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インベーダー・フロム・XXX(第2回/全3回)

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インベーダー・フロム・XXX(第2回/全3回)
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【3】 Re:CHURCH【4】


 宿舎の裏の茂みの中で、サーファー刑事と教導団大尉ルカルカ・ルー(るかるか・るー)カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)は様子を窺っていた。
 流石に立場が立場(ロイヤルガードでもある)なので、ルカルカは身バレ防止のため、かつらとメガネを着用している。
「ねぇ、サーファー刑事。お願いがあるの」
「お願い?」
「私たちを相棒にしてくれない? 刑事は基本的に複数で動くしさ。ダメ?」
「……俺には既に相棒がいる」
 刑事は悲しそうに遠くを見つめた。ルカルカは空気を察して息を飲んだ。
「もしかして、死……」
「いや、あの馬鹿、夏バテからまだ回復してなくてな」
 海京警察の敏腕刑事その2、”夏バテ刑事”
 非常に優秀な刑事なのだが、極端に夏に弱く夏は大体寝込んでいる。そして一回寝込むと長いので、大体秋も使い物にならない。
「ま、そんなわけだから、この事件の間だけ相棒にしてやってもいいぜ」
「ほんとに? じゃあ、ルカのことは”最終兵器刑事”って呼んでね!」
 そう言うと、カルキも乗ってきた。
「なら俺は”ドラゴン刑事”だな」
「……お前ら、刑事じゃねぇだろ」
「気分よ、気分」
「……んじゃそっちの奴は何刑事だ?」
「へ?」
 ルカルカとカルキが振り向くと、そこに小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)がいた。
 コハクは既に魔法少女仮契約書で犬のマスコットになっている。
「いつの間に……」
「へっへー。抜け駆けはだめだよー。私だってサーファー刑事と一緒に捜査したいもん。私たちにも刑事ネーム付けて付けて」
 サーファー刑事は、じろじろ2人を見た。
「ガキ刑事と犬刑事だな」
「えー! ミニスカポリスじゃないの!?」
「馬鹿。ガキにゃまだ早ええ」
「犬刑事……」
 コハクは軽く落ち込んだ。

「サーファー刑事、こいつを使え」
 先行する刑事に渡そうと、カルキはベルフラマントを取り出す。
 しかし刑事は一瞥するなり突っ返した。
「俺を誰だと思ってんだドラゴン。こんなシケた道具に頼らなくても、こいつがありゃ十分なんだよ」
 そう言って、”神官用”と書かれたサーフボードを見せた。
「(……何が十分なのかわからねぇけど)それならいいんだが」
「こいつはガキ。おめぇが使え」
 刑事は美羽の頭にマントを被せた。
「犬は俺と来い」
「犬……」
 コハクは刑事に抱えられ、先へ進む。
 刑事と隠形の術で姿を消したカルキが先を行き、ルカルカと美羽は安全を確認してから、マントを使って慎重に移動した。
 途中、階段を転がってきた神官と鉢合わせた。リナの魔の手から逃れた別府司祭だ。
「おうおう、どうしたパンツ一枚で?」
 海パン一枚の刑事は、自分を顧みることなく尋ねた。
「そ、それがその……」
「ちょっとぉ、逃げてんじゃないわよ! 恥かかせる気ィ!?」
 二階からリナの声が聞こえた。
「フゥ! モテる男は辛いなぁ!」
「そんなんじゃありません!」
 別府は犬を連れた海パン姿のサーファーに何の違和感を感じる事もなく、階段を駆け下りて行った。
(……なんでバレないんだろう)
 コハクは思った。

