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古の白龍と鉄の黒龍 第4話『激突、四勢力』

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古の白龍と鉄の黒龍 第4話『激突、四勢力』

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(ダイオーティと“灼陽”……戦力差は歴然としている。龍族側は“灼陽”に集中的に損害を与えたい所だが、先程の鉄族側の奇襲でそのための戦力も不足している。
 厳しいと評する他無いが……このままダイオーティが、龍族が滅ぼされて終わる結末なんて、俺は見たくない。そんな犠牲を払って終わりになる戦いを終わらせるために、俺はこの世界に来たんじゃない)
 ゴスホークを操縦する柊 真司(ひいらぎ・しんじ)の前方には、未だ戦力を維持した“灼陽”が君臨している。このまま龍族側の戦力が枯渇し、ダイオーティが出てくるような事になれば、勝敗は一瞬の内に付いてしまうだろう。
『現在、龍族側の戦力は鉄族の機体との戦闘に大半を割かれています。これ以上“灼陽”を自由に振る舞わせれば、状況はさらに鉄族側に有利に傾くでしょう』
 ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)の報告を受け、真司はそれまでの中立よりの立場から、“灼陽”の戦力を減じる方向へとシフトする。
「ヴェルリア、“灼陽”の全容を簡潔に頼む」
『艦体前部は左右一基のカタパルトを持ち、そこから先は対空レーザー砲、連装、三連装ビーム砲のオンパレードですね。ここまで武装して干渉しないのが不思議なくらいです。
 艦橋は艦体中央部にあるようですが、周囲は高出力のバリアで覆われているようです。……武装を破壊するにしても、途方も無い数ですね』
「まったくだ。……だが、俺たちだけでこの船を無力化するわけじゃない。後に続く道を作るのが俺たちの目的だ。
 ……行こう、ヴェルリア。左舷側より進入、武装を破壊する!」
 直後、『ゴスホーク』の背中の燐光が強くなり、速度が急激に増す。『ゴスホーク』の機動性は他のイコンや鉄族をいとも簡単に振り切り、“灼陽”を瞬く間に射程内に捉える。
『! センサーに反応! 攻撃来ます!』
 ヴェルリアの警告が飛び、機体斜め後方からレールガンの弾丸が『ゴスホーク』を襲う。それは搭載されていた重力制御システムが弾道を逸らしてくれたが、狙いの正確さは真司の肝を冷やした。
(こちらの特性を知っている者が、鉄族側に付いている……?)

「あっ、外した。向こうはカスタム機かな? こっちと同型機だと思ったんだけど」
 射撃を行った笠置 生駒(かさぎ・いこま)が、攻撃を逸らした機体を評価する。シーニー・ポータートル(しーにー・ぽーたーとる)と搭乗するジェファルコン特務仕様もカスタム仕様ではあるが、相手の機体はさらに世代が進み、かつ試作機という立ち位置であった。
『似た機体で好き勝手されるんも、気に入らんなぁ。いっそ出て行って殴り合えばええんとちゃう?』
「無茶言わないでよ、近接戦は向こうが圧倒的に有利だもの。
 ワタシ達は相手を落とすより、相手の“灼陽”への攻撃を失敗させる方向で動いた方がいいよ」
 整備士という職業柄、機体特性を見抜くのには長けている生駒が、『ゴスホーク』を近接戦に強い機体と判断し、無用な接近を避けながらレールガンで狙い撃つ作戦を取る。『ジェファルコン特務仕様』は機動こそ『ゴスホーク』に劣るが、それを照準で補っていた。補給もすぐ近くに『伊勢』が居るため、装填数の少なさはこの場合、問題ではない。
「これだけ戦況が傾いたら、後は“灼陽”をどうにかしようとする以外、覆らない。相手の意図が分かっていれば、対策は簡単だよ」
『なんや、つまらん事言うなぁ。なぁ生駒、もう一杯開けてえぇか?』
「ダメ、まだ戦闘中だよ? シーニー、なんかおじさん臭い」
『な!? ちょう生駒、それは暴言やって。
 あんな加齢臭撒き散らしたオッサンとワタシが一緒なはずないやろぉ!?」
「……うーん、どうかな。アルコール臭いのは確かだよ」
 通信の向こうでグダグダ言っているシーニーを無視して、生駒は目の前の機体、『ゴスホーク』が“灼陽”への攻撃を諦めて退いてくれるよう願いながら、レールガンによる射撃を継続する。

