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世界を滅ぼす方法(第1回/全6回)

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世界を滅ぼす方法(第1回/全6回)

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 ”みすど”、というキーワードをハルカが憶えていたことが功を奏し、彼等は空京における生徒や冒険者達の溜まり場、『ミス・スウェンソンのドーナツ屋』で合流することができた。

「ここは空京の七不思議のひとつ、どんなに混んでいても絶対に座れる席があるという異次元ドーナツ屋なんですよ」
 買い物途中で一連の騒ぎを見かけ、ちゃっかりと現れて、
「奇遇ですね。私の名前も”ハルカ”なんですよ」
「わぁ、同じ名前です!」
と既にハルカに自己紹介まで済ませている支倉 遥(はせくら・はるか)が、そんなことを嘯き、パートナーのベアトリクス・シュヴァルツバルト(べあとりくす・しゅう゛ぁるつばると)に「信じるでないぞ」と冷静に突っ込まれていた。

 他にも、話を聞きつけて、ハルカに興味を持った生徒達が、周りのテーブルを陣取っている。
「どんどんどーぞ!」
とハルカにおススメドーナツを振る舞った、御厨 縁(みくりや・えにし)のパートナー、サラス・エクス・マシーナ(さらす・えくす ましーな)は、しっかりハルカの隣りを陣取り、はくはくとドーナツを食べているハルカを興味津々の表情で見ている。
 迷子や人捜しなら、素直に警察に預けて任せればいいんじゃないか、何でも学生だけで解決しようと思うのはどうなんだ、と、後ろの席でゲー・オルコット(げー・おるこっと)は冷静に思ったが、というか呟きに出ていたのだが、喧騒に紛れてそれは誰の耳にも届かなかった。勿論、そうは言っても彼自身、こういうのは嫌いではないので、手を貸そうと思ってここにいるわけである。

 わいわいと賑わしい様子を見て、影野 陽太(かげの・ようた)は腰が引けていた。
 ハルカと友達になりたいと思ったけれど、このままでは話しかけることすらできないかも……、いや、怖気づいてどうする、勇気を出すんだ! 脱・臆病者!! と、空京の縁から地球にバンジージャンプをする心意気で、ハルカのいるテーブルに立ち寄り、話しかけた。
「あの、おじいさんを捜しているそうですね。俺でよければ手伝いましょうか?」
 ハルカはドーナツを食べる手を止めて、陽太を見上げる。
「ほんとですか! ありがとう、嬉しいのです!」
 自己紹介をして、
「だから、代わりに、友達になってくれると嬉しいです」
と言うと、
「よーたさんですね。憶えました!」
とにっこり笑う。
「ずっと一人で捜してたから、こんなに沢山手伝ってくれる人がいて嬉しいのです」
「だったら、もっと早くミスドに来てみればよかったかもしれませんね。ここには冒険好きの人達が集まってるから、手を貸してくれる人がきっといましたよ」
 でも今だったから、ハルカと出会うことができたのだとすれば、自分にとって幸運だったけれど。



 ハルカはイルミンスールに入学するために来たのですよ、という説明に、まあ、とソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が嬉しそうに声を漏らした。
「私もイルミンスールの新入生なんですよ。そうすると、ハルカさんとは同級生になるのかしら。向こうに行ったらぜひ、案内をさせてくださいね」
「わあ、よろしくなのです! 多分おじいちゃんは、先にイルミンスールに行っちゃったと推理してるのです」
 いや流石にそれはどうかと思わないでもないのだが、ハルカを見ていると、それもアリか? という気がしないでもない一同である。
「それとも、おじいさんは個人的にイルミンスールに用事があって、先に行ったのかもしれませんわね」
 でも、そうすると、孫を置いていかなくてはならない用事とは何だろう、と考える。
「あっ、もしかして、ハルカさんの家も私と同じ、魔法使いの家系で、おじいさんも凄い魔法使いだったりして……?」
だとしたらぜひ会ってみたいです、といった思考は、全て言葉になっていたらしい。
「そんな夢のないこと言わないで!」
と叫んだのは、ダンボール製のロボットだ。女声なので、中の人は女性である。
 魔法使いだと夢がないのか? という突っ込みは勿論、一同心にしまった。
「おじいちゃんは名のある武道家、ヴァルキリーの長老様に違いないんだな! 発見の暁にはぜひ、ワタシを弟子にして欲しいわ! どんな辛い修行も、ワタシは耐えてみせる!!」
 ダンボールはかぎ尻尾付きのオレンジ色の胴着模様で、その手にはダウジングロッドが握られ、これさえあれば百人力! と、ダンボールロボット、あーる華野 筐子(あーるはなの・こばこ)は宣言する。
「時にハルカちゃんて今いくつ? ワタシよりチッチャイのに、迷子のおじいちゃんを捜してあげるなんて偉いなぁ〜♪ ワタシもおじいちゃんのこと、大好きだから、何か他人事とは思えないしね! 手伝っちゃう!」
 筐子の言葉に、ハルカはきょとんとした。
「ハルカの方が年下なんですね……?」
 解らないのも無理はない、外見から筐子の年齢を判断するのは不可能だ。
「あ、この格好については気にしないで。ちょっと人目を忍んでるだけだから」
「……うん、とっても目立つですね?」
 小首を傾げてそう言おうとしたハルカの口を、背後から猛然とアイリス・ウォーカー(あいりす・うぉーかー)が塞いだ。
「ごめんなさい。それは言わない”お約束”なのですわ」
 ある種の悲壮な空気が漂って、ハルカは無言でこくこくと頷く。何と言うか、フォローが板についてる……という感想も、全員が内に秘めた。