 今回の捜査で、刑事は重点的に調べなければならない箇所を2点に絞っていた。書庫とメルキオールの自室だ。
 何故かと言われれば、刑事の”勘”としか答えようがないが、”きなくささ”がこのふたつの部屋にあった。
 レンからメルキオールの部屋を調査中との報告を受けていた刑事は、その場は彼らに任せ、書庫に赴いた。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」
「ちょっと待って。調べる」
 扉を開けようとした刑事を美羽が呼び止めた。
「ん、なんだ。例のサイコメトリって奴か?」
「もしかしたらクルセイダーの姿が見えるかも……!」
 そう言って、扉に触れた美羽だったが、何も見えなかった。
「……あれ?」
 サイコメトリは物品に込められた想いや、過去の重大な出来事を見せてくれる能力だが、不特定多数が使う物品にはそうそう強い想いは残らない。むしろイメージがぼやけてしまうものだ。
「うーん、もっと鍵になるようなものに使わないとダメかぁ……」
「ま、捜査は地道にやれってこったな」
 扉を開けて、書庫に足を踏み入れた。幸い書庫には人の気配はない。
 刑事の指示の元、手分けして書棚を調べる。ルカルカとカルキは学術書のコーナーを。美羽には芸術書のコーナーを。コハクには犬特有の鼻の良さを使った調査をさせた。
 しかしながら、特に不審な点は見当たらなかった。並んでいる本も学院の図書館にあるものとそう大差ない。
「未来から来た教団と聞いてたから、未来の本があるのかと思ったけど、現代の本ばっかりね」
 ルカルカが言うと、カルキは頷いた。
「未来の本なんて予言書みたいなもんだからな。あるとしても厳重に保管してあるんじゃねぇか。こんなところに置いといたら誰に悪用されるかわからねぇだろ」
「それもそっか」
「あ!」
 不意に、美羽が声を上げた。
 めぼしい本はないと思っていた書庫だが、一角だけ異常なコーナーがあった。
 芸術コーナーの最奥に設けられた特設コーナー、超国家神写真集のコーナーだ。
「凄い。アイドルコーナーみたい」
「うーん、確かに本屋の一角にこういうコーナーあるわね」
 ルカルカは写真集をめくった。
「へぇ。超国家神様って初めて見たけど、清楚で優しそうな雰囲気の奇麗な人ね。でも、どこかで見た事あるような……」
「なんだ水着はねぇのか」
「食いでがなさそうな女だ」
 頭を捻るルカルカの横で、刑事とカルキは嘆いた。
「あんたらねぇ……」
 そう言いかけたその時、不意に書庫の扉が開いた。
 入ってきたのは、3人の神官。こちらの侵入に気付いて現れたようではないようで、まるで警戒している様子はない。
「ごめんね……!」
 次の瞬間、ルカルカはポイントシフトで眼前に移動すると、素早く当て身を食らわせ気絶させた。
「そっちに2人!」
「任せて!」
 美羽の渾身の胴回し蹴りが炸裂。顔面を蹴り飛ばされた神官は回転して床に叩き付けられた。
 残った1人は、真っ青な顔で後ずさった。
「な、何者です。ここは神聖な教会ですよ……!」
「ちょうどいい。その神聖な教会のことで聞きたい事がある」
「ひ……!」
 カルキは妖刀白檀を抜き払うと、素早く神官を斬り付けた。
「さて、ここにあると言う地下室に案内してもらおうか?」
 妖刀の効果により、支配下に置かれた神官は虚ろな目で立ち上がった。
「………………」
 けれど、神官は動かない。
「ん、地下室だよ、地下室」
「………………」
 やはり、神官は動かない。
「コイツ、地下室の場所知らないんじゃねぇのか?」
 刑事は言った。知らないものは案内出来るはずもない。
「……つか、そもそも論になるが、本当に地下室はあるんだろうな?」
「おい、ドラゴン。おめぇ相棒だろ。俺が信じられねぇのかよ?」

「揉める前に調べる事があんじゃねぇのか?」
 突然、窓際から聞こえたその声に、皆は一斉に振り返った。
 そこに立っていたのは、先ほど摘み出されたマーツェカだった。摘み出されるのは想定内、内部に侵入したちびあさの手引きで、再び書庫の窓から潜入したのだった。
「うーにゃー!」
 頭の上には、ちびあさが乗っている。
「調べる……たって、何かいい考えがあるのか?」
 刑事は言った。
「無きゃこんなところに来ねぇさ」
 マーツェカは書庫にあった教会の見取り図をテーブルに広げた。
「これは?」
「まぁ見てな」
 見取り図の上に鎖を垂らし、ダウジングで地下室の場所を探す。
 すると鎖は宿舎の上で止まった。
「しかもここは……」
 それもちょうど書庫の辺りだ。
「この部屋のようだぜ」
 一同は部屋を見回した。
「俺の勘通りだな。きな臭いと思ったんだ……」
「きな臭いと言うよりコゲ臭いよ?」
 美羽の言葉に、全員はっと息を飲む。部屋に薄ら煙が漂っていた。
「全員、宿舎から出ろ。下の階が燃えているようだ」
 メルキオールの自室を調べていたレンが、書庫に飛び込んで来た。
「しかしまだ、連中の証拠が……!」
 その時ふと美羽に抱かれていたコハクは何かを発見した。
「この臭い……!」
「どうしたのよ、コハク?」
 彼はくんくん臭う。
「ここだ。この本棚が凄く焦げ臭い。ここから煙が入ってきてるよ!」
「ほんとだ……!」
 何故だか、この棚の裏から煙が出ている。試しに美羽は、サイコメトリを本棚にかけてみた。
 次の瞬間、メルキオールの姿が見えた。本棚にある一冊の本に触れた瞬間のイメージだった。
「この本!」
 本を引き抜こうとすると、突然、仕掛けが動きだした。
 並んでいた本が吸い込まれるように奥に消え、書棚が左右に開く、するとそこには、この建物には似つかわしくない近代的なエレベーターが現れた。