リアクション
10 グレース・リバモア さて、生身で基地に突入、あるいは潜入した契約者たちは、いくつかの部隊に分かれていた。ルカルカ・ルーをメインとした【獅子の牙】、トマス・ファーニナルを中心とした【ドラグーン】そして旗艦マサチューセッツを含めた【H部隊】の【α分遣隊】で、これはローザマリア・クライツァールとそのパートナーで構成されている。 そして、それ以外の個人個人、あるいはパートナーとともに動いている契約者といった具合になるのだが、作戦の第二段階である陽動の方もそろそろ十分に効果を発揮してきて、作戦は大統領の救出フェーズに移り始めていた。 潜入しているのはグレース・リバモア――金髪をポニーテールにまとめてその上からカウボーイハットをかぶり、ハイナにも負けないほどの大きな胸を大胆に晒した西部劇風の衣装と、生脚をこれまた大胆に晒したホットパンツをはいた、銀色の瞳と褐色の肌を持つ女性で、足元だけは実用性の高そうなブーツを履いている――と契約者、及び別口から潜入しているα分遣隊と一緒に行動している特殊部隊の面々であった。 その中でも先頭に立って斥候任務を行っているのがビキニの水着とコートだけという、見た目ならばグレースにも引けをとらないセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)と、そのパートナーのセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)であった。 セレンフィリティ本人も格好だけならグレースといい勝負だと思っているらしく、道中はそれなりにグレースに話しかけてきていた。 「格好? 西部劇が好きなのが一つと、動きやすいのが一つ。これが大きな理由です!」 格好について尋ねられたグレースは、そんなふうに答えたのであった。 「……やはりある程度は改造されてるわね」 隠れ身で姿や気配を隠しながら、セレンフィリティとセレアナは集音マイクやファイバースコープもつかって情報を集めつつ、ハイナからもらった基地内部の地図と実際歩いてマッピングしたデータの比較をしていた。 そうして分かったのは、基地はダェーヴァによって改造を施されており、無くなった通路や部屋があったが、逆に通路や部屋が増設されているということは殆どなかった。 今までに基地を進んできてもわかったことではあるがダェーヴァには基本的に人間、というよりもヒューマノイドタイプの生命体がほとんど存在しなかった。いるとしてもレッド・キャップやロビン・フッドなどの怪物くらいで、地図に残されている部屋野中は基地が選挙される前の状態を保っている場合が多かった。 ダェーヴァによって行われた改造というのはおそらくこうやって侵入してきた元米軍に対しての備えのためだけであり、基地の内部での生活や執務というものが行われているような形跡はほとんど存在しない。 唯一の例外はダェーヴァに与した人間たちの居住スペースなどだが、それは基本的に基地の奥にあるらしく今のところはそれらを目にすることはなかった。 「罠はないようね」 「そのようね」 セレンフィリティの見解に、セレアナが同意する。 今まで進んできた中で、トラップが仕掛けられている場所は一つとしてなく、基地のどこにもトラップはないのではないか、と二人は考えていた。 とりあえず一旦戻ってグレースにそのことを報告する。 「ありがとです! 敵の姿は有りましたか?」 「150メートルほど先にパワードコープスが三体いたわ。まだこちらには気がついていないみたいだった」 セレンフィリティの報告に、グレースは契約者達を見てここは任せてください、と言った。 契約者たちは少し悩んだあと、グレースに任せることにした。 そしてパワードコープスに接近すると、グレースは二丁の拳銃を脚につけているホルスターから取り出して構える。 「3……2……1……Go!」 グレースはタイミングを図って飛び出すと、左右の拳銃に収められている弾丸、計12発を一体のコープスに向かって全て撃ち込み、その活動を停止させる。 ホルスターに銃をしまった次の瞬間には走りだし、敵を認識したパワードコープスの機関銃から放たれる無数の銃弾を皮一枚で回避し、頬や腕、脚から微かに血を流しながら突撃する。 