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世界を滅ぼす方法(第5回/全6回)

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世界を滅ぼす方法(第5回/全6回)

リアクション

 
 
 五条武と樹月刀真は、ヒラニプラ郊外の荒野に墜落した飛空艇を訪れた。
 特に武装生徒が護衛している等といった様子もなく、彼等に気付いて出てきた教導団生徒も、戦士とは言い難い体躯だった。
「誰だ?」
「俺達は、この飛空艇について調べに来たんだが……」
「できれば、内部を見せていただけませんか」
 2人が、この飛空艇でここまで乗ってきた老人の行方を追っていることを説明し、手掛かりを探しているので直接調べたいと頼むと、
「ああ、別にいいよ。どうぞ」
と、彼は特にもったいぶることもせずにあっさり答えた。
「……時に、この飛空艇が蛮族に狙われているという話はご存知ですか?」
 刀真が訊ねると、初耳だったらしく、彼は驚いた顔をする。
「え? そうなのか? どうしよう、教導団から護衛を呼ぶべきなのかな……しかし、今こんなことに割いてる人数は無いとか言われそうだよな……」
 ぶつぶつ考え込んでいると、
「その件なら、こちらで人を回せる」
と、イレブン・オーヴィルとシャンテ・セレナード(しゃんて・せれなーど)が入ってきた。
「教導団生徒か? イレブン・オーヴィルだ」
「ラブラドル・フェルナンドです。何事ですか?」
 自己紹介を交わした後、状況の説明をする。

「……ではやはり、教導団で所有権を主張しているわけではないんだな」
 イレブンが確認すると、
「そりゃ、違うからね」
とラブラドルは肩を竦めた。イレブンは頷く。
 あくまでも彼等の目的は調査であり、所持しようという思惑ではないとイレブンは踏んでいたのだ。
「物が物だし、放置なんてされているから、一応調査しているけど、何分動かないしね……。
 半年経っても持ち主が現れなければ、教導団で保有して本格的に調査、ということも有り得るかと思うけど」
「では、我々が使わせて貰っても構いませんか?」
 シャンテが言うと、ラブラドルは苦笑した。
「自分の一存では何とも言えないけれど、というか自分が決めていいことじゃないと思うけれど、いいんじゃないかな。
 帰って、持ち主が現れましたと伝えるよ」
「なーんだ、あっさり。もっとてこずるかと思ってたのに」
 拍子抜けしたようにカッティが言う。
「お前は教導団を何だと思っているんだ」
 確かに他の学校と比べて厳格な部分はあるかもしれないが、別に独裁支配なわけではないのだ。
「知ってるけどさ。でももっとこう、色々難しいことがあるんじゃないかと思ったじゃん」
「何にせよ、快諾されたことは成果であろう。
 あとは動かせるようにすることだ。補修の必要などはあるのか」
 シャンテのパートナーであるリアン・エテルニーテ(りあん・えてるにーて)が問うと、ラブラドルは
「それは無い。随分頑丈に出来ているようだね。
 話によれば2度墜落しているそうだけど、船体に目立つ傷も見当たらないよ。
 問題は燃料だね」
と答える。
「うーん、実はハルカの持ってる”種”がそうじゃないかと踏んでたんだが……やっぱり連れて来るべきだったかな」
 五条武が腕を組む。
 もしくはハルカから”種”を借りてこようとしたのだが、手放すことはハルカが拒否したのだ。
「このスペースじゃ、ハルカごと丸めて入れるわけにも行かないし」
 通常、機晶石をセットするという場所を見せられて、武はうめいた。
「……武……」
 呆れたように、パートナーのイビー・ニューロ(いびー・にゅーろ)が背後でぼそりと呟く。
「冗談に決まってるだろ。そんなことするかよ」
 イビーや月夜に無言の糾弾を浴び、武は慌ててそう言った。

「そしたら、あとは〜」
 飛空艇外で敵襲に備えようとする風森 巽(かぜもり・たつみ)を引っ張って、飛空艇の内部見学をしていたティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)が、その設置場所を見て言った。
 その大きさを見て、思い出す物があったのだ。
「あとは、コハクの持つ”光珠”が、可能性としては濃厚であろうな」
 イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)が、ティアの言葉尻を引き受けるかのようにそう言ったが、その時、パートナーのセルウィー・フォルトゥム(せるうぃー・ふぉるとぅむ)が、
「しかし今はそれを確かめている余裕は無いようです」
と続ける。はっとして武は小窓に走り寄った。
「来やがったか!」
 遅れて地響きが聞こえて来た。
 バイクやら馬やらに乗った、あまり統率の取れていないように思われる集団が、飛空艇に向かってくる。
 まとまりは悪そうだが、数は多かった。

