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リアクション
【十 決意の証明】
第六師団本隊の一員としてオークスバレー・ジュニア内に突入した葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)、コルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)、鋼鉄 二十二号(くろがね・にじゅうにごう)、イングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)達は、前衛要塞部を抜けて後衛要塞部へと奔り、峡谷側に抜けた。
そこで四人は、早速事前の打ち合わせ通り、罠の施設に入った。
吹雪達が対戦相手として狙っていた龍騎士が、結局この段階になるまで要塞を飛び出してこなかった為、要塞を突破する形での戦術に切り替えなければならなかったのである。
尤も、この計画変更自体は然程に大きな問題ではない。
寧ろ吹雪達が頭を悩ませていたのは、ラヴァンセン伯爵に付き従う鉄心達の存在であった。
当初は、従騎士やヘッドマッシャーさえ何とかすれば互角の勝負に持ち込めるという算段を立てていたのであるが、鉄心達のきめ細かいサポートは、吹雪達にとっては厄介な脅威へと化していたのである。
コルセアが、心底困った様子で眉間に皺を寄せた。
「どうしたものかしらね……このままだと、作戦に支障が出るわ」
「では、それに相応しい援軍を呼ぶであります」
どうやら吹雪には鉄心達に対処出来る人材について、心当たりがあるらしい。
吹雪の口ぶりから、イングラハムはすぐにピンと来たらしく、蛸のような口元に変な形の笑みを浮かべた。
「成る程、彼か」
「そう、彼であります」
答えながら、吹雪は支給品の無線機で通信回線を開き、頼もしい助っ人に対してひと言だけ告げた。
「イッツショウタイム、であります」
それだけで相手に通じたのか、吹雪はさっさと無線機を切り、標的であるラヴァンセン伯爵への陽動戦を展開する準備に入った。
ラヴァンセン伯爵と鉄心達は単身突撃を仕掛けてくる吹雪の姿に素早く反応し、イコナのサラダやティー・ティーの無力化攻撃などで吹雪に対応しようとした。
吹雪は、一撃離脱戦法でラヴァンセン伯爵達を牽制しつつ、東側の渓谷方面へと移動してゆく。
ラヴァンセン伯爵も、吹雪が何かを企んでいることは見抜いているようであったが、敢えてその策に乗ってやろうという腹積もりなのか、悠然と歩を進めて吹雪の後を追ってきた。
決して広くない後衛要塞部の敷地を突破しつつ、吹雪はラヴァンセン伯爵達が尚も追撃してくるのを目線だけで確かめた。
(実に見事な肝っ玉であります。罠があることを承知の上で、それでも尚、戦いに臨んでくれようというその気概に、敬意を表するであります)
やがて、吹雪はオークスバレー・ジュニアの全街区を一気に抜けて、東側の急斜面が谷底へと落ち込む渓谷地へと飛び出した。
ラヴァンセン伯爵と鉄心達も、その後に続いて飛び出してくる。
そこで、いきなり砲撃の嵐が鳴り響いた。
待ち構えていた二十二号とコルセアによる、集中砲火である。だが、それだけならばラヴァンセン伯爵側もある程度の予測を立てていたのか、上手い具合に渓谷の岩場の影に身を潜めて、着弾をかわしている。
しかし鉄心達にとっては、そこで予想外の光景が展開された。
「秘密兵器! 惨状ッ! じゃなかった、参上ッ!」
砲撃に紛れる形で、宙空を自在に舞う人影がひとつ。
その姿に、ティー・ティーとイコナはすっかり固まってしまい、正常な思考が出来なくなってしまった。
現れたのは、柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)であった。
しかも、何故か全裸である。
いや、何故かという表現には齟齬がある。恭也自身には、裸であることの理由が、しっかりあったのだ。
「要らないのさぁ! 服なんざ! それで勝てるっていうんならよぉ!」
恭也が駆使しているのは裸拳であった。脱げば脱ぐほど強くなる、というアレである。
但し、それなりの良心は僅かに残されているのか、股間の辺りに陰陽モザイクをしっかり張りつけている。ところがその陰陽モザイクが却って目立ってしまい、変に卑猥なイメージを周囲に振りまく始末だった。
