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砂上楼閣 第二部 【後編】

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砂上楼閣 第二部 【後編】

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タシガンを発った飛空挺にて、黒崎 天音(くろさき・あまね)は、
一同の前で念押しする。
「公平な指揮を行うため、独断専行の突出は許されない。
指揮下にての行動をしてもらうよ」
天音は、イエニチェリとして、薔薇学生を守る責任があるため、
天魔衆とタシガン駐留武官レオンハルト・ルーヴェンドルフ(れおんはると・るーべんどるふ)には無警戒でないが、
共闘を申し出た天魔衆に疑いを持たず協力するよう薔薇学生には呼びかけ済みである。

簡単な自己紹介の後、レオンハルトは、天音に言う。
「此方は歩兵科の琳士官候補生。本作戦の両学校間の連絡役を務める。
 何かあれば彼女を通して通達する様に」
レオンハルトは、獅子小隊と、小隊外の教導団本校からの増援部隊に、
「別荘の安全確保」「庭師の足止め」「タシガン領主の救出」を命じ指揮官として行動するつもりである。
たとえイエニチェリであろうと、天音とは対等に接しようとしていた。
どこか子犬めいた雰囲気の琳 鳳明(りん・ほうめい)は緊張しつつ敬礼する。
「教導団本校からの増援として派遣されました、琳鳳明です。よろしくお願いします」
「我々教導団はジェイダス卿から協力を要請されている。
 が、協調を命じられてはいない。
 最優先目標はあくまでタシガン領主の救出となる。
 以上注意しておかれると良い」
「……もし作戦が終わった瞬間に後ろから斬りつけられるのなら、僕の背中だけにして欲しいかな」
レオンハルトと天音のやりとりに、
鳳明は内心気が気ではない。
(わ、わかってはいたけど……。
 私としても薔薇の学舎は無くなってほしくはないし、
 せっかく同じ地球からパラミタにやって来た仲間だと思ってるんだけど。
 今更かも知れないけど、そんな風に思ってる団員もいるんだって知ってほしいから、
 前線ではがんばって戦おう)
上官であるレオンハルトの役に立ちつつ、ひいては皆の役に立ちたい。
琳鳳明個人としても、薔薇学の人達に協力したい。
鳳明はそう考えていた。

レオンハルトがコードネーム【砂上の楼閣】の最終ブリーフィングを行っている間、
百合園生のレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)は、天音に話しかける。
「まずは黒崎さん、イエニチェリ昇進? おめでとうだよ」
「ありがとう。君は文化祭で剣の花嫁の警備を行ってくれていたよね。
 協力に感謝するよ」
「ボク、他校生だし、指示があるなら聞いておかないとと思って」
レキは、薔薇学生の補佐を行って、救出作戦を成功させたいと考えている。

