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ゴチメイ隊が行く3 オートマチック・オールドマジック

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ゴチメイ隊が行く3 オートマチック・オールドマジック

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「ふむ、ゴチメイが参加していたとはな。このコンテスト、ただではすまいて」
 ココ・カンパーニュたちの脱衣所の前をビデオカメラ片手に通りすぎてウォーデン・オーディルーロキ(うぉーでん・おーでぃるーろき)が、ちょっと楽しそうにつぶやいた。何か起こるのであれば、それはそれでとても面白い。むしろ何か起こってくれなくては困るというものだ。
「ほれ、会場のだいたいの様子は撮影してきてやったぞ」
 自分たちの脱衣所に入ると、ウォーデン・オーディルーロキは持っていたビデオカメラをシオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)に渡した。
「ありがと。じゃ、これはここに固定してと」
 受け取ったビデオカメラを、シオン・エヴァンジェリウスは用意してあった三脚に固定した。
「ちょっと待て、なんでここでまで撮影する必要があるんです」
 モデルとして確保されてしまった月詠 司(つくよみ・つかさ)がおいおいという感じで聞いた。
「もちろん、後でいろいろと使う……後学のためですわ。メイド道を極めるため、記録を取って復習するのよ」
「嘘だ……」
 シオン・エヴァンジェリウスの回答に、月詠司は速攻でつぶやいた。
「嘘じゃないですよ。信じてね。ワタシは信じてるから」
 シオン・エヴァンジェリウスは、反論を許さない。
「ふっ、しょせん、ワタシはこうなる運命なのですね。いいでしょう、裸でもなんでも撮ればいいじゃないですか!」
 もうやけくそで月詠司が開きなおる。
「そこまでは言ってないけど、御希望とあればねっ。あ、それで、コーディネートね。じゃあ、これを着てね♪」
「和服じゃないですか!?」
 シオン・エヴァンジェリウスが取り出した服を見て、月詠司が首をかしげた。いや、いなせな着流し姿というのであれば、それはそれで格好いい……はずだったのだが。
「これって、女物だし、割烹着まであるじゃないですか」
「だって、女給さんになるんだから、やっぱり、他とは差をつけないとねえ」
 同意を求められたが、ウォーデン・オーディルーロキとしては笑いをこらえるので精一杯であった。
 もう、なすがままに、月詠司が着替えさせられていく。
「まあ、魔法少女のコスでなかっただけましだと思うことにします」
「しまったあ、その手があったわよね!」
 悔しそうに、シオン・エヴァンジェリウスがパチンと指を鳴らした。危なかったと、月詠司は内心胸をなで下ろした。
「ウォーデン、ちょっとそこ押さえていて」
 帯と格闘しながら、シオン・エヴァンジェリウスがウォーデン・オーディルーロキに言った。
「うむ」
 楽しそうに襟元と腿の辺りの裾を持って引っぱるウォーデン・オーディルーロキを、月詠司はこの裏切り者めと軽く睨んだが、本人はいたって涼しい顔だ。
「さてと、縛りあげますか」
「おいおい……」
 困惑する月詠司を尻目に、シオン・エヴァンジェリウスは襷をかけてから割烹着を被せていった。
「ぷっ、やはりここは三角巾が必須であろう」
 こみあげてくる笑いを抑えきれずに、ウォーデン・オーディルーロキが月詠司の頭に三角巾を被せて結んだ。
「ここまで来たら、箒とかヤカンとか、アクセサリーも必要であるな」
 いつの間に用意したのか、ウォーデン・オーディルーロキがいろいろな小間物を箱一杯に取り出して言った。
「いったい、いつそんなに物を用意……、ああ、言わなくてもいいです。精神的経済的ダメージが大きすぎます」
 黙って月詠司の財布を取り出すウォーデン・オーディルーロキに、月詠司は答えなくていいと身振り手振りを交えて主張した。その姿が、すでにおばさんくさくなっている。
「メイドが、御主人様をコーディネートするコンテストで、御主人様をメイドにするコンテストじゃないと思っていたんですがねえ」
 やれやれと、月詠司はつぶやいた。思わず、買えるものならメイドロボを一台買ってしまおうかという想いが彼の心の中をよぎっていった。
 