裸拳の戦闘力もさることながら、その尻丸出しで肌色が矢鱈と多い姿に、ティー・ティーとイコナが事実上、戦場から脱落してしまったのである。
これは、鉄心にとっては非常に手痛い打撃であった。
砲撃は二十二号の用意した戦車だけではなく、恭也を援護する柊 唯依(ひいらぎ・ゆい)の戦車からの砲弾も、そこに加わっていた。
「あれ(恭也のこと)には構わず撃ちまくれ。どうせ、死なん」
唯依は決して冗談などではなく、本気でいっているらしい。これには流石に二十二号のみならず、コルセアやイングラハムもぎょっとした表情を見せていた。
だがとにかく、唯依からの許可が下りた以上は、二十二号もコルセアも手加減する必要はなくなった。
ラヴァンセン伯爵の愛龍セムエラの両翼部に向けて砲弾を雨あられと撃ち込んでゆく。
一方の鉄心はラヴァンセン伯爵の指示を受けて、セムエラをオークスバレー・ジュニアの城門内へと後退させようと必死になっていた。
次々と迫り来る砲弾を自身の能力の全てを駆使して防ぎつつ、同時にスープ・ストーンの能力も借りてセムエラへのフォローを入れつつ、冥龍の巨躯を城門内に引き退かせようと懸命になっていた。
逆にラヴァンセン伯爵は砲弾の雨などまるで気にした素振りも見せず、尚も接近戦を仕掛ける吹雪を相手に廻して、随分と楽しげな表情を浮かべていた。
「良い腕だ! 次は、どのような策を用意しておるのかね!?」
「折角ここまで付き合って頂いたのであります! 最後の種明かしにも、お付き合い頂きたく存じ上げるのであります!」
吹雪のその叫びが、合図となった。
不意に両脇から迫る峻険な山岳のそこかしこで爆発が生じ、地響きを立てて大量の土砂が降り注いできた。
ラヴァンセン伯爵を相手に廻して吹雪が時間稼ぎをしている間に、コルセア達が土砂崩れを発生させる為に仕掛けておいた爆薬が、吹雪の怒声を合図にして一斉に炸裂したのである。
街ひとつを埋め尽くしてしまうかと思われる程の土砂が、岩盤もろとも降下してきた。
これだけの広範囲な土砂崩れともなれば、囮役の吹雪とて、ただでは済まない。否、吹雪自身も土砂に埋もれる覚悟で、ラヴァンセン伯爵にこの罠を仕掛けていたのだ。
「自分を道連れにする覚悟でなければ、龍騎士殿を封じることは出来ないであります!」
「その意気や良し! 我が生涯最後の相手として、相応しい敵に出会えたことを天に感謝する!」
直後、ラヴァンセン伯爵は巨龍の倍以上はあろうかと思われる程の巨大な岩盤に押し潰される格好で、土砂の下へと姿を消した。
吹雪もこのまま一緒に押し潰されそうになっていたが、そこへ宙を滑空する全裸の恭也が土砂の雨の中を器用に駆け抜け、吹雪の腕を掴んで崩落の外側へと引っ張り出していった。
「は……伯爵!」
大地を揺るがす程の大崩落の中で、鉄心は悲痛な叫びを上げた。
城門内へと引き退いていた冥龍セムエラの悲しげな咆哮が、オークスバレー・ジュニア内に殷々たる響きを震わせていた。
* * *
アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)、ルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)、セレスティア・レイン(せれすてぃあ・れいん)、アリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)の四名は、次々とオークスバレー・ジュニア内に雪崩れ込んでゆく第六師団兵の波に半分呑まれるような形で、破壊された城壁外郭孔を抜けていった。
実のところをいえば、アキラ達はスティーブンス准将のB.E.D.が発動するまでは後方に待機しておきたかった。
しかし前衛要塞部の守りが崩壊し、第六師団兵がオークスバレー・ジュニア内に突入し始めている現状を鑑みれば、そう悠長なこともいっていられなくなってしまったのだ。
「う〜ん、正直こういう展開は不本意なんだけど……」
「でも、今のうちに中に入って准将さんを探し出しておかないと、他のひとに先を越されて倒されちゃったら、お話したいことも出来なくなってしまいますよ」
悩ましげな表情で頭を掻くアキラに、セレスティアが仕方なさそうな面持ちを向けた。
確かにセレスティアのいう通りで、このまま何もせずに傍観し続けていれば、アキラ自身の目的が達成出来なくなってしまう可能性が高かったのである。
