イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

栄光は誰のために~火線の迷図~(第3回/全3回)

リアクション公開中!

栄光は誰のために~火線の迷図~(第3回/全3回)

リアクション

 その頃、義勇隊の生徒たちは。
 「蛮族の牽制は任せろ!」
 酒杜 陽一(さかもり・よういち)がアサルトカービンの広角射撃で、バリケードに迫る蛮族をなぎ倒していた。だが、パートナーのフリーレ・ヴァイスリート(ふりーれ・ばいすりーと)の弓矢は、慣れない武器なので命中率が悪い。
 「しかし、魔法は『黒面』を相手にする時のために温存しておきたいしな……」
 フリーレは悩む。
 「さあ来い、敵……ふふ、ふふふ……」
 前回の戦いで傍観者を気取ろうとして督戦隊に無理やり最前線に立たされたエリス・カイパーベルト(えりす・かいぱーべると)は、督戦隊分隊の羽高 魅世瑠(はだか・みせる)とパートナーの剣の花嫁フローレンス・モントゴメリー(ふろーれんす・もんとごめりー)に監視されて、引きつった笑いを浮かべていた。監視されていると言っても魅世瑠とフローレンスに脅されたわけではないので、前回怖い思いをしてどこかが壊れたらしい。
 (前回の戦いの時は、怒鳴られて泣いていたからのぅ……今回も同じようなことがあったら、わらわが間に入ってとりなすかと思っていたが、その必要はないようじゃ)
 エリスたちの様子を見て、緋桜 ケイ(ひおう・けい)のパートナーの魔女、悠久ノ カナタ(とわの・かなた)は胸の中で呟いた。
 (しかし、同じ立場の他校生同士であるはずの者に見張られるとは……この状況、どうにかならぬものかのうぅ)
 と、その心の中の声が聞こえたかのように、魅世瑠がくるりとこちらを向いて叫んだ。
 「ほらっ、そこの女子! 何サボってんだよ!」
 「きりきり戦わないと、敵がバリケードの中に侵入して来るじゃん!」
 フローレンスがカナタの方へやって来る。
 「ごめんごめん! ほら、カナタも手伝えよ。氷術で『黒面』の足元を凍らせるんだろ」
 ケイが慌ててカナタを引っ張った。
 「そうであったのう」
 ケイとカナタはバリケードに隠れながら氷術で『黒面』の足元を狙った。だが、相手の移動速度になかなか魔法が追いつかない。しかも、足元を狙われているとわかると、『黒面』はジグザグに跳躍して、生徒たちを翻弄しにかかった。
 「くそ、光術を目くらましに使いたいけど、この状況じゃ味方の目まで潰しちゃうよ」
 光による目くらましが『黒面』に対して有効なのは、囮部隊が実証済みだ。だが、囮部隊が閃光弾を効果的に使えたのは、人数が少なく、打ち合わせてあった合図を全員が聞き取れる状況だったからだ。ここまで味方の人数が多く、横一列にずらりと並んでいる状況では、合図を出すのが難しい。
 「光るよ!とか怒鳴ったら、相手にもばれるしなあ……」
 「僕も目くらましを兼ねてサンダーブラストを使いたかったんだけど、味方への影響を考えると……」
 高月 芳樹(たかつき・よしき)も、魔法の使いどころを考えあぐねている。陽一も光条兵器の輝度を上げて目くらましに使うことを考えていたが、この状況ではやはりやりにくい。
 「でも、やっぱりあの動きを止めないと、攻撃しにくいわ」
 アメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)が厳しい表情で戦況を睨む。

 「……今回は、皆、真面目に戦っているようですわね」
 督戦隊分隊のジュリエット・デスリンク(じゅりえっと・ですりんく)は、戦場を鵜の目鷹の目で観察していた。今のところは、問題を起こす者はないようだ。引き続き、パートナーのシャンバラ人ジュスティーヌ・デスリンク(じゅすてぃーぬ・ですりんく)は督戦隊としてではなく一般の義勇隊員として行動させているが、前回のような小芝居を打つ必要もない。
 「えーっ、でも、ちょっとつまんないじゃん。私刑とか言葉責めとか出来ると思ったのにぃ」
 もう一人のパートナー、英霊アンドレ・マッセナ(あんどれ・まっせな)が口を尖らせる。
 「くれぐれも、問題のない方にそのようなことをしないで下さいませね? 妲己様に叱られてしまいますわ」
 ジュリエットがアンドレをたしなめる。
 「そんなの、言われなくてもわかってるしー。でも、問題がある奴を探してやるのはいいんでしょ?」
 アンドレは舌なめずりし、目を皿のようにして戦場を見る。だが、エリスやパートナーのシャルル・ドーガ(しゃるる・どーが)もきちんと蛮族相手に戦っている。
 その時、
 「来たよ!」
 クライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)が叫んだ。『黒面』が左右から突っ込んで来る。しかも、正面にはまだ、倒し切れない蛮族も残っている。逆に、火炎瓶による攻撃はいつの間にか止んでいた。数を使い切ったのか、あるいは混戦になると見て、投げて来るのをやめたのか。
 「行くぞジィーン!」
 「おうっ!」
 クライスに『ディフェンスシフト』をかけてもらったパートナーのヴァルキリーローレンス・ハワード(ろーれんす・はわーど)と英霊ジィーン・ギルワルド(じぃーん・ぎるわるど)はバリケードに駆け寄った。。
 「皆さん、気をつけてくださいですぅ」
 メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)とパートナーの剣の花嫁セシリア・ライト(せしりあ・らいと)が周囲の生徒たちに『パワーブレス』を使う。
 「あのあたりが薄そうですわね。メイベル様、行って参ります」
 メイベルのもう一人のパートナー、英霊フィリッパ・アヴェーヌは、盾を構えて前に出た。無理は避けて、バリケードを登って来る蛮族をランスで突き落とす。
 「女に負けてられっかよ!!」
 自分に気合を入れるかのように、ジィーンは叫びながら蛮族にランスを突き立てる。ローレンスはバリケードで半分身を隠しながらバスタードソードを振っているが、土嚢などで強化されて厚くなったバリケード越しでは、少々攻撃しにくそうだ。
 「気合を入れるのは良いけど、周囲にも気をつけて!」
 二人の後ろからランスで援護しながら、クライスはジィーンに声をかけた。
 「おう、済まんな」
 礼を言いながら、ジィーンはランスで貫いて抜けなくなってしまった蛮族の身体を蹴って抜いた。まだ目覚めたばかりで、力の加減が上手く行かないようだ。
 「新兵も多くて、少し戦力不足のようですわ。アンドレ、わたくしたちも前に出ましょう」
 ジュリエットは後を他の査問委員に頼み、アンドレと共に前へ出る。芳樹やアメリアも、既に悩んでいる場合ではないと、蛮族を一人ずつ各個撃破に出た。