 だが既に、飛空艇の周囲には、クルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)や、牧杜 理緒(まきもり・りお)らが待ち構えていた。
 武神牙竜はパートナーのリリィ・シャーロック(りりぃ・しゃーろっく)と共に、既にケンリュウガーに変身済だ。
 そこへ巽が走り出てきた。
「……多いな!」
 望むところだぜ! と笑う。
 それはどこか自嘲的な笑みだった。


 飛空艇までたどり付き、物珍しそうにそれを眺めながら、コハクがスナネズミを降り、周囲の仲間達と言葉を交わして、歩き出す。
 さあ今よ! 今がコハクにさりげなく近づき、落ち着いてきた彼を慰める時!
 一ノ瀬 月実(いちのせ・つぐみ)はスナネズミの手綱をぽいっと投げて、コハクに走り寄った。
「コハクさん、長旅御苦労様。大丈夫?」
「はい。ありがとう」
「何かあったらいつでも言ってね。無理はしちゃ駄目。
 私、いつでも、コハクさんの力になりたいと思ってるんだから……」
「あ、ありがとう……。とても嬉しいです」
「いいの。コハクさんが元気になってくれたのなら、私も嬉しいわ」
「…………あの、一ノ瀬さん……」
「あら、そんな堅苦しい呼び方しないで、名前で呼んでよ」
「つ、月実さん。その、よかったら、なんですけど」
「なにかしら?」
「その……友達に、なってくれませんか……」
「嬉しいわ。でも私達、もう友達でしょう?」
「ありがとう、月実さん……」
「これからもよろしくね、コハクさん」
「月実さん……」
「コハク……」
「何やってんのこのバカ月実――!!!」
 パートナーのリズリット・モルゲンシュタイン(りずりっと・もるげんしゅたいん)に後頭部を激しく殴られて、月実は妄想の世界から帰還した。
「はっ! 何!? 何なの!? 今のは夢!?」
 きょろきょろと周囲を見渡すが、コハクの姿はとっくになく、飛空艇の中へと入って行ってしまっている。
「現実を見なさい! 敵襲だよ!」
「あら本当だわ……そうそう、飛空艇を護るんだったっけ」
 コハクと友達になる方が大事なのに……とぶちぶち言いつつ、月実はハンドガンを手に持った。

「……行くぞ、ユニ。……銀閃華を出せ」
「はい!」
 口々に独特の叫び声を上げながら、至近距離まで近づいてもバイクの速度を緩めない蛮族達を、全く動揺もせずに睨み付けながら、クルードはパートナ−のユニ・ウェスペルタティア(ゆに・うぇすぺるたてぃあ)に指示を出す。
 ユニの胸元から、身の丈ほどもある野太刀の形状の光条兵器を引き抜くと同時、ユニの服が破れたが、ユニは構わず、続けて魔法を使う体勢に入った。
「……見せてやろう!」
 クルードは野太刀を振り構え、蛮族の群れに飛び込んだ。

「全員武器を下ろして投降しやがれ! してもブチ殺すけどなァ!
 この飛空艇はたった今から、四天王配下、十二神将がナンバー6! このオニキス様の支配下に置かせて貰うぜ!!!」
 トゲ装飾だらけのスパイクバイクを唸らせて、最前列中央にいた男が声を張り上げた。
 しかし既に、飛空艇を取り囲もうとしていた両翼に、クルードとユニ、そして巽がそれぞれ飛び込んでいる。
「つまりおまえが頭領というわけか」
 ケンリュウガーと共に中央に控えていたイーオンが、冷たく言い放った。
「悪いが俺達は急いでいるのでな。手段を選ばずやらせて貰う」
「イオ、無理だけは……」
 しないで下さい、と、イーオンの指示通りに後方に下がりながら、セルウィーが念を押す。
「誰に言っている」
 イーオンは笑ってそう返した。


