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着ぐるみ大戦争〜扉を開く者(第4回/全6回)

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着ぐるみ大戦争〜扉を開く者(第4回/全6回)

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第1章 戦車でGO!

 相変わらずじりじりと前進しつつ戦っている教導団第3師団。もちろん、戦っているのは第3師団だけではない。各師団、しいては教導団のみならず、蒼空学園やイルミンスールなども冒険したり戦ったりしており、シャンバラ各所にはいろいろな動きがある。
 そんな中、12月に入り、シャンバラ全土を驚かせる出来事が起こった。蒼空学園と友好関係にある六首長家の一つ、ツァンダ家、その当主の娘であるミルザム・ツァンダが、自らが女王の血を引いていることを明らかにし、女王候補に名乗りを上げたからだ。ツァンダ家は早速各首長家に承認を要請する通達を出し、キマク家を除く四首長家がこれに同意。波羅蜜多実業を除く各学校の校長がツァンダに集まり、ミルザムが女王候補であることを承認した。これにより、シャンバラ王国復活に一つの方向性が生まれ、弾みがつくこととなった。これに伴い、蒼空学園ではミルザムの身辺護衛と女王即位に必要な神具『女王器』捜索のため、親衛隊『クィーン・ヴァンガード』を設立。探索・護衛の任につくこととなった。もっとも、今の所はミルザムは女王『候補』に過ぎず、特に権力を持っているとか言うわけではないが、権威が大きく高まったことは事実であろう。しかし、キマク家=パラ実はこれをガン無視、黙殺状態であり、シャンバラすべてに承認されたわけではない。また、ミルザムの女王候補宣言にはヴァイシャリー家がかなり渋ったことは事実である。今の所、もっとも古代シャンバラ女王の血を色濃く引いているのはヴァイシャリー家のラズィーヤ・ヴァイシャリーであるとされていたからだ。言うなればラズィーヤは嫡流、ミルザムは傍流である。だが、ミルザムが女王になるとなればヴァイシャリーは唯の貴族家に過ぎなくなる。ミルザムの女王候補宣言はなかなかに問題をはらんでいると言えよう。

 第3師団は現在、やや前進する形で例の150高地近くに展開中である。
 「うふ、うふ、うふ」
 例によって怪しい笑いのレベッカ・マクレガー技術大尉である。
 「遂に完成したのです……。さあ、見るがいいのです!ひれ伏すがいいのです!教導団仕様新型戦車、MBTーS1『ビートル』なのです」
 向こうから戦車がガラガラとやってきた。車体にやや平べったいもののごっつい砲塔が乗っている代物だ。さすがに湯気は立っていないができたてほやほやであろう、野戦塗装がなされておらず、ガンメタル色がむき出しだ。
 ちょうど見ている皆に?側が見えるような位置につけた。皆が意外に思ったのは近年、戦車の砲塔は戦車車体のほぼ中央に乗っかるようなレイアウトになっている。重量バランスなどからそうなるのだが、『ビートル』は砲塔が前半分側に乗っかるように、前のめりに搭載されている。そのためか、確かに横から見ると脚の代わりにキャタピラーがついたカブト虫に見える。
 砲塔ハッチの上から周囲を見ていたハンナ・シュレーダー少佐が砲塔内に潜り込んでハッチを閉める。
 まもなく、砲塔が回転し、鈍い音と共に砲身がわずかに後退した。すると、ずっと向こうで目標の岩が木っ端微塵になる。破壊力はかなりのものだ。
 「すげえ……」
 「本当に70ミリ砲か?……」
 皆口々にその威力に驚いている。
 「うふ、うふ、うふ、良く聞いてくれたのです……。実はこの『ビートル』の70ミリ主砲は唯の70ミリ砲ではないのです」
 「普通の主砲とは違うのかしら?」
 和泉 詩織(いずみ・しおり)少将が砕かれた岩の方を見て言った。
 「鋭意開発の結果、ようやく完成したのです。なんと液体装薬砲なのです」
「液体装薬砲〜?!」