腰から二つの小剣を取り出すとそれを逆手に持ち、右の小剣を右にいるパワードコープスの肘の内側の関節に突き立てるとともに、左の小剣を左にいるパワードコープスの首筋に突き立てる。 右のパワードコープスがグレースに銃口を向けると、その銃口を小剣の腹で殴って向きを変え、発射された銃弾は左にいるパワードコープスに命中していた。 グレースはしゃがんで姿勢を低くすると小剣を回転させて順手に持ち替えつつ右のパワードコープスの足首の関節を斬りつける。 体勢を崩したパワードコープスを、両手をついて逆立ちしたグレースの蹴りが襲う。 次の瞬間100キログラム以上あるはずのパワードコープスはもう一体のパワードコープスを巻き込んで後方に吹き飛んでいた。 「あとは任せたね!」 グレースが、契約者たちに声をかける。 真っ先に反応したのはドラグーンの鳴神 裁(なるかみ・さい)だった。 魔鎧としてドール・ゴールド(どーる・ごーるど)を装着し、ギフトの黒子アヴァターラ マーシャルアーツ(くろこあう゛ぁたーら・まーしゃるあーつ)を武器として装備。さらに奈落人の物部 九十九(もののべ・つくも)を憑依させた裁はIパワードスーツのテンペスト をつけるといった状態でグレースとともに先陣を進んでおり、グレースの呼びかけとともに盾を持って駆け出す。 それはひとえにギフトのスキルである戦況把握によるところが大きかった。 そしてパワードコープスに接近すると、可変型多目的兵装「撃針」を繰り出してパワードコープスの活動を停止させるのだ。それから、パワードコープスの残骸を見た裁は驚く。 なんと最初にグレースが銃で仕留めたパワードコープスは、12発の弾丸が関節やカメラなどの重用器官を狙い澄ますように破壊しており、かつ12発全てが命中していたのだ。 「さすがですね、レディ。ダェーヴァの細胞を移植……でしたか?」 そう尋ねるのはジョン・オーク(じょん・おーく)。 そんなジョンに対して、グレースは笑いながら答えた。 「どうしても、強くなる必要があったからね!」 そして、ホルスターから銃を再び取り出すとからの薬莢を捨ててから、新たなる弾丸を入れなおす。 「ふむ。そういえばリボルバーなのですね」 ふと気になったジョンは、そんなこともついでに訪ねてみた。 「リボルバーのほうが、信頼性が高いからね。ジャムは、怖いよ……」 グレースは少しだけ表情を暗くして、そう答えたのだった。 「それと、火薬の量も増やせるしね!」 次の瞬間には表情を変えて、そう言ってのけた。 「なるほど……」 ジョンは頷きつつ、退路確保が任務のために今は暇をしているカル・カルカー(かる・かるかー)の方に視線を送る。 カルは手元の端末でダエ―ヴァの細胞移植に関しての資料を読みふけっていた。 資料によると、身体能力の飛躍的な向上や思考・判断力の強化などが行われると記載されている。また、筋力の増加により反動が強い大型の銃器や白兵武器にしても通常の人では不可能な大型の武器が扱える、という記述があった。 「……なるほどねえ」 カルは強くなりたかった。そのためにダェーヴァの細胞を移殖するのが有りなら、試してみたい。そんなことを密かに考えているのだった。しかし…… 「グッ……」 何事かと見ると、グレースが嘔吐をして基地の床に吐瀉物が広がっていた。 「ちょっと! 大丈夫!?」 それを見た裁が、慌ててグレースに駆け寄る。 「大丈夫です。心配いりませんね……」 グレースはホットパンツのポケットから取り出したハンカチで口元を拭うと、弱々しくそう言いながら立ち上がる。 「大丈夫じゃなさそうだけど……」 「たとえ大丈夫じゃなくても、今はやらなきゃいけませんから」 グレースはそう言いつつ両手のひらで自分の頬を叩くと、気合を入れたのだった。 それを見てカルカーのパートナーである夏侯 惇(かこう・とん)とドリル・ホール(どりる・ほーる)は心配そうに顔を見合わせた。 カルカーが強くなりたい、華々しい戦いをしたいと考えるあまり、ダェーヴァの細胞移植についてなみなみならぬ興味を示していることを、彼らは気にかけていたからだった。 そして、さらに言えばこのグレースの突然の不調が、惇やドリルには若干気にかかるのでもあった。 |
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