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ホワイトバレンタイン

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ホワイトバレンタイン
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リアクション

「わあ、上手だねぇ!」
 春夏秋冬 真菜華(ひととせ・まなか)本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)がお菓子を作るのを見て、感心の声を上げた。
 涼介はいろんなイベントで料理を披露する、料理好きのイルミンスール生だ。
 屋台をしてみたり、パーティ料理を振舞ってみたりと、様々な場面で料理をしている。
 その経験と腕を生かし、今日も『ザッハ・トルテ』を作っていた。
「それ、超有名なチョコケーキだよね?」
「うん、私は日本人だから本家の作り方でなく、日本に馴染みのある形にしているんだよ」
「なじみ?」
「そう。本家だとチョコ味のバターケーキの間にジャムを塗るのだけど、それに対しては日本で馴染みのある形だと、ケーキの表面に塗る」
「そうなんだ。詳しいねー」
「あなただって、料理をするほうでしょ?」
「え?」
「ちゃんと髪も結ってるし」
 真ん中がハート型のフリルの城エプロンをした真菜華は、髪をちゃんとアップにして、しっかりまとめていた。
「あ、うん、お菓子に髪とか入っちゃうといけないし」
「良い心がけかと」
「じゃ、マナカもザッハトルテ作ろうー。食べたことも見たこともあるけど、作ったことはないから、教えてね!」
 真菜華のお願いを涼介は快諾し、一緒にザッハトルテを作り始めた。
 料理が好きな真菜華は涼介の指示に素直に従い、調理をしていった。
「そうそう、それでいいよ」
 手つきの良い真菜華に感心しながら、涼介は教えていく。
 一人バレンタインは寂しいと思って参加した真菜華だったが、作り始めると楽しく、ザッハトルデ作りに集中した。
「チョコレートケーキの王様といわれるザッハトルテですが、レシピを巡って一悶着とかもありましてね……」
 オーブンでスポンジを焼く間、涼介はケーキの薀蓄を話題にした。
 このあたりがうちの学校にはいなさそうなタイプだなあと思いながら、真菜華はふんふんと頷いて聞いていた。

「さ、それじゃ、仕上げにホイップクリーム添えようか」
「お砂糖入れなくて良かったのかな?」
「うん、ケーキ自体がかなり甘いからね」
「それじゃ、真菜華、お紅茶もらってくるね!」
 ニコッと笑顔で真菜華が紅茶を持って来る。
「はい、どうぞ。あ……」
「ん?」
「ほっぺのところに、あわだてたクリームが飛んじゃってる」
 真菜華は涼介の頬をちょんと触り、取ったクリームをペロッと食べた。
「あ、ありがとう……」
 今まで料理作りに参加してても、こういうことは起きなかったので、涼介はすごく照れた。
「じゃ、じゃあ、食べようか」
「うん、ハッピーバレンタイン♪」
 真菜華は一人バレンタインでなく済んだことを喜びながら、涼介とザッハトルテを食べたのだった。


 一方、ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)はピンクのエプロンをしたミレーヌ・ハーバート(みれーぬ・はーばーと)と一緒にチョコ作りをしていた。
「こんなところで、お姉ちゃんの知り合いに会うとは思わなかったよ!」
 ミルディアの名前を聞き、ミレーヌは同じテーブルでチョコ作りをしながら、目を見開いた。
 ミレーヌの姉はアリス・ハーバートといって百合園生をしている。
 そのため、ミルディアとは顔見知りだったのだ。
「偶然だね。ついでにこっちも驚いたことに偶然一緒だし」
 ミルディアはハートの型をミレーヌに見せる。
 2人ともハートのチョコを作ろうと考えていたのだ。
「気が合うね」
 ミレーヌの言葉に、ミルディアはちょっとうれしそうに笑顔を見せたのだった。

 製菓用のチョコを溶かし、ゴムべらで空気が入らないように混ぜ合わせながら2人は学校のことや友達のことなどを話した。
 そして、クッキングシートの上にチョコを並べるときになり、ミルディアがなんだか妙に大変そうなのを見て、ミレーヌはその様子を覗き込んで驚いた。
「わー、すごい量を作るんだね!」
 ミルディアはたくさんのクッキングシートの上に、これでもかというほどのハートチョコをのせていて、固めるための冷蔵庫に入りきらないんじゃないか……というほどになっていた。
「あ、あはは、ちょっと気合入れて作りすぎちゃったみたい」
 材料自体は地球のフランス直輸入のものを使っているし、ミルディアはスイーツ作りもうまいので、味もなかなかのものになると思うのだが……。
「どうしよっかな、これ」
 ミルディアが悩んでいると、その肩をアーサー・カーディフ(あーさー・かーでぃふ)がポンと叩いた。
「安心しろ、うちのアルも……あんなだ」
 アーサーが指差した先にはアルフレッド・テイラー(あるふれっど・ていらー)がいて、山のようなチョコを作っていた。
 しかも、なんだか妙に色とりどりで……。
「あれ、水色のチョコじゃない? 青と言うべきかな。向こうは緑だし、なんだか1つも茶色のチョコがない気が……」
 と、ミルディアが指摘したようにありえない色のチョコが並んでいた。
「……気にしないでくれ、アルの世界ではあれが普通なんだ」
「大丈夫、味はまともだよ!」
 きらっ☆ とした笑顔でアルフレッドが2人の話に割って入る。
「それにせっかくのお祭りだから、派手に行かなきゃ!」
「だからってあの色は……」
「色より味だよ、味。ちゃんと君の分もあるよ。君の世界じゃ、いい年したおじさんまでチョコバーかじって歩いていて、チョコの自販機まであるくせに、作るの下手なんだから」
「悪かったな! 作るのは下手でもチョコは好きなんだよ!」
 本当に余談だが、多くの人がバレンタインデーにチョコを贈るのを『地球の日本のお菓子メーカーの策略』と思っているが、女の子が男の子に告白するというのは日本独自のものだが、チョコを贈る習慣自体は19世紀のイギリスから始まっている。(まあ、これもお菓子メーカーの策略なのだけど)
 なので、アーサーも他に漏れず、チョコが好きなようだった。
「市販のチョコを溶かして形を変えるだけでも、チョコを焦がしちゃうし、固まらないのが出来ちゃったりするし、君ってやっぱり料理の才能ないよね!」
「うるさいぞ、このバカ! ああ、小さい頃はもっと可愛かったのに…………可愛かったかな?」
 自分の回想に少し疑問を持ち、アーサーは首を傾げる。
 その間に、アルフレッドはミルディアを誘った。
「チョコが出来たら配りに行くんだ。君も行くかい?」
「あ、うん、行く行く!」
 ミルディアが頷くのを見て、アーサーも慌てて入った。
「お、俺もアル一人じゃ、心配だから付いて行ってやるか」
「いや、一人じゃないよ? この百合園のお嬢さんがいるし」
「……い、いいから付いていってやるって言ってるんだよ! レディに荷物も持たせられないしな」
 ミルディアをだしに使い、アーサーは付いていくことに成功した。
 そんな三人の様子をくすくすと眺めながら、ミレーヌはパートナー達にチョコを差し出した。
「アル兄、アサ兄」
「うん?」
「はい、お2人にどうぞ」
 ハート型の可愛い生チョコを渡され、アルフレッドは素直に、アーサーはまあもらっておくというように受け取った。
 そして、ミルディアとミレーヌは仲良くともチョコを交換し、チョコが出来上がると、ミルディアたちはチョコ配りに旅立った。