その隣で、清泉 北都(いずみ・ほくと)は、黒髪の剣の花嫁・リオンと話す。
「アディーンや、金髪の剣の花嫁の彼のことや、女王様のこと、預かってる女王器のこと。
 覚えてることがあったら教えてほしいな。
 あ、そういえば、勝手に名前つけちゃったけど、よかったかな?
 嫌だったら言ってね」
「私を目覚めさせてくださったこと、名前をくださったこと。
 とても感謝しています。
 ……残念なのですが、女王陛下のことも、私達、剣の花嫁のことも、ほとんど記憶にないのです。
 確実にわかるのは、そうですね、これが私の光条兵器です」
リオンは、紅薔薇を出して見せた。
「薔薇の花?」
「女王の愛した紅薔薇。おそらく、投擲武器として使用可能です。
金髪の彼は、私と対の存在で、蒼薔薇を守護しているのです」
「リオンと話をするのはいいですが、必要以上に近付かない様にしてくださいね」
紅薔薇の光条兵器を覗き込む北都とリオンの間に、クナイ・アヤシ(くない・あやし)が割ってはいる。
顔は笑っているが、目は笑っていない。
レキとミア・マハ(みあ・まは)が、光条兵器に興味を示す。
「アディーンさんは羽扇を守護してたんだよね。
 対の薔薇を守護してたリオンさんと金髪の花嫁さんは双子で、
 アディーンさんは目覚めた順でいくと長男になるのかな。兄弟が一度に目覚めてよかったね。
ボクは一人っ子だから羨ましいんだよ」
「ちょっとで良いから、女王器にさわらせてもらえんかのぉ?」
ミアは、紅薔薇に手を伸ばす。
「かまいませんよ」
リオンはミアに紅薔薇を渡した。
「うーむ、たしかに綺麗ではあるが、よくできたただの造花に見えるのぉ」
ミアは眼鏡を光らせて、紅薔薇を観察する。
「そういえば、清泉さんはどうやってリオンさんを目覚めさせたの?」
「そ、それは……!」
北都はフェイントに慌て、思わず、超感覚の犬耳と尻尾が反応してしまう。
「あれ、顔赤いけど、どうしたのかな」
「レキ様。それよりも、今は、
アーダルヴェルト卿を救出する作戦に集中すべきではありませんか」
クナイは、穏やかな物腰だが、きっぱりと言った。
相変わらず目は笑っていない。
リオン本人は、不思議そうにその様子を見守っている。

こうやってリオンの周りでちょっとした騒ぎが発生している側で、
エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)は、金髪の剣の花嫁にブルーローズブーケを差し出す。
「私のパートナーになってくださいますか?」
「ええっ、プロポーズ!?」
梶原 大河は、それを見て驚く。
「ブルーローズブーケ、ふたつ用意しましたから、
もしよかったら、大河君も契約申し込みますか?」
「いや、そういう問題じゃ……」
エメの天然発言に、大河は苦笑する。
「ありがとう、とてもうれしいよ」
金髪の剣の花嫁は、エメの肩を抱き寄せ、ブルーローズブーケを受け取る。
「喜んでくださってよかったです。
 ……そういえば、アディーン君は目覚めた後に名乗っていたそうですが、
 君の名前は?
 思い出せそうですか?」
エメに問われて、金髪の剣の花嫁は肩をすくめる。
「……残念ながら。
守護していた女王器が、僕と黒髪の……リオンとは対になる薔薇の花で、
 二人とも名前が思い出せないことを考えると、
 もしかしたら、最初から僕らには名前が与えられてなかったのかもしれないね」
「では、名前がないというのも不便ですし、
 仮のあだ名として、『リュミエール』とか、『ミエル』というのはどうでしょう。
 その金髪が、とても綺麗ですから」
「『光』に『蜂蜜』か……。
 いいね、両方とも気に入ったよ。
 じゃあ、僕は今日からリュミエール・ミエルだ」
エメの提案に、金髪の剣の花嫁――リュミエールは笑みを浮かべた。
「お前、男にプロポーズされて喜んでんのかよ。
 酔狂な奴だな」
「こら、アディーン、失礼だろ」
その様子を見て言うアディーンを大河がたしなめる。
「よかったな、リュミエール。
 いい人と出会うことができて」
大河は祝福の言葉を贈る。
「そういえば、遺跡と文化祭、二度にわたって、
君を助けてくれた人がいるんです」
「僕を助けた?」
「はい。くま君……変熊君と、
ブルーノ・ベリュゲングリューン(ぶるーの・べりゅげんぐりゅーん)さんです。
命を懸けて守ってくれましたが、
改めてお礼をいうと、くま君はものすごく照れるでしょうから、
こんなお返しをするのはどうでしょうか」
「あはは! そいつはいいな!」
リュミエールにエメがこっそり提案してみせたのを聞いて、大河は笑う。
その様子を見て、エメは少し安心する。
大河は契約者になったとはいえ、まだ何の訓練もしていない。
言葉にはしなくても初陣で緊張しているであろう大河を気づかったのもあり、
それを解すためにもちょっとした悪ふざけを申し出たのだった……。