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聖火リレー 2020ろくりんスタジアム〜空京
「おおぉっ、あれはろくりんくんです!
このろくりんピックのマスコットキャラクターである、ろくりんくんが応援に駆けつけてくれたようです!」
ろくりんピック開会式。会場であるスタジアムのモニタとテレビ中継で、アナウンサーが大げさに伝える。
聖火が燃える聖火台に上がっていくのは、ろくりんくんことキャンディス・ブルーバーグ(きゃんでぃす・ぶるーばーぐ)。晴れの舞台に、正装を着込み、そして何故か一本の火のついたトーチを持っている。
それはアトラスの傷跡の火口から採ってきた火種から起こされた火だ。
キャンディスは悠然とした足取りで、聖火台への階段をあがると、トーチの火を聖火台の火に注いだ。新たな火を受けて、聖火はさらにさらに激しく燃え上がる。
アナウンサーが説明する。
「聖火はパラミタの火種でさらに強力になりました!
それもそのはず。ろくりんくんは、五つの輪にシャンバラの輪を加えた六つの輪をイメージしたキャラクターなのです!」
キャンディスは新たなトーチに聖火台の火を灯すと、会場全体に手を振りながら階段を下りていく。
「ろくりんくんヨ〜。一緒にろくりんピックを盛り上げましょうネ〜」
ろくりんピック開催を受けて、ゆる族から着ぐるみバイトまで、にわかろくりんくんが増えているが、今やキャンディス以上にろくりんくんなのは、本家本元、最初のろくりんくんぐらいであろう。
大会マスコットの登場に、子供を中心に会場は盛り上がる。
これで騙されてパートナーになった茅ヶ崎 清音(ちがさき・きよね)も、キャンデスの事を見直すかもしれない。
……逆に、トラウマが悪化するかもしれないが。
キャンディスが聖火のトーチを持って、あっちを見たり、こっちを見たりと、何かを探すポーズを取る。
「その聖火、私達が運びましょう!」
会場のスピーカーから大音量で小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)の声が響いた。
次いで、代王の観覧席より高い所、スタジアムの天井付近にスポットライトが当たる。
そこに設置された小さな足場に、きらびやかな衣装をまとった美羽が現れていた。
美羽は足場からバーストダッシュでひらりと飛び上がり、空中で一回転すると、別の足場へと飛び降りた。
巨大なスタジアム中から驚きと感嘆の声があがる。
美羽は次々と、多彩な回転技を披露しながら空中の足場を飛び降りていく。コントラクターならではの身体技能を、これでもかと見せつける。
美羽の予想通り、地球人の常識をはるかに超えたコントラクターの能力に、会場で、またテレビで開会式を見守る世界中の人々が驚いていた。
美羽が聖火台の前に、すたりと着地するとスタジアムは割れんばかりの歓声と拍手に包まれた。
キャンディスが美羽に聖火のトーチを渡す。
「さあ、この聖火をシャンバラ一周させるのヨ〜」
美羽に、聖火リレーの中継実況やインタビューを担当する秋野 向日葵(あきの・ひまわり)が美羽に駆け寄る。
「素晴らしい演技を披露した小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)さんにインタビューするよ!
一言どうぞ!」
「リコが代王として頑張ってるんだから、私も負けないように頑張るよ!
みんな、応援してね!」
美羽は代王の観覧席に向け、それからスタジアム中に向けて言う。
観覧席では突然、呼ばれて高根沢理子(たかねざわ・りこ)がびっくりしている。
西シャンバラの代王になったことで、今まで以上に周囲との壁を感じていたリコだったが、美羽の変わらぬライバル宣言に嬉しくなる。
「私こそ、負けないんだからね!」
トラックを走り始めた美羽を見つめながら、リコは言った。
美羽はアイドルらしいスマイルで周囲に笑顔を振りまきながら、スタジアムを一周した。
次のランナーに聖火が託される。空京の地祇である空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)だ。
「ここからは手前が、聖火を我が街空京にいざないましょう」
狐樹廊は雅な動作で、トーチを掲げてスタジアムの通路へと入って行く。
この通路からは、彼のパートナーリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)達が伴走する。
「ここから先は、妨害の危険があるわよ。気を引き締めて聖火を守っていくのよ!」
リカインがパートナー達に呼びかける。だが彼らが返事をあげる前に。
「イエーイ! ろくりんピック最高ー!!」
2020の数字を象ったメガネをかけた若者数人が、通路に飛び込んでくる。興奮した観衆のようだ。
「ヴィー、フィス姉さん、そっちは任せたわ!」
リカインは狐樹廊の腕を取って、若者から離れるルートを取る。
ヴィゼント・ショートホーン(びぜんと・しょーとほーん)はシルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)と共に、若者達を取り押さえにかかる。
「……お嬢は特別危険なのを頼みます。一般の方は自分と姐さんが何とかしやすので」
シルフィスティがヒプノシスを使うと、若者達はパタパタと面白いように倒れて眠ってしまう。
「あら……もう終わったわ」
張り合いの無さにシルフィスティが、我知らずつぶやく。出番がなかったヴィゼントは苦笑しながら、変な姿勢で寝転がってしまった若者を引き起こしてやる。
「……むにゃむにゃ……ろふふぃんふっぷ、おめれろー」
「応援するならマナーを守んなさいな」
若者達は知る由もないが、中には「襲ってくる者には問答無用で最大火力をブチ込む」という恐ろしい護衛者もいた。
一般人には相応の対処を心がけていたヴィゼント達に倒されて、彼らは命拾いしたのである。
一方、先を進んだ狐樹廊とリカインは、またもや迷惑な応援に会っていた。
「聖火リレー、頑張れー! ヒャッハー!」
若者は奇声をあげながら、何かを取り出した。発炎筒だった。
応援用のものとはいえ、相当な煙があがる。
ジリリリリリリリリィ!