    ★    ★    ★
 
「さあ、こちらにお入りくださいですぅ」
 脱衣所の入り口のカーテンをすっと開けて、咲夜 由宇(さくや・ゆう)ルンルン・サクナル(るんるん・さくなる)に言った。
「えーっ、そんなに丁寧に言わなくてもぉ。いつものように入れって命令してくれたら、素直に入るのにぃ」
 ルンルン・サクナルが、奇妙に身をよじって答える。
「こいつは……」
 ピキッと、咲夜由宇のこめかみの血管が切れかかったが、かろうじて平静を保った。
「どうぞお入りを」
 手を引く……と言うよりは引っぱって、咲夜由宇はルンルン・サクナルを脱衣所の中に入れた。
「えっ、ルンルン、ここで由宇さんに脱がされちゃうの? 嫌だぁ」
 ちっとも嫌そうでなく、それどころかとても嬉しそうにルンルン・サクナルが身をよじらせた。
「いったい、どうしてこんなふうに育っちゃったんだか……」
 軽くこめかみを押さえてから、咲夜由宇は言った。
「さあ、お着替えですよ♪」
 気をとりなおすと、咲夜由宇は歌うように言った。ここはミュージカルの乗りで、ルンルン・サクナルが変なことをしでかす前にさっさと着せ替えてしまうに限る。
 肩紐を外して、わざとらしく恥ずかしがる暇も与えずにワンピースを脱がすと、咲夜由宇は用意してあったマキシタイプのロングワンピースをルンルン・サクナルに着せた。ルンルン・サクナルのピンクの髪が映えるように、おとなしめのイエローをベースとして薄いピンクのフリルで彩られたものだ。胸元は赤いリボンで飾り、腕や腰にも飾りリボンを巻きつけて緩急のアクセントとしている。わざと垂らしたリボンの端は、ここを引っぱって解きたいという衝動をうながすための物だったのだが、誰よりもルンルン・サクナル自身が引っぱりたがったのはちょっと誤算だった。特徴的なピンクの髪は、左右に分けてツーサイドアップでまとめ、肩を軽くつつむように垂らした。
「これでどうですかぁー?」(V)
「わーい、みんなに見せるの楽しみだよね」
 ちょっとぞくぞくしながら、ルンルン・サクナルが言った。
 