 戦車というのは第一次世界大戦において塹壕を突破する為の兵器として開発された。その後、各国は様々な戦車を開発し、活用していったが、最終的に運用が確立されたのは第二次世界大戦時であった。そこで戦車とはどうあるべきか?とする結論がいわゆるMBT(メイン・バトル・タンク=主戦闘戦車)思想である。すなわち攻撃力、防御力、機動力のバランスがとれた機動装甲打撃兵器であるべきとするものだ。有名なティーガー戦車ですら、機動力に劣るため、運用が限られるという反省がある。
 戦後になって各国は主力となるMBTの開発を進めた。アメリカのM48戦車、イギリスのセンチュリオン戦車等が戦後すぐ、主力となった。これらは戦後第1世代戦車と呼ばれ、90ミリクラスの主砲に敵弾を弾くよう丸っこいデザインの車体が用いられた。日本では大分遅れて作られた61式戦車がこれに当たる。次に60年代に入り、第2世代と呼ばれる戦車が登場する。アメリカのM60、ドイツのレオパルト1などである。この世代は105ミリクラスの主砲に空間装甲(スペースド・アーマー)を取り入れたものが多く、やはり日本は大分遅れて74式戦車を作った。
 そして80年代に入り、ドイツのレオパルト2を皮切りにアメリカのエイブラムズ、イギリスのチャレンジャーなどが作られている。これらは第3世代戦車と呼ばれている。日本では90式が相当し、主砲が120ミリ、複合装甲(チョバム・アーマー)を使用している点が共通している。90式は何とか他国に10年の遅れをとらずに作られている。
 さて、ここまで見ていると気づくことであるが、戦車の世代交代は概ね15年から20年ほどで行われている。であるならば2000年代初頭に第4世代戦車が登場しているはずである。しかしながら2019年現在、各国は今だ第3世代戦車の改良型を運用している。日本が2010年に採用した10式戦車(TK−X)もどちらかと言えば90式をコンパクトにし、情報面を強化したに過ぎず、第3.5世代戦車と呼ばれている。これには二つ理由がある。一つは80年代末の冷戦終結により、大規模な戦車戦を伴う戦争の発生する可能性が著しく低くなったこと。そして、もう一つが第3世代戦車において、ある限界が来たことである。
 ここで第4世代戦車、と言うものを考えてみよう。すると、主砲は135ミリ程度の主砲を搭載すると考えられる。そうなると砲が大きいので砲塔は大分大きくなり、戦車自体が大型化する。また搭載する砲弾も大きくなるので必要量搭載しようとするとこれまた車体が大きくなる。さらに主砲は自らの戦車の主砲に耐えられる事が基本なので装甲も厚くなり、これまた大型化の原因となる。さらにさらにこの戦車を時速数十キロで走らせると言うことはエンジンも大型化する。戦車の重量は70トンを越える事になりかねない。
 実際、日本の61式、74式、90式を比較すると解るが大型化、重量化の一途をたどっている。日本では長距離移動に列車を使用するつもりであったが、90式は重量が50トンに達するためこれをあきらめている。最新の10式戦車が44トンと小型化しているのはここを考えてのことである。要するに10式戦車は90式が重すぎていろいろ支障があるのでコンパクト化を図った第3世代戦車に過ぎないといえる。
 アメリカなどではもっと事情が深刻だ。これ以上戦車が大型化すれば、上陸用ホバークラフトや緊急展開部隊の輸送機に積めなくなる。それらを合わせて大型化するとなれば、戦車の主砲一つが兵器の全面更新を招きかねないのだ。(ホバークラフトが大型化すれば今度はそれを搭載する強襲揚陸艦を大型化せねばならなくなる)
 すなわち、何らかの技術革新が行われない限り、現状の戦車開発は限界に達しつつある、と言うことだ。従来の主砲より同等もしくは小型で威力の強力な主砲の開発、これが極めて重要である。
 ここに至ってアメリカ、日本をはじめ各国は水面下で熾烈な開発競争を行っている。一応、135ミリ砲、等も検討されてはいるが技術の進歩に伴い昨今の兵器開発はSFになりつつある。主砲にも電磁砲(レールガン)、電磁熱砲などいろいろ研究されているが、現在、最も実用化が有望視されているのが液体装薬砲である。
 これは火薬によるのではなく液体に高エネルギーを加えて瞬間的に液体から気体へと位相変換(フェイズシフト)させることにより、その膨張圧力で主砲弾を飛ばそうとするものである。原理は簡単、火に掛けたヤカンの水蒸気が蓋を持ち上げる原理、あれを瞬間的且つ超強力に行おうというものだ。利点としては装薬に火薬を使用しないため、被弾しても戦車が誘爆する可能性が極めて低くなる点が上げられる。
 そして、液体装薬砲は火薬砲に比較して弾の速度が約3倍である。エネルギーは速度の二乗に比例するので、主砲弾の威力は十倍近くなる。逆算すれば、液体装薬砲は弾の直径が倍の火薬砲に匹敵する威力を持つ。
 すなわちMBT−S1の70ミリ砲は火薬砲ならば140ミリ砲に匹敵する威力を持つ。その意味でMBT−S1『ビートル』は第4世代戦車なのである。長ったらしい説明、ご静聴ありがとう。
 一方で高エネルギーを瞬間的に発生させるため、強力な発電機を積む必要が出てくる。ビートルの砲塔が前のめりについているのはエンジンの他に大型の発電機を積んだため、レイアウトの関係でこうなってしまったのだ。