「予想以上に厳しいな。ヴェルリア、後どのくらい動ける?」
『そうですね……全力で60秒。それ以上は撤退に支障を来します』
 ヴェルリアの報告に真司が舌打ちする。“灼陽”の弾幕に加え『ジェファルコン特務仕様』の射撃は、機体に多大な負荷をかけていた。
「こっちにだって、ただでは退けない意地ってものがある。
 エナジーバースト稼働! ファイナルイコンソード、リミッター解除! ヴェルリア、氷壁の展開を頼む」
『分かりました。アブソリュート・ゼロ発動』
 機体の防御面をヴェルリアに一任し、真司は一撃に全てを賭ける。この一撃が通らなければ、龍族は滅亡への道を進むことになるだろう。
「……させるかぁ!」
 意思がそのまま形となったかのように、『ゴスホーク』は弾幕を掻い潜り“灼陽”の左舷部に肉薄すると、出力を増大させたブレードを振るう。時間にして僅か10秒あまりで、左舷部にあった対空レーザー砲10基と連装ビーム砲2基が切り裂かれ、使用不能となった。

 それまで余裕の笑みを浮かべていた“灼陽”が、『ゴスホーク』の攻撃を受けて顔をしかめる。
「ご主人様……じゃなかった“灼陽”様! 大丈夫ですかっ」
 “灼陽”の護衛兼雑用係として、“灼陽”と随伴する『伊勢』に光学迷彩を施し、龍族の陣営を混乱させる要因を作ったヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)が駆け寄り、“灼陽”を心配する。
「……ふむ、いくつかの武装と、装甲に損傷を受けたか。
 なに、心配するほどのものではない。こうなる前に機体を落とせなかった私の不手際だ」
 左腕を庇うように押さえていた“灼陽”が、ヘスティアを心配させまいとしてか、笑みのようなものを浮かべる。
「この戦いは、“灼陽”様の悲願を果たす決戦の戦い。このヘスティア、最後までおそばに仕えさせていただきます!」
「うむ。その言葉、嬉しく思うぞ」
 “灼陽”の言葉にヘスティアがパッ、と笑みを浮かべる。直後、先程損傷を受けた左舷部へ複数のイコンが迫るのが確認出来た――。