    ★    ★    ★
 
「さて、僕たちも始めますね。ジェ……博士、お願いいたします」
「ええ、分かりました」
 アクアマリンに言われて、ジェイドが脱衣所に入っていった。まったく、よくやるよとばかりにオプシディアンが目で追う。
「ゆけ、メイドロボ。歩け!」
 腕時計型の音声コントローラーにむかって、アクアマリンが命じた。
 テケテケテケテケテケ……と、独特の音をたてながら、地面すれすれのロングスカートの下に隠れた無限軌道でメイドロボたちが進んで行く。
「脱がせ、メイドロボ。脱衣パターンA。上着、ズボン、シャツ」
 命令に従い、脱衣所の中でメイドロボたちがジェイドの服を脱がしていく。シルエットなのでよく分からないが、一瞬ロボットメイドたちの手が増殖したように見えたのは見間違いだろうか。
「おもしろーい。私にもやらせて」
 高務野々が、アクアマリンの腕をつかんで言った。でたらめに、腕時計型のコントローラーに触る。
「あっ、だめですよ」
 アクアマリンが、あわててつかまれた腕をもぎ離した。どこかおかしくなったらしく、あわててタッチパネルを操作して修正する。
「いいじゃない」
「こら、邪魔はするな」
 むくれる高務野々の襟首をオプシディアンがひょいとつかむと、ずるずると引きずってアクアマリンから引き離していった。
「着衣パターンB。シャツ、ズボン、上着、オプション」
 再びアクアマリンが命令すると、てきぱきと三体のメイドロボが仕事をこなしていった。
 あっと言う間に着替えが終わると、脱衣所の中からジェイドが出てきた。白いスーツの上下で、首から身体の前の方へ飾り布のように洒落たマフラーを垂らしている。メガネはサングラスに変え、髪は後ろ手に縛って一つにまとめていた。
 言ってしまえばテンプレートなマフィアファッションだが、そこはモデルの身のこなしが印象を大きく左右する。
「お待たせしました」
 軽く一礼すると、ジェイドが手に持ったボルサリーノをすっと斜に被る。一連の動作に澱みがないため、会場の一部の女性から歓声があがった。
「それでは、最終審査を行いますので、審査員席の前にお集まりくださーい」
 大谷文美の言葉と共に、プラカードを持ったあいじゃわが、ぽよんぽよんと会場を横切っていった。
「わあ、アルディミアクさん、素敵ですぅ」
 集まってきた者たちの中にアルディミアク・ミトゥナの姿を見つけて、咲夜由宇が思わず叫んだ。
 白と水色を基調としたアリスドレスタイプのメイド服に、コルセットジレで腰の辺りをキュッと締めて豊かな胸を強調している。淡いブルーのリボン飾りがついた白いオーバーニーソックスが細い脚をより長く見せ、以前とは違ってより清楚な感じになっていた。リボンタイで結ばれた首元のレースカラーがお洒落で、芙蓉の花飾りのついた白いミニシルクハットとともに、アップにしたプラチナブロンドの髪とよく似合っている。
 本来はココ・カンパーニュとお揃いの髪形なのだが、今日のココ・カンパーニュは黒髪を下ろして和のテイストの服に着替えさせられていたため、まるで葦原明倫館の生徒のようであった。
「こ、これは……いい勝負よね。でも、それよりも、なぜ、姐御の服を着てるのがいるのよ」
 勝手に引き分け宣言をしながら、メイコ・雷動は、古いアルディミアク・ミトゥナのコスチュームを着ている漆髪月夜を軽く睨みつけた。よく見れば、封印の巫女白花はココ・カンパーニュの服を着ている。エリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァはリン・ダージの衣装のようだが、胸が明らかに違うので、まったく別物にも見えた。
 同じたっゆんでも、月島悠の胸はいかにも不自然だ。
 ちゃんとメイクまで完璧に整えたチャイナ服の林田樹はさすがに見栄えがする。別の意味で着飾った秋月葵とエレンディラ・ノイマンの魔法少女ペアは、揃って立つとなかなかに絵になる。ルンルン・サクナルもかわいらしい。
 が、絵にならないのは、樹月刀真と月詠司だ。樹月刀真はあからさまに女装である。しかも何やら傷だらけだ。さらに、月詠司はなかなかに割烹着姿が似合ってしまっているだけに始末が悪い。
「だから、コスプレ大会ではないとあれほど……」
 審査員席の悠久ノカナタがぶつぶつとつぶやく。
「いや、だが、思ったよりちゃんとまとまっている物もあるな。メイドとしての気配りが行き届いたのではないだろうか」
 藍澤黎が、細部に目を光らせて言った。
「どーでもいいわよ。食べられないんだもん」
 ファッションなどに興味はないと、琳鳳明が適当に採点する。
「ただいま集計中です」
 大谷文美が、まとまりのない審査員たちを必死にまとめながら採点を集計していった。
「だから、御主人様を玩具にしてはだめであろう」
「面白ければいいよね」
「人と服とが一体になってこそのファッションではないのか」
「メイドさんとペアなのはかわいいですう」
「地味だから悪いというわけでは……」
「男としてのファッションが一人というのはどういうことだ」
「まったく変わっちゃってるのが凄いです」
「原形を残さないでどうする」
 得点を元にしての審査員たちの討論は、はっきり言ってまとまりそうもない。どのみち、一番を決める戦いではないのだからいいとも言えるか。これは、ロボットメイドと人間メイドのどちらが優れているかという戦いである。
「まとまりましたので発表いたしますう」
 やっと収拾をつけて、大谷文美が言った。
「やはり、人間のメイドの発想の多用さは捨てがたい物があります。特に、メイクなどにまで気配りするのは、女の子であるメイドだけの特技です。対するメイドロボですが、あたりまえすぎてぶれがありません。失敗すら恐れないサプライズというか、冒険心にやや欠けていると思われます。よって、この対決は、人間メイドの方が優れているということになりました。ただし、メイドロボも充分実用レベルであると判断したため、コンテストの主旨であるメイドロボは使えるかという問いに対しては使えると申しあげます」
 なんとも若干玉虫色の結果だが、その辺りで収まったらしい。
 ちなみに、審査員に一番人気があったのはエレンディラ・ノイマンの魔法少女であった。秋月葵とセットで見栄えがしたかららしい。その後に、ココ・カンパーニュ、メイドロボチーム、林田樹と続いていく。どうも、今回の審査員には、派手で見た目のインパクトのある方が好まれたらしかった。
「まあ、負けなければプレゼンテーションはそれなりに成功ということですね」
「僕のメイドロボが一番なのに……」
 それなりに満足しているジェイドとは対照的に、アクアマリンは納得できないようで始終ぶつぶつとつぶやき続けていた。