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インベーダー・フロム・XXX(第2回/全3回)

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インベーダー・フロム・XXX(第2回/全3回)
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【2】 ROUNDABOUT【6】


「痛てててて……」
「もう、無茶しないで。元気なのは結構だけど、もう40歳なんでしょう?」
 腫れ上がった大文字の身体に、雅香は湿布を貼ってあげた。
 ここは学院の近くにある大人のBar。
 あれから何度となく立ち上がってくる大文字に、バロンはこのままだと危険と判断し、勝負半ばで決闘は終わった。奈津との決着はまた今度になりそうだ。
「しかし、今日は不思議な日だ。こんなにもたくさんの人に、一日で会ったのは新年会以来だな」
「そ、そうねぇ」
 皆で足止めしてるからねぇ、と思いつつも、自分も足止めに来てる彼女は口をつぐんだ。
(ま、足止めはついで。たまには楽しい時間を過ごしたいし)
 最近、気になる大文字を、雅香はうっとりと見つめた。
「それにしても、雅香さん。今日は随分とその……」
「ふふふ、色っぽいかしら?」
 身体のラインの出た服は、スタイルのいい彼女の魅力を引き立てていた。
「ん、ああ、そ、そうだな。とてもよく似合っている」
「ありがと。それを聞いて安心したわ。事前に勇作さんの好みの服を聞いておけば良かったって、家出る時に悩んだんだから」
「私の?」
「あら、好みの服を聞かれるのはお嫌い?」
「そんな事は無いが、なにぶん近頃の流行にも頓着が無い男なのでね。ファッションなんてパイロットスーツぐらいにしか興味がなくて。あらためて訊かれると困ってしまう」
「本当にお仕事が好きなのねぇ」
「おかげでこの歳まで独身だがね」
 大文字はグラスを傾け、自嘲気味に笑った。
「世の中は広いのよ、勇作さん。研究対象は、格納庫や実験室の中だけじゃないわ。すぐ傍にもあったりして、ね」
「……ほう、それは調べがいがありそうなテーマだ」
 なんだか良い感じだった。
「それにしても勇作さん、とても鍛えてるのね。整備って肉体労働なとこがあるから、そういう人は整備科にもいるけど、でもここまで逞しい人はいないわ。スポーツでもしてるの?」
「ああ、身体を動かすのは好きだ。よく走ってるし、たまに山登りにも行くから、自然と身体が仕上がってるのかもしれん。その所為かもしれませんな。ま、研究者にガタイの良さは無用だがな、ワッハッハッハ」
「へぇ。私、水泳とかサイクリングが趣味なんだけど、良かったら今度一緒に行きません?」
「水泳とかサイクリングか、それはいい考えだ。是非、行こう」
「そして身体を動かしたあとは……」
「懐かしロボアニメカラオケなんてどうかな?」
「あら、私もちょうど同じ事考えてたのよ」
「ほう、それは凄い偶然だ」
 2人は見つめ合った。Barのカウンターを照らす橙色の照明が、2人の瞳を硝子玉のように奇麗に映し出した。
「雅香さん……」
「勇作さん……」
「あー見付けた先生! 頼むよ、G計画について教えてくれ!」
 静寂をぶち破る音を立ててBarのドアが開き、桂輔がしつこくもまぁ頼み込みに来た。
 大文字と雅香は慌てて視線を逸らし、むっとした表情をお邪魔虫に向けた。
「先生! 先生ってば!」
「お前もしつこいな……」
「大体、ここは子どもの来るとかじゃないわよ」
「教えて教えて!」
「……行きましょう、雅香さん」
 壊れた機械のように迫る桂輔から逃げるように店を出た。
 Barを出ると陽は落ちかけていた。

 ・
 ・
 ・

「先生、頼むよー! 教えてくれよー!」
「あーしつこい。あーうるさい。お前が喧しいから、雅香さんも呆れて帰ってしまったではないか。まったく」
 付いてくる桂輔から逃げるように、大文字は御柱学院への道を急いでいた。
 校門をくぐり、普通科校舎が見えたところで、ふと呼び止められた。
「探しましたよ、大文字博士」
「ん、万馬博士……?」
 彼は万馬治(まんば・おさむ)博士。大文字の同僚の研究者だ。
 歳は大文字より、五つ六つ下だが、荒々しい大文字とは反対に紳士的な印象を与える人物だ。
「私に何か用かね?」
「博士にお客様が見えていますよ」
「また?」
 彼の後ろに、七枷 陣(ななかせ・じん)小尾田 真奈(おびた・まな)が立っていた。
「待っとったで、博士。随分、研究室空けとるから帰ったんかと思ったわ」
「君は?」
「おお、挨拶がまだやったな。蒼空学園の七枷や。こいつは相棒の真奈」
 真奈は軽く会釈をした。
「今、海京を騒がせてる事件を追ってる。ちぃと話を聞かせてもらってもええか?」
 陣は事件被害者の写真を見せた。
「面識は?」
「……いや」
 しかし大文字の緊張した様子に、陣は何かあるな……と気付いた。
「被害に遭ったイコン研究者はなんでも今度、ここの普通科に招聘される事になっとったそうや。あんたと同じ普通科にな」
「それが私と何の関係が?」
「私たちはこう考えています」
 真奈が口を開いた。
「海条様は事件に巻き込まれたと考えて除外するとして。今回の被害者達は大文字様の唱えるスーパーロボット理論を実現する為の賛同者と見れば繋がるのではないでしょうか?」
「!?」
「敷島様と三郷様はスポンサーで、他の技師の方々は各技術方面での同志。クルセイダー……ご存知ないかもしれませんが、この事件の実行犯たちは未来から来た組織のようです。彼らの親玉は未来において、大文字様の理論による兵器に苦戦しているため、私達の居る現在へ赴き各関係者と資料を抹消しているのでは?」
「未来だと……?」
 大文字は困惑し、万馬と顔を見合わせた。
「とすれば、次に狙われるのは近い内に大文字様と合う予定のある技師。またはイコン関連のスポンサーとなりえる方。それが居なければ……大文字様自身がターゲットになるかと」
「あんた、これから会う予定のある研究者や、スポンサーになりえる関連資材会社の重役はいるか?」
「……それぐらいにしないか、君達」
 万馬が言った。
「君達は警察ではないだろう。大文字博士に尋問のような真似は止めたまえ」
 陣は万馬を値踏みするように見た。
「あんたは?」
「僕は今月から普通科に招聘された講師だ」
「……専門は?」
「む……、機晶エネルギーの研究開発が専門だが?」
 真奈は声を落として、陣の耳に囁いた。
(……陣様、この方は)
(ああ、例の”計画”の一員かもしれん。いや、十中八九そうやろうな。この話題を出したら、大文字の様子がおかしなるのは想定内やけど、こっちの博士さんまで動揺が顔に出とるからな)
(では、次の標的になるのは……)
(ああ、この博士かもしれん。とにかくクルセイダーに警戒しとる奴らに報告や)
(かしこまりました)
 真奈が携帯を手にしたその時、不穏な空気が辺りを包み込んだ。
 喧噪が遠ざかり、世界が灰色に染まっていく。重くのしかかる空気の重さに、陣は、そして真奈も耐えきれず膝を突いた。
「この感覚は、まさか……!!」