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冥界急行ナラカエクスプレス(第1回/全3回)

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冥界急行ナラカエクスプレス(第1回/全3回)
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第2章 留まるモノと求めるモノ・その2



 こちらは蒼空学園校長室。
 山葉不在のためここでの活動は縮小されてるかと思いきや、ここではここで新たな動きがあった。
 影野 陽太(かげの・ようた)久世 沙幸(くぜ・さゆき)がここでの情報収集を申し出たのである。
 非常時とは言え、環菜のPCなどを解析すればプライバシーの問題もあるし、直にXルートサーバで情報収集を行うのであれば管理上の問題も発生する。本来は断るところだが、今回は生徒会役員の監視下で使用が許可された。
 土下座をしてまで頼み込む陽太の熱意に負けたのだ。
「世界で一番愛する女性を取戻せるのなら……、俺は全力を尽くしきります! 何だってやります!!!」
 この台詞で心動かされないような奴は、蒼空学園にはいない。
 そうして、陽太は環菜のパソコンおよび携帯の解析を行うことになった。
「用意周到な彼女のことです、もしかしたら今回の計画の補助手段を準備しているかもしれません」
 助けに来てくれる誰かのために、何か役立つ素敵なものを用意してるのではないか……、と陽太は推測する。
 もし何も出てこなくとも、いつか二人で見たここからの夕日を眺めて、また頑張ればいい。
「まずはナラカエクスプレス、トリニティ・ディーバ、奈落人について検索をしてみますか……」
 該当したエクスプレスの情報は、ガイドでも触れた古王国時代の女王の伝説だった。
 トリニティに関しては該当情報ナシ。
 奈落人の情報は極めて少なく、ナラカの住人……と言う以上の情報は出てこなかった。
「ふと思ったんですが、エクスプレスが出てくる伝説ってもしかしてこれだけなのですかね……?」
「……だとしましたら、歴史の闇に忘れられるのも無理もありませんわ」
 パートナーのエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)は画面を覗き込みながら言葉を漏らした。
 情報収集を邪魔する襲撃者に備え、今日は護衛役として来た彼女だが、すこぶる平和でヒマを持て余している。
「それにしてもトリニティはともかく、奈落人の情報なんか少な過ぎません?」
「普段奈落人の噂も聞きませんし……、シャンバラに広まってる奈落人の情報はその程度なのかもしれませんよ?」
「なるほど。じゃあ次はナラカ絡みで英霊と……、あと古王国についても調べましょう」
 英霊検索の結果は、マニュアル・ワールドガイド・種族・英霊の項を参照という簡潔な一文だった。
 古王国のほうは、豊かだった頃のシャンバラ王国のことである、と大体そんな趣旨の文面が出てきた。
「これと言って新しい情報はないですね……」
 それからしばし思案し、復活、寿命対策と言ったキーワードを打ち込んだ。
「そう言えば、環菜の寿命が近いという噂がありました。そのままの意味で本来の寿命を指していたのか、今回の死期を指していたのかわかりませんが、もし前者なら寿命対策も含めた復活計画が出てくるかもしれません」
 と意気込んで検索したのだが、残念ながら、そんな計画は出てこなかった。
「思ったより早く夕日を見ることになりました……。あ……、まだ夕日すら出てないんですね」