激しいベルの音と共に、スタジアムのスプリンクラーが作動した。
「聖火が!」
悲鳴があがる。
「……炎舞・鳳閃渦」
狐樹廊が己が身をファイアーストームで包んだ。スプリンクラーの水流が炎とぶつかり、水蒸気と変わる。
狐樹廊はそのまま巨大な灯火となったまま、スタジアムの外に出た。
(さあ、本格的な連中、来るなら来てみなさい。色んな意味で黙らせてあげるから)
リカインは妨害に備えながら、狐樹廊と共に走る。
とは言え、その巨大すぎる火の塊に立ち向かおうという者は、まずいなさそうだった。
開会式が開かれた2020ろくりんスタジアムには、二十万人もの観客が収容できる。
その中には悠久ノ カナタ(とわの・かなた)とアゼルの姿もあった。
「おぬしの愛娘もシャンバラ古王国の民たちも、長き輪廻を経て、このろくりんピックをどこかで見ておるかもしれぬな」
カナタの言葉に、アゼルはこっくりとうなずいた。
「見てる、と、いい」
カナタは微笑むと、傍らに来た売り子バイトに声をかけた。アルバイトをする為に髪を黒くするなど変装したグエン ディエムである。
「すまぬな。アゼルを呼んでもらって」
カナタ本人は警備スタッフとしてスタジアム内に入れたが、アゼルを探して連れてきたのはディエムだった。
ディエムはニヤリと笑う。
「いいって。漫画の礼もあるしな。
……そういやケイはセレモニーを見に来ないのか?」
「あやつは動画の怪人を探して動き回っておるよ」
「へえ、皆、忙しいんだな。リージェもしばらく前に、急に仕事ができたって出ていったきりなんだぜ。
まっ、俺はバイトに勤しむだけだからな。弟に新しい運動靴を買ってやりたいし」
カナタは、変装したディエムの顔を見る。
「おぬしは(鏖殺寺院として)それなりに顔が割れておるのに、よくアルバイトができたのう?」
彼は声を潜めて答える。
「ここだけの話、悪い事をせずに良い子にしてれば、小人さんが警察や軍隊が保管しているデータをいじって、照合でヒットしないようにしてくれるんだ」
「小人?」
いぶかしげなカナタに、ディエムはさらに声を潜める。
「ハッキリ言わないけど、たぶんラングレイ様だ」
カナタは納得する。確かにミスター・ラングレイこと砕音・アントゥルース(さいおん・あんとぅるーす)なら、そういう事をしそうだ。
ディエムは私語を切り上げて、仕事に戻る。
「ビールにカチワリ、ドクターヒャッハーはいかぁっすかー」
「おーい、カチワリくれ!」
「はい、喜んでー!」
どうやらディエムは、夜は居酒屋でバイトしているらしい。
「お、始まった始まった。……録画もちゃんとできてるな」
イルミンスール魔法学校。
その学生寮の一室ではアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)がテレビ中継と録画の表示を確かめながら、楽しそうに言う。
背後でベッドに座りこんでテレビを見るルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)が、呆れたようにアキラに視線を移す。
「せっかくの機会じゃ。貴様もランナーになって走ればよかったじゃろうに」
「このクソ暑いのに、クソ熱い松明なんて持って走れるかっつーの。こうやって涼しい部屋でのんびりテレビ見てるほうが賢いって」
「まあ、道理じゃな」
ルシェイメアはうなずく。
シャンバラ地方も、今年の夏は猛暑だ。連日、体温並の気温が記録され、走るどころか少し歩いただけで全身が汗だくになる。つまるところ火のついた棒を掲げて走る聖火ランナーは、とんでもなく暑さにさらされるだろう。
だがアキラの話は、まだ終わっていなかった。
「それに…」
「それに?」
不思議そうに聞きただしたルシェイメアに、アキラは瞳を輝かせて向き直る。
「生・中・継だからなっ! 水ぶっかけられて透けた服とか、そのままテレビに映るんだぜ!?
