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リアクション
第2章 留まるモノと求めるモノ・その3
空気が圧壊しそうな校長室はさておき、その前の廊下になにやら動きがあった。
小一時間ほど学園内を彷徨っていた青葉 旭(あおば・あきら)が、浮かない顔でため息なんて吐いている。
パートナーの山野 にゃん子(やまの・にゃんこ)も困り顔だ。
「……うーん、どこにもミルザム様がいらっしゃらない」
「蒼学と縁のある人だから、てっきりこっちで仕事に協力してるもんだと思ったんだけどねぇ」
「となるとツァンダ家のほうかな。いきなりご実家に押し掛けてご迷惑になったりしないだろうか……」
そこに通りすがりの元クィーン・ヴァンガード皇 彼方(はなぶさ・かなた)がやってきた。
「あれ、たしかおまえは……特別隊員の旭じゃねぇか。校長室の前で何してんだ?」
旭もクィーン・ヴァンガードに籍を置いていた身、彼方とは知らない仲ではない。
「彼方か……、ちょうどいいところに。ミルザム様を探しているのだが、居所を知らないか?」
「ミルザム様?」
「ああ、ナラカに旅立つ前にご挨拶をと思って来たんだ。ヴァンガードは解散の運びとなったが、今でもあの方はオレにとって尊敬すべき対象……、公務に戻られるならまたお傍に仕えさせてもらおうと思っているぐらいだからな」
「そりゃまぁいいけど……、あの、もしかして知らないのか? あの人今地球に行ってるんだぞ?」
地球、その聞き慣れた単語を旭はしばらく飲み込めなかった。
「そ、そんな……、おい、いつお戻りになられるんだ?」
「さあ、少なくともこのシナリオが終わる前には帰ってこないと思うぜ」
「くっ……、在任時は特別隊員としてろくに奉公できず、今度こそはと思ったのにまたこの有り様かっ!」
床に手をつき苦悩すると、彼方はむっと顔をしかめた。
「そんな小さいことでへっこんでじゃねぇ! 俺なんてなぁ、今回の騒動で購買あたりの案内役になれるかなぁなんて期待してたのに、まったくオファーがないんだぜ!? ちくしょう、ルミーナさんは入院してんじゃねぇのかよ!」
彼方も床に手をつき、おんおん泣き始めた。
「あ……、なんかすごく暗い空気……」
あまり関わりたくない負のオーラが漂い始めた廊下で、にゃん子はポツリと呟いた。
◇◇◇
その時である。
先ほどからこちらに敬礼をしている教導団生とおぼしき二人組を発見したのは。
「あの……、そこでなにを?」
「御神楽校長の訃報、心よりお悔やみ申し上げる」
どうも苦悩する二人を見て、環菜の死を悲しんでいるものだと勘違いしてしまったらしい。
「挨拶が遅れた、私は教導団衛生科所属、西シャンバラロイヤルガードのクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)だ」
「わたくしは彼女のパートナーのハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)と申します。お見知りおきを」
「……申し訳ないが、山葉との面会を取り次いで頂きたい。学園の安全管理に関して進言したいことがある」
「面会?」
めそめそと目をこすりながら、彼方は怪訝な顔を二人に向けた。
「校長なら今は出払ってるぜ。学園の警備の一部は俺が引き継いでる、話ならこっちにも通してもらおうか」
「了解した。話と言うのは、御神楽の遺体の安全状態のことだ」
「……穏やかな話じゃなさそうだな」
「貴校が現在決死の覚悟でことにあたっているのは承知している。がしかし、遺体保存の情報をどの程度隠蔽出来ているのか、気がかりだ。情報が敵に掴まれれば、今回の蒼空学園の動きや、警備の強化から復活の可能性を悟られる可能性がある。情報の隠蔽度が高ければ『隠す』方針もあるが、低ければ『護る』ことを軸に考えねばなるまい」
この二人は環菜の遺体保護に手を貸すため、蒼空学園にわざわざ訪ねてきたのだった。
「……ま、あんたらが知ってるんだ、隠蔽度は高くはないだろうな」
そう言うと、ロイヤルガードだから話すが……と前置きして耳打ちをした。
「ルミーナさんが倒れてから、Xルートサーバの防壁が弱化してるんだ……、俺たちじゃ機密漏れを止められない」
「では……、護る方向で考えたほうが良さそうだな、遺体はナラカに運ぶ予定はあるのか?」
「いや、そんな計画は聞いてない」
「そうなると、冷凍装置への動力供給手段の複数確保、上下階層と隣室の安全確保が防衛計画には必要だな。侵入者に備え、ローテーションを組んだ人員配置もいる。誰であろうと単独行動で御神楽に近づけるようにしてはいけない」
「学園内で護る場合、何者かの侵入を防ぐのみならず、関係者の裏切りも想定しないわけにはいきません」
ハンスが提言した。
「単独では通れないゲートを複数設置する必要もありますし、疑心暗鬼が動きを鈍らせることのないよう心得をおしえこまねばなりません。また、私もしくはクレア様が、御神楽校長に常時禁猟区をかけられると良いのですが……」
「ちょっと待ってくれ。ゲートは却下だ、そんなもん設置したら遺体の在処がバレる!」
彼方は続ける。
「あと、遺体の在処はロイヤルガードにも明かすことは出来ねぇぞ。知ってんのは一部の幹部だけだしな」
「それで構わん。誰彼所在をおしえるよりはいい、ただ防衛計画には参加させてもらおうぞ」
「そうしてくれると助かる。つか、立ち話もなんだよな、校長室に入ってくれ。妙に静かなのが気にかかるが……」
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