イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第3回/全3回)

リアクション公開中!

イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第3回/全3回)
イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第3回/全3回) イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第3回/全3回) イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第3回/全3回) イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第3回/全3回) イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第3回/全3回)

リアクション

 
●ニーズヘッグ周辺
 
 ――なぜ、そこまでしてイルミンスールに向かってきたのか――
 ――なぜ、一度撃退され、それでも二度、イルミンスールを襲うのか――
 
 おそらく、今回の事件に巻き込まれた生徒の多くが、抱いているであろう疑問。
 
「……どうして、そこまで傷つきながら、ここイルミンスールへ向かったのですか……?」
「イルミンスールを二度にわたり攻撃する理由が聞きたい。ただ単に腹を空かせているだけ、というわけでも無いでしょう?
 一度目の襲撃で撃退された以上、二度目はより激しい抵抗があることは目に見えているはずなのに、どうして?」
 
 その疑問を、レイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)美鷺 潮(みさぎ・うしお)がニーズヘッグに直接問いただすべく、口にする。
 同様の質問を持っていたザカコも、ニーズヘッグの言葉をじっと待つ。
 
『……なぁ、テメェらの言う『なぜ』って、何だ?』
 
 返ってきたニーズヘッグの言葉は、言葉を耳にした者たちにとって、予想の範囲内だっただろうか。
 返答のないのを目にし、ニーズヘッグがチッ、と面倒がる雰囲気を出しつつ、三人の頭に言葉を響かせる。
 
『何となくだけどな、オレは、テメェらがこうなんじゃねぇかっていう『なぜ』を持ってねぇと思うぜ。
 ここまで傷つきながらイルミンスールへ向かった理由? 一度撃退されてもなお攻撃する理由?
 言えるのはな、『オレが決めたから』、それだけだ。
 ……ま、ラタトスクの野郎が適当なこと言った、もう長いこと世話んなってるユグドラシルが言った、オレが腹減った。
 こうなんじゃねぇかってのは思いつくし、こんなことがあったってのも言える。
 ……だけどな、オレはそれを『なぜ』の答えにはしたくねぇ。
 オレがここにいるのは、オレが決めたからだ。
 オレの意思で、といやあ確かにそうだ。誰かに唆されたわけでも、強制されたわけでもねぇ。
 ……だけど、テメェらにはきっと、くそくだらねぇ理由だろうな』
 
「ふーん、結構ここまで聞こえるモンだなー。
 ……まぁ、話し合いはレイナと他に任して、アタシは邪魔をしようとするヤツをとっちめるか」
 ニーズヘッグとレイナの会話を耳に(実際耳で聞いているというか、何となく『聞こえてくる』感じ)しつつ、ウルフィオナ・ガルム(うるふぃおな・がるむ)が周囲に異変がないか視線と耳を彷徨わせる。
(お嬢様……お嬢様が一人で向かった方がいい、絶対ついてこない様に、と仰られた時は、私ショックでした……。
 ですが、この場にてお嬢様の身を守ることも、また大切なことと思います。
 リリはいつでも、お嬢様のことを第一に考えておりますよ☆)
 そして、ウルフィオナと同様リリ・ケーラメリス(りり・けーらめりす)も、今の流れに納得行かない生徒が暴発してレイナが傷つくことの無いよう、いつでも対応できるように身構えていた。
 
 「イナテミスでは、貴方を攻撃した光の兵器が、今にも貴方を撃とうと準備中かもしれませんよ。のんびり話なんかしていて良いんですか?
 ……ああでも、その子達を人質にでもすれば、貴方は助かるかもしれませんね」
『光の兵器……あれかよ、チクショウ。あいつのせいでオレはこのザマだぜ。
 ケッ、何が人質を取れば助かるかも、だ。テメェ、オレをナメてんのか?
 オレは今までオレだけでここまで来たんだ。それは最期まで変わらねぇよ』
 
 源 鉄心(みなもと・てっしん)の、どこか試すような物言いに、ニーズヘッグが吐き捨てるように答える。
 
「死ぬのは怖くないのですか?」
『……分からねぇよ。だいたいオレは生きてんのか死んでんのかも、分からねぇ。
 もう長い間、死を喰らい、死を背負ってきたからな……』
 
 その呟きは、どこか、寂しさを感じさせるものだった――。
 
「ユグドラシルで、イルミンスールの生徒の面倒を見てくれたんだってな。ありがとう」
『オレは結果として、ユグドラシルにヤツらを連れてっただけだ。面倒見たのはフレースヴェルグとラタトスクの野郎だ。
 ……アイツら、ヤツらをわざわざ連れて来た挙句、高みの見物と決め込んでやがるな』
 
 礼を告げた七尾 蒼也(ななお・そうや)にニーズヘッグがそう告げて、視線だけを青空に向ける。
 蒼也もつられて空を見上げれば、拳より小さいくらいの、なんとか鳥と確認できるだけの姿が見えた。
 あれが、ニーズヘッグの言うフレースヴェルグなのだろう。
 
「みんなの話を聞いてると、お前、けっこういい奴なんじゃないかって思えてきた。すごく強いし、頼りがいがあるし。
 もし仲間として一緒にイルミンスールを守ってくれるのなら、心強いと思う」
『……ヘンなこと言うヤツだな。『死を喰らい、死を背負う』そんなオレを迎え入れでもしたら、たちまち皆死に絶えるぜ?』
 
 挑発にも聞こえるニーズヘッグの言葉に、蒼也が頭を振って答える。
「その時は、同じだけの『生』でお前を迎え入れる。生と死は背中合わせだからな。
 そして、死を食らうというお前は、特別なことをしているわけじゃない。俺達と同じだ」
『…………』
 
