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古の白龍と鉄の黒龍 第2話『染まる色は白か、黒か』

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古の白龍と鉄の黒龍 第2話『染まる色は白か、黒か』

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『『ポイント32』を視界に収めた! これより強襲する!』
 鉄族の防御網を掻い潜り、数体の龍が『ポイント32』を襲う位置に突入する。その直後、地上から光の筋が吹き出すように飛び出、龍族の侵入を阻止せんとする。
『くっ、鉄族の新兵器か? 皆地上に降りろ、目標は僅かだ!』
 隊長らしき龍に従い、龍が地上に降りるに従って人の姿へ変わり、手に使い慣れた武器を携えて『ポイント32』へ突き進む。
「ぐわあぁぁ!!」
 と、ある龍族が地面に仕掛けられていたトラップを踏み、生じた魔力に身体を貫かれる。それだけでは致命傷とまではいかないが、回復手段が限られる以上侵攻の速度はかなり落ちた。
「隊長、上空に鉄族の機体が!」
 隊員が指差す、攻め込まれたことを察知した鉄族の編隊がこちらへ向かいつつあった。
「まずい、総員撤退! 出直すぞ!」
 上空から爆撃されようものなら全滅の危機に、隊長は素早く隊員に撤退を指示する。
「ふぅ〜、とりあえず第一波は衛とプリンの魔術で防げたか。ま、自分の出番が少ない方がええな。姿を見られたら契約者の心象悪ぅなるし」
 後退していく龍族の背中を見送り、メイスンが呟く。自分の役割はいわば最終防衛ライン、疲弊しつつなおも『ポイント32』へ駆け込もうとする龍族を防ぎ切るものだが、当然全身を晒すことになるのでカンのいい龍族には契約者と気付かれるだろう。
「謎の第三勢力! という触れ込みも悪くはないがな。……おっと、また来よった。この時間帯は龍族有利やなぁ」
 またも数体の龍族が侵入して来たのを見、メイスンが物陰に潜む。


 『ポイント32』へ切り込みをかけたデュプリケーターだが、彼らは鉄族ではなく契約者によって阻まれる。編成は巨大生物と数体の人型だったが、まず先行した人型のデュプリケーターが近付いてきた高速の何かに喉笛を掻き切られ、体液を迸らせる。
「いちげきひっさつ! ……じゃないんだよね〜。ふつうじゃないよやっぱり」
 確かな手応えを感じつつも倒れないデュプリケーターを、ナナが不思議そうに見つめる。だが抵抗を見せたデュプリケーターも、続いてやって来た和麻の二刀に裂かれ、形を失って地面に消える。
「ナナ、俺たちは人型の方を相手するぞ! 巨大生物の方には手を出すな!」
「りょうか〜い」
 言って、ナナが人の目で追うのが厳しい速度でデュプリケーターの群れを蹂躙する。手負いとなったデュプリケーターを相手するが、通常なら斬りつければ痛みで動きが鈍るだろう予測が外れるため、最後まで気の抜けない戦いを強いられる。
「疲れが溜まる前に戻ってね、回復は柚がやってくれるから」
 三月が和麻に言い、隣のアムドゥスキアスを見る。彼は魔力で生成した矢を撃ち出すクロスボウを構えていた。
「心臓を貫いても死なないのなら、動きを止めた方がいいだろうね」
 呟き、向かってくるデュプリケーターへ矢が放たれる。刺さった箇所は脚先、そこから冷気が浸透しデュプリケーターの動きを止めてしまう。
「話を聞きたかったけど、話が出来ないんじゃ、仕方ないね!」
 動きを止めたデュプリケーターの、頭と武器を持った腕を三月が斬り落とす。最初は急所を外して話をしよう、と思っていたものの、そうした所でデュプリケーターが何も話さないまま攻撃してきたのを三回繰り返された所で、どうやら彼らとは意思疎通が図れないと判断した。
(嫌だなぁ、そういうの。もうどうしようもないってのと戦うのは)


「アルちゃん、でゅぷりけーたーがきたよっ。なんかでかいのまでいるよっ」
 相変わらずむにむにされていたモモが、飛んでくる巨大生物を指差して警告する。
「ほーほー、あれはちょっとだけてごわいかもですなー。それではいきましょうかみなさまがたー」
 まったくの棒読みで言ってのけたアルコリアが立ち上がり、ラズンを纏っただけで手には何も持たず、迫る巨大生物を見つめる。
「どーやってたたかうの?」
「まずはそらからべしゃ、っておとそうー。ちょっといってくるねー」
 言ったアルコリアの姿が消え、次の瞬間には巨大生物の背中側へ現れる。
「にんぽう、てんくうおとしー」
 すると、どういう原理が働いたのかまったく謎だが、巨大生物の身体が頭を下にした格好になり、そのまま重力+何かの力が働いて落下する。
「ふぅ。はねもむしった、さあみにくくじべたをはいつくばるがいいー」
 生えていた羽を全てもぎ取り、巻き起こる粉塵の中、アルコリアが悠々と帰還する。その背後でまだ死んでいなかった巨大生物が激昂した声を上げて襲い掛かろうとするが、
「マイロードの一撃を耐えた根性は認めて差し上げますわ。わたくしも認識を改め、本気で相手させていただきます」
「こういう動きだって出来る。久し振りに暴れさせてもらうぞ……!」
 瞬間移動で躍り出たナコト、ブースターの加速で現れたシーマの上空から振り下ろされる刃と爪の一撃を両脇に浴び、脚の全てを切り飛ばされる。
「このままじゃわたしたちのでばんがかっとされちゃうよっ。ナナちゃんモモちゃん、とりぷる・あたっくだよっ!」
「い、いつのまにそんなものできたの?」
「つまり、いっせーのせっ、でこうげきすればいいんだよね!」
 瀕死の体の巨大生物へ、ナナ・モモ・サクラの爪の一撃が連続で決まり、巨大生物は抵抗力を失い地面に伏せる。
「アル、サクラ、モモ、ナナ……よにんあわせてニャベリウス! ……にゃん☆」
 最後にアルコリアがチョップを浴びせて、ナベリウスの傍にしゅたっ、と降りると、ナコトの巻き起こした衝撃波が背後で生じる。
(アルたちが戦うと、どんなシリアスもギャグになるね。……あえてそうしてるのかな?
 ま、そんな事はどうでもいいんだ。デュプリケーターはどこまで複製するのかな。見たところ姿と、固有のスキルは真似してそうだけど)
 みみとしっぽをぴこぴこと揺らし、「きまったにゃのー」とはしゃぐアルコリアに纏われているラズンが、デュプリケーターの複製能力を考察する。
(地球人と魔鎧のクラス掛け合わせによる固体能力の拡張を始め、いろいろ引き出しはあるよ。……あー、でも向こうも巨大生物と鉄族のビームをくっつけてたね。放ったのにまったく気にされなかったけど)
 巨大生物の頭部から発射された高出力のビームや、羽を分離させてのビット攻撃など、色々と掛け合わせた要素が垣間見える。その辺後で話くらいはしておこう、と思いながら、ラズンはぼんやりと戦闘の推移を見守っていた。


