リアクション
* * * 内部制圧の最前線を行く者達は、あと少しで指令室というところまで辿り着いた。 通路の途中ではあるが、ホールのようになっている場所だ。わずかだが、灯りがついている。 そこに、一人の男が立っていた。 闇に解け込みそうな黒の長髪、黒い瞳を持つ怜悧な容貌に、さらに漆黒のローブを纏っている。 「よくぞここまでいらっしゃいました」 慇懃に頭を下げる。 「俺はロイヤルガードの樹月 刀真。テメエは誰だ?」 男に敵意を向ける、刀真。 「私はローゼンクロイツと申します。近しい者からは、『影の錬金術師』と呼ばれております。以後、お見知りおきを……と申し上げたいところでありますが」 次の瞬間、ローゼンクロイツは刀真の真横にいた。 「総督殿から、内部の侵入者を排除せよとの令を頂きましたので。お引取り願いますか?」 刀真が瞬時に斬りかかる。 「何?」 だが、刃が触れようとした瞬間、その姿が霧のように離散した。幻影だろうか。 「これは失礼致しました」 男は、元の位置に戻っていた。何事もなかったかのように。 「皆さん、ここはボク達に任せて下さい!」 真口 悠希(まぐち・ゆき)がローゼンクロイツを見据える。 「早く、総督を押さえるんだ!」 ミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)が二挺の魔道銃を構える。 「させませんよ」 ローゼンクロイツが動き出そうとしたところで、後衛のミューレリアが弾幕援護を行う。その隙に、他の者達は指令室に向かって駆けていった。 「私も運がありません。お強そうなレディのお相手をすることになってしまうとは……」 困りましたね、といった調子でローゼンクロイツは複数のカードを手にした。 「力で何もかも解決するのは好きじゃない……けど、ここで貴方を何とかしないとボクの大切な人達や多くの人達が危険に晒される…… 百合園の騎士、真口 悠希。ミューさまと共に参ります!」 栄光の刀と花散る里の二刀の構えをで、ローゼンクロイツとの間合いを取る。 『悠希。あの男、口ではああ言ってるけど……掴みどころがないわ。手強いわよ』 彼女が纏っているカレイジャス アフェクシャナト(かれいじゃす・あふぇくしゃなと)が告げる。 「仮に倒せなくても、少しでも力を削ることが出来れば……」 『少し目標が低いわね……結果のことは後で考えて、倒す気でいきなさい!』 ローゼンクロイツが、カードを室内にばら撒いた。 「それでは私も参りましょう。『影の獣』」 カードが地面に着く前に、姿を変えた。 黒い、四本脚の獣だ。「黒狼」のようである。 『ミュー、いくですよ!』 ミューレリアの魔鎧、リリウム・ホワイト(りりうむ・ほわいと)がサイコキネシスを放つ。「影の獣」がどういうものか、まずは確かめる必要がある。 「あいつらは任せろ、ゆっきー!」 どうやら、闇黒属性を持つ気体――スモッグのようなものらしい。それが、動物の形を取っているのだ。 弾幕援護から、スナイプで獣を狙い撃つ。 彼女の放った魔道銃のエネルギーが当たると、敵は四散した。数は多いが、一体一体の力はそれほど高くはないらしい。 その間に、悠希はローゼンクロイツに斬りかかる。 「―――っ!!」 敵の前に、バリアのようなものが張られていた。 『ギャラハッドの盾』 ローゼンクロイツはただ、手を身体の前にかざしただけだった。 掌には一枚のカードが張り付いており、ルーンと思しき文字が書かれている。 『アゾット』 そしてもう一方の手でカードをつまみ、振り下ろしてきた。 それを、受太刀で防ぐ。 まるでカードが鋭い刃のようになっていた。 「やはりお強い。さすがに一人では辛いですね」 その割りには、ローゼンクロイツの芝居がかった態度はまるで崩れていない。 