イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

栄光は誰のために~火線の迷図~(第2回/全3回)

リアクション公開中!

栄光は誰のために~火線の迷図~(第2回/全3回)

リアクション

 そんな騒ぎで始まった、義勇隊の初めての戦いだが、『保護』された生徒を含めて、ほとんどの生徒は真面目に戦っていた。
 「下手な鉄砲でも、数撃ちゃ当たるだろ!」
 久多 隆光(くた・たかみつ)は広角射撃で火炎瓶を迎撃していた。弾丸の消費が激しく不経済ではあるが、バリケードの中に火炎瓶が落ちないことの方が大切だ。隣では緋桜 ケイ(ひおう・けい)がアサルトカービンを借りて撃っているが、こちらはまったく当たらない。
 「やっぱり魔法の方が効率がいいや!」
 ケイは早々に銃を捨て、氷術を火炎瓶にぶつけた。一瞬にして火が消え、瓶が割れて地面に落ちる。
 「でも、魔法は魔力切れがあるからなあ……」
 ケイ同様アサルトカービンを借りている高月 芳樹(たかつき・よしき)も成果は芳しくないが、こちらはもう少し粘るつもりのようだ。
 「使い慣れない武器で、こういう、精度を要求される戦い方をしなくちゃならないのはつらいわね」
 長弓を借りた芳樹のパートナー、ヴァルキリーのアメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)は唇を噛んだ。
 「芳樹、魔法を使って攻撃したら? 魔力が切れたら、私が頑張るから」
 「そうだな、その方が貢献できるか……」
 芳樹もアサルトカービンを起き、魔法で攻撃を始める。
 樹海からは相変わらず火炎瓶が飛んでくる。飛ばしているうちに距離感が掴めて来たのだろう、バリケードの内側へ届く瓶が増えて来た。輸送隊の生徒たちが、物資に引火しないように懸命に火を消して回っている。
 「シーリル! シーリル! 弾だ! 弾持ってこい!!」
 一方、騒がしいのが国頭 武尊(くにがみ・たける)だ。彼はあらかじめ多めに弾薬を配給しておいて欲しいとパートナーのシーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)を通じて願い出ていたが、保安上の理由で許可されなかった。自作レールガンの件もそうだったが、教導団としてはまだ信用していない相手に対して、大量の武器弾薬など持たせるわけには行かないのだ。おかげで、シーリルはバリケードと弾薬置き場の間をひっきりなしに往復することになった。
 しかし、シーリルは頑張った。アサルトカービンの弾倉は決して軽いものではない。それでも、
 (私がやらなかったら、武尊さんは戦えないんだから!)
 きゅっと唇を結び、弾倉を抱えてシーリルは走って行く。その目の前に、迎撃し切れなかった火炎瓶が落ちて来た。
 「危ねえッ!」
 遠隔攻撃の技能がないため待機していた義勇隊付きの神代 正義(かみしろ・まさよし)は、持参のお面を素早く装着すると、列から離れて火炎瓶を蹴り飛ばした。
 「だ……誰だかわからないけど、助けてくれてありがとう」
 シーリルは大きく息を吐き出して礼を言う。ここまでなら、お面のことを除けば戦場の心温まるエピソードで済んだのだが。
 「俺はシャンバラ教導団所属・神代正義! またの名を、パラミタ刑事シャンバラン!」
 正義は見得を切るのと同時に、
 「シャンバラだかバンバラバンバンだか知らないが、方向考えて蹴りやがれーっ!!」
 火炎瓶を蹴った方向にいた教導団の生徒に怒鳴られてしまった。
 「シーリル、弾!!」
 シーリルには、弾切れで拳銃型の光条兵器を使い始めた武尊から声が飛ぶ。
 「あ、はいっ!」
 シーリルは弾かれたように駆けて行き、武尊に弾倉を渡した。武尊は弾倉を交換すると、正義に向かってぐっと親指を立ててみせた。
 「パートナーを助けてくれてありがとな。礼を言うぜ!」
 「危ない目に遭ってる奴は助けるのが俺のジャスティス、礼には及ばねえよ」
