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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第2回/全3回)

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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第2回/全3回)

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 ゲリとフレキがゴチメイたちの匂いを覚えていたので、それを先導として、一同は秋月葵が割り出した方向に迷うことなく進んで行った。
 ほどなくして、少し広い部屋に辿り着く。部屋の中には、幾本ものシリンダーが林立していた。それらの幾本かは、青白い光に満たされていた。
「ここに、ゴチメイが囚われているのかしら」
 リネン・エルフトが、ゆっくりと中に入って行きながら言った。
「そう。ここに、みんなが囚われています。あなた方は、自力で辿り着いてくれたのですか?」
 ゆらゆらとゆらめきながら、リリ・スノーウォーカーたちを先導してきたアラザルク・ミトゥナの幻影が先に辿り着いていたカレン・クレスティアたちに言った。
「発光しているシリンダーにスイッチがあるはずです。それを操作すれば、光条はゆっくりと消えていきます。完全に消えてしまえば、中にいる者たちを助け出せるはずです。私の今の状態では、完全には物質に触れたり動かすことはできません。あなた方の力が必要です。お願いします、ココたちを助けてください」
「ここでよかったんですね。さすがは俺です。さあ、さっそくゴチメイのみんなを探しましょう」
 なんだか手柄を独り占めするようなことを言いながら、クロセル・ラインツァートが室内のシリンダーを調べ始めた。他の者たちも、次々にそれに倣う。
「お宝は、私の物よー」
「ゴチメイたちから取り出したというスパイスはどこですカー」
 日堂真宵とアーサー・レイスが、思いっきり別の目的で室内を家探しし始めた。
「あなたが、ええっと、アラザルクくんでしたか。あなたは、一体誰なんです?」
 ゴチメイの捜索は他の者たちに任せて、月詠司がアラザルク・ミトゥナの幻影に訊ねた。
「私ですか? 私は、そう、ココとアルディミアク様の保護者……というところでしょうか。正確には、アルディミアク様おつきの従者と言うことになりますが……」
 アラザルク・ミトゥナの幻影が、月詠司に答えた。
「ほう。だが、それは正しいことなのか? 何度かそなたを見かけた者がいると聞くが、その都度、その他の言動は微妙に異なると記録されているが」
 完全には警戒を解かずに、ウォーデン・オーディルーロキがアラザルク・ミトゥナの幻影を問い質した。
「さあ、あなた方の見た私だという者がどういう者かは分かりませんが、もしも、霧が作りだした物だとしたら、そのときどきのアルディミアク様の記憶の断片が不完全に再現された物なのでしょう。この霧の性質としては、純粋な記憶で再構成される場合と、複数の記憶、いわば不純物が混ざった形で再構成された物に分類できるでしょうから」
「では、そなたは、純粋な構成体であるとでも?」
「ええ」
 アラザルク・ミトゥナの幻影は、自信を込めてウォーデン・オーディルーロキたちにうなずいた。
「私自身はすでに数千年前に死んでいますが、ここにある光条エネルギー吸収装置と同じ物をアルディミアク様の再生カプセルに改造したとき、その記憶の全てをデータ化して保存しました。今の私は、その記憶が、アストラルミストの再構成によってなんとか形らしき物を具現化させたものです。そうですね、不完全な魔道書みたいなものでしょうか」
「アストラルミストですか?」
 今まで生きた霧とか単に霧と呼んでいた物と同じ物なのだろうかと、月詠司が首をかしげた。
「思考のもつ関連性を具体的な結合として、アストラル体を物質体にコピーして構築するものです。原理自体は、魔法の波動なども解析できるため、逆の構成パターンを構築することによって相殺すると共に純エネルギーに変換し、その後蓄積したパターンに再構成することもできるのですが、コンバータとしての理論だけでしたので、プールする部分に欠陥のある理論でしたから、あまり応用できない物でしたね。へたに適用すると、全て自壊してしまいましたから。この理論は、この遺跡を解析して部分的に判明したものだとされています。魔道回路は完全には解析されなかったようですから、不完全なままです」
「この遺跡は、いったいなんなのです?」
「さあ、私もそこまでは。もしかしたら私のオリジナルは知っていたかもしれませんが、私の記憶装置にはそのデータはありませんね。私に分かるのは、原理と、その根拠となった事象だけです。今まで見た感じですと、ここは太古の遺跡のようにも思えますが、断定はできません」
 月詠司たちとアラザルク・ミトゥナの幻影が問答を行っているうちに、リリ・スノーウォーカーたちがシリンダを操作してゆっくりと光条を減衰させていった。
「リンちゃんみっけ!」
 一つのシリンダの前で、小鳥遊美羽が叫んだ。
「うゆ? どこ、どこ、なの?」
 あわてて、エリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァが駆けてくる。
「おしい、こういうパターンだと全裸と決まっているのに、ちゃんと服を着ているじゃないか」
 なんだかとっても残念そうに、フェイミィ・オルトリンデが言った。
 部屋の奥にはドーム状に光条がはられた場所があり、その中にはジャワ・ディンブラ(じゃわ・でぃんぶら)が囚われていた。
