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栄光は誰のために~火線の迷図~(第3回/全3回)

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栄光は誰のために~火線の迷図~(第3回/全3回)

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第3章 大きな壁の中と外

 その後、林は何度か囮の輸送隊を出した。最初の2・3回は『黒面』も襲って来たが、その後はさすがに襲撃がなくなった。囮部隊によってさらに数名の『黒面』が倒されており、敵も数が減ってきたのかも知れない。そこで、林はやっと本物の量産型機晶姫を輸送する部隊を出発させることにした。
 「やったあっ! これでやっと、量産型機晶姫の解析ができる!」
 技術科のプリモ・リボルテック(ぷりも・りぼるてっく)は、そのことを聞いて踊り出さんばかりに喜んだ。
 「これで、林教官や楊教官に『一日に何度も、いつ出発するか聞きに来るな』と怒られなくて済むな」
 パートナーの機晶姫ジョーカー・オルジナ(じょーかー・おるじな)が、少しほっとした様子で言う。《工場》から動かなくなった量産型機晶姫が運び出されて以来、プリモは、本校に戻って解析できる日を今か今かと待ち望んでいたのだ。
 「まあ、無事に学校に戻れれば、の話だけどねー」
 プリモはちょっと真面目な表情になった。
 「もしこれで鏖殺寺院がタイミング良く本物の輸送隊だけ襲撃して来るようなことがあったら、私は内通者を疑うけど?」
 輸送隊に志願している紫光院 唯(しこういん・ゆい)が、難しい表情で少し離れた場所に居た義勇隊の生徒たちを見る。
 「いや、俺たちが考え付くことなら、敵も考え付くんじゃないか?」
 大岡 永谷(おおおか・とと)は、敵がこちらの手の内を読んで攻撃して来るという考えだ。
 唯と永谷の意見を聞いて、プリモは急に不安そうな表情になり、きょろきょろと周囲をうかがった後、同じ技術科の深山 楓(みやま かえで)の手を引っ張った。
 「楓ちゃん、ネット打ち出すランチャーのテストするから、手伝ってっ!」
 「え? あれはもう完成したんじゃ……」
 楓は目を瞬かせた。だいたい、ランチャーと言っても、ここでは工具にも材料にも限度があるので、クロスボウに毛が生えた程度の、簡単な構造のものだったはずなのだが。
 「万が一ってこともあるから! 楊教官もいつも言ってるよね、テストはし過ぎってことはないって!」
 プリモは楓をぐいぐい引っ張って行ってしまった。
 「本当に、早く無事に本校に戻りたいのね……」
 それを見送って、唯はさすがに呆れたように言った。
 唯の隣で、パートナーのメリッサ・ミラー(めりっさ・みらー)がため息をついた。
 「……楓さん、一人で本校に戻ることになって、残して行くネージュさんのことを心配していらっしゃるでしょうね」
 輸送隊とここに残るのと、どちらが危険かは判らない。だが、メリッサと唯がそうであるように、楓とネージュもまた、どちらかに何かがあったら無事ではいられないのだと思うと、メリッサは胸が痛くなる。
 「私たちが、しっかり彼女を守ればいいのよ」
 唯はメリッサの肩に手を置いた。メリッサはその手にそっと自分の手を添えた。
 「ええ、そうですわね……」

 「本校に送還しなければいけない負傷者、ですか?」
 その頃、楓のパートナーである機晶姫のネージュは、救護所で後鳥羽 樹理(ごとば・じゅり)とパートナーの剣の花嫁マノファ・タウレトア(まのふぁ・たうれとあ)から声をかけられていた。
 「そう。負傷者を本校送還するのに紛れて、量産型機晶姫も学校に運んじゃえばいいじゃん?」
 マノファはうなずいた。
 「出来れば、ヒールかけたらすぐ戦えそうな軽症の人がいいんだけどさ」
 「そんな人、居ないですよね?」
 ネージュは、側を通りかかったクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)とパートナーの守護天使ハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)に訊ねた。
 「ヒールをかけたらすぐ戦えるような負傷者は、さっさとヒールしてしまうからな。ヒールで間に合わないような重傷者は本校に送還になるが、今のところは幸い、そんな重傷者は出ていないし」
 「大勢負傷者が居て一時的にヒールが間に合わなくなることはありますが、休息を取ればまた使えるようになりますから、戦闘が終わって数日もすれば、たいがいの負傷者は回復し終わっていますよ」
 クレアとハンスの答えも、ネージュと同じだ。
 「うーん、どうしましょうかぁ?」
 樹理が首を傾げる。
 「……別に、本物の負傷者でなくてもいいんじゃないか?」
 そこへやって来た一色 仁(いっしき・じん)がマノファと樹理に言った。
 「いや、俺たちも君たちと同じように、負傷者の後送に偽装したらどうかと考えてたんだが、輸送隊は結構人数が居るみたいだから、数人を残して後は包帯でも巻いて負傷者に見せかければ、敵も見逃したり、襲ってきても油断するんじゃないかと思って、衛生科に相談に来たんだ」
 「……そっか、言われてみればそうじゃん」
 マノファはぽんと手を打った。
 「と言うわけで、包帯やガーゼを分けていただけないでしょうか?」
 仁のパートナー、シャンバラ人のミラ・アシュフォーヂ(みら・あしゅふぉーぢ)が訊ねる。
 「あ、だったらいいものがありますよ!」
 ネージュはテントの隅から、ゴミ袋をえっちらおっちらと運んで着た。
 「汚れた包帯とかガーゼとか、繰り返しては使わないので廃棄物としてまとめてあるんですけど、それを使えば、本当に怪我してるように見せられるんじゃないかな?」
 「そうだな、真新しい包帯を巻いているよりリアルな感じが出るかも知れないな」
 仁がうなずいた。
 「キミたち、ちょっと手伝ってくんない? やっぱり、プロにやってもらった方がそれっぽく見えるじゃん?」
 マノファは衛生科の生徒たちに頼んだ。
 「はい。ここへ来てもらえれば、お手伝いします。準備しておきますね」
 ネージュの言葉に、クレアとハンスもうなずく。