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狙われた乙女~ヴァイシャリー編~(第1回/全3回)

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狙われた乙女~ヴァイシャリー編~(第1回/全3回)

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第3章 きゃぴきゃぴ捜査班

 アユナ・リルミナル15歳は、百合園女学院一の美男子好きである。ただ、レアな男子に夢中になる傾向があるため、直接アタックできる機会は少なく、彼氏いない歴15年の健康的な乙女であった。
 生徒会本部や白百合団には所属していないが、舞士のことなら任せてくれと校長に交渉をし、他校生を含めた友人達と一緒に学校内外で調査を行なうことの許可を得ていた。
「ノートすっごく可愛い。舞士様の写真とか、切り抜き沢山貼り付けようねっ☆」
 百合園女学院の高潮 津波(たかしお・つなみ)が用意した花柄のノートを手にアユナはご機嫌だった。
「その舞士様に、アユナさんはお会いしたことがあるのですか?」
 津波のパートナーである機晶姫のナトレア・アトレア(なとれあ・あとれあ)の問いに、アユナは首をふるふると振った。
「似顔絵は見たことあるんだけどね、この間の事件の時も人が沢山いて、会うことは出来なかったの。でも今度は必ず会って、一緒に写真撮らせてもらうんだからっ!」
 アユナの生徒手帳の中には、舞士のイラストが入っている。目撃者が書いたものらしい。ただ、怪盗の目の周りはマスクで覆われているため、素顔は誰も見たことがなく、美形なのかそうではないのかは、誰も知らない。
「……いないね。学院内に潜んではいないのかな?」
 蒼空学園のマナ・ファクトリ(まな・ふぁくとり)は体育倉庫の跳び箱の中を探していた。人の姿はないようだ。
「ユニークな怪盗のようだから、ベアと同じパターンかと思ったんだけど」
 パートナーに目を向けて、マナは思わず吹き出す。何度見ても面白い。
 剣の花嫁であるマナのパートナーは地球人のベア・ヘルロット(べあ・へるろっと)だ。名前の通り、ベアは熊になっていた。
 舞士、いや寧ろ桜井校長について調査していた際に、アユナと知り合い、まず2人は百合園女学院内の調査を打ち出した。だが学院内は男子禁制ということで、やむなくベアは熊の縫ぐるみを着て、ゆる族のふりをしているわけだが。
 それだけじゃダメだと、花の髪飾りやら、リボンやら、フリルのエプロンやら、好き放題百合園女学院の生徒に飾られてしまい、すっごく愛らしい姿になっていた。
 その愛すべき熊さんが校外を指差す。学院外の調査に向かおうぜ、という意味らしい。
 百合園女学院生の稲場 繭(いなば・まゆ)エミリア・レンコート(えみりあ・れんこーと)は、顔を見合わせてくすくすと笑う。
「学院に入る時には、また変装のお手伝いしますね」
 繭の言葉に、熊さんはこくこくと頷く。
「それじゃ、行こうか。これ以上メリナの庭で好き勝手やらせたくないしな。見つけたら鉛の玉をお見舞いしてやろう」
「そんなっ! アユナの舞士様を傷つけたらダメなんだからっ」
 百合園女学院生のメリナ・キャンベル(めりな・きゃんべる)の呟きに、アユナが反論する。
「その後は好きにしていいぞ。介抱してやれば愛がが芽生えるかもしれんしな」
「そっか……それじゃ、お手柔らかにっ。出来れば顔は勿論、腕と足と顔と胸とお腹は傷つけないでほしいのっ。セクシーで素敵だって聞いてるから〜☆」
「一体何処を狙えと」
 メリナは苦笑する。万が一やりすぎてしまっても、仲間にヒールを使える者もいるから大丈夫だろうと、密かに思うのだった。
「とりあえず、怪盗さんがどんな人なのか調べるところから始めよう!」
 外に向かって歩きながら、教導団の琳 鳳明(りん・ほうめい)が質問を始める。
「今までどんな手段で、どんな物を盗んできたのかな? 予告の日時や内容とかそういったことも知ってたら教えて」
「んー、アユナの美少年ファイルにも記してあるんだけどね」
 アユナは鞄の中から分厚いファイルを取り出した。
「傾向から分析ができると思います。メモとりますね」
 津波はアユナの手からノートを受け取って、ペンを手に情報を纏めていく。
 まず、時間。これは毎回日没後だ。満月の日が多いようだが、必ずともそうとは限らない。
 場所はほぼ、名の知れた名家の家や管理下にある建物だ。
 予告状に書かれていた内容は、大抵抽象的で、何を差しているのかわからない。
 盗まれた物も様々であり、今のところ高価な物は盗まれていないようだった。
「んー、舞士の言動とかからは、何かわからないかな? うぅ、頭使うの苦手だけど、色々聞き込んで調べて頑張るっ!」
 鳳明はぐっと拳を固める。
「うん、頑張って舞士様と一緒に皆で写真撮ろうねっ! もちろん1枚目はアユナと舞士様のツーショットだけどっ☆」
「では、オレがシャッター押しましょうか?」
 校門の前で待っていたイルミンスールの羽瀬川 セト(はせがわ・せと)が一行と合流を果たす。
「わらわも舞士とやらには興味あるのう」
 セトのパートナーのエレミア・ファフニール(えれみあ・ふぁふにーる)が、目を輝かせながら、アユナのファイルを覗き込む。
「よーし、お友達になった皆には、アユナのコレクションも全部見せてあげるんだから〜☆」
「それも楽しそうだけど、別件の予告日が近いから聞き込みに行こうね。ベアもやる気だし」
 マナの隣のベアは腕をぶんぶん振り回している。
「もう学校の外に出ましたので、脱いでも大丈夫ですよ」
 繭がベアに微笑み、津波は苦笑した。
「舞士――美男のぬいぐるみを来たゆる族の可能性も?」
「嫌、それは嫌かもっ」
 津波の言葉に、即アユナが反応する。
「同感です……! でも、あらゆる可能性を想定しておきませんとね」
 どんな能力をもった相手かはまだ良く分からない。
 だからこそ、目撃された人物自身が、舞士の真の姿ではない可能性も視野に入れておかねばならない。
 津波はアユナや自分や乙女達の美しい夢が壊れないことを願いつつも、その可能性についてもノートに記しておいた。