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リアクション
★ ★ ★
「このままバラバラに小ババ様の駆除を行っても、効果は薄い。なるべく情報を共有して、学園の平和を取り戻そうじゃないか」
「小ババ様対策本部なのだわ」
レン・オズワルド(れん・おずわるど)とノア・セイブレム(のあ・せいぶれむ)は、教室の一つを借りて小ババ様対策本部を立ち上げていた。大きな画仙紙に筆で『小ババ様対策本部』と書かれた物が、教室の扉に貼ってある。
以前迷惑をかけたことのある御神楽環菜の弔問に蒼空学園にやってきたのだが、そこで小ババ様騒動が起きていることを知って急遽対策を買って出たのである。
「話をまとめたところによると、どうも今出没している小ババ様は、以前の小ババ様とは違うタイプらしい。光り物にほとんど興味を示さない上に、金属的な固さを備え、周囲に電波障害のような物をもたらすと報告されているそうだ」
レン・オズワルドが、今まで集まってきている情報を再確認した。同じ情報は、すでにここを訪ねてきた生徒たちには伝えてある。
「それなんですが、どうにもおかしいんですよね。今いるらしい小ババ様は、本当に小ババ様なのでしょうか。突然変異をしたか、あるいは……」
どうにも腑に落ちないことだらけだと影野 陽太(かげの・ようた)が言いかけた。
「いずれにしろ、せっかく復活した小ババ様を駆除するなんてもってのほかだ。小ババ様は、俺が守る!」
影野陽太の言葉を途中でぶった切って、トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)が言った。前回の騒動で、彼は一人の小ババ様も救うことができなかったのを酷く悔やんでいたのだ。現在、たった一人とはいえ、イルミンスール魔法学校で小ババ様が生き残っているのはまさに奇跡であった。もし他に生き残りがいるのであれば、全力で保護する気でいた。
「いずれにしろ、調べてみないことには何も分からない。だが、この小ババ様騒動、とうてい自然発生的なものとは思えないんだが」
「どういうことだ?」
小ババ様愛で、多少全体像が把握できなくなっているトライブ・ロックスターがレン・オズワルドに聞き返した。
「蒼空学園としても、前回の騒動の後、再発防止も含めて徹底した保守点検を行いましたから。完全であるとは言いきれないものの、小ババ様が残っている可能性はほぼゼロのはずです。仮に生き残っていたとしても、なんでまたこのタイミングで現れる必要があったのか……」
蒼空学園の生徒である影野陽太が現時点までの経緯を説明した。
「ということは、誰かが小ババ様を持ち込んだということになる」
「なんだと! 俺以外に小ババ様を手に入れて、しかも養殖に成功している奴がいるというのか。絶対に許せん!!」
憤るトライブ・ロックスターを放っておいて、レン・オズワルドが続けた。
「それが誰かということと、その目的がなんであるのかが最大の問題だが、一つはっきりしておきたいのは、イルミンスール魔法学校はこの件とは無関係であるということだ」
レン・オズワルドが、はっきりと影野陽太にむかって断言した。
「証拠は?」
冷静に、影野陽太が聞き返した。
「大ババ様と小ババ様が現在イルミンスール魔法学校にいることは確認済みだ」
「二人とも、解禁になったアイスクリームの食べ放題にでかけてるらしいんだよ。うらやましいよね」
ノア・セイブレムが、レン・オズワルドの言葉を補足した。
「……ということらしい。大ババ様が犯人だとしたら、絶対自分で結果を見に来ているはずだ。だから、これは前回の騒ぎのように、イルミンスール魔法学校の思惑の外で起きていると断言していい」
「それだけでは、根拠が薄いけど、逆に、今ここでイルミンスールが蒼空学園と敵対するっちゅう理由もないはずやな。だいたい、以前と同じ方法ちゅうのが、あまりにもアホやん」
大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)も、今回の小ババ様たちには違和感をだいているらしい。
「ここはひとつ、皆はんで一致協力してでんな、化けの皮とっぱぐっちゅうのはどうでっしゃろ」