であれば、B.E.D.発動前ではあっても、スティーブンス准将を探し出しす必要があった。
「しかし准将は、一体どこにおるんじゃ? B.E.D.発動後なら効果範囲を逆算して、大体の位置を掴めるのじゃが……」
ルシェイメアが幾分困った様子で、うんうんと唸っている。
当初想定していた状況とは大きく異なる展開になってしまっている為、事前に立てておいた計画の半分以上が既に意味を為さなくなってしまっていたのだ。
こうなると、自力で准将を探し出すのは難しいかも知れない。
「誰か、に訊いても……答えてくれる筈はないよネ〜」
ルシェイメアの懐の中で、アリスが諦めたような溜息を漏らす。周辺では守備隊に配属されていたと思しきリジッド兵が、第六師団兵を相手に廻して苛烈な銃撃戦を展開している。
そんな最中に『准将はどこですか?』などと訊いてみたところで、誰も答えてくれる筈もないだろう。
ところがそんな中で、セレスティアが妙な人影が悠然と戦場内を歩いてゆく姿に気づいた。
「あら? あのひとは……」
セレスティアが指差す先には、ふたつの人影が確固たる足取りで、何の迷いも無く進んでゆく姿があった。
ひとりは、中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)。そしてもうひとりは、魔王 ベリアル(まおう・べりある)であった。
綾瀬はいつものように、漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)を魔鎧化して身に纏っているのだが、アキラ達にはそんなところまでは理解が及ばない。
ただひとつ不審に思ったのは、綾瀬とベリアルが明確な何かを目指して、まるで行く先を全て心得ているかのように、悠然と歩を進めていっているのである。
このふたりの姿が、アキラの直感を刺激した。
「もしかしてあのふたり……准将のところへ行こうとしてるんじゃないか?」
「何? そうなのか?」
ルシェイメアは半信半疑でアキラの持論を聞いていたが、しかしどういう訳か、アキラは綾瀬達が准将の居場所を知っているに違いないという、確信めいた思いを抱くようになっていた。
「どのみち、今のままじゃ准将を見つけ出せる可能性は低いんだ。それならあのおふたりさんに案内願って、御一緒させて貰うってのも手じゃないか?」
但し堂々と彼女達に同行を求めるのではなく、こっそり尾行していこうという辺りがアキラらしいといえば、らしかったのだが。
ともあれ、半ば強引なアキラの決定によって、四人は綾瀬とベリアルを尾行し、あわよくば准将と御目通り願おうという方針に切り替えた。
* * *
少しだけ、時間を遡る。
綾瀬はオークスバレー・ジュニアに向かう前に、若崎源次郎と渓谷近くの林の中で顔を合わせていた。
「何や綾瀬っち、やっぱり、じっとしとれんか」
源次郎は綾瀬の言葉を受けて、さも可笑しそうにからからと笑った。
綾瀬は、アレスター強化型ディクテーターであるスティーブンス准将と一戦交えたい旨を、源次郎に申し出ていたのである。
源次郎も、綾瀬がそれなりの覚悟を決めて語っている以上、下手に留め立てするような野暮な台詞は口にしなかった。
「源次郎様。私が倒れた際は、弔って頂けますでしょうか?」
「綾瀬っちがそうして欲しいっちゅうならな。けど、今回はそんな心配せんでもええかもな」
「……と、おっしゃいますと?」
綾瀬は興味深そうな面持ちで、明後日の方角を眺める源次郎の視線に、己が目線を合わせた。
ふたりが見た先では、メガディエーターがコントラクター達を相手に廻して、激闘を続けている。あの巨獣の存在が、何か関係があるのだろうか。
「あれが終わらんうちは、あいつのB.E.D.は使うに使えんやろ。勝負するんやったら、メガディエーターが暴れとる今のうちやで」
源次郎が何をいわんとしているのか――この時点では、綾瀬には全く理解出来なかった。
ともあれ、源次郎は綾瀬を引き留めるつもりなどは毛頭無いらしく、懐から一枚の紙片を取り出して、綾瀬に手渡した。
「スティーブンスの居室の位置や。ベリやんも最初っから一緒に連れていっとき」
「これは……恐れ入ります」
綾瀬は、深々と頭を下げた。
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