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砂上楼閣 第二部 【後編】

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砂上楼閣 第二部 【後編】

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話は少し逆上る。

白菊 珂慧(しらぎく・かけい)と、ラフィタ・ルーナ・リューユ(らふぃた・るーなりゅーゆ)は、
タシガンを発つ前に、タシガン家の者達に話を聞いていた。
ラフィタが、伯父であるアーダルヴェルトに接見できたのも、
昔からタシガン家に仕える従者に取り次いでもらったからである。

「俺は吸血鬼にしては年若なのもあるのか、伯父貴の神子への執着が解らん。
 知っていることがあれば教えてもらえないだろうか」
「アーダルヴェルト様は、
 ご自分こそが正統な神子であると考えておいでだったのです。
 ……女王陛下への忠誠から、血族の粛清も行ったのだと」
従者は目を伏せた。
ラフィタは、自分がアーダルヴェルトの救出に赴くことを伝えた。
天魔衆ひいては地球側への反発も少しは収まるかと考えてのことであった。
 
 
 
再び、貴族の館、大ホールにて。
藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)は、
パートナーの宙波 蕪之進(ちゅぱ・かぶらのしん)とともに、
天魔衆が主導権を得られるよう、前衛として仲間の支援を行っていたが、
薔薇学生や獅子小隊を見て、
アーダルヴェルトのエスコート権を得るのはあきらめることにする。
(露骨すぎて悪印象を抱かせるのも何ですしねー。
 まあ、いいでしょう。
 前回の襲撃で天音さんの血をたらふく吸えたので、
 気分がよいのです。
 トドメなどはルカルカさん達にお任せいたしましょうか。
 それより、珂慧さんが、アーダルヴェルトさんに近づけますよう)
優梨子は、人形と幽鬼の相手を行いながら、道を開く。
「人形で干し首を作るのはやめたほうがよさそうですねー。
 何より、物理的に無理そうです」

「伯父上!」
ラフィタは、アーダルヴェルトに駆け寄る。
「神子に執着されるのなら、俺がタシガンを出奔したときは、始末するには好機だったはず。
それを生かしておいたばかりか、なぜ『逃げろ』などと……」
「私の言いつけを守らなかったのか、愚か者」
アーダルヴェルトは、エレーナやファルの治療で傷が癒えており、
ラフィタに対しても、普段どおりの傲岸な口調で言う。
「……眼の前で攫われて、気にならないわけ、ないでしょう?
 なにより、ラフィタの様子を見てると、ね」
白菊は、アーダルヴェルトに言う。
「俺はご存知の通り出来が悪い。
 答えを貰えるまで貴方を失うわけにはいかない」
アーダルヴェルトはラフィタをにらみつけたが、自分から目をそらして沈黙する。

南 鮪(みなみ・まぐろ)が言う。
「ヒャッハァ〜俺は後ろから襲う卑怯者は嫌いなんだよ」
薔薇学生や獅子小隊を警戒しつつ、
鮪は信長の指示で白菊らが優先してアーダルヴェルトと話が出来る体勢を整える。
「亜駄流部屡斗凶と俺の大事な後輩の話を邪魔する奴は、
 何人たりとも許さないぜェー」
「ドルンドルンドルルルルルルルルルルルルルン!!」
ハーリー・デビットソン(はーりー・でびっとそん)は、
織田 信長(おだ・のぶなが)を背に乗せ、
加速ブースターと軽身功による強襲を仕掛ける。
「何者であれわしに歯向かいし者は手段を問わず滅してきたのだ」
信長はジャルディニエを倒し、雪辱を晴らすつもりでいた。
ジャルディニエは、ルカルカや武の攻撃を受け流し、ハーリーの突撃もかわす。
「ハッ!
 貴様らに私の遠大な計画を邪魔されてたまるものか!」
しかし、ジャルディニエは徐々に追いつめられていた。
信長の今回のビジョンは、このようなものであった。
肉親であるラフィタ自らが動くのは市民が最も注目する美談となりうると、信長は考えていた。
ジェイダスに和解を提案した穏健派家臣を粛清し、
救出したアーダルヴェルトを傀儡とする。
そして、タシガン市民の支持を得て、後継者及び後継人として、
アーダルヴェルトに最も近い立場で働いた、
天魔衆所属の身内及び信長自身がなる事を画策していたのだった。

