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古の白龍と鉄の黒龍 第4話『激突、四勢力』

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古の白龍と鉄の黒龍 第4話『激突、四勢力』

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(くっ、龍族と鉄族の決戦が始まってしまったか……。
 だが、まだ終わってない。虚しい争いはまた止められるはずだ! 俺は諦めない、この戦いを何としても止めるぞ!)
 決意を胸に、西表 アリカ(いりおもて・ありか)アペイリアー・ヘーリオスに搭乗する無限 大吾(むげん・だいご)が搭載した全兵装を展開させる。
『目標、龍族5、鉄族5! ロックオン完了!』
 アリカの言葉通り、レーダーにロックオン対象がそれぞれの陣営から5ずつ、計10体示される。
「全兵装、フルバースト!! 俺とアリカを無視して戦が出来ると思うなぁ!」
 そして、『アペイリアー・ヘーリオス』の右手に装備した『エルブレイカー』、左手に装備した『ケルベロス』、肩部と脚部からの『アヴァランチミサイル』、胴部の『ノヴァブラスター』が同時に発射される。それらは直撃せずとも、交戦中だった龍族と鉄族の意識を振り向けるには十分だった。
(さあ、ここからどう出る?)
 攻撃を終えた大吾は、ある一つの可能性が成るのを密かに期待する。それは一時的にでも龍族と鉄族が共闘し、自分を追い詰めること。
『おい、どうする?』
『どうする、ねぇ。それを俺に聞くか?』
『いや、俺たち狙われてるわけだし』
『そうなんだけどね。……じゃあいっちょ、やっちゃう?』
『やっちゃうか』
 そんな会話を交わした一組の龍族と鉄族が、進路を『アペイリアー・ヘーリオス』へ向けるとまずはブレスとレーザー砲をプレゼントする。
「そんな攻撃で!」
 飛んでくる弾幕を、大吾の操縦に導かれた『アペイリアー・ヘーリオス』は巨体に似合わない機動性で回避する。すると龍族と鉄族のペアは、龍族が中距離を保ち鉄族は人型に変形を見せつつ、接近戦へ持ち込もうとする。
「そっちがそのつもりなら!」
 今度は『アペイリアー・ヘーリオス』は遮断装置を起動させ、視界――機体で言うところのレーダーに映りにくくして接近を行いにくくし、左手に装備したケルベロスで牽制を行う。
『なかなか厄介だね』
『流石は契約者だな』
 そんな会話を交わして、龍族と鉄族のペアは再び『アペイリアー・ヘーリオス』に迫る。今度もまた龍族が中距離に、鉄族はレーザー砲を発射しながら接近戦の構えに見えた。
「同じ手を何度も見せては、通用しないぞ!」
 飛んでくるレーザー砲を避け、接近に対して遮断装置を作動させて防ごうとする。そこに龍族が広範囲のブレスを浴びせ、『アペイリアー・ヘーリオス』の姿を浮き彫りにする。
『そこか!』
 鉄族が『アペイリアー・ヘーリオス』の存在に気付き、人型に変形すると両手に持ったレーザー砲で攻撃する。遮断装置といっても攻撃をそらすほどのものではなく、しっかりと狙われれば当たる時は当たる。
「ぐっ!」
 一発がコクピット付近に当たり、大吾は激しく揺さぶられる。揺らぐ視界の中見たのは、こちらへトドメの一撃を見舞おうとする龍族と鉄族の姿だった。
「ふ、はは、ははははは。何だ、協力しようと思えば出来るじゃないか。
 なぁ、龍族も鉄族も互いに分かり合うことが不可能じゃないって、気付いてるんだろ?
 なら、意地張らずに歩み寄ればいいじゃないか」
 その姿を見ることが出来た大吾は、危機的な状況でありながらも笑う。――直後、機体は大吾の操縦とは別の行動を取り、加速と回避を繰り返しながら戦闘区域を離脱する。
『誰かを犠牲にしないとダメなんて、ボクは認めない……そう言ったよね。
 それは大吾も同じだよ。まだボクたちは終わっちゃいけない、そうだよね?』
 大吾から操縦権を強制的に奪い取り、機体を安全な場所まで離脱させたアリカが大吾に呼びかけ、鮮明になりつつある頭で大吾があぁ、と頷く。
『それにしても、向こうの連携は見事だったね。ある意味、ボク達の勝ちだ』
「そうだな。……よし、回復した。助かったよアリカ。機体の調子はどうかな?」
『どういたしまして。うーん、万全を期すなら一旦修理に戻った方がいいかも』
 機体の状態をチェックしたアリカが報告する。機体は小破から中破といったところで、このまま戦い続けてもすぐに落とされることはないだろう、というレベルであった。
「よし、戻ろう。先はまだ長い、確実に行くぞ」
『ラジャー!』
 大吾の指示にアリカが笑顔で答え、『アペイリアー・ヘーリオス』は補給と修理に帰る。