 「初速の速い主砲の採用により、砲自体の小型化に成功しているのです。防御にも抜かりはないのです。通常の複合装甲に加え、部分的ではありますが電磁装甲も採用しているのです」
 装甲に電気を流し、その電磁力で敵弾命中時のメタルジェットを低減し威力を弱めてしまおうと言う物だ。
 「その上、モジュールで爆発反応装甲をプラスできるのです。正に鉄壁!」
 おおお〜っとどよめきが起こる。
 「さらにそれだけではないのです。敵弾に当たらないよう、これ、この通り!」
 そう言ってマクレガーは戦車の真後ろを指し示した。
 「成田山の安全祈願のお札もちゃんと貼ってあるのです!」
 「お前はそれでも技術士官かあぁぁぁぁぁ!!!」
 総員の突っ込みが合唱した。
 「手に入れるの大変でしたのに……」
 マクレガーはぶつぶつ言っている。そこにごろごろと戦車がやってきた。ハッチを開けてシュレーダーが降りてくる。
 「ご苦労様」
 声を掛ける和泉。
 「運用的にはどうかしら?問題点はある?」
 「主砲や機動性には問題ないけど、ハッチもう少し大きくならない?出入りしにくくて」
 シュレーダーの答えにマクレガーは首を振った。
 「標準的なハッチの大きさなのです。あんまりハッチ大きいと防御力に支障が出るのです」
 「そりゃ、あんたは二人同時でも出入りできるもんね!」
 「巨大なお世話なのです!。スイカ二つも携帯して出入りする方が悪いのです」

 「戦車!」
 ちゃっちゃっ。
 「戦車!」
 ちゃっちゃっ。
 「超信地旋回〜」
 『ビートル』2号車の操縦席で浮かれまくっているのはルカルカ・ルー(るかるか・るー)である。思わず戦車を一回転させる。超信地旋回とは戦車の左右のキャタピラを逆に回転させてその場で回転する動きである。
 「こら、やめろ」
 「キャタピラ外れるだろうが!」
 車長席の夏侯 淵(かこう・えん)と砲主席のダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が注意する、大型の戦車で超信地旋回をやるとキャタピラが外れる可能性がある。よい子は真似しちゃいけないよ、な機動である。
 「戦車可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い……」
 ルーは操縦用のハンドルに頬ずりするばかりの勢いだ。ガイザックはあきれた表情で背中側に顔を向けた。車長席の夏侯が見える。
 「駄目だ、こりゃ」
 「まあ、解らんでもないが。これが戦車か、弓矢の代わりに大砲を使うと考えればいいのか?」
 夏侯は前世は典軍校射で馬を操っていた。「三日で五百里、六日で千里」と謳われた武将である。急襲を得意とし、馬上から弓矢で攻撃する。現代風に言えば確かに機甲戦車部隊長といえるであろう。
 周りを見渡していささかきょろきょろする夏侯。それを見ていたガイザックは人知れずため息をついた。
 「ひょっとして……俺、まとめて面倒見なけりゃならんのか?」

 一方、外で号泣しているのが今回補充でやってきたグロリア・クレイン(ぐろりあ・くれいん)である。
 「戦車〜。乗れない〜」
 試作戦車が二両しかなかったからだ。当然、一号車は指揮官のシュレーダーとなり、二号車がルーとなった。ルーは半年近くにわたり戦車開発に協力してきたのであるから当然であろう。他にも機甲科の者はいるので簡単に乗れるわけではない。AMRもそうだが要員になるためにはそれなりに苦労がある。特に第3師団は実績がないと新兵器を扱うのは難しい。
 「仕方ないですね。当面は随伴歩兵で戦車の運用を見ながら配備を待ちましょう」
 レイラ・リンジー(れいら・りんじー)がなだめながら言う。何しろ戦車は生産に多大な手間を必要とする。いきなり、数十台配備できるはずがない。順番的にはしばらく後になる。まずは他の仕事で実績を上げるのが一番である。