現地にいけば、自分で並走して自分で撮らなにゃーならんけど、テレビならみーんな勝手にやってくれるからな! これほど楽なことはねーぜ〜〜〜。うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」
その馬鹿笑いに、ルシェイメアは深い深いため息をつく。
だが、ひとしきり笑った後、アキラはニヤッと笑った。
「まあ、後は……もしかしたら、あやすぃ〜ヤツが映ってるかもしれねーだろ?」
「む?」
「現地にゃ優秀なヤツらがキッチリ聖火を守ってくれている。そんなとこに俺達が行って同じことしてても意味がねぇ。
だったら俺達は別の処から攻めるべきだ。テレビなら……座ってるだけで全体が見渡せるじゃねーか」
アキラはそう言って、のんびりとテレビを見始める。
「なるほど……そういうことならば、ワシも真剣に観るとするかの」
ルシェイメアはアキラの隣に移動すると、真剣な眼差しでテレビを見始めた。
アキラはちろりと横目で彼女を見ると、なんとはなしに天井を見た。
(ま、と言っても、すけすけムフフが本命なんだけどね……)
それは隠したまま、アキラはふたたびテレビ画面に視線を戻した。
テレビの中継画面が切り替わる。
「さあ! こちらには次に走るランナーが来ていまーす!」
向日葵がまた元気よく画面に現れる。スタジアムのスタッフ用通路を、急ぎ足で抜けてきたのだ。
「こちらが、その天御柱学院生徒の天貴 彩羽(あまむち・あやは)さん!
聖火ランナーとして走る抱負を聞かせてくれるかな?」
マイクを向けられ、彩羽は優雅に微笑んだ。
聖火リレー参加は、学校での評価をあげるポイントとして頑張りどころだと思っている。だが、それを微塵も表に出す事はなく。
「天御柱学園生として、シャンバラの仲間になってから初めての大きなイベントで聖火ランナーなんて名誉を受けれて幸せですわ。この火をみんなでつないでいきたいですね」
テレビ画面で様子を見ていた、警護スタッフの間に一気に緊張感が高まる。
彩羽の優等生な発言の為ではない。人々の意識を惹きつけるのは、その胸だ。
たゆんたゆん。
彩羽が向日葵に受け答えする、わずかな動作でも、たわわな胸は揺れ動く。
テレビの前ではアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)が、ずいと画面に近づいた。
「こ、これはまた、けしからんお胸だ……」
彩羽はトーチを受け取り、姿勢を正した綺麗なフォームで走り始める。
しかし巨乳は、たっゆんたっゆんと、さらにけしからん状態に陥る。
(視線が………)
観客の視線が気になり、彩羽は思わず頬を染めるが、それでも晴れやかな笑顔を作って走り続ける。
走り始めた彩羽に、伴奏者が付き添った。
彩羽の双子の妹で強化人間の天貴 彩華(あまむち・あやか)。二卵性双生児で彩羽ほどの巨乳ではない。
「あははっ、なんだか楽しいね〜♪ やっほ〜、みんな、がんばろ〜♪」
彩華は、楽しげに彩羽の隣で観衆に手を振る。
しかし実は、彼女がトラブルメーカーだった。
「人がいっぱいだね〜、彩羽〜」
彩華の声が少し変だ。見ると、彩羽はアメをペロペロとナメながら走っている。
真っ赤なアメを這いずる舌は、なんだか扇情的だ。
「アメは走り終えた後にしましょう?」
彩羽は彩華にささやく。彼女は元々、強化人間になって何かが壊れた姉の彩華を追ってシャンバラに来ている。
「え〜、ノドが乾くのに〜」
彩華は頬をふくらましながらも、アメを捨てた。彩羽はふたたび姿勢正しく走り始める。
と、突然、彩羽にジャバリと水がかけらえる。
「きゃあっ?!」
「ほら〜、冷めたいですぅ〜。きゃはは☆」
なんと彩華が両手に、水を含ませたスポンジを持てるだけ持って、その水を彩羽にかけてきたのだ。
「いやぁっ!」
彩羽は思わず、腕でユニフォームを押さえる。
周囲のスタッフたちが慌てて、彩華からスポンジを取り上げた。
「天貴さん、進んで!」
実況車から向日葵が顔を出して、指示を出す。
「でも……」
彩羽がまとう西シャンバラのユニフォームは、水をかけられて、上品な白レースの下着が透けかけている。
「引いた画面にするから平気よ! 全身ビッショリってワケじゃないから、走ってるうちに乾くから」
無情な指示に、彩羽は泣きそうになるのを堪えながら走り始めた。
向日葵は内心(いい画が撮れた)とほくそ笑む。
聖火リレーが始まって少し経てば、飽きてチャンネルを変えられる恐れがある。
(こんなハプニングがあるなら、視聴者も釘付けになるハズ!)
「さっそく、スケスケお宝映像ゲットだぜー!」
案の定、イルミン学生寮ではアキラがガッツポーズをしていた。
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