リアクション
● ● ● 「なんじゃい、こりゃ……」 飛空艇の乗組員たちはぽかーんとする。 目の前で妙なコントを見せつけられている気分で、ついついその手が止まってしまっていた。 それが隙となったのだろう。 「いまだ! 全軍、攻撃を開始せよ!」 ハデスが叫んだ途端、彼の部下である空賊や戦闘員たちが、一斉に飛空艇を攻撃してきた。 ズガアアアァァァァンッ! ドゴオオォォォ! 「きゃあああぁぁ!」 砲撃を受けた飛空艇ブリッジがぐらぐらと揺れる。 ローザマリアは立ち上がり、しかし、歯がゆい思いに唇を噛んだ。 「くそっ……どうすれば……! 向こうに回すほどの人手も足りないし……!」 そうなのである。戦闘部隊はすでに空中生物たちとの戦いに駆り出されており、圧倒的な人手不足だった。 まさに絶体絶命。バカななりにも攻撃力は確かなハデスの軍団に、このままやられてしまうのか……!? と、思ったその時―― シュン―― 「応援なら来ますわよ」 ブリッジのドアが開いて、豊満な胸を目立たせた女性が現れた。 「ユーベル!?」 ユーベル・キャリバーン(ゆーべる・きゃりばーん)その人である。 彼女は外の様子を映しだしている正面の巨大スクリーンを見つめて、妖艶な微笑を浮かべながら言った。 「――とびっきりのやつがね」 その意味は、間もなくローザマリアたちも知ることとなった。 ● ● ● ワアアアアアアアァァッ! 「ハ、ハデス様! て、敵の増援が!」 「なにぃっ!?」 部下の戦闘員から受けた報告に、ドクター・ハデスは驚きを隠せなかった。 不幸なことにそれは真実だった。ふり向くと、飛空艇とは反対側の空から、無数の人影がやって来る。 その数は300名をゆうに越えていて、ハデスの部下の数を凌駕するほどだった。 「い、いったい何者だ……!」 愕然とつぶやいたハデスの言葉に答えたのは、部下ではない。 ドズウウゥッ! 「ぐあああぁぁ!」 ハデスの部下を矢で射貫いたその相手が、ニヤリと笑って叫んだのだった。 「シャーウッドの森空賊団、参上! 待たせたわね!」 それは空賊団を従える団長の、ヘリワード・ザ・ウェイク(へりわーど・ざうぇいく)だった。 噂には聞いたことがある。シャーウッドの森を守る空賊たちの集団がいるという噂だ。 しかし、まさかこんなところで現れるとは……。愕然とするハデスに、さらなる追い打ちがかかったのはそのときだった。 ズガアアアァァァンッ! 「なにっ!?」 ハデスの指揮する飛行機晶兵部隊が、ある人物によって破られたのだ。 「オレもいるぜ! 忘れるなよ!」 それは、空賊団の遊撃隊を指揮するフェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)だった。 レベル的にも他の空賊や機晶兵をぬきんでている者だけを集めた、精鋭部隊。フェイミィはそれを従えていた。 もちろん、愛馬として駆るは空賊団に従うワイルドペガサスたちの長、ナハトグランツである。気性の荒いペガサスは唸りをあげ、同時に、空賊や機晶兵たちを乗せたペガサスたちが、ハデスの部隊へと突っ込んでいった。 「どわあああぁぁぁ!」 切り込み、切り込み、さらに切り込む! 絶え間なく突貫してくる空賊たちと、ハデスの部下たちとの攻防戦が始まった。 ● ● ● 「あれは……!」 スクリーンに映し出されている外の様子を見ながら、ローザマリアたちが驚く。 「リネンから増援をいただいたのですわ。間に合ってよかった……」 ユーベルはほっと胸をなで下ろして、そうつぶやいた。 そう。これらはすべて、ユーベルがリネン・エルフト(りねん・えるふと)に連絡を取って裏回ししていた策なのだった。 移動要塞と戦いを繰り広げるなら、人材はどれだけあっても困るものではない。 リネンと連絡を取り合ったときのことが、ユーベルの脳裏に思い出される。 『……わかったわ、ユーベル。ヘイリーとフェイミィに回ってもらう。もうしばらく、飛空艇をお願い』 『えぇ、こちらはお任せを。