「乗った。小ババ様を語る奴は許せねえぜ。黒幕を炙り出して叩き潰してやる。手加減はしねえ」(V)
大久保泰輔の言葉に、トライブ・ロックスターが真っ先に乗った。
そこへ、逐次情報が入ってくる。
初期にズィーベン・ズューデンに指摘されていたことだが、小ババ様が誰かの手によって作られた偽物だとしたら、特に機械などであったら自爆する危険性は高い。そして、その懸念は、カレン・クレスティアたちからの情報で現実の物となった。
「えー、小ババ様、偽物のメカ小ババ様なんですかあ」
小ババ様を助けるために、悪いことを考えている人はいないかと対策本部の様子をうかがいに来たノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)が、小ババ様が偽物だっていう会話を聞いてがっくりと首をうなだれた。
「せっかく、今度は助けてあげられると思ったのに」
「うん、そうだよ、そうだよなあ。その気持ち分かるぜ」
トライブ・ロックスターが、本気でノルニル『運命の書』と気持ちを分かち合う。
「どちらにしても、私は早くアーちゃんたちの応援に行きたいのよ。早く黒幕を捕まえて事態を収拾してよ」
ノア・セイブレムがレン・オズワルドをせっついた。
「とにかく小ババ様を保護だ。本当に全部が偽物とは限らないからな。もし、たった一人でも本物がいたら大変だ」
「うん、保護してあげなくっちゃだめです」
目的をはっきりさせると、トライブ・ロックスターとノルニル『運命の書』が小ババ様を探しに飛び出していった。
「捕まえたら連れてきてくださいね。調べてみたいですから」
爆発させないようにと、影野陽太が二人に頼む。
「私も行ってきます」
レイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)も、二人の後を追っていった。
「頼んだで。僕は、端末に接続してたっていうんが気になるさかい、ちょっとデータベースを調べとるから」
大久保泰輔が、レイチェル・ロートランドを送り出しながら言った。
「それは、俺も気になります。一緒に、不正アクセスがないか調べてみましょう」
影野陽太が大久保泰輔に協力を申し出る。
「それで、どこから責めまっか」
データ落ちしないようにハンドヘルドコンピュータを、ラインで接続して大久保泰輔が言った。
「メカ小ババ様が一体でないとしたら、目的は同じはずですから、まったく同じ要求が一箇所に集中するはずですね。そこから調べてみますか」
「妥当やな。トラフィックの高いサーバーと、それに高速アクセスしているIDと端末の位置を割り出すさかい」
「そんなんで分かるの?」
大久保泰輔たちの会話に、ノア・セイブレムが割って入ってきた。
「相手はロボットかもしれないんやろ。普通、ハッキングとか、それに近いことはツールを使ってオートでやるもんや。オーダーのデータ入力スピードで、人か機械かは特定できる。だいたいにして、人の入力は特定のばらつきがあるもんやさかいな」
「そういうことです」
大久保泰輔と影野陽太に説明されたが、ノア・セイブレムは今ひとつ分からないようであった。
★ ★ ★
「小ババ様、どこーですかー。出てきてくださーい」
光る箒をすぐそばに浮かべて寄せ餌にしながら、志方 綾乃(しかた・あやの)は校内を巡回していた。
それにしても、さっぱり出てこない。
「せっかく今度こそ小ババ様を西シャンバラの魔の手からお守りしてイルミンスールへ連れて帰ろうと思ったのに、なぜ出てきてくれないのですー」
必死に呼びかけてはみるが、やはり出てくる気配はなかった。
校庭の方からは、メイド勝負が順調に進んでいるのか、ときおり歓声が漏れ聞こえてくる。
「さすがに、あんなに人がいる所にはいないでしょうし……」
チラリと窓から外を見た志方綾乃は、その窓に小ババ様を見つけて唖然とした。
「いたあ!!」
その声に驚いて、小ババ様が逃げて行く。
「待ってくださーい」
志方綾乃は、あわてて小ババ様の後を追いかけていった。
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