「こいつら、キリがないぜ!」 悠希の後ろで「影の獣」の相手をしていたミューレリアは、苦々しげに声を上げた。 敵は、撃ち抜けばすぐに離散する。だが、すぐに復活してしまう。 『ミュー、分かったのですよ』 リリウムが博識で敵を分析し、それをミューレリアに伝える。 「そういうことか」 改めて、影の獣を狙う。 敵は、ローゼンクロイツの放ったカードから出現した。となれば、それが核だ。 だが、それが体内のどこにあるのかは分からない。 「なら、これでどうだ!?」 ファイアストームを放つ。 核が分からなくとも、炎で包み込んでしまえば関係はない。 『影の巨人』 だが、敵の約半数を消滅させたところで、「影の獣」が一つに融合していった。 今度は、五メートルほどの人型の巨体となる。 「闇黒、そして強力な毒を放つゴーレムです。いかがなさいますか?」 下手に触れると、こちらが深刻なダメージを負うだろう。そのゴーレムを、ローゼンクロイツは後ろから操っている。 しかも、その大きさから、並みの攻撃では核ごと打ち消すのは難しそうだ。 『悠希。闇には光――光術よ』 「はいっ!」 敵の腕が伸びてきた。 それに対し、最大明度の光術を放つ。 その形が戻る前に、敵に飛び込んでいく。だが、何も彼女が単身仕掛けるわけではない。 後方から、ミューレリアが全魔力を込めたファイアストームを繰り出した。 影の巨人は、その形が崩れていく。 室内全体を炎の嵐に包まれているため、実体を持たない敵はその空気の変化による影響をモロに受けているのだ。 おそらく、あのカードがこの空間、大気中の何らかの成分を集め、あのような「影」を生み出しているのだろう。 博識によって、そこまでの推察は出来ていた。 「これが私達の連携技だぜ! いけえ、ゆっきー!」 「はい! 名付けて……ファイアレス・リリィ!」 もちろん、それだけ広範囲なファイアストームなだけに、前衛の悠希もそれに包まれている。 だが、ファイヤリングとフォースフィールド、さらにエンデュアで炎を耐え凌ぎ、影の巨人へと突き進む。 そして、爆炎波で影の巨人を内部の核――数枚のカードごと吹き飛ばした。 さらに、そこから続けざまに、巨人の後ろに控えていたローゼンクロイツに疾風突きを繰り出す。 だが、再び「ギャラハッドの盾」に阻まれかける。 「ゆっきー!」 見えない障壁に向かって、ミューレリアが魔道銃を乱射する。炎の一部を、サイコキネシスで晴らし、スナイプで狙う。 いくら強力でも、度重なる銃撃と、金剛力とドラゴンアーツで、さらに限界まで高めた悠希の渾身の一撃によって、それが破壊された。 「……お見事です」 ローゼンクロイツの胴体が貫かれた。 「貴方の敗因は……それほどの強さを持っていても、一人だったことです。ボクは……ボクもかつては一人でした。 けど……今は信頼する、友達のミューさま達がいるから……ここまで、戦えたんです!」 静かに、ローゼンクロイツと顔を合わせる。 「いえ、残念ながら……私は弱い人間ですよ」 次の瞬間、敵が影となって霧散した。 『それでは、機会があればまたお会いしましょう』 どこからともなく声が響いてきた。 「くそ、逃げられたか!」 ミューレリアが唇を噛んだ。 そして、命のうねりを施し、悠希も含めて回復する。 悠希の刀には、一枚のカードが刺さっている。ローゼンクロイツが戦いの中で使っていたものだ。 いつ身代わりを使ったのか。それとも、始めから「本人」ではなかったのかは定かではない。 「『影の錬金術師』ローゼンクロイツ。一体何者なんだ?」 彼の使った不可思議な力は、魔法か、超能力か。 相手が本当に本気だったのかも含め、敵に対する謎が彼女達の中には残った。 |
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