 今はこの場にいない、きっとニーズヘッグを助けることを望んでいる者の分まで、蒼也が歩み寄る姿勢と共に言葉を紡ぐ――。
 
 
『テメェのことはよく覚えてるぜ。オレの背中で昼寝してやがったな』
「あーあの時は乗っちゃってごめん! なんかもーすっげー暖かくて居心地良かったー」
「アズサ、そうじゃないってば! ……うん、あたしもちょっと眠っちゃんだけどね?」
 
 佐伯 梓(さえき・あずさ)の姿を認めた途端、ニーズヘッグの方から飛んできた言葉に梓が謝りつつ感想を述べ、カリーチェ・サイフィード(かりーちぇ・さいふぃーど)が慌てつつも、ニーズヘッグから殺気が感じられないのを確認してぽつり、と呟く。
 
「ほんとに話出来るんだねー。じゃあ、ユグドラシルの事とか、ほんとの事色々教えてくれたら嬉しいなー」
『ほんとのこと、って何だよ。ユグドラシルは何考えてるか知らねぇし、オレがここに来たのはオレがそう決めたからだ』
「そっかー。じゃあ、イルミンスールや俺たちのことどう思ってるー?」
『とにかくヘンなヤツらだな。世界樹が空飛ぶのも、オレを仲間にしようとか言い出すのも、何考えてんのかさっぱり分からねぇよ。
 ……ま、それを否定するつもりはねぇけどな』
「そっかー。そうだよねー、興味無かったらここまで来ないよねー」
 
 あははー、と笑う梓を見て、カリーチェはアズサらしいな、と思い至る。
 人によっては、ニーズヘッグが自分たちのことを『ヘンなヤツら』と評した時点で、自分は否定されているのでは、という疑念を抱くかもしれない。
 そうではなく単にニーズヘッグは率直に感想を言っているだけで、その人を否定していないことはカリーチェには何となくだが分かっていたし、アズサも多分、ニーズヘッグがそう言うんだからそうなんだろうなー、位に考えているのではないだろうか、と思い至る。
 
「うーん、話すこと思い浮かばなくなっちゃった。実は俺、ここに来たのって、もう一回乗ってみたかっただけなのかもー」
「あ、アズサっ!?」
 と思いきや、梓の言動に予想外とばかりの反応を見せるカリーチェ。
 恐る恐るニーズヘッグの様子を伺うと、しかし襲いかかってくる気配はない。
『……勝手にしやがれ。テメェ一人乗っけたところで、何も変わんねぇ。戦いになっても助けねぇからな』
「うん、分かったー」
「ちょ、ちょっと待ってってばアズサっ」
 
 頷いて、梓が箒をニーズヘッグの胴体へ近づけ、そっ、と足を着ける。
 硬くもあり柔らかくもある感触に、梓がこの上ない幸せと共に口を開く。
「生きてて良かったー」
『……なぁ、なんでテメェはそう思える? どうしたらそんな言葉が出てきやがるんだ?』
 
 カリーチェも恐る恐るニーズヘッグの背に降り立ったところで、そんな言葉がニーズヘッグから漏れ出る。
「うーん……俺はいつか死ぬから、かなー。だから、必死で生きよーって思うし、生きてて良かったー、って思うんじゃないかなー」
『……何だよそれ。答えになってねぇだろ。……ま、答えくれるつもりで聞いてねぇけどよ』
 
 なおもうーん、と考え込む仕草を見せていた梓が、ポン、と閃いたように手を叩いて口を開く。
 
「イルミンに来るー?」
『……テメェもかよ。ほんとヘンなヤツらばっかりだな』
「えとー、悩んでる事とか、知りたい事とかあったら、もっと近くでじっくり観察するのがいいかなーって。
 あっ、ユグドラシルを大事に思ってるとかなら、無理にとは言わないよー」
「……そうね。皆、怖い思いしたと思うんだけど……あなたと分かり合えるならそうしたいって思うわ」
『…………』
 
 飾らない、『素』の言葉はニーズヘッグにどう届いただろうか――。
 
 
「皆、何を甘いことを考えているんだい?
 ここでニーズヘッグを逃がすようなことになれば、きっと次は仲間を引き連れて戻ってくるよ。
 それでもいいのかい? このままニーズヘッグを消滅させた方が、イルミンスールの為になると思わないかい?」

 
 ニーズヘッグへの説得が進む中、唯一、ニーズヘッグを積極的に消滅させることを主張するブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)
 しかし、彼の言葉に表立って賛同する生徒はいなかった。心の中では悩みつつまだ様子を見よう、という生徒と、説得できるならそうした方がいい、と思う生徒ばかりであった。
(ま、これはボクも予想していたよ。
 ……だけど、そうはさせない。ボクの見立てでは、ニーズヘッグはユグドラシルの秘密を知っている。今ここでニーズヘッグがイルミンスールにつかれては、困るんだよ。
 ……ニーズヘッグ、帝国の為に、消えてもらおうかな)
 不敵な笑みを浮かべたブルタが、ニーズヘッグに呼びかけようと心に強く念じる。
 しかし、返事は返ってこない。周りがそうしているように、口から言葉を伝えなければ会話は成立しないようである。
(仕方ないね。ま、伝えなければならない情報もあるし、ボクが自ら行くしかないかな。
 大丈夫……正義はボクにあるよ)
 レッサーワイバーンに乗り、ブルタがニーズヘッグを目指す。
 彼が思う、彼の正義を実現させるために――。