「龍族、鉄族共に一時撤退を開始した模様!」
 シグルドリーヴァの観測士、ブラギの報告がもたらされる。戦闘開始から(パラミタから持ち込んだ時計で)三時間余りが経過した頃の動きであった。
「まずは、契約者側の思惑通りといった所かしらね。……さあ、ここにデュプリケーターは現れるかしら?
 出てくるようなら容赦はいたしません、この新しく生まれ変わった『シグルドリーヴァ』で粉砕して差し上げます」
 船員を指揮するノート・シュヴェルトライテ(のーと・しゅう゛るとらいて)が戦況を見守る隣で、風森 望(かぜもり・のぞみ)は『シグルドリーヴァ』改造に当たってを思い返していた。

 『シグルドリーヴァ』は先日、鉄族の勢力圏から契約者の拠点に到達するまでに被害を受け、修理を必要としていた。それ自体はわざわざイルミンスールに戻らずとも行えるものだったが、そこにノートが改造仕様書を携え、『シグルドリーヴァ』の改造を指示する。
「前回アレコレ壊されましたので、修理ついでに補強と行きますわよ!」
 その仕様書を受け取って眺めていった望の顔が、段々と形容しがたいものになっていく。最初はまだ、被弾面積を少なくするためマストを取り払う、重要部位の装甲を厚くする、など真っ当な事が書かれていた。ちなみにマストを取り払っても、航行には何ら支障がないらしい。帆船なのは見た目だけのようだ。
「……お嬢様、ここは何ですか」
 何かを押し隠したような表情で、望が仕様書の一部を指差してノートに見せる。そこには『艦載用荷電粒子砲』を艦底に元々備え付けられていた『ドリル』に組み込む内容のもので、最後に
 『ドリルが展開して粒子砲になるとか、これこそが浪漫というべきものですわ!』
 と強調して書かれていた。
「何って、その通りよ。望、あなたは感じないの? この二連ドリルの中心から粒子砲が突き出す時の何とも言えない高揚感を!」
 うっとりとするノート、確かに浪漫といえばそうかもしれない。でもその為の機構をどうするつもりなのか。単に設置しておくだけの方が幾倍も楽なのだが、それでは「浪漫がありませんわ!」と言われるのがオチだろう。
「…………。まぁ、やるだけやってみましょう」
 追求するのを止めて、望はどういった作業が必要かを計算し始める――。

(あの時は本当にどうしたものか困りましたが、なんとかなるものですね)
 これまでを思い返した望が、苦笑に近い微笑みを浮かべる。何としても成し遂げたかったのだろう、ノートと搭乗員の働きぶりは目を見張るものがあり、そのおかげでこうして『シグルドリーヴァ』は新たな武器を内蔵し、今回の戦いに間に合うことが出来た。
「……! 北部より広範囲に、これまでとは異なる反応を確認!」
 そうしてしばらく待ち続けた後、ブラギが新たな報告をもたらす。状況からしてデュプリケーターの可能性が極めて高い。
「お嬢様、とのことですが」
「当然、粉砕いたします! ゲフィオン、両方の種族へ通信を送りなさい。『デュプリケーターの相手は我々が引き受ける』と」
「はい!」
 通信士、ゲフィオンが龍族と鉄族にデュプリケーターの出現と、その相手を契約者が行う旨を通達する。これで両者がデュプリケーターに煩わされず作戦を継続できる事に感謝し、デュプリケーターを共通の脅威と受け取ってくれればいいが、そればかりは期待の領域であった。
「シグルドリーヴァ、発進! 漁夫の利を企むデュプリケーターを攻撃します!」
 操舵手、ギュルヴィの操舵で、『シグルドリーヴァ』はデュプリケーターの集団へ全速前進する。構成は3割の巨大生物に、7割の人型といったところ。
「目標、巨大生物! 噛み砕きなさい、シグルドリーヴァ!!」
 いかにも禍々しい形相の巨大生物へ、『シグルドリーヴァ』の先端に据えられた二連ドリルがぶつけられる。回転する刃は巨大生物の肉体を容易に抉り、身体の大半を削り取られた巨大生物は地面に落ち、段々と動かなくなっていった。

 こうして、契約者対デュプリケーターの戦いが、幕を開けたのであった。