「わわっ、これはなんでしょう!」
 光条の中からゴチメイの誰かが現れるのだろうとじっと待っていたまたたび明日風が、突然悲鳴をあげた。
 シリンダーの中にいたのは、ミイラ化した女性の遺体だったからである。
「いったい、ここはなんの施設でござる?」
 いつの間にか人々の中に自然に混じっていた服部保長がつぶやいた。
「この設備からして、光条砲などと同じ施設でしょう。つまり、剣の花嫁から強制的に光条エネルギーを吸い出すものです。かわいそうな彼女たちは、一番最初にこの遺跡を起動するときのエネルギー源に使われたのでしょう」
 ゆっくりとココ・カンパーニュの方へ歩み寄っていきながら、アラザルク・ミトゥナが言った。
「ココたちは、大丈夫なの?」
 そんな所に囚われていて平気なのかと、カレン・クレスティアが心配して言った。
「彼女たちは剣の花嫁ではありませんから。光条石のエネルギーを全て奪われて絶命することはありません。不幸中の幸いだったと言えるでしょう」
「だったら、アルディミアクは危ないんじゃ……」
 ゴチメイ隊の中で唯一剣の花嫁であるアルディミアク・ミトゥナのことを心配して、小鳥遊美羽が叫んだ。
「その、アルディミアクがここにはいません」
 エシク・ジョーザ・ボルチェが、皆に告げた。
「その通りです。早く見つけだして救わないと……。それには、まずココたちに目覚めてもらわないと。ココ、ココ、聞こえますか、目を覚ましてください」
 アラザルク・ミトゥナの幻影が、シリンダーの台座に背をもたせかけるようにして座らせてもらったココ・カンパーニュの身体をゆさぶろうとした。だが、今の彼の身体ではそれは無理な話だ。
「俺が、代わりにやりましょう。なあに、ココさんとは、過去に一度キスをした仲です。こういうときは王子様の目覚めのキスで一発ですよ」
 なんだかとんでもないことを言いながら、クロセル・ラインツァートが名乗りをあげた。そのまま唇を突き出して、両肩をつかんだココ・カンパーニュの唇に近づいていく。だが、その顔が、いきなりがっしりと手でつかまれた。
「とっくに目は覚めてるよ」
「い、痛いです、ココさん、痛い……」
 クロセル・ラインツァートの顔をつかんだ手に、ココ・カンパーニュが力を込める。このままさらに力を込められたら哀れクロセル・ラインツァートの顔はドラゴンアーツで握り潰されたリンゴと同じ運命だ。
「ココ、今はそのへんで」
 そう声をかけられて、ココ・カンパーニュがはっとしたようにクロセル・ラインツァートから手を放した。
「その声は、アラザルクなの?」
「ええ、お久しぶりです、ココ・カンパーニュ」
 ココ・カンパーニュの問いに、アラザルク・ミトゥナの幻影がニッコリと微笑んでうなずいた。
「なあんだ、想像していたよりも、いい男じゃない」
「そうですか? ああ、顔を合わせるのは初めてでしたね。今まで、声だけでしたから」
「それにしても、どうしてそんな姿に……」
 ちょっと、輪郭のぼやけた立体映像のようなアラザルク・ミトゥナの姿に、ココ・カンパーニュがあらためて訊ねた。
「いろいろありまして。でも、今はそれよりも、アルディミアク様です。お願いします、彼女を助け出してください」
「もちろん。そのために、私はここにやってきたんだから」
 そう言ってアラザルク・ミトゥナに手をのばしたココ・カンパーニュであったが、その指先が触れ合ったとたん、アラザルク・ミトゥナの姿は霧に解けてしまった。その霧が、ココ・カンパーニュの両腕のブレスレットに吸い込まれて消えていく。
「はわ、リンちゃん、目が覚めた、なの?」
「うーん、頭痛いんだもん……」
 エリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァに手を引っぱってもらって、リン・ダージ(りん・だーじ)が立ちあがった。チャイ・セイロン(ちゃい・せいろん)ペコ・フラワリー(ぺこ・ふらわりー)マサラ・アッサム(まさら・あっさむ)、ジャワ・ディンブラも次々と意識を取り戻す。
「さあ、おめざには激辛カレーデース。痛い頭も一発ではっきりとしマース。ささ、駆けつけ三杯デース♪」
 どこから取り出したのか、アーサー・レイスが湯気の立つカレー皿をリン・ダージの鼻先に突き出した。
「リンちゃんに何するの!」
 小鳥遊美羽とエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァの息の合った一撃が、カレーごとアーサー・レイスを吹っ飛ばした。
「懲りないわねえ」
 ほうっと、日堂真宵が溜め息をつく。
 その間に、ココ・カンパーニュたちはみんなから説明をうけていた。ココ・カンパーニュたちの方はどうしてこうなったかというと、アルディミアク・ミトゥナを探すうちに茨ドームが開いて中には入れたのだという。そこまではよかったが、東にあるイコン格納庫のそばに飛空艇を停めて降りたとたん、何か攻撃を受けて気を失ってしまったのだそうだ。そして、気がついたら、皆に助けられていたというわけである。
「で、その隊長とやらか、オプシディアンってやろうが、この遺跡に悪さしてこうなったってわけだな。よくは分からないが、悪い奴だけは分かった」
 ココ・カンパーニュが、パシンと拳を掌に打ちつけて音をたてた。
「それで、シェリルはどこにいるんだ?」
「たぶん、さっきトレジャーセンスで見つけた星拳の場所だと思うんだもん」
 秋月葵が、マップデータをココ・カンパーニュに見せながら言った。
「よし、すぐにそこへ行くよ。邪魔する者は、ぶっ飛ばす!!」
 さっと動かした右手の一振りで、自分が囚われていたシリンダをドラゴンアーツで粉々にすると、ココ・カンパーニュがみんなに言った。