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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第2回/全3回)

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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第2回/全3回)

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(・決着)


「まだ敵がいるのか」
 指令室へ向かう最後の通路の途中に、傭兵と強化人間兵の姿があった。
 スナイパーライフルを携えた女性兵士は、かなりの手練であるように見える。
「……狙い撃つ!」
 月夜が、ラスターハンドガンで周囲の黒い装甲服の兵に銃撃を行う。
 が、実際に見えているよりも数は多い。迷彩を起動している者達がいるのだ。
 一人ずつ、その姿が露になっていく。敵傭兵の流れ弾が、強化人間の装甲を傷つけているのだ。
 その人物と、刀真がすれ違う。
(樹月、これ渡しておくね)
 それは、黒崎 天音(くろさき・あまね)であった。変装していたがため、声を聞くまで刀真は気付かなかった。
(天音か? 全く……女装してたから分からなかったぞ)
 こっそりと渡してもらったメモリーカードを籠手型HCに読み込ませ、内容を確認する。刀真もさりげなく製造プラント攻防戦で得た情報の入ったメモリーカードを天音に渡した。
(総督はこの先にいるよ)
 それを聞き、彼らは先を急いだ。
 

* * *


 パラミタ内海上空。
 そこに、異変が起こった。
「敵のイコンが――消える!?」
 突如として、戦闘中であったシュバルツ・フリーゲとシュメッターリングが光に包まれ、一瞬のうちに消えてしまった。
 大規模な転送術式。
 そう言ってしまえばそれだけだが、転送するのは人ではなく、イコンだ。
 それだけの「力」を持つ者が敵にはいる、ということになる。
「終わったのかな?」
 秋穂が呟いた。
 イコンが消えた、それはおそらく逃亡したと取れるだろう。
 つまり、内部制圧に成功したということだ。
「秋穂ちゃん、大丈夫ー?」
「うん、大丈夫」
 戦いは終わった。だが、勝利とは言えるようなものではない。
 プラント攻防戦のときとは異なり、多くの仲間が墜とされているのだ。
「……少しでも、強くならなきゃ」
 
「一体、どうして突然?」
「もし、要塞が制圧されたとして、敵のイコン部隊に逃げ場はない。だから、万が一の備えて術式を組んでいたのだろう」
 翔の疑問にアリサが答えた。
「だが、今回の戦い。敵は本来の性能でなくともかなりの力を発揮していた。しかも、こちらの奇襲を察知していた。それにも関わらず、『負ける』ということを想定していたのはどうにも引っ掛かるな」
 
* * *


「どういうことだ?」
 指令室。
 総督は、その光景に目を疑った。
「なぜ、イコン部隊が消えた?」
 まだ、要塞内は制圧されていない。にも関わらず、まるでこちらが負けを認めたかのようになっている。
『総督殿、残念なお知らせがございます』
「ローゼンクロイツか。どこにいる?」
 どこからともなく、声が聞こえてくる。
『「私の力不足のせいで」敵に突破されてしまいました。間もなく指令室に到達することでしょう』
 その言葉に激昂する。
「ふざけるな! 今すぐそいつらを殺せ!」
『総督殿』
 ローゼンクロイツの言葉が続く。
『私が受けた指示は、「要塞内部に侵入されたら、基地を捨てさせろ」というものです。つまり敵がこの中に入った瞬間に、こうなることは決定済みだったのですよ。もっとも、カミロ様にはこのことは存じ上げませんが――「議長」が決められたことですので』
「馬鹿な!?」
『悟られないようにするのも大変でしたよ。それに、この基地のデータは全て削除致しました。それと、間もなくクローン部隊もここから転送されます』
「お前達は、じ……!」
『もう、貴方は十人評議会という単語を口にすることは出来ません。最後に、議長の言葉をお伝えします』
 総督は狼狽し始めた。
『「今までご苦労だった。お前は役目を果たした――さようなら、総督」』
 ローゼンクロイツの言葉はそこで終わった。
「く、に、逃げなくては……!」
 だが、そのとき彼の身体がしびれた。
「逃がしません!」
 指令室の天井から、勇が雷術を放った。
 その直後、扉が開く。
「身柄を確保する」
 クレアが、即座に総督の四肢を銃で撃ち抜き、身動きが取れないようにした。
「見逃してくれ! 私は、騙されてたんだ! 奴らに嵌められたんだ!!!」
 異常なまでに取り乱している。
 目の前の小太りに、月夜がライトニングブラストを浴びせ、気絶させる。そのまま捕縛し、これで要塞の完全な制圧が完了した。
「……ない!」
 指令室のコンピューターに月夜がアクセスするが、全てのデータは削除されていた。
 おそらくは、他も同様だろう。
「この男に聞くしかなさそうだ」
 目の前には、無様に取り乱した末気絶させられた総督がいる。
 どれほどの情報を持っているかは知らないが、他に方法はないようだ。

* * *


「イコンが消えた?」
 メニエス・レイン(めにえす・れいん)は要塞の上部に出て、その瞬間を見た。
「メニエス様!」
 ミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)がその気配に気付き、咄嗟に彼女の前に出る。
「私です」
「ローゼンクロイツ?」
 漆黒のローブを纏った男から、事態を告げられる。
「要塞は制圧されてしまいました。今すぐ脱出致しましょう」
 次の瞬間、メニエスの見る風景が変わった。
 森の中、おそらくはジャタの森の一角だろう。そこへ瞬間移動したのだ。
「それでは、またお会いしましょう。メニエス様」
 一礼をし、ローゼンクロイツは影の中に溶け込むように消えた。