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リアクション
【7】
自分の名前。パンツじゃないから恥ずかしくない事。古代シャンバラカラテ。
フィーア・四条(ふぃーあ・しじょう)が、覚えていたのはこの三つだった。
右も左もわからぬまま迷い込んだ広場で、信者達をボーッと眺めた後、見よう見まねでサイリウムを振り始めた。
「……ずっとこの状態なら、手がかからなくていいのに」
混世魔王 樊瑞(こんせいまおう・はんずい)は、大人しい彼女を横目に、そう言った。
彼女も記憶のほとんどが抜け落ちてしまっている。名前と道術のことを覚えているのが不幸中の幸いだ。
「さて、これからどうしたものかしら……」
身の振り方を考えていると、突然、信者の悲鳴が上がった。
嫌な予感。そして、的中。フィーアは、手刀の要領でサイリウムを振り回し、信者をボッコボコに殴り飛ばしてるではないか。
「僕と一緒に遊ぼうよ〜」
「……な、なにしてんの!?」
何の目的でそんな事をしているのかわからねえと思うが、パートナーの樊瑞にもわからねえ。意味不明だった。たぶん記憶がなくなっても、彼女自身の酔狂さはどこからともなく滲み出してくるのだ。理屈じゃないのだ。
樊瑞は、イラッとしてもう他人のフリでやり過ごすことに決めた。
しかしそうは問屋が卸さなかった。
「アイツも仲間だぞ!」
信者の一人が、さっき一緒にいたのを見ていたのだ。
「……あ、あいつ余計なことを!」
「祈芸は人に迷惑をかけない範囲で。それが我らグランツ教徒のルールだろうが!」
「まわりの迷惑を考えられない馬鹿は信者失格だ!」
「こいつらを叩きのめせ!」
樊瑞は、サイコキネシスでGマネーコインを操ると壁を作った。襲ってくる信者の攻撃を防ぎ、コインを棒状にして作った銭剣で「どう考えても、こいつら悪くないよね……」と思いながら、叩きのめした。
「……何を騒いでいる!!」
そこに、クルセイダー達が現れた。
黒のフルフェイスメットに、黒のライダースーツ。不気味な雰囲気を放つ司教直属の実行部隊だ。彼らは、変幻自在の光学兵器、聖剣アシュケロンを構えた。
「”中央広場にて乱闘騒動が発生。不審な市民二名を捕捉。時空震の要因である可能性は高。確認のため、これより拘束する”」
一人が、メット内部の通信機で、仲間に報告を送った。
「今度は、君達が僕の遊び相手なのかな……」
「もう黙っててっ!」
フィーアと樊瑞は、完全に囲まれた。
その時、どこからかケセラン・パサラン(けせらん・ぱさらん)が飛ばされてきた。
風に逆らうでもなく、ただ流れに身を任せ、ふわふわ漂っている。
「……なんだ、あれは? あれも時空震の要因か?」
みんなの視線がケセラン・パサランに向かったその時、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が飛び出した。
彼女は、目が覚めてから、わからない事だらけだった。でも、はっきりわかる事もある。それは、クルセイダーという言葉を聞くと、奴らを殲滅しなければ、自分が自分でなくなってしまう……そんな衝動に襲われるという事だ。
「危険? 無謀? 捕らわれざる者には無意味な言葉!」
挑発して、すぐさま踵を返した。一度に応戦する人数が少なくなるよう、路地へ。
レゾナント・ハイを発動させ、衝動のまま大暴れする。
「傍から見たら狂人かもしれない。世界の平和を乱す敵かもしれない……けど! この内なる衝動を、自分自身を疑うなんてご免よ。私は自分を信じてる!」
適当に殴り倒したところで、翼の靴で、建築物の上に。
ところが既に、敵は建築物の上に回り込んでいた。ここは彼らの都市、地の利は向こうにあるのだ。