 空で、地上で、龍族と鉄族が一進一退の攻防を続ける。龍族はここを抜かれれば本拠地を射程内に収められるため、まさに背水の陣。鉄族は“灼陽”自らの出陣で士気高揚。
 どちらもなかなか、退く理由が見つからない。

「ンフフフ……いい具合に混沌していますね。終わらない戦い、人々はいつ救われるのかと嘆き、救いを求めているはず……。
 その中、この混沌とした天秤世界での戦いに終止符を打ち、龍族と鉄族を双方共に救済できるのは、救済者たるワタシとワタシの姿を模ったカイザー・ガン・ブツだけです!」

 超ド級巨大大仏型イコン、『カイザー・ガン・ブツ』に搭乗する願仏路 三六九(がんぶつじ・みろく)が『衆生救済』を掲げ、それを叶えるために用意された『カイザー・ガン・ブツ』から『120連装全方位ホーミングミサイル「メテオストリーム」』、通称『堕天』を発射する時を待つ。
「そう、彼らに必要なのは救済の心。圧倒的な神の力を持つワタシに教えを説かれること……。
 必ずや彼らの期待に応え、救済者にワタシはなります!」
「フフフ……我を差し置いて、このような決戦などと……。
 どうやら誰がこの世界の支配者であるか、教えなければなるまい。元々我々は、この天秤世界を救いに来たのだ。
 ……そう……これは、お頭の足りない彼らに対して、我らが与える救済である!」
 三六九が発した『救済』という言葉にマネキ・ング(まねき・んぐ)が同調し、二人の間に妙な連帯感が生まれる。フフフと笑い合う招き猫、そして背後で光り輝く三六九。見ようによってはご利益がとてもありそうな気がする所がいやらしい。
「メビウス、『堕天』ロックオンを開始せよ。専守防衛の輩は無視し、和を乱す双方のやる気勢を根こそぎ殲滅するのだ!」
「はいはーい。うーんと、師匠はああ言ってるけど、上手く戦闘継続不能くらいに出来るといいかなー
 マネキングに指示されたメビウス・クグサクスクルス(めびうす・くぐさくすくるす)がコンソールを操作すれば、モニターに次々とロックオン対象が表示される。一発一発のミサイルはごく普通のホーミングミサイルなので、もし一発の被害であれば当たりどころ次第ではあるが、悪くて大破くらいで済みそうであった。マネキングと三六九はその様子に特に疑問は覚えない。これでもし『メビウスが各対象一発のみのロックオンに留めている』ことに気付いていたら問題だったかもしれないが、彼らは既にノリノリであり、ピピピ……と増えていくロックオンの様子に興奮を掻き立てられていく。
「はーい、ロックオン完了しましたぁ。
 三六九さ〜ん、いつでも発射オッケーですよぉ」
 メビウスの言葉に、マネキングと三六九はついにこの時が来た、とばかりに意気揚々と言い放つ。

「更に強化された【堕天】、そしてこの圧倒的な力を備え持ったカイザー・ガン・ブツの前に皆々、平服するがよい!」
「この世界にも遍くワタシの光をもたらさんことを!」

「「セイヴァァーーーーーーーーーーーーーー!!」」

 救済(者)と叫ぶ二人に呼応して、『堕天』が戦場に解き放たれる。
 ミサイルは次々と成果を挙げ、双方を一時的に退かせ戦況を膠着状態に持っていった――。

(バカな……こんなムチャクチャな攻撃が、有効に機能した……だと……?)
 その様子を、オペレーター席で半ば投げやりに見守っていたセリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)が、結果が予想を遥かに超えて好転したことに驚きの表情を隠せず呆然とする。解説するなら、『堕天』は『ビッグバンブラスト』のように一発型ではなく複数型なこと、『ビッグバンブラスト』よりも攻撃力が低く一発の脅威は小さいこと、そして何よりメビウスが頑張って配慮したことがこの結果となった。
「ふー、疲れたなー。オヤツ食べよーっと」
 幸せそうにお菓子を頬張るメビウスにセリスは、自分では決して制御できないマネキングと三六九の機嫌を損ねること無く、最良の結果を(マネキングが本来その役目なはずなのに)招き寄せたこの子が成長したらどうなってしまうのだろう……と戦慄を覚えるのであった。