リアクション
〇 〇 〇 一方、百合園にある喫茶店カフェ・ホワイトリリィでは、神楽崎分校側とあの店を任されているサルヴァトーレ・リッジョ(さるう゛ぁとーれ・りっじょ)が密談を行っていた。 サルヴァトーレは、ちぎのたくらみで子供の姿に扮している。服装は子供用の黒いスーツ、腕には金色の腕時計。髪型は整髪剤でオールバックにしている。 神楽崎分校からは、分校顧問のキャラ・宋(皇甫 伽羅(こうほ・きゃら))が訪れている。 ホワイトリリィは教導団員も多く訪れる場所だ。闇の組織も迂闊には手を出せないだろうと考え、この場を交渉の場に選んだのではあるが、それでも用心の為、宋子分(うんちょう タン(うんちょう・たん))達、キャラのパートナーは警戒を怠りはしなかった。 (異変はないでござるな……) 盗聴器の類がないことも確認し、光学迷彩で姿を見えにくくしながら、子分は周辺を見回っている。 (怪しい人物は見かけませぬが……) 宋清(皇甫 嵩(こうほ・すう))は、外を見回っていた。 察知した闇組織の襲撃がないとは言い切れない。 (売られている可能性も皆無ではござりませぬが) そうは思うものも、口に出したら破談になってしまうため口外はしない。 今は交渉の成立が最優先だ。 宋襄公(劉 協(りゅう・きょう))は、キャラに従ってボディーガードを務めていた。 武器も持っていたが、サルヴァトーレ側は意に介していないようだった。 (表向きは詫びですが、密約を含めれば五分の取引ですからね) 念には念をいれて、情報攪乱の技能で盗聴を警戒し、注意深く交渉を見守っていく。 「さて……」 パートナーを分校に捕らえられているサルヴァトーレだが、襲撃された後、店側が不利になるような形で手打ちを行っては面子に関わる。低姿勢にはならず、職業斡旋所のメリットにもなるような形での手打ちを提案していく。 ・「神楽崎分校」のコネでパラ実生をヴァイシャリーの用心棒、港湾労働者などとして就職させる。 ・破損した職業斡旋所を「神楽崎分校」が修復する。 ・キメラと研究員は捕縛後に人道的な対応をすることと職業斡旋所 改造科特進コース(別名:威獲弐血江利(いえにちぇり))を研究員の再就職先とすることを分校側が白百合団に提案すること。 以上を、神楽崎分校側が実施するのなら、分校側が希望する通りの内容で手打ちにする。 そう打ち出したサルヴァトーレに、キャラはあらかじめ分校長に承認を貰っている案に加筆をして明示していく。 ・分校側は即日、リッジョ一家の「職業斡旋所」による分校生への犯罪に関わらない職業斡旋(荷役労働等)を認める。 ・分校側は即日、前回破壊した酒場の再建に着手する。 ・店側は上記を闇組織に対して「分校に詫びを入れさせ、浸透活動に成功した」として説明してよい。 それから、襄公に目を向け、盗聴などがないことを確認し、密約についても提示する。 ・リッジョ一家は他日を期して闇組織と手切れ、独立を行う。それまでの間、三井は担保(表向きは連絡係)として分校に半軟禁とする。職業斡旋は行ってよい。 ・リッジョ一家は以後、シマ内で大規模/仁義に悖る悪事を察知した場合は有償/無償で分校/白百合団/ヴァイシャリー軍等適切な組織に情報を提供する。 ・分校側は捕縛されたキメラ研究員の身柄につき「職業斡旋所」の指定する「筋目の正しい」研究機関で更生を図れるよう尽力する。 ・分校側はキメラを捕獲した場合、上記研究機関へ引き渡す。 ・リッジョ/宋はそれぞれの神聖なものに対し上記の履行を宣誓する。 「私はさる人への秘めたる恋情にかけて」 「家族と息子に誓って」この盟約を守ろう」 2人はそう宣言をして、書面にサインを記す。 条件の中には実現が難しいものもある。 双方、実行を試みながら連絡を取り合い、細部を調整していくこととなるだろう。 交渉が終わった後、両者は軽く息をつき、サルヴァトーレは懐から葉巻を取り出した。 1本キャラに勧めるも、宋家一門には葉巻を吸うものはいないと、キャラは好意のみ受け取ると礼を言った。 苦笑して葉巻を懐にしまった後、サルヴァトーレとキャラは世界情勢など、一連の事件とは関係のない雑談を始めるのだった。 〇 〇 〇 「交渉がまとまったようです」 サルヴァトーレから連絡を受けたヴィトが、店内にいる被害にあったパラ実生に簡単に説明をしていく。 そして、彼らにサルヴァトーレからの伝言を伝える。 「俺たちに利がある形での手打ちだ。パラ実生同士では出来る限り争いたくはない。暴れたければ、少し待て。いい仕事が次は手に入るだろう」 怒りが治まらない者もいたが、今後次第だろう。 続いて、ヴィトは事務室へと向かい、サルヴァトーレの代理として組織の者へ連絡を入れる。 「港湾作業者や用心棒として、ヴァイシャリーに堂々と入り込むことができるようになります。これでヴァイシャリーに大量の物資を隠れて輸送することもできるようになるかと」 それから、賞金首リストに新たに入った人物の中に、知り合いの名前があったため、外してほしいと話してみたが、それは受け入れられなかった。 その人物に組織の情報が流れていたのは、サルヴァトーレが流していたからではないかと逆に疑いをもたれてしまった。 |
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