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【裂空の弾丸】Recollection of past

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【裂空の弾丸】Recollection of past
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第3章 機晶石の魂 5

(これは…………)
 声が、聞こえる。
 暗い闇の淵に沈んだベルネッサの心に、声が聞こえてきた。
 それは一つではない。
 いくつもの声である。
(誰……?)

〈ベル! 戻ってきて――!〉
〈ベルっ!〉
〈ベル! 僕たちがわからないのかっ――!〉

(あたしを呼ぶのは……)
 ベルネッサはそっと瞼をあげた。
 実際にあげたかどうかは定かでない。
 ただ、彼女はそんな気がした。
(あたしを呼んでいる……あたしを呼ぶ声がする……)
 それは、知っている声ばかりだった。
 仲間の声だった。
(みんな…………あたしは……――)

● ● ●


「ぐおおおおぉぉぉ!」
 真司は融合機晶石を握ったその手を、ベルネッサの胸へと押し込んでいた。
 強制的に入りこもうとする融合機晶石が、中の黒い機晶石と反発し合い、激しいスパークを巻き起こす。

 シュバアアアアアァァァッ……――!

 だがそのことによって、ベルネッサの動きに変化が見られた。
「あ……たし……は……」
 彼女の口から、わずかに自分の声らしきものがこぼれているのだ。
 そのチャンスを逃さず、朝斗たちが一斉の彼女の心に呼びかけた。
「ベルッ!」
「ベルさんっ!」
「ベルネッサッ……!」




(あたしは……――!)



 人の心が強ければ強いほど、機晶石はその呼びかけに応えてくれる



 キイイイィィィィィィン……――!!

「見てっ! あれ……!」
 美羽が、ベルネッサへと指を示した。
 彼女の身体から、溢れんばかりの光が漏れだしている。
 それは胸の中心からであり、そこから――

 ズブ……

 白い光に包まれた、漆黒の機晶石が現れた。
 そしてそれは次の瞬間、

 バリイイィィンッ!

 粉々に砕け散る。
 一瞬、そのとき、一瞬であるが……
(あ…………)
 朝斗たちは、黒き機晶石から虹色の光のようなものが空へと舞い上がっていくのを見た気がした。
 それは人の顔のようにも見えた。
 まるでなにか救いを求めていたような、そんな顔。
 やがて全ての光が収まったとき――
「…………ん…………ここ…………は……」
「ベルっ! 目を覚ましたんだな!」
 床に転がっていたベルネッサが、ゆっくりと瞼を開いたのだった。

● ● ●


 ベルネッサの意識が覚醒しようとした、ちょうどその頃――

 ドゴオオオォォンッ!

「ぐわあああぁぁぁぁ!」
 移動要塞の後ろにある動力室では、けたたましい爆発が起こっていた。
 それは東 朱鷺(あずま・とき)が放った八卦の呪符によるものである。
 もうもうと立ちのぼる煙。その中から現れたのは――エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)と朱鷺だった。
「けほっけほっ……少しやり過ぎてしまいましたかね……」
 朱鷺が自分で起こした煙にむせて咳き込む。
「いや、これぐらい派手にやったほうが、見栄えもいいだろ」
 それに妙に的外れな返答を返したのは、エヴァルトだった。
 三白眼気味の目つきをした険しい顔が、動力室にあるコンピュータ群をざっと見渡す。
「さて、要塞を落としたらどうするか……」
 彼はつぶやくようにそう言った。
 そのときである。
「くっくっくっ、乗っ取りなら俺様たちに任せるんじゃぜ」
 そう言って、エヴァルトの後ろからぴょんと飛びだしてきたのは三船 甲斐(みふね・かい)だった。
「エメラダ! 行くぜぇいっ!」
 彼女は隣にひかえていたエメラダ・アンバーアイ(えめらだ・あんばーあい)へと合図を送る。
「うん、了解っ!」
 エメラダが快くうなずいた。
 その直後――二人の装備していたユニオンリングが輝き、お互いの身体が一つになる。
 合体した二人は、エメラダの力によってナノマシン拡散した。
「うぉっ!? こりゃ、すげぇな……」
「二人とも。遊んでないで回線の侵食は頼んだよー」
 驚くエヴァルトに対し、見慣れている猿渡 剛利(さわたり・たけとし)はしごく平然とした様子で言う。
 ごくごく微細なナノマシンになった一つの存在は、
「任しとけ!」
 不思議な声音でそう言うと、コンピュータの中へと溶け込むように消えていった。
「本当に大丈夫なのか?」
 そのあまりにも楽観的な仕草と声音に、エヴァルトが懐疑的な声を出す。
「大丈夫じゃよ」
 それに答えたのは、剛利ではない。
 足もとにあった、一体のプラモデル……佐倉 薫(さくら・かおる)の遠隔操作で動くイコプラであった。
 もちろん、その声は通信を通した薫の声である。
 彼女はエヴァルトの心配を見越した上で、返答したのであった。
「ああ見えて、やるときはやる連中なのでのぉ」
「そーいうことだぜ。ま、俺たちに任せときな」
 剛利がキシシと笑いながら、溶け込んだ二人のサポートのためにコンソールを動かす。
 モニターには、

 あらよっと。えいしょらしょっと。

 遊びなのか真面目なのか、なにやらコミカルに迷路配線を動き回るナノマシンの姿が映っていた。
「…………不安だ」
 なんだかなぁ……の、エヴァルトであった。

● ● ●


「こちらコントロールルーム。甲斐? 聞こえる?」
 クドゥルが脱出し、飛行機晶兵たちがそこらに転がる司令室。
 その大型モニターに向かって、コンソールをいじる天貴 彩羽(あまむち・あやは)がそのように呼びかけていた。
 彼女が行っているのは、要塞のメインコンピュータへのハッキングである。
 司令室のコンピュータは要塞内のあらゆるデータベースと繋がっている。
 配線に溶け込んだ甲斐たちの手助けを借りて、彩羽はその全てのコントロールを奪取しようとしているのだった。

 カタカタカタカタ……――

 契約者たちが静かに見守る中、彩羽の無言の打鍵音が響く。
 やがて、モニターに映ったのは――

 ブイ!(Vサイン)

 コミカルな二次元タッチのイラストでVサインをする、ナノマシン状態の甲斐とエメラダだった。
 その意味するところは、全てのデータの掌握である。
 振り返った彩羽は、爽やかな笑みを浮かべていた。