戦闘が続く中、
メニエス・レイン(めにえす・れいん)ミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)が現れる。
「ごきげんよう。お久しぶりねぇ」
メニエスは信長達、天魔衆を認めると言う。
「単純に地球人をこの地から追い出すためだけに動いてればよかったものを」
「全く。地球人を追い出すというから付き合ってみればこの始末。
ですから8校の連中は信用ならない。嫌いですわ」
メニエスとミストラルは、ジャルディニエに味方する。
「あなた達なんかに、アーダルヴェルトを奪わせはしないわよ。
 鏖殺寺院の為に神子を増やすせっかくの機会だもの」
メニエスは、ファイアストームとアシッドミストで、
信長やルカルカ達を攻撃する。
ミストラルは、炎熱属性の攻撃にメニエスをさらさないよう、注意して護衛を行う。
「待ってくれ!」
緋桜 ケイ(ひおう・けい)は、メニエスに駆け寄る。
「メニエス、あんたをはじめてみかけたのも、
 丁度今頃に起きた、ルクオールの町での事件だった。
 イルミンスールで一緒に魔法を学んだ期間は、
 ほとんど夏の間だけで、一年にも満たなかったけど……。
 俺は後輩として、魔法使いの先輩であるメニエスに憧れていたんだ」
悠久ノ カナタ(とわの・かなた)も、メニエスに言う。
「天魔衆が遺跡に導かれたのも、
 メニエスのパートナーが神子だったからなのかもしれぬな……。
 なれば、天魔衆としてケイがそこに居合わせたのも、また縁よ。
 ジャルディニエはアズールとも砕音とも違う思惑で動いておる。
 ともすれば、鏖殺寺院の思惑から外れた、私利私欲からの行動なのかもしれぬぞ」
ケイは、先日、メニエスに「好きだった」と告げている。
メニエスを止めたい気持ちから、魔法使いの先輩に対してのストレートな好意を発したのだが。
「なあ、あんただって、
 パラミタでの初めての夏を過す中で、
 海の家で食事を楽しんだり、
 夏の課題免除のために奔走したり、
 ムシバトルで遊んだりする『普通の女の子』だったはずだ。
 俺が知らないだけで、そんな一面が、まだたくさんあるんじゃないのか?」
ケイはメニエスを見つめ、必死で説得する。
「黙れ! あたしは吸血鬼だ、貴様ら地球人とは違うわ!」
メニエスは、迷いを振り払うかのように、魔法を放つ。
その先には、メニエスに結局なびくことのなかったアディーンがいた。
その瞬間、レン・オズワルド(れん・おずわるど)が飛び出し、メニエスを拳で殴りつけようとする。
アディーンは、なんとか魔法の炎を免れる。
「メニエス、お前は何のために戦うんだ」
レンの問いに、メニエスは答える。
「汚らわしい地球人と地球文化を、パラミタから消し去るためよ!」
痛みを知らぬ我が躯により、レンの攻撃は効かない。
「お前も……悲しいな」
レンはつぶやいたが、メニエスにより、吸精幻夜にかけられる。
「あたしに偉そうな口をきいたこと、後悔させてあげるわ!」
メニエスを守るミストラルが、レンを見逃したのは、このためだったのである。
「レンさん!」
ノア・セイブレム(のあ・せいぶれむ)は叫ぶ。

出発前に、冒険屋ギルドのギルドマスターとして、
ノアはジェイダスと交渉し、
救出が成功したらタシガンに事務所を作りたいと申し出ていた。
それを報酬に、対外的に薔薇学生が救出するのが望ましいのでサポートするつもりだった。
しかし、ノアの冒険屋ギルド支部設立は、地球人排斥派を刺激するという理由で断られていた。

「わたくし達に抗おうなど……」
ミストラルは薄く笑う。
(俺の役目は、メニエスを引き止めること。
 このような形であっても、
 若い奴らがなんとかしてくれるだろう……)
朦朧とする意識の中で、レンは考える。

「お姫さん! もうやめろよ!
 地球人とかパラミタ人とか、なんでもいいじゃねえか!
 俺はかわいいお姫さんのことが好きだぜ!」
アディーンも、スレヴィ・ユシライネン(すれう゛ぃ・ゆしらいねん)に言われたことを思い出して、
メニエスに呼びかける。
「黙れ!
 地球人と馴れ合う下等種族め!」
メニエスは、聞く耳を持たない。

メニエスやジャルディニエがひきつけられているうちに、
ラフィタ達はアーダルヴェルトを連れて脱出しようとする。
トゥルペに身体を支えられたアーダルヴェルトは、
ラフィタに言う。
「私はおまえがうらやましかったのかもしれない。
 使命に縛られず生きられるおまえが……」
「伯父上……」
ラフィタは、アーダルヴェルトの見たことのない表情に戸惑っていた。
それを見て、呼雪は考える。
(今すぐには無理かも知れないけれど、いつか俺達が良き理解者、友人になれないだろうか。
 神子を選び出す使命を終えたら、もう少年のままでいなくても良いはずだから……)
長い間独りで清いまま在らなければならなかった辛さを思い、呼雪は願った。

ジャルディニエへの信長の槍の一撃で、できた隙に、
ダリルやルカルカ達が畳み掛ける。
「獅子の牙が貴方を裂く!」
ルカルカはジャルディニエの身体を袈裟懸けに斬る。
ジャルディニエは、自分に起こっていることが信じられないような表情で、床に倒れる。
そして、残っていた幽鬼はすべて消滅し、人形は動きを止める。

一行は、残されたメニエスと対峙するが、
ケイは、メイドインヘブンを発動させる。
「自分をもっと大切にしてくれ、お嬢様!」
周囲が少し和やかな雰囲気になり、一同は戦意をそがれる。
「結局、庭師もその程度だったということね。
 いいわ。あたしこそが鏖殺寺院でのし上がるのにふさわしいのだから」
倒れたジャルディニエを横目に、メニエスは身をひるがえす。
「む! いつぞやのちびっ子寺院ではないか。
 宿敵のお前をかえって信頼してるというのも皮肉だな。行け!」
変熊 仮面(へんくま・かめん)もメニエスの敗走を見逃す。