イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

古の白龍と鉄の黒龍 第2話『染まる色は白か、黒か』

リアクション公開中!

古の白龍と鉄の黒龍 第2話『染まる色は白か、黒か』

リアクション



『契約者VSデュプリケーター』

(来たわね、デュプリケーター。しかもこれ見よがしに巨大生物を複製してくれちゃって!
 このタイミングなら龍族、鉄族と戦わずに済むかもしれないけれど、未知の相手だから厄介ね)
 デュプリケーターと思われる、巨大生物の大群の来襲に、エリス・クロフォード(えりす・くろふぉーど)は予め想定していた換装プランの用意を指示する。間もなく桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)エヴァ・ヴォルテール(えう゛ぁ・う゛ぉるてーる)が搭乗予定のレーヴァテインが帰還してくる。
「煉、お疲れさま! 機体の具合はどう?」
『ああ、問題ない。エリーの渡してくれたデータも有用だった』
 返ってくる通信に、エリスが満足気に微笑む。『龍の眼』での戦闘で得ることが出来た対龍族・対鉄族・対イコン戦のデータを予め『レーヴァテイン』へ送っていたが、どうやら有効に機能したようであった。
『なんだい、あたしには労いの言葉はないってのかい?』
「はいはい、よく頑張ったわね。せいぜい煉に迷惑かけないようにして頂戴」
『このやろう、いちいちムカつく奴だなぁ!』
 憤慨するエヴァの声をエリスが鼻で笑う。いざという時こそ抜群のコンビネーションを見せる二人だが、普段はだいたいこんな具合であった。
『そのくらいにしておけ、エヴァっち。戦いはこれからだぞ』
『な、なんかその『エヴァっち』っての、むず痒いんだけどよぉ?
 まぁいっか、こっからはコピー連中相手だ、オリジナル機が負けるかっての!』
 そうこうしている間に換装が終わり、出撃準備が整う。
『レーヴァテイン、出撃する!』
 煉の通信を残し、『レーヴァテイン』が『Arcem』から出撃する。
(……必ず、帰って来なさいよ)
 二人を気遣う言葉を胸に呟き、エリスは引き続き、まだ判明していない巨大生物の性能をいち早く解明するためコンソールを叩く。