「しまった……!」
鞭状になった聖剣が、四方から飛び、リカインは地面に叩きつけられた。敵は、倒れた彼女を拘束するため、すぐさま押し寄せる。
しかし次の瞬間、裁きの光が迫り来る敵に降り注いだ。
「!?」
「この不利な状況で、連中につっかかるとは酔狂な奴だな」
窮地を救ったのは、レグルス・レオンハート(れぐるす・れおんはーと)だった。
「まぁ、俺も人の事は言えんが」
全員、姿をくらましたのでは、逆に、目標を探すのに躍起になって、警戒レベルが上がってしまうかもしれない。そう考え、レグルスは囮役になろうとしたのだ。
「とは言え、これほど派手に暴れてくれたなら、十分だ」
レグルスは、エンシェントヘイロウを放ち、クルセイダーを薙ぎ倒した。
それから、リカインを小脇に抱え、乱れた敵の隊列を突破する。
「ちょっ、ちょっと? このまま二人で奴らを全滅させるんじゃないの?」
「連中が何人いるのか検討もつかんのだ。無駄な戦いは避けろ」
「……あ。今、倒した敵、まだピンピンしてる。あなた、手加減したでしょ!」
「それはまぁ、命まで奪うのは忍びないからな……」
「甘過ぎるわ!」
「はぁ。血の気の多い女だ……」
暴れる彼女に辟易しながら、レグルスは通りの喧噪に消えた。
「マーベラス、紛う事無きマーベラス! 見事な祈芸だった、諸君!」
コルテロは、広場を盛り上げたみんなを集め、賞賛の拍手を送った。
ポカンとする刀真、月夜と玉藻。そして、茉莉とダミアン。
美羽とエリスとアスカは「やったー!」と大喜び。
シリウスとラブと鈴蘭は「当然でしょ!」と得意顔。
沙霧と昌毅とハーティオンは「どうしてこんな事に……」と複雑な表情だ。
(ちなみに、フィーアと樊瑞は、もうどっかにばっくれた)
「あなたは信者の中でも、力のある人のようですね。ひとつ、お願いがあります。クルセイダーに入隊する、その口利きをしては頂けませんか?」
刀真は、コルテロに頼んだ。
「クルセイダーに?」
「ええ。俺の剣を、彼女に……超国家神様に捧げたいのです」
「なるほど。しかし無理だ。連中は一般公募はしていないし、彼らがどういう選考で選ばれるのかもわからん。彼らの正体もわからんしな。ただ、普通の信者が採用されたことはこれまでにない。彼らは、司教様が直接選んでるそうだ」
「そうなのですか……」
肩を落とす彼を、コルテロは励ました。
「……なぁオレも質問。超国家神に会うにはどこに行けばいいんだ?」
「私も知りたい。ホログラフィじゃなくて、本物の超国家神様に祈芸を捧げるの」
シリウスの言葉に、美羽もノリノリでそう言った。
「本物の超国家神様か……」
コルテロは遠い目になった。
「俺も未だお会いしたことがないのだ。夢の中では毎晩会っていると言うのに」
コルテロは、少し気持ちが悪かった。
「超国家神様と会うのは、教団幹部ならともかく、一般信者では難しいだろう。あのお方にお目にかかれる機会は、我々には、大きな祝典ぐらいしかない」
「うーん。近いうちに祝典はねぇのか?」
「あるだろ」
「え?」
「あれほどの祈芸を捧げられる強ヲタだと言うのに、寝ぼけたことを言う奴だ。もうじき、グランツミレニアムの祝祭ではないか」
「あー……あれね。うん、あれね」
「う、うん。勿論、覚えてるし」
みんな、話を合わせた。
「超国家神様が来られるかは知らんが、君達さえ良ければ、一緒に見て回らないか。俺は、特別に”第6地区”への入場を許可されている。同行すれば、一般信者では見られん儀式を見ることが出来るぞ。きっと最高の神イベント、神イベになるはずだ」
ワッハッハと、コルテロは笑った。彼の後ろに、遠く大神殿が見えた。
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