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世界を滅ぼす方法(第1回/全6回)

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世界を滅ぼす方法(第1回/全6回)

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 数日病床についていたことや、それ迄に空峡を飛んで渡るという荒業を成し遂げたこと、更に翼を1枚失ったことでバランス感覚が狂ってしまい、コハクは2、3日のリハビリを必要とした。


 コハクがした説明は、いつの間にやらほぼ全て『ミスド』に伝わっていて、知らない誰かが様子を窺って顔を覗かせることがよくあった。
 野次馬ではなく、コハクを護衛する為だ。
 彼等は組織だって動いているわけではない。話を聞いて、コハクを心配し、また同情した者達が、入れ代わり立ち代わり、フラリとやって来て暫くいては、またその内フラリと消える、という感じだった。
「はぁい♪ コハク君、調子はどう?」
 窓の外から声を掛けられて、振り向く。アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)が手を振っていて、コハクは当惑しつつも、こんにちは、と挨拶を返す。
「はいコレ、差し入れ。疲れた時には甘いものよ。リハビリ頑張ってね」
「あ、ありがとう」
 飴の入った小さな紙袋をコハクに渡し、またね、と窓の向こうに消えた。

「なあなあなあ、そのアズライアって人、いくつ?」
 と、会ったこともない女性まで恋愛対象の範囲に入ってしまう鈴木 周(すずき・しゅう)に訊かれて、戸惑いつつも
「に、28か9歳だったと……」
 と答える。
「うん、年上の美人(←決定事項)か、いいね。ってゆーか美人だよな?」
 困惑しつつも即答で頷いたコハクに、うんうんと満足する。一体この人の守備範囲ってどんだけなんだろーとパートナーのレミ・フラットパイン(れみ・ふらっとぱいん)は思ったが、まあ彼の女好きはいつものことなので放っておくことにする。
「ま、美人なおねーさんを助けたい同士ってことで、共に頑張ろうぜ! っていうか、お前の年は幾つよ?」
「……目の前のコハクくんより、ここにいない女性の年齢を先に訊くのが周くんだよね……」
「15歳、だけど」
 途端に、周はぎょっとした。え、何、と驚くコハクに、
「タメかよ!!?」
と叫ぶ。
「年下かと思ってたぜ!」
「へっへーん、あたしはちゃんと、お兄さんだと思ってたもんね〜」
 胸を張るレミに、今度はコハクがびっくりする。
「……年下だったの!?」
 微妙な雰囲気が、一瞬流れた。

 驚かせた、というか、脅かせたのが、御風 黎次(みかぜ・れいじ)が来た時だった。
 病室を出、廊下の向こうに、パートナーのノエル・ミゼルドリット(のえる・みぜるどりっと)と話している黎次の姿を見た時、コハクは殆ど恐怖に震える勢いで驚愕した。
 バランスを崩して床に膝をついたコハクに気付き、黎次とノエルが走り寄る。
「大丈夫か!? どうした」
「…………あ、?」
 痙攣するほど震えて、けれど、違う、とすぐに気付いた。この人は、あの男ではない。
「あ、あの、ごめんなさい。あの………………一瞬、似てたので」
 セレスタインを襲撃した者達。
 褐色の肌と、長い銀髪、それを束ねて編んでいるところまで、よく似ていて、一瞬だけ、あの男かと思ってしまったのだ。
「えっ……でも、黎次さんは、貴方の村を襲った人とは違いますよ?」
 ノエルがおろおろと黎次をフォローする。解っている、とコハクは頷いた。
 よく見れば、あの男は、後頭部でポニーテールのように結った髪を、5本以上にも分けて編んでいた。顔に傷もなかった。勿論顔だって、全然違う。
「ごめんなさい」
「気にするな」
 黎次は苦笑して、まだ青ざめているコハクの肩をぽんと叩いた。 

 そんな感じではあったが、稀に、コハクを訪ねて来て、敵についての情報を話しなさい! と迫り、
「何もしないで護られようなんて、虫のいいことを言っているのですわね。貴方みたいな軟弱でヘタレた男は最低ですわ。少しは自分も鍛えたらいかが?」
と、サドっぷりを遺憾なく発揮した崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)に、
「はいは――い! 情報なら全部『ミスド』に流れてますんで、そこから入手お願いしまーす!」
と、倉庫番が荷物を押し戻す要領で、
「何ですの! 大体貴方達が甘やかし過ぎなのですわ! 守り手とやらを助けるのは、その坊やの役目なのでしょう!?」
と食い下がる亜璃珠をティアが押し返したり、

「協力する代価をいただきたいのですけど。まさか、誰もが何の見返りも無しに助けてくれるなんて、都合のいいことを考えてなんていませんよね? 別に金を出せと言っているわけじゃないんですよ? ただ、定期的にコハクさんの血を、分けていただければ、それで……」
と、コハクの首筋に噛みつこうとした、吸血鬼の藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)
「はいはいは――い! 見返り付きの協力者は現在間に合っとりまーす!」
と、フィルラント・アッシュワース(ふぃるらんと・あっしゅ)がメイドばりの箒さばきで掃き出したり、といったこともあったのだが。
「てゆーか何でメイドや。ボク男やで」
「執事は箒で掃除しないでしょ」
 流れてもいない額の汗を腕でぐいっと拭い、一仕事したわ……と清々しい表情を輝かせたティアが、フィルラントのぼやきに突っ込む。
 ちなみに、そんなアクの強い者達に免疫の無いコハクは、すっかりぐったりとしてしまっていた。
「ほらほら、コハク、元気出しぃ、そや、腹減っとらんか?」
 何か持ってこよか、とフィルラントが言って、うんうん、と、ファルもコハクの近くをうろうろする。
「コハク、好きな食べ物何?」
 コハクは顔を上げると、しかしすぐに俯いて、顔を赤らめた。

