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狙われた乙女~別荘編~(第3回/全3回)

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狙われた乙女~別荘編~(第3回/全3回)
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リアクション

 煙が立ち込め、濛々と砂埃が巻き上がっている。
 轟音が響き、その後のことは良く覚えてはいない。
 気付けば、身体が動かなかった。
 激しい痛みで意識が朦朧としていく。
「そうか。あんた、舞士ではないのか……」
「舞士に扮したつもりはありません」
「俺の勘違いだったようだな。悪い……てゆーか、あんたシリアスなキャラじゃなかったっけ?」
「……また誰かと勘違いしているようですね」
「そうか……悪い」
 男同士、意識が朦朧としている者同士、重傷を負った者同士で、重なり合ったまま、2人は息も絶え絶えに会話をしていた。
 片方は全裸で破れた袋を被った男。裸なのでズタボロだ。血まみれだ。変な方向に手足が曲がってる。
 もう片方は、不良っぽい男。だが別荘を占拠していた不良達と一緒にしてはいけない。彼等よりずっとまっとうに生きている少年なのだから。多分!
「くっ……ルナ、ルナは無事か〜」
 比較的軽傷な不良っぽい男――蒼空学園の永夷 零(ながい・ぜろ)は、瓦礫と裸体男の下から這い出ると、パートナーの名を呼んだ。
「ゼロ〜いきてるのでございますかー」
 声の方に目を向ければ、白いうねうねした何かが目に映る。あれは間違いなく、パートナールナ・テュリン(るな・てゅりん)の何かだ! いや、ソレが何なのかは零にもよく分からない。
 付近の瓦礫を根性で退かすと、ルナの小さな体が露になる。
「ゼロ、治療します」
 ルナはゼロにヒールをかけた。
「おまえ何時の間にヒールが使えるようになったんだ? よし、治癒してくれ。もちろんルナ自身にも使えよ? 俺がSPリチャしてやっから」
「はいでございます」
 ルナは零の身体が完全に治るまでヒールをかけて、零はルナに精神力を送り、それからルナは自分の身体も治すのだった。
「……じゃ、行くか」
「大変な目にあいましたでございます」
 他にもうねうね動いていいる裸の手みたいなものが見えなくもなかったが、自分達の傷を治すだけでほぼ精神力を使い果たしてしまった。
 やむなく零とルナは見なかったことにして、その場を去るのだった。

第1章 雨降って地固まる

「ケホケホ……ッ」
 灰となったテントの中から、黒い煙を吐きながら男が這い出てくる。支えあうようにして、胸の大きな女性も。
「奇襲とは……」
「酷い目に遭いましたわ」
「これも、俺達の作戦が失敗に終わってしまった所為なんだ!」
 男――シャンバラ教導団の一色 仁(いっしき・じん)と、パートナーのミラ・アシュフォーヂ(みら・あしゅふぉーぢ)は悔しげに立ち上がる。
 2人とも、見事なアフロだ。実に見事な仕上がりである。美容院に行く手間が省けてしまった。
「あーあ、自慢のしっぽが台無しですよぉ」
 しゅんとした声を上げたのは、教導団の皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)だった。
 黒い髪をポニーテールにしている彼女だったが、自慢の髪は毛先までちりちりアフロヘアーになっていた。纏めているゴムを取ったら爆発しそうな勢いだ。
「義姉者のしっぽはまた生える。しかし、それがしのは……」
 うんちょう タン(うんちょう・たん)は頭髪どころか、長い鬚までアフロ化していた。――ゆる族なのに。アフロキャラとして生きていくべきか、きぐるみを新調すべきか、新たなキャラとしての人生を歩むべきかッ。うんちょうは人生のターニングポイントに立ってしまっていた。
「心中お察し申し上げる」
 皇甫 嵩(こうほ・すう)もまた、髪はアフロで、髭パーマ状態だ。もじゃもじゃだ。
「想定の範囲内じゃな」
 丸焦げ状態、服もボロボロ見る影もなく、ちりちりアフロに変貌していた教導団の青 野武(せい・やぶ)は全く動じていなかった。この程度のこと、実験の最中に非常に頻繁に普通によくあることなのだから。
 無論、パートナーの黒 金烏(こく・きんう)シラノ・ド・ベルジュラック(しらの・どべるじゅらっく)も同じ状態だが青のパートナーとして日常茶飯事なことなので、こちらも動じていない。
「えけ〜めめ〜わき〜まま〜」
「やゆ〜やゆ〜」
「けめ〜けめ〜はう〜はう〜」
「やゆ〜やゆ〜」
 蒼空学園の初島 伽耶(ういしま・かや)アルラミナ・オーガスティア(あるらみな・おーがすてぃあ)は、2人で仲良く楽しげにダンスを踊っている。
 髪はアフロ、服は焦げて、周りに星を飛ばしながら、目は焦点が合わずぐるぐる回っており、無意識でアフロポップを踊っているようだが、完全に千鳥足、タコ踊りだった。なんだかとぉっても幸せそうだ!
「………………………………」
「…………」
 休憩用のテントがあった場所に戻った教導団のミヒャエル・ゲルデラー博士(みひゃえる・げるでらー)アマーリエ・ホーエンハイム(あまーりえ・ほーえんはいむ)は、その惨状を見て、近付くのはやめておくべきか少し悩んだ。
「無事であったか」
 ゲルデラーのパートナーであるロドリーゴ・ボルジア(ろどりーご・ぼるじあ)がゲルデラーに気付く。
 ロドリーゴはテッペン禿げとアフロが重なって、頭髪がなんだか、凄いことに、凄 い こ と になっていた。
「…………まずは、現状報告ですな」
 ゲルデラーは一切のつっこみをいれず、あさっての方向を見ながら雇用者であるミルミ・ルリマーレン(みるみ・るりまーれん)からの指示と、作業用テントで得た情報についてアフロな仲間達に説明を始めたのだった。