必ず、ベルネッサを助けだしてみせますわ』 『ありがとう。あ、それと……ユーベル。ベルネッサに一言だけ。大切なのは“自分が何者だったか”じゃなくて“今どう生きて、これから何をするか”って……。これをあなたに言うのも、恥ずかしいけどね』 ユーベルはくすっと笑った。 それはかつてユーベル自身がリネンに言った言葉だったのだ。 リネンはそれを知りながら、あえて、その言葉をベルネッサに伝えて欲しいと思っていた。 『わかりましたわ。――必ず』 最後にユーベルがそう告げて、二人の通信は切れた。 (そうですわ。あの言葉を伝えるまで、決して負けてはいられませんもの!) ユーベルは決然とした意思を表情にし、顔をあげた。 通信機を手にして、ハッキリとした声音で叫ぶ。 「艦内空賊団の者たちに告げる! ダメージコントロール・チームの指揮に従い、艦内の応急処置に回れ! 急いで!」 ダメージコントロール・チームとは、機械修理工3人をチーフにした艦内修理の応急処置専門チームだった。 ユーベルからの命令を受けて、飛空艇に駐屯していた残りの空賊たちが奔走を開始したのだった。 ● ● ● 「ぐぬぬぬ……なんということだ!」 ハデスは自らの部下たちとシャーウッドの森空賊団が戦う様を見て、歯噛みした。 まさかこれほどまで危機的状況に陥るとは思っていなかったのだ。 彼の計画では、飛空艇に強襲をかけ、一気にその装備を奪って終わりになるはずだった。 そこに現れた見事な反撃に、もはや残されている手段は数少ない。 「こうなったら――ペルセポネ、ヘスティアよ! 機晶合体をおこない、一挙に飛空艇を沈めてしまうがいい!」 ハデスは戦況を見抜き、そのように命令を告げた。 「は、はいっ! かしこまりました、ご主人さ……いえ、ハデス博士!」 「わかりました、ハデス先生! 機晶合体です!」 二人の機晶姫は迷いなく合体モードに突入した。 ガシャンッ! ガシャッ……――ジャコーンッ! 背面のウェポンコンテナからミサイルユニットを展開させ、空いた空間に体育座りするヘスティア。 そのまま彼女は、ペルセポネの背中にドッキングした。 「機晶合体オリュンピア!」 ジャキーン!(効果音) どこかの合体ロボのようにポーズを決める二人同時の一体。 そのまま―― 「ヘスティアちゃん、全ミサイル発射ですっ!」 「了解! とんでけえええぇぇぇ!」 機晶合体オリュンピアは、無数のミサイルを発射したのだった。 ● ● ● チュドオオオオォォンッ! ドオオオオォォンッ! ドガアアアアァァァッ! 「うああああぁぁぁっ!」 無数のミサイルが着弾し、飛空艇のブリッジは大きく揺れた。 コントロールを一手に担うアルマが、苦痛を感じている表情で叫ぶ。 「飛空艇破損率60%突破! 左舷砲手室、破壊されました!」 「なんですって!?」 警報ランプによって真っ赤に染まったブリッジで、ローザマリアの悲鳴めいた声が轟いた。 このままではマズイ。それはローザマリアでなくとも、ブリッジにいる全ての乗組員にとって明白だった。 飛空艇は、現在の状態ではその能力の全てを発揮できていないのだ。 つまり、シールドも、攻撃手段も、従来の半分程度の力しかない。 本来なら耐えきれるはずのミサイルの着弾も、シールドを全展開出来ない今、驚異的な攻撃となってしまっているのだった。 もちろん、それはなにも今すぐに飛空艇が墜ちる、というものではない。ユーベルが呼んでくれた空賊や機晶兵の応援が、ハデスの勢いを削いでいるからである。 しかし、このまま戦っていれば、いずれ陥落するのは時間の問題だろう。 (せめて、ベルネッサがいれば……!) ローザマリアの脳裏に浮かぶのは、要塞に連れていかれたこの飛空艇の本来の持ち主だった。 「エネルギーシステムダウン! 飛空艇の機動力が低下していきます!」 オペレーターのトマスが叫ぶ。 (早く……ベルネッサ……っ!) 飛空艇はいまや、窮地に晒されていた。 |
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