(ったく、やっぱり出てきやがったな。しかもあんだけの巨大生物を揃えやがって。
 どうやら龍族と鉄族を標的にしてるようだな。ま、俺たちが用意周到に控えてるなんて思いもしねぇだろ)
 『魂剛』に搭乗する紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が、元の姿とは似ても似つかない不気味な風貌の巨大生物を標的に捉える。前回遭遇した時からさらに禍々しく変化したそれは、もはや別物に成り果てていた。
「確か、脚を伸ばして攻撃する手段を獲得していたな。加えてあの姿……もう一つ何か隠していると見るべきか」
『妾もその可能性を考えておった。元々の顎に脚、それ以外だとあの頭部の像か、羽か……可能性はそのくらいか』
 エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)も唯斗と同じ可能性を口にする。ありがちなのは、像から高出力のビームだとか羽を分離させて飛ばすだとかその辺りだが、こればかりは一度試してみないことには判明しない。
「桐ヶ谷、今の聞いてたか? 俺はどうもあの頭部の像と羽が怪しいと思ってる。俺が背後から接近する、桐ヶ谷は正面から斬り込んでくれないか」
『俺にあえて危険な任務をやらせるつもりか』
「桐ヶ谷の機体の方が機動性高いだろ? それとも自信がないとでも言うつもりか?」
 ニヤリ、と唯斗が笑って口にすれば、煉の少しムッとした口調の通信が返ってくる。
『それだけの口を叩いて、ヘマしても助けてやらんぞ』
「ははっ、桐ヶ谷に助けられるようなら俺も堕ちたものだな。任せたぞ!」
 通信を切り、『魂剛』が巨大生物の背後を突かんと飛翔する。その間に『レーヴァテイン』は巨大生物の正面からライフル射撃を浴びせる。
(さあ、どう出る?)
 弾丸を強靭な脚で受け止めた巨大生物が、脚を開いた直後、頭部の像から高出力のビームが照射される。
『うぉっ!! 予想してたしありがちだとはいえ、実際に飛んでくるとビビるな』
 エヴァが驚いた声を上げる。人型を模した像からビーム、は確かにありがちだが、出力はこちらの射撃武器を遥かに凌駕していた。うっかり掠りでもすればそれだけで大被害だったかもしれないが、『レーヴァテイン』はビームを完全に避け、ライフルをブレードに変え頭部の像を狙って斬りつける。
『――!!』
 頭部の像を切り飛ばされ、怒りの声を発した巨大生物が脚を伸ばして反撃しつつ、背中の羽を大きく広げる。すると羽の一枚一枚が分離、それらは独立して動き先端からビームを発射する。
『って、こっちもありきたりかよ。予想していたものがそのまま来ると興ざめだぜ』
「解析が短時間で済んでいいじゃないか、エヴァっち」
『なんかやっぱ違和感ある気がすんだけどよぉ。普通に呼んでくれてもいいじゃねぇか』
 そんな軽口を叩きつつ、エヴァは巨大生物の羽について解析を進める。ちょうどレーザービットと同じような具合であることが解析によって判明する。
「だそうだ、唯斗。そっちの処理は任せていいんだな?」
『あぁ、任せてもらおうか』
 自信あり気な様子の唯斗の声を耳にし、『レーヴァテイン』が距離を取る。そこへ背後から『魂剛』が接近、羽が目標を捉える前に短い方の刀で斬り落とす。残る羽がビームを発射するが、後方からのビームは回避され、前方からのビームは刀に弾かれる。
「見た目通りビーム系なのか、あの攻撃は。巨大生物がビーム系攻撃を獲得してる時点で滅茶苦茶だぜ」
 その点を問いただしてみたい気がしたが、まずは目の前の敵の殲滅が第一と意識を切り替え、唯斗は残る羽の全てを刀で斬り落とす。
「ほいよ、一丁仕上がったぜ。後は仕上げと行くか、桐ヶ谷」
『ああ。確かデュランダルまで、と言っていたな?』
「そうだ、奴らは“学習”する。奴がビーム系攻撃を獲得したのもおそらく学習したからだろう。派手な技はなるべく伏せた方がいい」
 分かった、と煉が答え、『レーヴァテイン』が高出力ビームサーベルを抜く。このサーベルは“覚醒”してこそ真価を発揮するが、通常時でも相当の威力を持っている。
「行くぞ!」
 『魂剛』が巨大生物の左から、『レーヴァテイン』が右から接近する。最期の反撃となる脚の一撃を一振りで斬り伏せ、二機はそれぞれ左と右から通り過ぎさま、ビームサーベルを沿わせる。
『――!!』
 悲鳴のようなものをあげ、身体を上下に二等分された巨大生物がなおも蠢いていたが、やがて形を無くしアメーバ状の粘性の液体となって地面にへばりつく。
(あの変化……デュプリケーターの謎が気になるな。
 他にも気になることはある。この世界作為的な点、勝者の得るという『富』の正体、勝者のその後。……まぁ、その辺はおいおい分かっていけばよい。
 まずはデュプリケーターについてだが……ふむ、本拠地はやはり地下と見てよかろう。龍族と鉄族、共に制空権を重視した種族。潜むのであれば地下が適しておる)
 次の敵へ向かう僅かの間、エクスがデュプリケーターについての考察を行う。ここでの戦闘が終結した後には、地表を中心に痕跡が無いかを探してみてもいいかもしれない、と思うのであった。


 戦場に出現したデュプリケーターの編成は、巨大生物が3、人型が7といった比率であった。まだまだ人型の方が多いが、人型の装備も前と比べてグレードアップしているように見えるし、巨大生物と組んで龍族と鉄族を相手しようとする様は、まるで戦車と随伴歩兵のコンビネーションにも見える。

