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ホワイトバレンタイン

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チョコ作り

 今回も水城真菜がチョコ作りをするというので、沢山の人が参加していた。

 そんな中白雪 魔姫(しらゆき・まき)は部屋の隅っこにいる白菊 珂慧(しらぎく・かけい)を見つけ、声をかけた。
「なんでそんな隅っこにいるの?」
「ん……作りに来ただけだから」
 白菊は細く白い首を動かし、ぷるぷると首を横に振った。
 今朝、白菊が目を覚ますと、ラフィタ・ルーナ・リューユ(らふぃた・るーなりゅーゆ)クルト・ルーナ・リュング(くると・るーなりゅんぐ)からプレゼントを贈られたのだ。
 中身は3冊の新しいスケッチブックと、薄い青色の粉末が入った瓶。
 クルトがクリスマスに渡せなかったスケッチブックを贈りたいと思い、ラフィタはチョコだと安直過ぎるし、手折った花を嫌う白菊に花束は……と思って、白菊の足りない絵の具を画材店で取り寄せたのだ。
 いつも白菊のことを見ているのだから、ラフィタには足りない絵の具くらいはすぐに分かった。
 綺麗な青色を見つめながら、「……バレンタインって、そういう日だっけ?」と首を傾げた白菊だったが、ラフィタもクルトも白菊の誕生日を知らないので、こうなった。
 白菊は無口ではないが、いつも黙々と絵を描いているので、白菊のことを知るきっかけが少なかった。
 同時に白菊に自分たち以外でも気軽にお話できる方がいらっしゃれば良いのですがとクルトは思っていた。
 白菊はどうやらラフィタとクルトはバレンタインを『日頃お世話になってるひとにプレゼント贈る日』と認識してるらしいと思い、
貰いっ放しもあれだからとチョコ作りに参加したのだ。
「ふうん、作りにきたの。誰かあげる人でもいるの?」
「うん」
「そう、それはいいわね。ワタシなんてまったくよ」
「まったく、なの……?」
 それじゃ何で来たんだろうと不思議そうな白菊に魔姫は肩をすくめた。
「うちのエリスの人見知りを克服するために、人の多いイベントには来るようにしてるのよ」
 魔姫の背後から、ちょっとだけ顔を出し、エリスフィア・ホワイトスノウ(えりすふぃあ・ほわいとすのう)が会釈をする。
 エリスフィアは男性が苦手だったが、白菊が少年と言うこともあり、その外見とあいまってそれほど怖くないらしく、エリスフィアも話に加わった。
「お知り合いの方が増えるといいなって思ったのもあるのですが……実は贈り物をしたい方がいるんです」
「え、そうだったの? エリス」
 驚く魔姫にエリスフィアはこくこくとうなずいた。
「クリスマスパーティのときに気になる方がいまして……」
「気になるって……まさか、あの変なバイクの事!?」
 魔姫の背中に滝のような汗が流れたが、白菊は変なバイクと聞き、手を止めた。
「バイクってもしかして……」
「プレゼント用意しました、です」
 可愛くラッピングされたそれを見て、魔姫は苦笑した。
「あのさ……確かに機晶姫だとチョコでは無いかもしれないけど、ドリルをラッピングするってどうなのよ……」
 しかし、白菊はあまり不思議に思わなかった。
「ドリルか……鮪先輩ならつけるかも……? でも、ハーリーさんが嫌がるかな」
 呟くような白菊の言葉を聞き、魔姫は白菊の方を向いた。
「あなた、あのバイクの知り合いなの?」
「うん」
 白菊の返答は短かったが、ハーリーは結構パラミタでも有名なバイクだ。
 そして、白菊と鮪の関係は深い。
 なにせ、いつもヒャッハーな鮪が、囚われの白菊を助けるために奮闘したりするくらいなのだ。
 ハーリーと白菊が同時に囚われたのだが、その時、鮪はパートナーのハーリーよりも、白菊を迎えに来てくれたことを、今でも白菊は鮮明に覚えている。
「プレゼント渡しておくよ」
 ラッピングされたドリルを受け取り、白菊はそう約束した。
「それはありがとう。それじゃ、せめてこれをあなたに」
 魔姫は用意しておいた友チョコを白菊に渡した。
 それを受け取った白菊は少し考えてこう言った。
「どうもありがとう。これから作るチョコを、白雪さんにも贈るよ。ところで……」
「ん?」
「トリュフチョコレートって難しい?」
「そんなことないわよ。形整えるのが難しくないし」
「あの……よろしければエリスが……」
 メイドであるエリスがチョコ作りを教えようと、おずおずと進み出る。
 白菊は素直に感謝して、説明を真面目に聞き、甘すぎないチョコを作り始めた。
 魔姫もなんとなく流れで手伝いながら、不思議そうに聞いた。
「しかし、あなたもパラ実なの……絵を描くのが好きななんてまるで薔薇学の子みたいだけど……」
「うん、パラ実だよ」
 自分でもパラ実らしくないという自覚はあるものの、白菊にはそれなりの所属意識があった。
「パラ実も世界が広いわね。他の学校の子の話を聞いてると、蒼学でもイルミンでも教導団でも百合園でも、学校内の生徒同士がラブラブってあるみたいだけど、パラ実でもあるのかしら?」
「どうだろう……いい意味でヤバいと思ったり、尊敬したり、仲間意識はあるけど……パラ実生同士で……はあまり聞かないかな」
 チョコを丁寧にかき混ぜながら、白菊は答えた。
 白菊自身、れんあい、はよくわからない。
 誰かを好きになったことはないから、どんな感じなのか理解できないし、自分がいつか好きなひとができて、付き合って、触れ合って……が起こるというのも想像できない。
 だから、パラ実の中でカップルとか言われると、とっても遠い話に聞こえた。
「包みとリボンだけもらってきたけどこれでいいの?」
「うん」
 魔姫が差し出してくれたもので、白菊はシンプルな包装をした。
 後は帰ってラフィタたちにあげるだけだ。
 そして、そのうちの一つを魔姫の友チョコのお礼にあげたのだった。