(味方のイコンが“灼陽”に打撃を与えてくれた。これで進入が多少はやりやすくなるはずだ)
 神条 和麻(しんじょう・かずま)の操縦するイコン、アマテラスが“灼陽”の左舷部から進入を試みる。『ゴスホーク』がその部分の武装を破壊したことで、対空射撃に穴が生じていたためであった。
(どちらかの長が斃れて終わる、そんな犠牲から成り立つ終わりなんて認めない……!
 ここで“灼陽”を止めなければ、ダイオーティが斃れるのは必然。……その前に武装を破壊して、退かせてやる!)
 必ず成し遂げるという決意を秘め、比較的弾幕の薄い左舷部から艦橋への道を行こうとして、『アマテラス』は『伊勢』と『ジェファルコン特務仕様』の迎撃に阻まれる。
「最初の作戦は見透かされましたが、二度やっていけないというルールは無いであります」
 弾幕が薄いという状況を利用して、そこに来た機体に火力の全てを向け、各個撃破を図る作戦。予めそこから来ると分かっていれば、弾幕を集中させるのは容易であり、『アマテラス』はそこに飛び込む形になってしまう。
(バカな! こんな事をすれば“灼陽”にだって誤射は免れないぞ)
 損害を受けつつも安全地帯へ逃げ込んだ和麻は、自身が『伊勢』と『ジェファルコン特務仕様』から攻撃を受けていた際、“灼陽”からの攻撃が一時的に止んでいた事を思い出す。何故そのようなことになったのかを探るべく視界を“灼陽”へ向ければ、別のイコンが“灼陽”へ攻撃を仕掛けようとしていた。
「出力最大! “灼陽”の主兵装を攻撃するぞ!」
「ラジャー! ブリジットさん、出力調整はお願いします! ワタシはダメージコントロールを頑張りますよ!」
「はい、頑張りましょう、ホリイ」
 夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)の指示にホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)ブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)が答え、操縦する{ICN0004945#バロウズ}は飛行形態の状態で、“灼陽”の主兵装に向け連装砲を見舞う。しかしそれらは艦体を取り巻くバリアに効果を抑えられ、僅かの兵装を使用不能にするに留まった。
「ふむ、遠距離からの攻撃は高出力のバリアが防いでいるようだな。先程の機体があれほどの有効打を与えられたのは、高いエネルギーを近距離からぶつけたからであろう」
 草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)の分析に、ならばと人型に変形して強力な近接兵装で有効打を……と甚五郎は考えかけ、この圧倒的な弾幕の前にそれは厳しいと判断する。巨体な『バロウズ』では機動が劣り、いくら装甲があったとしてもいずれ押し負ける。
「むぅ、これ以上の交戦はこちらにとって不利か。一旦補給を行い、再度攻撃を仕掛けるぞ」
 被害が拡大する前に、『バロウズ』は交戦エリアから撤退する。
(なるほど、さっきはバリアを張って、流れ弾を防いでいたのか。……しかしこれほど堅牢な相手とは、こちらも一度態勢を立て直した方がいいな)
 強力なバリアの存在を確認して『アマテラス』も修理のため帰還する。


「いやー、これほど一方的になるなんて思わなかったぜ。介入が一方向で済むのは楽かもしれねぇけど、俺は修理でてんてこ舞いだ」
 続々と修理や補給のためにウィスタリアへ着艦してくるイコンへ、柚木 桂輔(ゆずき・けいすけ)率いるイコン整備部隊が取り付き、損傷を受けた部分の修理や弾薬、エネルギーの補給を行う。
「それにしても“灼陽”のバリア、ありゃあ相当硬いな。こっちのグラビティカノンでもぶち抜けねぇと思うんだが、どう思う? アルマ」
 修理の手は止めず、桂輔は『ウィスタリア』を操船するアルマ・ライラック(あるま・らいらっく)に呼びかける。
『桂輔の意見に賛成せざるを得ません。こちらのパワーの全てを振り向けても、バリアを抜ける確率は10%を切ります』
 アルマの判断に、やっぱりなーと桂輔が頷く。『ウィスタリア』も機動要塞として十分な火力を持っており、この場合は“灼陽”の強化が予想以上に行われていたことを示唆する。
「『ゴスホーク』の懇親の一撃でやっとかすり傷を与えられるくらいだ、他の機体はよっぽど覚悟を決めねぇと傷すら与えられねぇぞ、これは。
 いっそアレだな、さっき出来た箇所から誰かが内部に侵入して、中からどうにかするしかねぇよ、これ」
『……桂輔にしては有効な意見を言いますね。素直に驚きました』
「おい、どういうことだってばよ。ったく、俺だって色々考えてんだっての。
 ……ま、その辺は他の契約者に任せるわ。俺はあくまで修理屋。傷ついたイコンを修理して、疲れたイコンにエネルギーを補給して送り出す、それが俺の仕事だ」
 話を打ち切り、桂輔がまたやって来たイコンの整備に取りかかる。その様子をモニターで見ながら、アルマはもしかしたら他の契約者の中でそのような事を考えている者が居るのではないか、と思い至り、気になって“灼陽”の破損した左舷部に注目する。
(……あっ)
 そして、そこに今まさに侵入を試みる人影を見つけた。