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【戦国マホロバ】壱の巻 葦原の戦神子と鬼の血脈

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【戦国マホロバ】壱の巻 葦原の戦神子と鬼の血脈

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第二章 葦原の戦神子2

 葦原城ではルカルカ・ルー(るかるか・るー)葦原 総勝(あしはら・そうかつ)と謁見していた。
 このとき総勝は武菱の動きを探るべく、斥候や間者を送り込んでいた。
 その斥候に接触し『葦原の危機を伝えに参った』と御前にと連れてこらえたのが、ルカルカだった。
 ルカルカは、葦原は鬼城 貞康(きじょう・さだやす)と手を組むべきだと説いた。
「武菱軍は、鬼州国の街道沿いにある四方ヶ原で戦を仕掛けようとしています。葦原が援軍をだし、同盟を結んでください」
「貴殿は何者ぞ? 鬼城の使者でもないものが、他国の同盟を勝手に申し出るとは筋の通らぬ話じゃが」
「俺たちは葦原の縁者だ。今は訳あってここに居るが……そのうち、遠い未来で、俺たちのやろうとしている意味が分かる」
 ルカルカのパートナーダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は、そういって持参してきた携帯用コンピュータを開いた。
 あらかじめ撮影してきた四方ヶ原一帯の様子らしい。
 もちろん、総勝は初めて見る代物であり、ぼんやりと鏡のように光り輝く上空からの映像は、それは不思議なものであった。
「……確かに、予の手元にある地図と似通っておるが……もし、それが本物なら……予の恐れておることが……事実となったということか」
「どういうことですか?」
 ルカルカが聞き返す。
 総勝は神妙な顔を崩すことはなかった。
「知っておろう、葦原の御筆先じゃな」
 ルカルカは息を呑んだ。
 ダリルが身構えて言う。
「まさか、この時代の御筆先に、俺たちのことが書かれてるってことか?」
 総勝が返答しないことが、事実を物語っている。
「その御筆先があったから、葦原はここまで生き延びることができたんじゃないですか……? そしてその力は、代々葦原の神子によって受け継がれてきた。そうですよね、葦原の戦神子さん?」
 風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)はそういいながら、戦神子こと葦原祈姫(あしはらの・おりひめ)とともイコンラックベリーに乗ってやってきたという。
 途中、葦原国での降雪に悩まされつつ、葦原国内にある神社を訪ね歩いていた。
 この時代に居るはずの『葦原の神子』を頼ってのことだった。
 優斗は、そこで葦原の戦神子たちと彼女を追うものたちに出会ったのだった。
「西暦2022年のマホロバにやってきた葦原の戦神子が、この時代に居るわけをもっとちゃんと教えてください。僕らの知っている過去は、鬼城貞康は四方ヶ原では死なないし、扶桑も枯れない。御筆先はどうなってるんですか?」
「おじいさま……」
 葦原の戦神子は困ったように総勝をみた。
 葦原国主は孫娘を抱きしめると、安心させるように背中をぽんぽんとたたき、優斗たちに言った。
「鋼鉄の轟(ごう)に乗ってやってきた者たちよ。未来を知っているからといって、必ずしもその先が約束はされているとは限らぬ。すでにもう、歴史は変わってるではないか。そなたたちがここにいるということが何よりも証拠。『御筆先』も今も変わり続けていることだろう」
「では御筆先は……『葦原が鬼城に協力することは正しい』とわかってるんですね? この時代の御筆先を見せてくれませんか?」
 優斗はなお食い下がった。
 彼のパートナーの鬼城の 灯姫(きじょうの・あかりひめ)が彼の袖を引っ張り、目を伏せる。
「優斗……神子や葦原国主を困らせてはならん。この時代の情勢は、まだわからんのだぞ」
「そういっても、灯姫。君のこともあるんだよ。もしこのまま……鬼城の血を引く姫が、存在そのものがなくなったら……!?」
 灯姫は鬼城家に生まれながら将軍継嗣の資格無く、マホロバ城の地下に閉じこめられていたのを優斗に救われた経緯がある。
 彼にとっても彼女にとっても、他人事ではなかった。
 総勝は痛む足下を押さえ、立ち上がるなりこういった。
「貴殿らの知る鬼城はまだ力を持たぬ。風雨さまよう一枚の葉っぱ同然じゃ。この葦原総勝。たとえ卑怯者とののしられても勝てぬ戦はせぬ。葦原の民のため、いつの日か建国されるであろうシャンバラ王国のため。その志を繋げてゆくためにもな!」
 そして、こう付けくわえた。
「しかしながら、貴殿等の助言感謝いたそう。『未来からの使者』よ。……ところで……わしは、後の世で暗君という記述はあったじゃろうか?」



「先の世を知る者のみならず、鉄の鬼まで連れてきてしまったか。そこまでせねば、このマホロバを……扶桑を保てない時がくると申すのか?」
 月をくぐって乗ってきたという鬼鎧らの報告を聞いた総勝は、葦原の戦神子と二人きりになった。
「それで……祈(おり)は、いったいどの時代の姫かのう? 予の知っている姫は、まだ七つのはず……どうみても、十は越えてるように見えるがの……」
 総勝は、孫娘の葦原 祈姫(あしはらの・おりひめ)またの名を葦原の戦神子に訪ねた。
 祈姫は涙を流している。
「……ごめんなさい。おじいさま、ごめんなさい……」
 総勝は来るべきときが来てしまったのだと悟った。
「『御筆先』に翻弄されるのは、我が葦原一族の宿命(さだめ)。しかも、この宿命を真実へと導くのは、『時空の月』をくぐってきたもののみか。……すまんの
、祈。きっと近い将来、予はすべてを祈に託すのだろう。そして後悔したことだろう。まだ小さいそなたに、この宿命はあまりにもむごすぎる……」
 祈姫はわっと泣き出した。
 総勝の目にもうすっらと光るものがあった。
「本来なら葦原の柱となるべきそなたの父をあのように育ててしまったのは予の責任じゃ。許してくれよ……祈姫よ」


卍卍卍


 葦原総勝は情勢的に鬼城との同盟は無理だとの判断を示していた。
 戦国の世ではいつ味方が敵に、敵が味方になるかもわからないとも言った。
 そのルカルカ・ルー(るかるか・るー)たちからの知らせを受けて、パートナーのカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)夏侯 淵(かこう・えん)は、急ぎ四方ヶ原へと引き返す。
「めんどくせえが、仕方ねえな。まだ間に合うといいが」と、カルキノス。
 淵は、鬼城貞康にも取り付ける必要があることを感じた。
「俺たちを頼ってもらえるようになるには、それなりに働きを示さないとな」
 彼らは途中、葦原の隠密からつけられている諸葛亮 孔明(しょかつりょう・こうめい)沖田 総司(おきた・そうじ)を見つけた。
 孔明が葦原国の領内で、『戦国の世に泰平をもたらすため鬼城との協力同盟を!』と、遊説していたためだ。
 総司が孔明をせかす。
「もうその辺でいいでしょう、孔明さん。葦原総勝に目をつけられたようですよ」
 隠密の気配を察知して、総司が言った。
「ふむ、さすが総勝殿。領内では好きにさせてはくれませんか。しかし、私たちは鬼城貞康の死を回避させるのが目的です。こうやって少しづつでも葦原に種を巻き、芽吹いてくれればよいのです」