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栄光は誰のために~火線の迷図~(第3回/全3回)

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栄光は誰のために~火線の迷図~(第3回/全3回)

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 しかし、その救護所にも、『黒面』の影が迫る。
 「ここは怪我人を治療する所だと言っても、テロリストに通用するわけはないか」
 クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)はハンドガンをホルスターから抜いた。
 「クレアさん!」
 一緒に治療にあたっていたネージュが思わず腰を浮かす。
 「ネージュは、ここで治療していてくれ」
 「……ハンスさん」
 ネージュはクレアのパートナーである守護天使のハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)を見た。
 「大丈夫、わたくしもクレア様と一緒に行きますから」
 「わかりました。でも、無茶はしちゃダメですよ?」
 ネージュも白い耳を揺らしてうなずく。クレアとハンスはテントを飛び出した。負傷者を運んで来た、金住 健勝(かなずみ・けんしょう)のパートナーレジーナ・アラトリウス(れじーな・あらとりうす)の背後に、黒い影が迫っている。クレアはハンドガンを構え、引金を引いた。黒い影が弾丸を避ける、その動きでスピードが落ちた。
 「手伝います!」
 ハンスはレジーナに手を貸す。クレアは二人を追うように、『黒面』に背を向けた。『黒面』の手から投げナイフが放たれる。次の瞬間、銃声と共に、クレアは地面にくずおれた。そして、『黒面』も肩を押さえてうずくまる。
 「クレアさん!?」
 レジーナが悲鳴を上げる。
 「すみません、少しこの方をお願いします」
 ハンスは運んでいた負傷者をレジーナに任せ、クレアにではなく『黒面』に駆け寄ろうとした。だが、それより早く、『黒面』は立ち上がり、救護所のテントに向かって駆け出した。
 「仕留め損ねたか……慣れないことをするものではないな……」
 後ろ向きのまま、自分の脇腹を貫いて銃を撃ったクレアは、傷を押さえて苦笑した。
 「すみません、わたくしも捕まえ損ねました」
 すまなそうに言いながら、ハンスがクレアの止血をする。
 一方、救護所のテントに向かった『黒面』は、立ち止まってテントの中を見回し、つかつかとネージュに近寄った。
 「なっ、何ですか!?」
 ネージュは気丈に『黒面』を睨み上げる。
 『おい、怪我の手当てを……お前は』
 『黒面』の唇から、空気の漏れるような、かすかな声がした。
 「声が……出ないの?」
 ネージュは目を瞬かせた。その時、
 「何をしてるんだ、ぼんやりするな!」」
 マナを救護所に運んで来たベアが、グレートソードで背後から『黒面』を斬った。
 「……死んじゃだめっ!」
 倒れた『黒面』に向かってネージュが叫ぶ。その首から血がほとばしった。ハンスが慌てて『黒面』を抱え起こしたが、『黒面』は既に息絶えていた。その手から、血まみれの短刀が転がり落ちた。
 「自分で、首をかき切った……?」
 血塗られた剣を手に、ベアは『黒面』を見下ろした。背中の傷は確かに大きいが、すぐに治癒すれば一命は取りとめたかも知れない。しかし、『黒面』は自ら死を選んだ。
 ネージュは首を横に振り、唇を噛んで、『黒面』のそばに座り込んだ。
 「どうして、自分から……?」
 「捕まるくらいなら命を断つように命じられているのか、あるいは洗脳されているのかも知れません」
 ハンスは『黒面』の傍らに跪いて頭を垂れると、ネージュの手を取って立ち上がらせた。
 「ぼうっとしている暇はありませんよ。考えるのも悲しむのも、やるべきことをやってからです。……その方をこちらに」
 負傷者を運んできたレジーナに、ハンスは言った。
 「クレアさんも、手当てしなきゃ!」
 ネージュは弾かれたようにクレアを振り返った。
 「止血はしてあるから、そちらの女子を先に診てあげてくれたまえ」
 クレアはまだ痛そうに顔をしかめ、わき腹を押さえながら、簡易寝台に横たえられたマナを顎で示す。
 「……はいっ」
 ネージュはうなずき、顔面を血で染めたマナに駆け寄った。