 正義もぐっと親指を立て返す。
 「ちくしょう、また教導団の連中に借りが出来ちまったじゃねえかよッ。前回とまとめて、この借りは戦って返す!」
 舌打ちを一つして、武尊は再びアサルトライフルのスコープをのぞいた。
 「このまま、火炎瓶を投げてくるだけで済ませるつもりとも思えないが、次はどんな手で来る?」
 酒杜 陽一(さかもり・よういち)のパートナー、魔女のフリーレ・ヴァイスリート(ふりーれ・ばいすりーと)が弓を片手に呟いた、その時だった。
 「来るぞーッ!!」
 見張り台から叫ぶ声がした。そこここに広がる炎に照らされて、樹海の暗がりから蛮族たちが姿を現す。
 「火炎瓶もまだ来るかも知れん! 警戒を怠るなよ!」
 林が叫んだ。その言葉通り、壕に行く手を阻まれつつも、火炎瓶の援護を受けて、蛮族たちはこちらへ向かって来る。
 「来たか……」
 フリーレは弓を捨て、魔法攻撃の用意をした。と、それまで後列で大人しくしていた四石 博士(しこく・ひろし)とパートナーの機晶姫ロ式 火焔発射器(ろしき・かえんはっしゃき)が、いきなりバリケードを乗り越え始めた。
 「待て! 勝手に突出するな!」
 義勇隊付きの宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が博士の肩に手をかけた。その手を、火焔発射器が引き剥がす。
 「止まってください! さもなければ撃ちます!」
 後方に台を作って、その上で銃を構えつつ義勇隊全体の様子を見ていたセリエ・パウエル(せりえ・ぱうえる)が警告する。しかし、博士も火焔発射器も、祥子を振り切ってバリケードを越えようとする。セリエはやむなく引金を引いた。二人からかなり離れた場所に着弾したのは、わざと大きく外したからではなく、あまり銃を持ちなれていないからだ。
 「今のはちゃんと外れましたけど、次は頭に当たっちゃうかも知れませんよ!」
 「裏切り者はサイテーだけど、さすがにそれは勘弁! て言うか、こいつらの頭だったらまだしも、他の生徒の頭に当たったらまじで洒落になんないから!……ってあんたちょっと、何持ってんの!?」
 祥子に手を貸そうと、博士の腰に手を回した羽高 魅世瑠(はだか・みせる)が叫んだ。博士は燕尾服の上にマントを着用しているのだが、その内側に何か筒状のものがたくさん張り付いているのだ。
 「前田、仙國、水渡、何をぼんやりしている! こういう奴らを取り押さえるのも、私たちの仕事だろうが!」
 ゆかりが、前田 風次郎(まえだ・ふうじろう)仙國 伐折羅(せんごく・ばざら)水渡 雫(みなと・しずく)に向かって怒鳴る。
 「お? おお、済まん」
 「敵の方に気が向いていたでござる」
 いつの間にか前列に出てドラゴンアーツで火炎瓶を打ち落とすのに加わっていた風次郎と伐折羅は、慌てて火焔発射器を取り押さえにかかった。
 (これが、林教官の言っていた、『敵の敵は味方ではない』ということ……)
 雫は唇を噛みしめて、カルスノウトを博士に突きつけた。
 「大人しくしてください。抵抗すれば斬ります」
 「怪しいものを持ってんの? じゃ、身体検査しなくっちゃね。そーれ、剥いちゃうぞ!」
 フローレンス・モントゴメリー(ふろーれんす・もんとごめりー)が、女看守の身体検査よーっ、とばかりに博士のマントを引っぺがした。さらに燕尾服もシャツも剥がして、下着姿にする。服からは、どうやって持ち込んだか発煙筒がゴロゴロと出て来た。
 「そ、それは、攻撃力が低いこの老体が身を守るための……」
 博士は慌てて言い訳したが、
 「ちょっと、こちらへ来てもらおうか」
 祥子は博士が締めていたネクタイで後ろ手に博士を縛り上げた。火焔発射器も、手っ取り早く背後で両手の親指同士を針金で拘束されてしまえば抵抗出来ない。
 博士と火焔発射器はそのまま後方へ連れて行かれ、査問委員会に引き渡された。その後、遺跡付近で彼らの姿を見たものは居ない……。