イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

狙われた乙女~ヴァイシャリー編~(第1回/全3回)

リアクション公開中!

狙われた乙女~ヴァイシャリー編~(第1回/全3回)

リアクション


第5章 空京に現れし者

 人工都市空京には、日本とパラミタを繋ぐ新幹線が存在する。
 パラミタで唯一、パートナー契約をしていない地球人も訪れることが出来る場所であり、新たなシャンバラ国の首都となる予定の場所でもある。
 そのため、多くの人物が思いを馳せる場所であり、訪れる者も多く、様々な立場の者、人種、種族が入り混じっている。
 その空京にある駅の改札口に、百合園女学院の制服を纏った少女達が集っていた。
「新幹線到着したみたい! さ、演奏始めるよっ」
 ダンボールの中から指揮棒――細い小枝を出して、蒼空学園のあーる華野 筐子(あーるはなの・こばこ)が指揮をとる。
「今日は特別製の衣装よね。頑張りましょう!」
 アイリス・ウォーカー(あいりす・うぉーかー)が、筐子の隣で歌い始める。
 筐子は、訳あって、ダンボールを纏っている段ボール・ロボだ。しかし、今日の彼女の姿はいつもと少し違う。壮麗な衛士の衣装が表面に描かれた段ボール姿なのだ、実に優雅である。……かどうかはともかく。
 彼女の指揮の元、百合園女学院の生徒達が演奏を始める。
「あ、百合園!」
 改札口の向こうから、可愛らしい女の子が百合園女学院の生徒達を指差している。
「あの方々のようですわ。あまり目立たない方はよろしいようですから、そのくらいで」
 氷川 陽子(ひかわ・ようこ)は、筐子にそう言うと白百合団のメンバーと共に、改札の方へと急いだ。
「お帰りなさいませ」
「お待ちしておりました」
 陽子とベアトリス・ラザフォード(べあとりす・らざふぉーど)は恭しく頭を下げて、一行を迎え入れる。
「地球、どうでした?」
 白百合団のヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)が、小さな女の子に近付いて腰を少し落として話しかける。
 陽子達から話は聞いており、この子がラズィーヤの弟レイル・ヴァイシャリーだとひと目で解った。
「おっ、可愛い女の子だ〜。この子欲しいっ」
 ヴァーナーを指差して、隣に立つ黒髪の青年に女の子はそう言った。
「こら、冗談でもそういう事言ったらダメだよ」
 青年は苦笑して優しく諌める。
「ボクはあげられませんけどっ、一緒にはいられますから。よろしくお願いします……。なにちゃんと呼んだらいいですか?」
「レイちゃんって呼んでおねーちゃん」
「ボクはヴァーナー・ヴォネガットです。よろしくお願いします、レイちゃん」
 にこにこと笑う少女――ではなく、少女に扮した少年にヴァーナーは手を伸ばして、早速手を繋ぐのだった。
「菅野葉月と申します。百合園女学院の関係者ではありませんが、白百合団の方と以前、空京で共闘させていただいたことがあります。少しでもお力になれればと思い、ご一緒させていただきました」
 蒼空学園の菅野 葉月(すがの・はづき)は、レイルに付き従っている青年に挨拶と傍らにいる執事と思われる男性に挨拶をした。
「お世話になります。私はパイス・アルリダと申します。私もパートナー契約を結んではいますが、特別優れた能力を持っているわけではありませんので、何かの際にはこの子や百合園女学院の姫様方もどうか守ってあげてください」
 葉月を男性だと思っているらしい。葉月も特別否定はせず、深く頷いて護衛の約束を交わす。
 ただ、気掛かりなのは、少し前からパートナーのミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)の姿がないことだ。
 また迷子になっているのかもしれないが、この場を離れるわけにもいかず。葉月は心配気に街路の方に目を向けることしかできかなった。
「教導団の松平岩造です。道中事情は伺いました。責任を持ってヴァイシャリーまでお送りいたしますので、ご安心下さい」
「同じく教導団のフェイト・シュタールでございます。お会いできて光栄でございます」
 松平 岩造(まつだいら・がんぞう)フェイト・シュタール(ふぇいと・しゅたーる)は白百合団のメンバーから、青年と子供が今回の護衛対象だと聞いていた。
「よろしくお願いいたします。心強いです」
 微笑んだパイスと握手を交わしながら、岩造はパイスを注意深く見ていた。
 怪盗舞士がこの中にいるのではないかと、岩造は疑いを持っていた。
 最もシャンバラの王に近い家系だと自らを誇っているヴァイシャリー家ならば、親族間の争いくらい当然あるだろう。
 地球に出かける前に、予告状を出した……或いは、届くよう手配してから出かけたという可能性もあり得ると岩造は考えた。
 ただ、噂に聞く怪盗舞士は金髪で長身であると聞いている。目の前の男性は黒髪で標準的な身長だ。性別以外特に一致しているところはない。
「お食事はもう済まされましたか? 故郷の料理が恋しくはございませんか?」
「地球で駅弁っていうのを買って、新幹線の中で食べたからお腹一杯だよっ」
 一方、パートナーのフェイトの方は、レイルに親しげに話しかけており、レイルも嬉しそうに答えていた。
「白百合団の人達と相談して、テロリストに備えた警備体制をとってあるので大丈夫です。安心してね」
 筐子が、段ボール姿のまま近付き、小声でそう説明をして、レイルにも声をかける。
「よろしくお願いいたしますわ」
 パートナーのアイリスもレイルを連れた一行に頭を下げた。
「段ボールだ、ね、この人、だんぼーるのロボットに入ってるよ! ボクもこれ欲しい、欲しいーっ」
「……諦めて下さい……」
 パイスは苦笑する。筐子に対してはどう接したらいいのか分からないらしく、パイスはアイリスに顔を向けて「よろしくお願いいたします」と会釈をしたのだった。