「……うん、まあ、空気を読んでやれや」
 長い脱線だったが、そろそろ本題に戻りたい、と、翔一朗が軽く手を上げて、話がハルカに戻った。

「……えっと、ハルカは12歳で、年齢が1つ足りないのですけど、スキップ入学できるかどうか、面接の予定だったのです」
 視線が集まって、えーと、と、ハルカはここまでの会話を思い返した。
「おじいちゃんは、魔法使いでもヴァルキリーでも亀仙人でもなくて、考古学者なのです」
「考古学者?」
「地球人なのネ?」
”おじいちゃん”とはハルカの肉親ではなく、契約したパートナーなのでは、と予測していたレベッカ・ウォレス(れべっか・うぉれす)の問いに
「勿論なのです」
と頷く。
「ところで、おじいちゃんの名前は何なんだ?」
 葉月 ショウ(はづき・しょう)が訊ねた。
「ジェイダイト、というのです。でもおじいちゃんのお気に入りではなくて、インディアナ・ジョーンズと名のっていたのです」
 ペンネーム、というやつです? と言うハルカに、それはまた……と、一同は乾いた視線を宙に逸らす。
「ベッタベタね……」
 ぽつりとサラスが呟いた言葉は、全員の心の内とハモっていた。
「ちなみに年は?」
「永遠の18歳と言っていたのです。でも、ハルカが推理するに、80歳くらいなのです」
 いや、実の孫が祖父の年齢を「推理」とかないから。という突っ込みも全員の心の中でハモって、
「……ええ、何となく、おじいちゃんがどんな人か解ってきましたわ」
と、レベッカのパートナー、アリシア・スウィーニー(ありしあ・すうぃーにー)が苦笑した。


 ハルカは携帯も祖父の写真なども持っていなかったので、ハルカの話すジェイダイトの特徴を聞きながら、何人かが似顔絵を描いていた。
 遥はここに来る前に買ったばかりのスケッチブックに、すらすらとペンを走らせる。そして出来た似顔絵を、
「これでどうです?」
と、しかし何故かハルカやパートナーのベアトリクスを逢えて避け、外周の方へ回した。
 絵が回ってきた途端にくすくすと笑いを漏らす一同に、ハルカの頭にははてなマークが浮かぶ。
 そしてようやくベアトリクスにスケッチブックが回った時に、遥は、
「ユーはShock!!」
と言い放った。
「こ、これは……!」
 絵を見た瞬間、ベアトリクスは言葉を失う。
「波羅蜜多実業のスジのような……!」
「おじいちゃんは亀仙人じゃなくて、北斗神拳の使い手だったですか……!」
 そこに描かれていた、かつて一世を風靡した劇画風の老人絵に、横から覗き込んだハルカも、雷に打たれたような顔をした。
「――って、違うわ!」
 スケッチブックを振り上げたベアトリクスに、遥は、
「いやあ、ノリがいいですね、2人とも」
とくすくす笑う。
「特にベアトリクスは、今まで手塩にかけて調教した甲斐がありましたよ」
「調教言うな」
 しみじみと頷いた遥にベアトリクスはスケッチブックを叩き返した。
「とにかく! ユーはShock! ではない! 直ちに描き直すがよい」
 はいはい、と遥はダメ出しされたスケッチブックを受け取った。


 一方、
「プロの画家をもうならせる、美術スキル16のワタシの才能を見せてあげるネ!」
と熱心に描いたレベッカの似顔絵は、
「似てるです!」
と最初に絵を見せられたハルカを喜ばせたが、ご機嫌で他の面々に似顔絵を回す最中、縁がこっそりと、回って来た絵に黒の油性マジックで何かを書き足したことには気付かなかった。
 そこから先は、回ってきた絵を見た顔が苦笑を見せる。再びはてなマークを浮かべたハルカに、一周された絵が戻ってきて、ハルカは再び雷に打たれた。

 そこには、「DEAD or ALIVE $500,000」の文字が。

「ワタシの力作に何するネ――!!」
「おじいちゃんを殺しちゃダメなのです――!」
 絶叫するレベッカとハルカに、戻ってきたパートナーの絵を見たアリシアは、あらまあ……と呟いた。
「これって、レベッカ様が賞金を支払いますの?」
「ポイントはそこじゃないネ!」
「ダメじゃん、縁〜、人の絵にラクガキなんて」
「ちょっとした茶目っ気じゃ」
 サラスにたしなめられても、縁は涼しい顔である。
「でもシャンバラの通貨ってドルじゃないよ?」
「……ポイントはそこではないんじゃよ」

 ――結局、最終的に採用されたのは、意外にもガゼルが描いたものだった。
「じ、地味に上手い……」
 それぞれ携帯のカメラで撮影しながら、ゲーが半ば呆れたような、感心したような口調で呟く。
 そうして、まだ日も高いし話もまとまったところだし、いざ捜索を始めよう、と、ミスドの外で手分けしようとしたところで、
「………………あれっ、ハルカさんは?」
と、ソアが周囲を見渡した。
「…………」
「…………」
「…………」
「……あの子は〜〜〜!!!」
 どうやら祖父の捜索の前に、ハルカの捜索をしなくてはならないようだった。
「ご主人も方向オンチだが、それ以上なんじゃないか」
 呆れたように言った、ソアのパートナー、雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)に、あれは方向オンチとは別物だろう、という同時突っ込みは、全員胸に秘めたのだった。