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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第2回/全3回)

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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第2回/全3回)

リアクション

 

甦る者

 
 
「これじゃ、本当に迷路だねぇ」
 まったく同じ外観の通路を見渡して清泉 北都(いずみ・ほくと)がちょっと溜め息をついた。
「道案内でも探すか?」
 ソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)が言った。
「なんでも、変な霧とか、ちっこい機晶姫とかが徘徊してるんだろ。霧とゴチメイと言えば、あれだ、タシガンの城のあいつだな。ストゥ伯爵とか名乗ってたっけか? 人の意識が形をとるんなら、霧を見つけてあいつを作りだせばいろいろと役にたつんじゃないか」
「おお、それはいいねえ。昶、匂いで霧とか分からないかあい」
「うーん、まあ、任せておけって」
 白銀 昶(しろがね・あきら)が、超感覚であちこちをクンクンと嗅ぎ回り始めた。
 進んで行くと、ちょっとした戦闘の跡のような場所に辿り着く。
「このへんだ。ここあたりで、例の黒蓮の匂いがするぜ」
 間違いないと、白銀昶が壁をバンバンと叩いた。
「じゃあ、試してみるぜ」
 ソーマ・アルジェントが、ストゥ伯爵の姿を強く思い浮かべてみた。その思いに引き寄せられたかのように、白い霧が微かに集まり始め、朧ではあるが人の姿のような物をとり始めた。
「おお、本当にできるとはなぁ。さっそく、ゴチメイたちのところに案内してもらおう」
 嬉々として、清泉北都がストゥ伯爵の幻影に道を訊ねた。
「我が名はストゥ……」
「いや、それはいいから、ゴチメイはどこにいるんだ?」
「我が城の中に」
「タシガンの城だってぇ? さすがにそれはないだろぉ」
 ちょっと発言がおかしいと、清泉北都がストゥ伯爵を問い質した。
「我が名はストゥ。虜は我が城の中に……」
 だが、幻影はこの言葉を繰り返すだけだ。これで埒が明かない。
「おいおい、これって、欠陥品なんじゃないのか?」
 さすがに、白銀昶も呆れて言った。
「ふむ。やはり、俺の意識から作った幻影じゃ、俺の知っていることしか知らないようだな」
 うんうんとうなずきながら、ソーマ・アルジェントが言った。だか、それではまったく役にたたない。
「はあ、何か他の手を考えないとねぇ」
「んっ? なんだか、もう少し強い匂いがするぜ」
 溜め息をつく清泉北都に、白銀昶が鼻をクンクンさせて言った。
「ここから出て行きなさい。ここは危険です」
 白いドレスを着た少女が、清泉北都たちに警告を告げた。
「あれは、湖で見た子かなぁ。こっちの方がよっぽど頼りになりそうだなぁ」
「よし、今度こそ俺に任せろ」
 ソーマ・アルジェントが、清泉北都に言って少女の前に進み出た。
「ヘーイ、そこの彼女。ちょーっと、俺とつきあってくれない? 美味しいチョコもあるぜ」
 ソーマ・アルジェントが少女に声をかけた。だが、これではまるでたちの悪いナンパだ。
 当然のように、少女がスーッと後ろに下がっていく。
「だめじゃないかぁ。みんな、追いかけるよぉ」
 清泉北都たちは、あわてて少女の幻影を追いかけていった。
 
    ★    ★    ★
 
「まったく。ほとんど来た道を戻っているのだよ。とんだ無駄足だったのだ」
 アラザルク・ミトゥナの幻影に導かれながらも、リリ・スノーウォーカーはぼやくことしきりであった。
 もともと、少女の方を追いかけて走り回っていたので、あっちこっちを堂々巡りしていたのだからあたりまえと言えばあたりまえなのだが。
「ふっ、それだけ歩いていて収穫がないなんて」
 意味もなく勝ち誇る日堂真宵ではあったが、自分だって似たようなものである。だが、自分に都合の悪いところは見えないという便利な目をしているので全然気づいてはいない。
「まあ、いいじゃない。そのおかげで、みんなこうして合流できたし、地図だって分かったんだよ」
 地図データを提供した小鳥遊美羽が、二人の間に入った。彼女の言う通り、交流できなければ未だに自分たちがどこを歩いているかも分からなかっただろう。
「よく言うわよ。いきなり現れてこの人を吹き飛ばしかけたときは焦ったんだよね」
 ユノ・フェティダが突っ込んだ。
 小型機晶姫には対して効果がなかったコハク・ソーロッドらが持っている大型扇風機だが、不安定な状態のアラザルク・ミトゥナの幻影には多少効果があって、あわや一同は道案内をなくすところだったのだ。
「とにかく、こうして進んで行けばもっと人を拾えるかもしれないから、リンちゃんたちを助けられる可能性が上がると思うんだもん」
 小鳥遊美羽は、みんなでゴチメイを助けに行く気満々だ。
「おう、ついに、リンちゃんにカレーを食べさせられるときが来たのでデース!」
 何やらこの状況を利用して悪巧みをするアーサー・レイスであった。
「うゅ? ねえ、まだテレパシーは繋がらない、なの?」
「うーん、やっぱりだめみたい。リンちゃんたちに意識があれば、応えてくれるはずなんだけど……」
 エリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)に強く引っぱられて、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)が少しすまなそうな顔をした。
 どこに捉えられていようとも、テレパシーなら連絡がつくはずなのだが、いくら話しかけてみてもまったく反応がない。こうなると、テレパシーさえ遮断できる場所に捕らわれているか、ちょうど寝ているなどしていて意識がないかのどちらかだ。
「役にたたないのです、それに比べて、今のテスタメントは完璧なのです」
 小鳥遊美羽からマップデータをコピーさせてもらって自信を取り戻したベリート・エロヒム・ザ・テスタメントが言った。
「そうは言われてもねえ」
 さすがに、方法がないのではどうしようもない。
「機晶爆弾の設置終わりました」
 そこへエシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)が作業を終えて追いついてきた。
 共有しているマップデータを元にして、要所要所に機晶爆弾を仕掛けながら進んでいるのだ。本来であれば、主要施設にポイントを絞って仕掛ければ、ゴチメイをさらうなどと言う敵対行為をおかしたこの遺跡を完膚無きまでに破壊できるのだろうが、今のところはまだまだ探索中で、重要ポイントと呼べるような場所には到達してはいない。代わりに、出口への通路の要所に機晶爆弾を仕掛けて、脱出の際のショートカットや、万が一追っ手などが来た場合のトラップとして使えるようにしていっているのである。
「しかし、この遺跡全部を壊すには、もっと機晶爆弾を持ってくればよかったでしょうか」
 やや物騒なことをエシク・ジョーザ・ボルチェが口にした。
「外壁に穴でも開ければ、外のイコンでどうにでもなるわよ」
 ローザマリア・クライツァールは光学迷彩で姿を隠すと、少し先行して様子を見にいった。
「ヴウルルルルルル……」
 不意に低い唸り声がしたので、ローザマリア・クライツァールはあわてて壁際に身を寄せた。テレパシーで、一同に待つように言う。
「何か、モンスターでもでたのかなぁ」
 またたび明日風が、ちょっとびくびくしながら言った。