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リアクション
二章 表と裏
老舗ホテル、「黒猫亭」。三階のレストラン。
ぴゃあぁぁうまいぃ、と訳の分からない奇声をあげつつ、アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)は朝食をとっていた。
テーブルには、朝食にしては豪華すぎる料理の数々。味は勿論のこと、色彩にも、盛り付けにもこだわっているその一品一品は、もはや芸術品と言っても過言ではないほどだ。
「……決めた」
アキラはリスのように両頬を膨らまし、やけに真剣味を帯びた声でそう呟いた。
ヨン・ナイフィード(よん・ないふぃーど)はその言葉の意図が分からず、首をかしげる。
「なにを決めたんですか? アキラさん」
「それは勿論――俺ぁこの街に住む、ってことさ!」
アキラの発言に、ルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)は呆れたようにため息をついた。
「貴様はまた何アホなこと言っとるんじゃ……」
「アホなことじゃない。俺はこの街に住むぞ、ルーシェーェェッ!」
「……あのな、アキラ」
ルシェイメアはスプーンをテーブルの上に置き、アキラを見据えながら言葉を続ける。
「貴様も、昨日の時計塔広場での事件を耳にしたじゃろう?
このような物騒な街は、住むどころか、早めに帰ったほうが吉なのじゃ。……ということで、観光は止めてもう帰るぞ」
「エエーッ! それはダメだヨ。住むことはさすがに反対ダケド! カーニバルは最終日まで見るって予定じゃン!」
そう反対したのは、アリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)だ。
身体を大きく使って、テーブルをバンバンと叩く。それに同調して、アキラも反対した。
「そうだよ、折角のカーニバルなんだ。遊びつくさなきゃ勿体無い!」
二人の反対を耳にして、ルシェイメアは「はぁ……」と深く嘆息した。
いつもなら彼女はここで折れる。が、今日だけは違い、首を横に振った。
「ダメじゃ。どうも変な胸騒ぎがする。すぐにでもこの街から撤退するぞ」
ルシェイメアは、強い口調でそう言った。
アキラとアリスは「うっ……」と唸る。ダメ押しとばかり、ヨンも肯定するために口を開いた。
「私も、ルーシェさんに賛成です。
昨日の殺人事件は異常でしたから、ここに滞在するのは危険だと思います」
二人に押し切られ、アキラとアリスはしぶしぶ了承する。
けれど、落ち込んだ表情をする二人を不憫に思ったのか、「やれやれ……」とルシェイメアは呟いた。
「……まぁ、今日一日ぐらいは観光をしてもいいじゃろう。ただし、また何か騒動が起これば、巻き込まれる前にすぐ帰るぞ」
アキラとアリスはぱぁーっと顔を輝かせる。
そして、アキラは腕を大きく突き上げ、いつも通りのテンションで言った。
「よっしゃ。そうと決まれば、今日はお土産を買いに行こう!
――あっ、ちょっとそこの店員さん。良ければ、お勧めのお土産屋さんを教えて欲しいんだけど……」
席を立ち上がり、レストランの店員に聞きに行くアキラの後ろ姿を見て、ルシェイメアは眉間に手を当てた。
「はぁー……全く、現金な奴じゃのう」
――――――――――
「黒猫亭」、大きなロビー。
高級ソファーに腰掛け、樹月 刀真(きづき・とうま)は電話をしていた。
電話の相手は、昨日連絡先を教えてもらったアルブム・ラルウァだ。
刀真は試験のことについて話そうと連絡をしたのだが、
「強奪戦、ですか……?」
偶然にも、これから行われる強奪戦の話を聞いてしまった。
アルブムは強奪戦の情報を事細かく伝え、刀真に問いかける。
『……強奪戦で、試験をすることも出来る。多分、人を殺すことにはなるけど……お兄さんは、どうする?』
刀真はしばらく考え、そして自分の思いを伝えるために言った。
「誰かを殺す事は悪い事だ……そんな事は知っています。それでも俺達は殺す事を手段として、生業として生きている」
『……いえす。世間一般では、悪いことなのかもしれない。
でも、こんな生業じゃなきゃ、お金を稼げないあたい達のような人種もいる』
「だから、俺達は譲れない何かを持つ。
それすら守れないのなら、それはただの獣だから……俺達が自分は人だと、そう思うために」
『……そうかもね』
刀真は言葉を続けた。
「俺はね、助けたい奴を助け、守りたい奴を守る……それを邪魔する障害全てを討ち払ってでも、そう決めています」
『…………』
「……ラルウァ家に入るとその在り方を果たせそうにありません。だから、試験の話はなしで」
『……そう、残念。それじゃあ、あたいはこれで――』
アルブムが通話を切るより先に、刀真は言い放つ。
「そして、俺はラルウァ家の殺し屋【棺姫】としての君のプライドから、君自身を護ると今決めました」
『……わっと。どういうこと?』
「だって嫌でしょう? こんな一方的で、理不尽で、胸糞わるい依頼……でも、それが仕事なら実行するのが殺し屋としての君のプライドですよね?」
『…………』
「だから、俺は俺自身のルールに則り君が仕事をできないよう、敵として立ちはだかります」
『……そう。分かった。立ちはだかるなら、あたいはお兄さんを殺すだけ』
アルブムは、通話を切る最後に冷たい声で口にした。
『……会場で、待ってる』
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