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リアクション
『食』勝負
「にゅ〜、御飯勝負なのです〜。じゃわはがんばれるですよ。みんなはがんばれるですか?」(V)
ぽよよんとプラカードを掲げたあいじゃわがはずんでいく。
「えっと、第二勝負、お料理対決を開始します」
大谷文美の宣言と共に、キッチンブースに参加者たちが集まった。参加者は全部で六グループ。二列に並んだキッチンセットで一斉に調理を開始する。
「さて、何を作りましょうかあ」
中央に山積みにされた食材を吟味しながら、チャイ・セイロン(ちゃい・せいろん)がちょっと悩んだ。蒼空学園の学食から臨時に運び込まれた食材は、それこそなんでもあるといった状態だ。そこから何を選び、何を作るのかということがすでに審査対象となっている。
「お手伝いさせてください」
そこへ、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が協力を申し出てきた。
「あらあらあ。まあ、リンちゃんじゃあまり役にたちそうもなかったので、助かりますわあ」
お気楽極楽に、チャイ・セイロンがあっさりと申し出を受けた。
「ひどーい、あたしだって役にたつもん」
二人の会話を小耳に挟んだリン・ダージがむくれた。
「まあまあ、試食なら、私に任せて」(V)
マイスプーン持参で、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)がリン・ダージに言う。
「待てよー、味見はミーに任せた方がいいぜー」
小鳥遊美羽を押しのけて、新田 実(にった・みのる)が自慢げに言った。
「まあまあ、食べさせがいがありますわあ。では、何を作りましょうかあ」
「カレーだけは却下よ!」
すかさず、リン・ダージが言う。
「なんですとぉ!!」
真向かいのキッチンからアーサー・レイス(あーさー・れいす)が飛び出してきそうになったが、げしっと日堂 真宵(にちどう・まよい)に殴り倒されて静かになった。
「そうですねえ……」
ベアトリーチェ・アイブリンガーが、審査員席からジーッと食材のフルーツの方を見つめて今にもよだれを垂らしそうなあいじゃわの姿をチラリと見た。それから、リン・ダージや小鳥遊美羽や新田実のお子様連といった面々の顔をまじまじと見る。
「甘いフルーツケーキなどはどうでしょう。季節がら、秋の果物をふんだんに使えば見栄えもいいと思いますが」
「そうですねえ、ではあ、それにしましょうかあ」
メニューを決定すると、チャイ・セイロンとベアトリーチェ・アイブリンガーが、みずみずしい果物を見繕ってリン・ダージと新田実にどんどん運ばせいてく。
「ではあ、あたしはあフルーツを刻みますからあ、生地の方をお願いしますう」
チャイ・セイロンの指示で、ベアトリーチェ・アイブリンガーが小麦粉をふるいにかけ始めた。
「リンちゃんはあ、このフルーツにブランデーをかけてくださあい。あまりたくさんかけちゃだめですよお」
素早く皮をむいたフルーツを、タタタタタッと高速で刻みながら、チャイ・セイロンが言った。
「それぐらい簡単だもん」
リン・ダージが、調味料の所においてあったブランデーの瓶に手をのばす。
どぼどぼどぼと、ボールに入ったフルーツに、リン・ダージが瓶の中の液体を注いでいった。
「どれどれ、ちょっと味見を……」
すかさず、小鳥遊美羽がつまみ食いをするのだが……。
「うきゃあ!」
食べられなくはないとはいえ、美味しいはずもなく、ましてや予想していた味とのギャップに、小鳥遊美羽が転げまくる。
「おい、それみりんだぜ」
「えっ!?」
新田実に指摘されて、リン・ダージが目を丸くして驚いた。
「まあまあまあ、リンちゃんは相変わらずですねえ」
「ち、違うもん。あたしは、確かにブランデーを……」
チャイ・セイロンに言われて、リン・ダージが引きつった。
「ごまかさなくったっていいんだぜ。誰にでも失敗はあらーな」
「ち、違ーう!!」
新田稔になぐさめられて、リン・ダージが叫んだ。
★ ★ ★
「ふふふ♪」
すぐ隣のキッチンで、リン・ダージと同じ格好をしたエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァが楽しそうに笑った。
「エリー、何か悪戯したわね。遊んでないでちゃんと手伝いなさい」
エリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァがサイコキネシスを使ったことを感じとったローザマリア・クライツァールが、カレーを作る手を止めて言った。
「はわ……、エリーは、何もしてな……」
「ごまかしたってだめです」
「ごめんなさい、なの……」
叱られて、エリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァがシュンとなった。
「そんなことをしなくても、私たちの海軍カレーに勝る料理なんてここにはないんだから」
「それは聞き捨てなりまセーン!!」
カレーという単語にまたもや敏感に反応して、アーサー・レイスが日堂真宵を振り切って駆けつけてきた。
「海軍カレー、それは世界に名だたる日本のカレーの元祖デース。ですが、フォンドボーをベースとしたイギリスカレーは王道ではありまセーン」
「いいえ、今や、これが王道です。あんたのような古くさいカレーは滅ぶ運命にあるんです」
負けじと、ローザマリア・クライツァールがアーサー・レイスに言い返した。
「ノー!! 我が輩がパラミタで開発した地祇の出汁入りカレーは斬新なヌーベルキュイジーヌなのデース」
「うゅ……、それって、あまり食べたくない、なの」
ちょっと顔を顰めて、エリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァが言った。うんうんと、日堂真宵も背後でしきりにうなずく。
「なんと言うことを……。でも、御心配はいりまセーン。今日のカレーは、正統派のタイカレーなのデース」
アーサー・レイスが自慢げに言った。
「それなら、このカレー勝負、堂々と受けてたとうじゃないの」
「望むところデース」
なんだか、話が変な方向に流れ始めている。
「負けないわよ」
さっさとアーサー・レイスを追い払うと、ローザマリア・クライツァールは調理を再開した。
あくまでも古式豊かなカレーにこだわって、コンソメで柔らかく煮た乱切り野菜と、赤ワインで煮た牛肉を、飴色に炒めたタマネギと共に、炒めた小麦粉とカレー粉でコトコトと煮込んでいく。時間の関係で一晩寝かすことはできないが、充分に美味しいカレーのはずだ。
「はわ……、こんな感じ、なの?」
レタスを千切ってグリーンサラダを作っていたエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァがローザマリア・クライツァールに聞いた。
「ええ。じゃあ、ゆで卵を作ってね。綺麗に半熟に」
食器を用意しながら、ローザマリア・クライツァールは答えた。
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