イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

フューチャー・ファインダーズ(第1回/全3回)

リアクション公開中!

フューチャー・ファインダーズ(第1回/全3回)

リアクション


【1】


「……ここはどこだ?」
 樹月 刀真(きづき・とうま)は気が付くと、中央広場に立っていた。
 霧のように散った意識が集まり、次第に刀真の目に光が宿り、意識は鮮明になる。
 けれども、今自分が置かれている状況はまるで思い出せなかった。そして、自分のことも。
「俺は……誰だ? どうしてここにいる……?」
 まわりには、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)玉藻 前(たまもの・まえ)が、ぼんやりした様子で立っていた。彼女たちも、自分が何者なのかわからないらしく、とても困惑している。
 ただ、ひとつだけわかる事があった。
「……君達は俺の……大切な存在なんだよな……?」
「あなたの名前を思い出せないけど、私はあなたの”剣”、それだけは覚えてる……」
「……我も感じるぞ。お前達が傍にいると大いなる安らぎを覚える……。我等は、長い時間を共に過ごしてきたのだ……おそらくな……」
 まわりにいるのは、彼女たちだけではなかった。
 叶 白竜(よう・ぱいろん)世 羅儀(せい・らぎ)黒崎 天音(くろさき・あまね)ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)も傍に立っている。
「……君達とはどこかで面識があったはずなんだが……」
 白竜は記憶の糸をたぐり寄せるように、慎重に言葉を並べた。
 自分が軍人である事は覚えているが、どのような任務でこの場にいるのかはわからなかった。目の前の人物も、知り合いであることはなんとなくわかるのだが、それ以上のことは思い出せなかった。
 それは、刀真も同じで、お互いに歯がゆい表情を見せ合った。
「どうやら、君達の記憶の欠落は重傷のようだね」
 天音が言った。
「君はその……私たちの事を知っているのですか?」
「少なくとも、今の君達よりはね」
「なら、教えてくれないか。何故、俺たちがここにいるのか。その理由を」
「残念だけど、その点は僕にも思い出せない……ただ」
 そう言って、手の甲に浮かび上がった数字を見せた。
「それは……!」
 二人も手の甲を見た。まったく同じ数字が、まったく同じ早さで、カウントしている。
「僕たちが同じ状況に立たされていることだけは確かだ」
 広場の中心には、”超国家神”の巨大なホログラフィが、浮かび上がっている。
 扇情的な衣装の超国家神は、妖しい笑みを称え、信者たちはそれに応えるべく、思い思いの方法で祈りを捧げている。
「あれがグランツ教の世界統一国家神……」
 ブルーズは難しい顔で、ホログラフィを見つめた。
「超国家神ねえ……」
 羅儀も眉を寄せ、そちらを見た。
 白竜は、グランツ教という言葉に引っかかるものを感じた。
「私はその教団を追っていたような……」
 その時、ふと天音が言った一言に、みんなの視線が集まった。
「少し若くて小悪魔的だけど……雰囲気が”ファーストクイーン”に似てるね……?」
「!?」
 膜のかかった意識から、不意に、その言葉が転がり出て、天音も少し驚いた。
 似ている。記憶の中にある彼女と、今、目の前に見える彼女は似ている。
「……ますます我らがここにいる理由が気になるが、まずは行動した方が良さそうだ。先の放送も、どうにも我らに関わりがある気がする」
 ブルーズに、天音は頷く。
「美しい街だけど、ゆっくり観光する時間はなさそうだね」
「情報科の人間として言わせて頂ければ、現状を把握出来ていない事ほど危険な状況はありません。置かれている状況を把握し、必要な行動をとる、身の安全を守るためにまず成すべきはそれです。手分けして情報を集めましょう」
 白竜は、自分の装備を調べた。アクアバイオロボットがある。
「……目的は不明ですが、私は水中探索の任務にあったようですね。この都市の案内図によれば、東に港があるようです。私はそちらの調査を担当しましょう」
「そう。なら、僕たちの装備を使うといい」
 そう言って、携帯用救命ボートと探索セットを渡した。
「僕とブルーズは、この近辺を調べようかな。見たところ商店がたくさんあって人も多そうだ。君はどうする?」
「俺は……」
 刀真は超国家神を見つめた。
「……ここに残ります」
 信者と同じように祈りを捧げれば、この何も思い出せない不安から、彼女は救ってくれるのだろうか……。