 ◇◇◇


「……大丈夫かな。机に突っ伏したまま微動だにしなくなっちゃったけど」
 電池が切れた陽太を心配しつつも、沙幸は端末に向き直り、自分の作業に集中し始めた。
 彼女の仕事はXルートサーバを使用した情報収集である。
 沙幸がネットワーク検索し、パートナーの藍玉 美海(あいだま・みうみ)がローカルエリアの解析を行う。
「それじゃ美海ねーさま、手始めにナラカのことと……、あと、ナラカから蘇る方法を調べるよ」
「ええ、ナラカですわね……、あ、出ましたわ。ええと……、ナラカはパラミタ人にとっての地獄のようなもので、たいへんに過酷な世界であるとされています。ナラカにはアトラスという巨人が立っていて、パラミタを支え……」
「……なんだか聞いたことのある文章だけど、それ、マニュアルのワールド設定……?」
「博識ですわね、検索したらそのページが出ましたの。それとナラカから蘇る方法もここに書いてありますわ」
 そこには、パラミタを支えるアトラスの身体を数百年かけて登ることが出来れば……と書いてある。
「え……、それだけなの?」
「それだけですわ」
「うう……、じゃあ別のを調べる。次は、奈落人へ転生する方法を調べるの」
「あら沙幸さん、奈落人になりたいの?」
「そうじゃなくて……、ルミーナさんが消えたのは動けるようになったからじゃないのかなって思ったの」
「おっしゃってる意味がよくわかりませんけど……?」
「もしカンナ様が奈落人として転生することが出来たと仮定したら、ルミーナさんとの契約も解除されるでしょ。そうなるとパートナーロストの影響からも解放されると思うの。そう考えるといろいろと説明がつくのよ」
「なるほど、それなら辻褄は合いますわね」
 指先をキーボードの上で軽やかに走らせる二人だったが、目的の情報は一向に出てこなかった。
「……ねぇ、美海ねーさま、見つかった?」
「いいえ、ナントカ転生っていう地球のゲームばかり引っかかりますわ。あら……?」
「どうしたの? 何か見つかった?」
「ローカルに『山葉作業用』という隠しフォルダがありましたの。画像と動画がたくさん、でもアクセス制限が……」
「それ、完全にエロフォルダじゃない!」
 ガンと激しくおデコを叩き付けて、沙幸は机に突っ伏した。


 ◇◇◇


 その時、頃合いを見計らったように、大モニターにアルメリア・アーミテージ(あるめりあ・あーみてーじ)が映った。
『ようやく必要な文献を見つけたわよ……って、ちょっとなんでみんな机に突っ伏してるのよ!?』
 彼女は今、ナラカに関する資料を集めるため、イルミンスール大図書館に来ている。
 シャンバラ東西分裂の影響から、書物の貸し出しが制限されているため、ここで報告することにしたのである。
「……ごめんね、ちょっと今無力感に打ちのめされてるところなの」
「すいません、環菜のためにイルミンまで行ってくれた人の前でとんだ醜態をお見せして……」
 陽太と沙幸の言葉に、アルメリアはむむっと眉を寄せた。
『うーん、陽太ちゃんの前で言うのはアレだけど、別におデコちゃんの復活に賛成してるわけじゃないの』
「そう……なんですか?」
『うん、なんだか命を軽く扱ってる気がしてね』
「ならどうしてわざわざイルミンにまで?」
『みんなを止めることは出来ないし、それなら危険な目に遭わないように情報を集めておこうかなって』
 そう言うと、アルメリアはモニターにトリニティからのメールを表示させた。
『だってそもそもこのメール怪しいんだもの。文面を見ただけだと嘘をついてる感じはしないけれど、なんていうのかしら……、知ってることを全部話してない感じがするのよね。まだ、ワタシ達に隠してる情報がありそうなのよ』
 それから、アルメリアの手に入れた情報の確認作業に移った。
 出来れば、アーデルハイトからも知恵を授かりたかったのだが、あいにく面会の都合がつかなかった。
 イルミンスールはイルミンスールで何か大きな事件に遭遇しているようなのだ。
『ワタシが調べたのはナラカエクスプレスと奈落人について。文献をスキャンしたものをそっちにも転送するわ』
 エクスプレス関連は、古王国時代の女王の伝説が大半を占めていた。
 文献数はそこそこ多かったのだが、どれもディティールが微妙に異なるだけで、基本的には同一内容である。
 奈落人のほうは、彼らの登場する民話や小説が多く見られた。
 しかし、単に恐ろしい存在として登場させているだけで、肝心の本質には言及されていなかった。彼らに関して言えば、調査しようにもまずナラカに行く方法が確立されていないので、ちゃんとした研究が進んでいないのだ。
『……あれ、なんか微妙くさくない?』
 五時間図書館を回って集めた資料の中身のなさに、アルメリアは愕然とした。
「あの、アルメリア……、すごく言いにくいんだけど、今の情報……既にこっちでも出た情報なんだよね……」
『ええ!? ウソでしょ!?』
 そして、アルメリアも机に突っ伏した。大図書館の机に。
 今回の三人の失敗に関してひとつ言えることがあるとすれば、シナリオガイドをよく読んで欲しいと言うことだ。
 涼司と学園関係者が八方手を尽くして調べた末、ようやく辿り着いた有益な情報が例のメールである。
 既に彼らが通った道に何もないのは当然だ。
 眼鏡を侮りたくなる気持ちはわかるが、もう少し彼らの情報収集能力を信用してみては如何なものだろうか。