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ホワイトバレンタイン

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ホワイトバレンタイン
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リアクション

「ふふ、マリエルさんも来てくれてうれしいよ」
 いつものメイド服姿で朝野 未沙(あさの・みさ)はうれしそうに笑った。
 水城真菜のチョコ作りの話を聞いて、未沙は小谷 愛美(こたに・まなみ)マリエル・デカトリース(まりえる・でかとりーす)を誘いに行ったのだ。
 これまでにたくさん面識のある未沙の誘いと言うことで、愛美は素直に乗り、一緒にチョコ作りに参加した。
 他の人たちは真菜に教えてもらったりしたが、スーパーメイドの未沙がいるので、このテーブルは未沙が教えることになった。
「まずはチョコレートと生クリーム、それから少量のココアを用意して……」
 妹の朝野 未羅(あさの・みら)朝野 未那(あさの・みな)も交えて、みんなで楽しくチョコ作りをする。
「そうそう、愛美さんもマリエルさんさんも上手だよ」
 チョコを均一に刻めている2人を未沙は褒める。
 そのまま湯煎をして、生クリームも温めて……と手際よく、チョコ作りが進められていく。
「手作りチョコレート、美味しいの」
 未羅の言葉に、愛美はうんうんと頷く。
「自分で作ると一層美味しく感じますぅ」
「そうだね。こういうのをあげられる人が出来るといいのになぁ……」
 上手に進められている分、残念そうに愛美が呟く。
 その隣でマリエルは未沙に質問した。
「ねえねえ、未沙はマナのことマナって呼ばないの?」
「そうだね、愛美さんって呼んでるけど」
「マナって呼んであげればいいのに。喜ぶと思うよ」
 今までにマナの口から何度か未沙の名前を聞いたことあるよ、とマリエルが付け加える。
 そうこうするうちに、冷蔵庫で冷やされたチョコが出来上がり、みんなで手を冷水で冷やして、チョコをお団子状にまとめ、コーティングをして、ココアをまぶした。
「白砂糖とかをつけたり、シナモンをつけたりすると、色が増えていいんじゃないかな!」
 愛美の提案で、急遽、他の色も作られ、三色のトリュフチョコが出来上がった。
「これで友チョコが完成だね! 後でお友達に配る分だけ追っておいて、後はみんなで食べよう」
 チョコに会う美味しい紅茶を入れ、未沙たちは5人でトリュフチョコを楽しんだ。

 女の子同士のチョコパーティが終わり、片付けも終わると、未沙は愛美を呼んで、家庭科室を出て、2人っきりになった。
 今までたくさん愛美に会ったことはあるけれど、こうやって本当に周りに誰もいずに2人っきりというのは数少ないことだったので、未沙は珍しく緊張した。
「愛美さん、あたしの気持ち、受け取って下さい」
 差し出されたチョコレートは手作りの本命チョコレート。
 ハート型のホワイトチョコベースとミルクチョコベースの2枚だ。
 未沙と愛美の心が重なるのを願うかのようにチョコを見て、愛美は微笑んだ。
「本当にお料理上手だね」
 その微笑に勇気をもらうように、未沙は言葉を続けた。
「あたし愛美さんのことが、大好きです。これからもあたしと一緒に居て下さい」
 未沙の告白に、愛美はニコッと笑った。
「うん、ありがとう! 仲良くしてくれるお友達がいてくれるのは大歓迎だよ!」
 愛美の言葉を聞き、未沙はあれっと思った。
 まさか今までの態度を含めてもまだ愛美に自分の『大好き』の意味が伝わってないのかと思ったからだ。
 だが、愛美はそれに答えることはなく、未沙に自分からのチョコを差し出した。
「ごめんね、いろいろバタバタしてて、買ってきたものだけど……これからもよろしくね!」


 その頃、未沙のパートナーである孫 尚香(そん・しょうこう)はかつての夫である劉備 玄徳(りゅうび・げんとく)と兄である孫権 仲謀(そんけん・ちゅうぼう)にチョコレートを渡していた。
「パラミタには女性が好きな男性にちょこれーとを渡す風習があるらしいから、玄徳様にあげるために、パートナーの未沙に作り方を教えてもらって、作ってきたんです」
「おお、ありがたい」
 『恋など路傍の花です!』と叫んでいた玄徳だったが、やはり想いのこもったチョコはうれしかったらしく、笑顔を見せた。
 孫権も妹に「ありがとう」と笑顔で礼を言う。
 その様子を見て、張 飛(ちょう・ひ)は羨ましそうな顔をした。
「いいなぁ、俺なんて翼の禁酒令に日々、苦しんで生きてるのに……」
「そうか、それは大変だなぁ」
 玄徳は張飛に同情し「ちょっと待っているがいい」と言って出て行った。
 そして、何かと思って皆が待っていると、箱を抱えた玄徳が戻ってきた。
「それは何だ、兄者」
「関羽も来なかったことだし……せめて慰めになればと思ってな」
 そう呟きながら玄徳が箱を開ける。
 すると中にはチョコが入っていた。
「もらえない俺に同情してくれたのか。ありがたいが、しかし……」
 甘いものかと思いつつ張飛がそのチョコを口にする。
 だが、カリッと噛んだ瞬間に目が見開いた。
「これは……」
 口の中に濃厚な酒の味が広がる。
 お酒入りのチョコレートを劉備はくれたのだ。
「ちょこだ」
 劉備は禁酒令を破って、張飛が怒られないように、微妙なラインのものを持ってきてくれたのだ。
「ありがてえ、兄者」
 張飛は喜んでチョコの中の酒を楽しみ、そのうち気を良くして、いろいろと話し始めた。
「俺んとこはパートナーが良い女で申し分無いんだが……もう一人のパートナーが小悪魔みたいなヤツでロクでもねぇんだ」
 そんなことを言っていると、飲んでいなくても翼が飛んできそうな悪態とつきつつ、久しぶりの再会に、張飛は上機嫌に話す。
 孫権は劉備や尚香と共にその話を聞いていたが、非常に見慣れた顔に気づき、立ち上がった。
「どうした? 入ってくれば良いものを」
 窓の外でうろうろする周瑜 公瑾(しゅうゆ・こうきん)に気づき、孫権が招き入れる。
「宴会の最中でありましたか」
 孫権以外の人がいたことに、周瑜は緊張したが、張飛の馬鹿でかい声のおかげで、劉備たちには聞こえないだろうと考え、小声で呟くように孫権に言った。
「葵達に付き合ってチョコを作ったんだが、あげる相手がいないのでな……勘違いするなよ……」
 周瑜は孫権にチョコレートを差し出した。
 一瞬、目を丸くした孫権だったが、喜んで受け取った。
「感謝する。ありがたく頂こう」