「うわ……男の人ってどうしてああいう派手な戦い方するのかしら」
 パートナーのテュティリアナ・トゥリアウォン(てゅてぃりあな・とぅりあうぉん)を援護しながら、2人で連携し、確実に1人1人を仕留めて行く牧杜理緒は、横目にクルードの方を見て想わずそう呟いた。
「何だァ、てめえらあ!!」
 待ち伏せされているとは思っていなかったのか、斬り伏せられる仲間達を尻目に、蛮族達が肩を怒らせて叫ぶ。
「……答える必要はない。この船は……貴様等には過ぎた物だ。……渡さん!」
「ざっけやがってえ! 死ね!!」
「……こっちのセリフだ!」
 ずざっ、と大きく飛びのきながら、クルードは野太刀を横殴りに払った。
 蛮族達が、数人まとめて払い飛ばされる。
 ユニの魔術の援護を受けながら、自らも爆炎波などを派手にかましつつ、野太刀を振り回して蛮族達を薙ぎ払いまくって暴れるクルードの戦い方は、一見その攻撃に巻き込まれつつも傷が浅く、再び立ち上がって向かって行く者もいたのだが、そんなことには構わずクルードは、再び向かってくるならニ度でも三度でも、容赦無く叩き伏せた。
 そして、彼がそうやって敢えて派手に暴れて多くの蛮族達を引き付けているからこそ、理緒達は確実に相手を仕留めていけるのだと言える。
 しかし風森巽の方はもっと酷かった。

「ちいっ……まだまだあっ!!!」
 彼は自分の回避も防御もまるで考えず、まるで後先もなく突っ込んでいた。
「こんなんで、……これしきで倒れていられるかッ……」
 敵を倒しながら、倍の攻撃を受けているような有様で、それでも尚、鬼気迫るような気力で蛮族達に向かって行く。
「アイツ、突っ込み過ぎだ! 自殺行為だぜ!?」
 ケンリュウガーも、横目でその様子に眉を顰めた。
 そしてその直後に、背後でイーオンの合図を感じ、飛び退く。
 オニキスを中心に、周囲を巻き込みながら、イーオンがサンダーブラストを放った。
「おま! でけぇやつかますなぁ!」
 幸いにも蛮族達は広がり過ぎていて、魔法範囲はクルードや巽の方にまでは及ばなかったようだが、それでも蛮族達の半数が巻き込まれた。
「ぐ……がほっ……!」
 オニキスは、今にも倒れそうになりながら、それでも立って、イーオン達を睨み付けていたが、すかさず走り寄ったケンリュウガーが背後を取って腕を取り、彼を地に押し付けた。
「意識があって幸いだぜ。ゆっくり説教させて貰おうか」
 説得するつもりか。フン、とイーオンは鼻を鳴らしたが、特に止めるつもりもない。
 そこへテュティリアナと共に、理緒が走り寄って来た。

「てめぇら、ボスを離しやがれ!!」
 トップが落とされたことで逃走し始めるかと思いきや、半数以上が、オニキスが倒れたことに憤り、激昂して更に向かって来た。
「……往生際が悪い……!」
 気を抜くことはしないし、容赦は勿論しない。
 それらの者達を叩き伏せ、残党を全て片付けると、クルードは剣をユニに返した。
「クルードさん……!」
 ユニが巽の方を見て青ざめ、まるで助けを求めるようにクルードを呼ぶ。
「逃げるなァ、貴様ら!!」
 残りの後退する蛮族達を尚追いかけて、満身創痍の巽が剣を引きずる。
「……何をやっているんだ……?」
 クルードも眉を寄せ、そこへ飛空艇からパートナーのティアが走り出して来た。
「タツミ! もうやめてっ!」
 後ろから飛び付き、ティアが叫んだ。
「もう終わったよ! 終わったから!
 タツミが死んじゃったら、またコハクが、自分を責めちゃうよ!」
「――――!」
 がくん、と巽の力が抜ける。
 そのままずるりと倒れ込み、巽は意識を失った。
「……どうしたんだ、そいつは……?」
 歩み寄ったクルードが訊ねる。
 実力が不足していたと言うよりも、むしろ自傷を目的としていたような戦い方だった。
「わ、かんない……。
 何か、落ち込んでたみたいだったけど……」
 治癒魔法を施しながら、ティアは涙声で答える。
 軽く溜め息をひとつ吐き、クルードは巽を担ぎ上げて飛空艇内に運び入れた。


 そうして、後には、しょんぼりとバランス栄養食をぱくつく月実が1人残されたのだった。