「深追いは禁物です。突出して来たデュプリケーターを優先して叩きましょう」
 エシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)が『{ICN0003800#グレイゴースト?}』に搭乗するローザマリアフィーグムンドに通信で呼びかける。と、前方でいくつかの爆発が起こり、巻き上げられたデュプリケーターが身体の一部を吹き飛ばされて地面に転がる。戦況が落ち着いた時点で予め仕掛けておいた機晶爆弾が炸裂したのであった。
「私は人型の方を片付けます。巨大生物の方はローザマリア、フィーグムンド、お願いします」
『了解。まずは機動力を奪い、近接戦を得意とするイコンや契約者を優位に立ち回らせるわ』
 通信に答え、ローザマリアは狙撃用のウィッチクラフトライフルを構える。名前からして魔法使い用に見えるが、弾丸は魔力を充填したカートリッジを使用するため、魔法使いでなくても使用可能である。通常の狙撃銃に比べ、威力も高い。巨大生物相手にはこちらの方が適しているとの判断であった。
「…………」
 呼吸を整え、ローザマリアが巨大生物の行動を予測した上で、照準に捉え引き金を引く。魔力が弾丸として発射され、飛んでいた巨大生物の羽を貫いて衝撃を与え、巨大生物を地面に落とす。
「フィーグムンド、周囲の警戒をお願い」
『了解した』
 フィーグムンドに周囲の警戒を指示する。狙撃の際は一箇所から行い続ければ、その内居場所を特定される。狙撃兵が逆に狙撃されるという事態はよく発生するため、いち早く周囲の挙動に気付き、回避行動を取る必要があった。
(後顧の憂いを絶ち、前方の敵を狙い撃つ!)
 ローザマリアが照準を向けた先、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が搭乗する『グラディウス』が二本のビームサーベルを巧みに操り、巨大生物と対峙していた。
(この前は、巨大生物を倒すことが出来なかった。1機だけで戦おうとしない、仲間の存在を感じるんだ!)
 決して機体の性能が劣っているわけではないが、四方八方に脚を飛ばし、新たに獲得したのであろう、頭部からの高出力ビームの発射される中、戦いを有利に進めるためには単独では達成できないと美羽は肌で実感していた。本来非常に目立ちたがり屋の彼女がこのような事を思うのは、席を同じくするベアトリーチェやコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)にとって意外に思ったが、同時に成長を嬉しく思う気持ちもあった。
(デュプリケーターは他種族の特徴を取り込むことで、どんどん強くなっている。今も、鉄族の主力武器を頭部から発射する機構を備えているように見える。
 このまま放っておけば、そのうち手がつけられなくなって、近い内に龍族と鉄族を全て滅ぼしかねない。……その前に僕たちで戦って力を弱めつつ、龍族と鉄族にも危険性を訴えたい。
 龍族と鉄族が協力するきっかけを、僕たちで作るんだ)
 巨大生物に随伴してきた人型のデュプリケーターを、コハクはレッサーダイヤモンドドラゴン上から槍の一撃で突き飛ばす。
(美羽さんも、ちゃんと仲間の皆さんと分かり合えているのですよね。
 だから今は、龍族と鉄族はいがみ合っているかもしれませんけど、いつかはきっと分かり合えると思います。それを邪魔しようとするデュプリケーターは、美羽さんと必ず倒します!)
 ベアトリーチェが周囲から入ってくる情報をまとめ、最適な行動予測を美羽に送る。敵の攻撃が予想されればそれを回避する方向へ、仲間の援護射撃があると予想されればそれを邪魔しない方向へ移動する旨を伝え、美羽はその通りに機体を操縦する。
(人間と魔族みたいに、龍族と鉄族だって分かり合えるかもしれない。でも、デュプリケーターは……たぶん、あれは話が通じる相手じゃないと思う)
 禍々しい形相の巨大生物を前に美羽が思う、それは出撃前にパイモンに語った言葉でもあった。人間と魔族の例は、契約者の努力が実った稀有な例であり、世の中の事象を見れば必ずしも実らなかったケースもある。可能性が既に閉ざされているかもしれないと思うことは悲しくもあり悔しくもあるが、そういうのを乗り越えて為すべきことを見出し、やり遂げるのが成長でもある。