「…………ドーナツ」


「どうした、コハク? このようなところで。1人か」
 廊下の突き当たりに座り込んでいるコハクを見付け、黎が声をかけた。
 コハクは苦笑する。
「リハビリ、少し疲れてしまって、一休み」
 廊下を往復するつもりが、往路で疲れてしまった。「こんなんじゃ、ダメだね、僕は……。アズライアがもし…………」
 言いかけて、途切れる。亜璃珠の言葉がずっと、針のように心に刺さってていた。軟弱で、ひ弱な自分。
「……コハク殿はコハク殿がすべきことをすればよい、と、前にも言った」
 黎は静かにコハクを見下ろす。
「コハク殿は、守り人の、託された意志と、使命を、立派に果たしてここまで逃れて来た。誇り高き守り人殿ならば、自らの使命を果たす前に命を無駄にはすまい。必ず無事でいると信じて、今できる最善を尽くせばよい」
 ありがとう、と、コハクは小さく笑い、どことなく困ったように呟いた。
「……黎さんは、何だか、アズライアに似ている」
「――え?」
「あ、ごめんなさい。男の人に、女の人に似てるとか……。あの、凛々しいところとか、雄々しいところとか、そういうのが……」
 慌てて謝るコハクに、黎はふっと笑う。
「最大級の賛辞と受け取ろう」
 歩き出す黎の後に続きながら、フィルラントがくすくす笑う。
「……何だ」
「別にぃ〜」
 じろりと睨みつける黎に、フィルラントは大袈裟に肩を竦めた。




「参ったなあ」
 ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)は頭を掻きながら呟いた。
 蒼空学園で情報を集めようと考えた彼だったが、校長である御神楽環菜には会えなかったのだ。
 環菜のツテを使ってツァンダ首長に面会したいと思っていたのだが、それはどうやら不可能のようだった。
 それなら砕音先生に何か訊けたらと思った彼だったが、生憎、砕音は薔薇の学舎に出張に行ったまま、まだ戻っていないという。
「……まあ、地球人の先生にシャンバラの魔境化について訊いても、解らないとは思うんですけど」
 負け惜しむようにひとりごちて、小さく溜め息を吐く。
 他の皆は上手く情報を得られたかな? と、別の場所へ行っている仲間達のことを思った。

 同様に、武来 弥(たけらい・わたる)もまた、御神楽環菜に面会が通らなかったことにやきもきしていた。
「校長の財力で調査組織を発足できれば、色々効率良く運べるのによ! 湯水のように金持ってんだから、少しくらい出資してくれてもいいだろうに」
「校長先生も忙しい人ですもの、一般生徒とは中々会えないのは仕方ないです。人に頼らず、自力で頑張りなさいというお告げということかもしれないですね。会えないものは仕方ないですもの、出来ることを頑張りましょう?」
 ぶちぶちと文句を言う弥をとりなすようにパートナーの、エスペディア 龍姫(えすぺでぃあ・りゅうき)が困ったように微笑む。
「出来ること、か」
 腕組みをしつつ、ううんと唸って、弥は、
「じゃあコハクをこの蒼空学園に連れてくるか」
と言った。
「あら、どうしてです?」
「俺が蒼空学園生徒だから」
「えっ?」
「学園で保護した方が安全だろ。でも空京からだと地理的に、シャンバラ教導団の方が近いからな……。あそこで保護するなんてことになる前に何とか……くそっ、校長と会えないならここに戻ってくるんじゃなかったぜ」
 再びぶつぶつと呟く弥に、ライバル心メラメラなんですね、と龍姫は肩を竦めた。

 ――結局、コハクを蒼空学園に連れてくることも、できなかったわけなのだが。


 紹介状を書いて貰うことはできなかったが、時枝 みこと(ときえだ・みこと)は当初の予定通り、ヴァイシャリーへ行ってみた。
 が、当然といえば当然なのか、ラズィーヤに面会することはできなかった。
 というか当然ながら、外見が女にしか見えなくても、他校生以前に男であるみことは、学園内に入ることもできなかった。
 勿論、ラズィーヤは学園にしかいないわけではないのだが。
「……まあ、会いたいという人全員に会っていたら、キリがないですものね。仕方ないです」
「でもさー! 何か大変なことが起きてるかもしれないんだよ!? 話くらい聞いてくれたっていいじゃん! 何か知ってることだってあるかもしれないしさ!」
「偉い人が何でも知ってるというわけでもないでしょう? ワタシ、シャンバラ人ですけど、今回のこと、何も知りませんもの」
 おっとりと微笑んだ、みことのパートナー、機晶姫のフレア・ミラア(ふれあ・みらあ)に、みことは呆れたように
「そりゃ、キミは昔の記憶がないから……あーもう、解ったよ、気持ち切り替えればいいんだろ!」
 ヤケクソのように叫んだみことに、フレアは、それでこそみことさんです、とふわりと微笑んだ。