「……ごくオーソドックスですが、早期救助を最優先に、今回はこのような計画で行こうかと思います」
 状況説明後、ゲルデラーが出した作戦は以下だった。

・瓦礫のため展開できる地積が少ないこと、ガスによる二重遭難防止のため相互に救助可能な範囲にあることが望ましいことを考慮し、密集隊形とする。
・残敵の逆襲の可能性は否定できないため、円陣を組み、一丸となって進む。
・円陣は外周と内陣に分け、内陣は治療・支援系スキル保有者、外周は瓦礫除去の膂力のあるものや戦闘・防御系スキル保有者で構成する。原則志願制。

「至極まっとうな作戦ですぅ〜」
 伽羅はその作戦に深く頷き、賛意を示した。
「ううむ、穏当なものではござる」
 うんちょうは、ゲルデラーとアマーリエだけアフロになっていない……もとい、火傷を負っていないことに疑惑の目を向けつつの賛成だった。
「そうだな……俺とミラは外周で撤去作業などの力作業を担当するか」
「そうですわね」
 仁とミラはそう頷きあう。
「塩素系の匂いが漂っておったようじゃが……単純に塩素であればよいが、ホスゲンやマスタードやルイサイトの原料であると厄介じゃの。ただちに汚染源をつきとめ、除染と防護措置を講じねば」
 青は鏖殺寺院の毒ガス対策について真剣に策を練る。アフロのまま。
「火災と、塩素臭……鏖殺寺院構成員はともかく、他の学生が心配でありますな。一刻も早い除染と救出が必要であります」
 黒も鏖殺寺院構成員はともかく、学生の身を案じた。
「よし、もう一度ゲルデラーの作戦に賭けてみよう! 大変な状態みたいだし、急いで救出しなきゃな」
 教導団のアクィラ・グラッツィアーニ(あくぃら・ぐらっつぃあーに)が、パートナー達に目を向けると、クリスティーナ・カンパニーレ(くりすてぃーな・かんぱにーれ)は真剣な目で素直に頷き、アカリ・ゴッテスキュステ(あかり・ごってすきゅすて)は少し不満気な顔ながらもやはり頷くのだった。
「俺達は、円陣の外周で警戒と瓦礫整頓にあたり、敵襲に対しては発砲して追い散らす!」
「分かりましたぁ〜」
「了解」
 パートナー2人の言葉を受けて、アクィラは強く拳を握り締め、皆に向かい声を張り上げる。
「この程度でへこたれてちゃダメだ! 候補生は全員下車、対戦車戦闘……もとい、全員出撃、救助活動にあたる!」

○    ○    ○    ○


「くっ、屋敷の中での出来事は全く覚えていませんわ。これも毒ガスの影響なのかしら……、なんにしても瓦礫の下にいる人たちを助けなくては」
 これ以上休んでなどいられはしない。
 蒼空学園の荒巻 さけ(あらまき・さけ)は、簡易ベッドから起き上がり、パートナーの日野 晶(ひの・あきら)に支えられつつ、作戦に混ざることにする。
「では、密集地帯の救助は他の教導団員が指揮する部隊に任せ、自分達も人命救助部隊を有志で結成し、瓦礫の取り除き、救助、搬送、治療を分担して行なおう」
 教導団の比島 真紀(ひしま・まき)は、サイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)を伴い、作業用のテントに集うミルミや白百合団員に案を出していく。
「残っている消毒液を貸して下さい。粉塵用のマスクもありますよね?」
 白百合団の冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)と、パートナーのエノン・アイゼン(えのん・あいぜん)も、一旦テントに戻り急ぎ必要な道具を集めていく。
「ラザン、馬車から持ってきて。あと、集落まで買物にも行ってきてね、お弁当とか、お菓子とか、お茶とか」
「畏まりました」
 ミルミは執事のラザン・ハルザナクに指示を出すと、はあっと深い溜息をついた。
「何でこんなことに何でこんなことに何でこんなことに……」
「ミルミちゃんにも、ちょっとお姉さん達のお手伝いをして欲しいのですけど。先にご褒美を1つあげますね」
 呟くミルミに晶は腰を落として優しく微笑みかけて、彼女の手を取ると指にリングを嵌めたのだった。
「ん? 玩具の指輪?」
「かわいいでしょ? これ飴なのよ」
「おっきい飴だね〜☆」
 ミルミはきらきらと目を輝かせて、珍しそうに指輪型の飴を見回すのだった。
「こういうキッチュでポップなお菓子はヴァシャリーにはないでしょう? ミルミちゃんが手伝ってくれれば空京にあるこういう可愛いお菓子とかがあるところに連れてってあげるんだけどなぁ……」
「行きたいっ。ミルミ空京のお菓子屋さんとか行きたい〜。駄菓子屋さんって店にも入ってみたいっ」
 きゃっきゃっとはしゃぎだすミルミ15歳。決して子供ではないはずなのだが……。
「では、ミルミさんに上空から指示を出していただき、効率よく救助活動を行なおう。ここからでは現場に遠すぎる。現場近くに救護用のテントを張る」
「テント張ったら、担架作ろうね」
 真紀は、サイモンと共にイベントテントとシートを運ぶことにする。
「準備できました。行きましょう」
 小夜子とエノンは消毒液とマスクを抱え、仲間達と共に作業用テントを出発することにした。