 ローザマリアの放った弾丸が頭部の発射口を撃ち抜き、攻撃手段を失った巨大生物が動きを止める。
(あなた達は龍族と鉄族、契約者にとって危険な存在……今度こそこの剣で、トドメを刺してみせる!)
 美羽の思いに応えるように、『グラディウス』の手にするビームサーベルの出力が上がる。跳躍した『グラディウス』が舞うようにして巨大生物の肩口からビームサーベルを食い込ませ、下まで振り切って距離を取る。致命傷を負わされた巨大生物はガクッ、と地面に倒れ込み、溶けるようにして地面に消えていった。
「…………、次、行くよ。仲間の援護をするんだ」
 区切りをつけるように呟いて、美羽は次の目標をロックオンする。そちらは別の巨大生物と、黒色の機体『シュヴァルツ・zwei』が交戦している最中であった。
(このタイミングで、あえて奴の攻撃を誘う!)
 グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)が『シュヴァルツ・zwei』をあえて巨大生物の正面に移動させる。当然巨大生物はその動きに反応して頭部からの高出力ビームを放つが、それこそがグラキエスの目論見であった。ビームが到達する直前、『シュヴァルツ・zwei』の姿が消えたかと思うと巨大生物の上空へ現れ、振るったビームサーベルは頭部ビーム発射口を粉砕する。
『――!!』
 激昂した巨大生物が反撃を繰り出すが、事前に予測を立てていたエルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)の導き出したルートを辿り、『シュヴァルツ・zwei』は安全な位置へ離脱する。
(龍族と鉄族の衝突を利用した、デュプリケーターの誘き出しと掃討、か。今の所はこちらの思惑通りといったところか。
 この戦いを機に、二勢力が互いに争い合うのを止め、デュプリケーターへの対処に当たってくれるといいが。そうなれば、この世界の事を知る猶予が出来る)
 緊張で固くなった身体を解しつつ、グラキエスが心に思う。知りたいと思うことは多くある、例えば世界樹の謎のこと、異世界の世界樹のこと、そしてこの天秤世界のこと。
 それらを出来れば直接、この目で確かめたいと思うのだが、こうして二つの勢力とデュプリケーターが活発に行動されてはそれも叶わない。4つの勢力全てがバラバラに動くのではなく、契約者と龍族、鉄族が結託してデュプリケーターを掃討する方向に動けば、とグラキエスは思う。
『グラキエス様、あまり難しくお考えにならずに。敵対する者が存在し、向かって来る。であればやる事は一つです。
 私にすべてお任せを、後の事は私が良いように致しましょう』
 グラキエスの心の内を見透かすように、エルデネストが声をかけてくる。疑問はあるものの、こうしてデュプリケーターが龍族と鉄族へ襲って来た以上、撃退しなくてはと思う。
「ああ、頼む。……行こう、敵はまだ退いていない」
 一つ息を吐き、再び『シュヴァルツ・zwei』は戦場を駆ける。巨大生物へ対応する傍ら、グラキエスのパートナーであるロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)ウルディカ・ウォークライ(うるでぃか・うぉーくらい)は随伴してきた人型のデュプリケーター対処に当たる。
「む……この前と比べ、全体的に強さが向上している。やはり成長するというのは本当だったのか」
 武器を振るうデュプリケーターを特殊な機械で覗いたウルディカが、前回得られたデュプリケーターのデータと照合して全体的に数値が向上しているのに気付く。実際に手持ちのスナイパーライフルで狙撃を行った際、一部のデュプリケーターに弾を回避するような動きが見られた。また直撃したとしても即死とならず、そのまま起き上がろうとする者も見受けられた。
「遠距離からの攻撃だけでは、十分な支援を行えないかもしれませんね。うまく敵を誘導し、爆弾による一網打尽を図るのも手ではないでしょうか」
 飛空艇を操縦するロアの案に頷いて、ウルディカは背中のウィングを起動させる。
「ロア、敵の撹乱と誘導を頼む。俺が爆弾を起動させる」
「分かりました。どうかお気をつけて」
