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イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第3回/全3回)

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イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第3回/全3回)
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リアクション

 
「羽化して手足が生えましたが、さてここで『蛇足』とは『余計なもの』の意味です。……足が弱点だったりするのでは?」
『……何が言いてぇ? そうだと思うなら試してみりゃいいだろ。ま、その前に喰ってやる、テメェにも寒い思いさせられたしな』
 
 ギロリ、と睨みつけるニーズヘッグを見た目冷ややかに笑い、鎌田 吹笛(かまた・ふぶえ)が言葉を続ける。
 背後に、メイルーンを連れたエウリーズが迫っているのは確認していた。
 
「最期まで捕食者としてあり続けるか、それとも違う何かになってみるか。
 ニーズヘッグさん、あなたも二択を迫られていますな。
 自分の道を貫いている点で、私は捕食者としてあなたにも敬意を持っています。
 ですから、二択のどちらを選んでも、そこに意志があるならば、私はあなたの選択を尊重します」
『ケッ、まどろっこしい言い方しやがる。そん時ゃ真っ先にテメェを喰ってやるからな』
 
 そこへ、エウリーズから離れたメイルーンが、吹笛の隣に並ぶ。
 
「かつて、今のあなたの様な状況に立たされた方です。彼の話は参考になるでしょう」
「えへへー、いいこと話せるかどうか分からないけどねー。あ、フブちゃんエウちゃん、ちょっと離れてて」
 
 どうやら吹笛とエウリーズのことを『フブちゃん』『エウちゃん』と呼ぶことにしたらしいメイルーンが、二人に離れているように告げる。
「せっかくだし、こっちの方が話通じるかなって思って――」
 直後、人型を取っていたメイルーンの姿が変化し、かつて生徒たちと対峙した時の『氷龍』の姿を取る。
 それでも、全長500mのニーズヘッグと比べると、対峙した時は大きかったはずのメイルーンも、小さく見える。
『……どうかな?』
『どうも思わねぇよ。……ま、ちったぁオレと似た匂いがすっけどな』
『そっかー。……ボクね、最初はこの姿で、イルミンスールのみんなと戦ったんだー。
 何で戦ったのかは、よく覚えてないんだけどね。
 でも、何で、って考えもしなかった。そういうことってないかな?』
『……否定はしねぇよ』
『だよねー。でね、ボク負けちゃったの。
 やっぱり死ぬのかなー、やだなーって思ってたんだけど、みんながボクを助けてくれたの!
 ボクを、生まれ変わらせてくれたんだ!』
『生まれ変わる、って何だよ。テメェはテメェだろ? 何も変わってないように見えるぞ、オレには』
『そうかなー、全然違ってるよー。うーん、言葉で言うの難しいねー。
 よく『運命が変わった』とか聞くけど、それってどういうことなのか説明出来ないよねー』
 
『……そうだな。それでも私たちは、理解したいと思う心を持っている。
 目で見て、身体で触れて、心を伝え合って』
 
 そこへ、同じくかつて生徒たちと敵対した時の姿で、ヴァズデルが現れた。
 
『あっ、ヴァズちゃん!』
『……テメェも似た匂いがすんな。空飛びやがる世界樹には、ヘンなヤツらばかり集まるらしいな』
『そう捉えるのも至極当然であろう。
 ……だが、事実として、私もメイルーンも、あなたが言う『ヘンなヤツら』に命を救われ、新たな命を授けられたのだ。
 是非とも私はもう一度、彼らが奇跡を起こす瞬間を、目の当たりにしたい』
 言ってヴァズデルが、自身に絡ませるようにしてここまで連れて来た生徒、ヴァズデルをヴァズデル足らしめる結果を導いた鷹野 栗(たかの・まろん)とそのパートナー、羽入 綾香(はにゅう・あやか)レテリア・エクスシアイ(れてりあ・えくすしあい)をニーズヘッグの前に導く。
(そう……覚えてるよ、この感じ。ウィール遺跡でヴァズデルの運命を変えようとした時と、よく似ているから)
 今、そのヴァズデルはすぐ傍にいる。自身に巻きつくヴァズデルのあたたかさを感じながら、栗が口を開く。
 
「かつてこの子も、『雷龍』と呼ばれ、恐れられていた頃がありました。
 『龍』は『封印の神子』に封印され、眠りにつくはずでした。
 ……だけど、そうはなりませんでした。
 ヴァズデルは、私たちが自分の運命を変えてくれたと言ったけど、私はそこに一言加えたい。
 
 ヴァズデルも、変わることを望んでくれた。
 だから私たちは、ヴァズデルの運命を変えることが出来た。
 
 どちらか一方だけが望んでも、願いは叶わない。
 私たちと、そしてあなたが共に、変えよう、変わろうと願うことで、はじめて願いは叶う。
 
 ニーズヘッグ、あなたもきっと変われるよ。
 どんな運命にだって、変えられる可能性はあるんだよ!」
 
 言葉を紡ぐ栗を、綾香とレテリアが見守る。
 口調の変化を、栗がニーズヘッグを受け入れようとしていることの表れと見て、二人が笑みを浮かべる。
「……不思議。神話でしか知らなかったものが、ここにはある」
「そうじゃな。しかし、これほど多くの者がニーズヘッグを救おうとしとるのか」
 綾香が周囲を見渡すと、自分たちの他にもニーズヘッグへ言葉を伝えようとしている生徒たちの姿が見えた。
「敵にまで手を差し伸べるとは、皆が言うように、イルミンスールには変わり者が多いのう。
 ……まあ、その中には私も含まれるのじゃがな」
「僕も、だね。……そして、ニーズヘッグも、その中に入るんだ。
 これから先を、誰も知らない物語。それはいつかきっと、誰もが知る物語になるんだ」
 
 レテリアの掌から生み出された光が、生徒たちに、ヴァズデルやメイルーンに、そしてニーズヘッグにも降り注ぐ。
 傷ついた身体を、そして心を癒し、ちゃんと目の前の事に向き合えるように願いながら――。