜璃珠は言う。
「ほら口開けて、もうお皿取っちゃったから」
周りの目を気にしつつ、控え目に口を開けた優子に、亜璃珠はケーキを食べさせる。
「――そして正月太りに輪をかけるがいいわ!」
そんな風に笑う亜璃珠を、優子は苦笑しつつ……嬉しそうに見つめていた。
「あとそうだ、メリークリスマス。ちゃんと用意してきたのよ」
ケーキとワインを楽しんだ後、亜璃珠は鞄の中から赤いリボンとマフラーを取り出した。
「ありがとう」
自分へのプレゼントだと思い、お礼を言う優子の首に亜璃珠はマフラーを巻いて。
「それは……!?」
「動かないで」
可愛らしく真赤なリボンを優子の頭の上できつく結んだ。
そうして、亜璃珠は優子を『ラッピング』したのだ。
「はい、私へのプレゼントはあなたね」
驚いている優子を見て、思わず――いや、意図的に笑い声を上げる。
「あっはっはっ、かわいー!」
「あーーーーりーーーーす………!」
「ちょ、ちょっとやめなさい。髪が絡んで解けなくなるーーー」
優子は真っ赤になって、亜璃珠の頭をぐちゃぐちゃにかき回した。
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