 役割を決め、二人が行動を開始する。まずはロアが、迷彩塗装の施された飛空艇で気付かれないように移動、出現と同時に弾幕を張ってデュプリケーターの行動を制限する。程よく集められた所で物陰から背中のウィングを利用して高速接近したウルディカが、爆撃機の要領で機晶爆弾を投下すれば、爆風に巻き込まれたデュプリケーターが次々と宙を舞い、地面を転がる。
「よし、これでこの付近のデュプリケーターは掃討した――!」
 戦果を確認し、ロアの下へ戻ろうとしたウルディカが、巨大生物の鳴き声を耳に入れる。明らかにこちらを標的に定めた声に危機感を募らせた所で、遠距離からの太く短いビームが巨大生物を穿ち、後方に大きく吹き飛ばす。
 自分を助けてくれたイコンをウルディカが見る、それは無限 大吾(むげん・だいご)西表 アリカ(いりおもて・ありか)が搭乗する『アペイリアー・ヘーリオス』であった。
(よし、ノヴァブラスターも正常に運用が可能だな。武器は全て問題ない。
 これまでは陰から追撃の阻止なんかやって来たが、ここからは堂々と狙い撃ってやる。デュプリケーター……奴らには真っ当な感情を持てない。ただの兵器だ。
 出てきた分全て、ここで必ず撃墜してやる!)
 毅然とした決意を秘める大吾の眼前で、一撃を食らった巨大生物が体制を立て直し、『アペイリアー・ヘーリオス』に標的を定め向かってくる。振り上げた脚が分離して伸びてくるのをアリカが察知、到達予想地点を瞬時にモニターに示し、大吾が即座に反応、機体を移動させて回避する。
(獲物を追う獣の感覚を甘く見ないでよ! キミの攻撃は全部、ボクの眼にお見通しなんだ!)
 アリカの脳裏に、先日相見えたデュプリケーターの顔が浮かぶ。こちらがどれほど言葉を重ねても、反応を返さず切りかかってきた。
(戦争は、嫌いだよ。……でも、何もしないで指を咥えてるなんて、もっと嫌なんだ!
 多分、これからいっぱい傷つけるし、傷つくかもしれない。でも覚悟は出来てるよ。絶対にこの戦いを終わらせるんだ!)
 自分たちより先に、『ポイント32』の援護に向かったナベリウスやアムドゥスキアスの顔が思い出される。きっとみんなも同じ戦場で、やっぱり思い悩みながら戦っているはず。自分だけが部屋の隅でうずくまっているような真似なんて出来ない。
「ほらほら〜、そっちばっかり相手してていいのかな〜? 上から炎の玉が来ちゃうよ〜」
 空飛ぶ箒を操り、廿日 千結(はつか・ちゆ)が上空から火術を連発、巨大生物を撹乱する。新たな敵の登場に巨大生物は背中の羽を分離させて対抗するが、羽がビームを撃つ直前に横からフルスイングされた棍棒のような剣によって粉々に破壊される。
「ヒャハハハハ!! なんでもかんでもコピーしやがって、ウゼェんだよ!! 模倣品は沈め、コピー野郎は死ねやぁ!!」
 狂気を振りまくセイル・ウィルテンバーグ(せいる・うぃるてんばーぐ)の振るう『金剛嘴烏・殺戮乃宴』が、宙を逃げる羽を一つ、また一つと粉砕していく。普段は無表情で淡々としている彼女だが、一度戦闘となりスイッチが入るとこのように荒々しく、凶暴な狂気の悪鬼と化すのであった。
「デュプリケーターが相手だから、容赦なく本気でやるんだよ〜」
 あらかた羽が破壊された所で、華麗に宙を舞った千結が天空を指差し、雷雲を召喚する。喚び出された雷雲は雷を降らせ、まるで突き刺す槍のごとく貫かれた巨大生物が動きを止める。
「ぶっ飛べやオラァ!!」
 その間にセイルが武器を振りかぶった状態で突っ込み、頭部のビーム発射口でもある像の頭をフルスイングする。頭が吹き飛び、次いで爆発で全てが吹き飛び、巨大生物は悲鳴に似た声を上げる。
「大吾、弱点を示すよ!」
 目の前の巨大生物の弱点をアリカが示し、モニターに表示されたそこへ大吾が『エルブレイカー』を構える。慈悲も躊躇もなく引き金を引き、発射されたビームは弱点の眉間を寸分の違いなく貫く。ひときわ大きく身体を痙攣させ、巨大生物が地面に伏せると、その姿は溶けるようにして地面に消えていく。
(……ふぅ、一息つける、か。この世界は必要悪、か……。理解はするが、納得は出来ないな。
 だって、それを認めるって事は、つまり救われない存在が必要って事になってしまうからな。そんなの悲しすぎる)
 たとえ世界がそうだと言ったとしても、認めたくはない。救われない存在は、いちゃいけない。
(だから、この戦いを終わらせる……絶対にな!)
 自らを鼓舞するように心に呟き、大吾は次の相手を探して機体を移動させる。