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古の白龍と鉄の黒龍 最終話『終わり逝く世界の中で』

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古の白龍と鉄の黒龍 最終話『終わり逝く世界の中で』

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『そして、ここから始まる』

「はぁ〜〜〜、や〜〜〜っと帰ってきましたぁ」
 イルミンスールに着くや否や、エリザベートは椅子にぐて〜っと横たわる。
「こりゃ、校長ともあろうものが情けない。だいたいお前、天秤世界におったのは半分くらいじゃろ」
「それでも疲れたものは疲れたんですぅ。ミーミルぅ、肩揉んでくださぁい」
 エリザベートがミーミルを呼ぶが、返事はない。
「ミーミルならルピナスを案内中じゃ。まあ、もうすぐ“入学式”を執り行う予定じゃし、帰ってくるじゃろ。
 ……ほれ、エリザベート、しっかりせぃ。まさか忘れてはおらんじゃろうな?」
「分かってますよぅ。……それにしても、また戻って来るとは思いませんでしたぁ」
「ケイが言うには、メニエスのこれまでの行いはパートナーの影響があったからであり、本来のメニエスはこんな事をするような性格じゃない、らしいがの。
 ……ちなみに、どうするつもりじゃ?」
「もう決まってますよぅ。……あ、来たみたいですよぅ」
「うむ。……入れ」

 アーデルハイトの言葉の後、扉を開けて入って来たのはメニエス・レイン(めにえす・れいん)緋桜 ケイ(ひおう・けい)
 エリザベートとアーデルハイトを目にしたメニエスは、ひっ、と小さく声を発すると足を止めてしまう。
「大丈夫……例えどんな結果になろうと、俺は側にいる」
 ケイの手がメニエスの手をそっと握り、勇気付けられたメニエスは一歩ずつ、エリザベート達の下へ歩み寄る――。


 今回のエリザベート達への面会を希望したのは、ケイだった。
(メニエスがパートナーの影響から解放されて、十分な時が経った。そろそろ校長たちとも会わせてもいい頃合だろう。
 ……本当のメニエスは悪いやつじゃない。色んなことがあったが、みんなにもそれを知ってもらいたい)

 そしてケイはメニエスに、エリザベートとアーデルハイトに会わないかと告げる。最初は小さく首を振って拒否の姿勢を見せたメニエスだが、「……学校に戻りたいとは、思わないのか?」というケイの質問にもやはり、小さく首を横に振った。
「今までの事もある、勿論蟠りもあるだろう。難しい道のりになる、だけど俺はメニエスを信じているし、何よりもイルミンスールの皆のこともを信じている。
 きっと、これからメニエスは蟠りを解いていける、俺はそう信じている」
 ケイの説得に、最終的にメニエスはエリザベート達と会うことを承諾した――。


「その……学校に、戻りたいです……。都合のいい話なのかもしれないけど」
「ふむ。理由を聞こう」
 アーデルハイトの問いに、メニエスは自らの考えを述べる。
「間違っていると知っていながら、自分自身を止められなかった私が悪いのはずっと、分かっていました……。
 こんなこと言った所で、今まで犯してきた罪がなくなる訳じゃないし、どうやって償っていけばいいかもすぐには分かりませんけど……。
 けど……一生を使ってでも、私は償っていきたいです。なんでもいい、少しでもいいから、やれることからやっていきたいです。
 だからこそ、イルミンスールで一から始めたい。自分がやれることを見つけるために、この学校で」
 最初は細々としていたのが、段々と熱がこもってくる。それは隣でケイが、勇気という名の熱を与えていたから。
「全てをパートナーのせいに出来るほど簡単な話じゃないのはわかってる……。
 でも……それでも、メニエスに償うチャンスを……やり直すチャンスを与えてやって欲しいんだ」
「もう道を間違えることは絶対無いです。私を止めてくれたケイが、居てくれるから。
 その……今までのこと、ごめんなさい。そして……お願いします!」
 謝罪の言葉と嘆願の言葉を送って、ケイが、そしてメニエスが頭を下げる――。

「いいですよぅ」

 返事は、即座に帰ってきた。
「……え?」
 そのあまりの即答ぶりに、ケイもメニエスもきょとんとして顔を上げる。
「メニエス・レイン、あなたの復学を認めますぅ」
「……えっと……変な話ですけど……いいのでしょうか?」
 なおも戸惑うメニエスへ、エリザベートはやれやれと言いたげな態度でこう答えた。
「まぁ色々ありましたし、随分酷いことされましたけど。
 でも、私はまだ校長やれてますし、生きてますぅ。だからいいんですよぅ」
「ほれ、エリザベートがこう言うておる、受け入れよ」
「あっ、は、はいっ」
 アーデルハイトに窘められ、メニエスがしゃん、と背を伸ばす。
「だが、何らかの示しは付ける必要があると思う。まったく自由ってわけにも、いかないんじゃないか?」
 ケイの言葉に、もちろん考えておるよ、とアーデルハイトは言って、二人の前に首輪と鍵を差し出す。
「これは付けた者の魔法を制限する首輪じゃ。制限の内容は予めこちらで決めてある。最初はイルミンスールで最低限生活出来る程度の魔法使用のみとし、今後様子を見て徐々に緩和していく」
 そう言い、アーデルハイトはメニエスの首に首輪を付けた。首輪を付けられたメニエスは、殆どの魔法が行使出来なくなっているのを実感する。
「だが、その状態では十分な働きを出来ぬ時もあるじゃろう。そこでこの鍵がある。この首輪はこの鍵だけで外すことが出来る。これをケイ、お前に託す」
 その意味する所は分かるな? と言いたげな目をして、アーデルハイトがケイに首輪の鍵を渡す。アーデルハイトの期待に応えるように、ケイは力強く頷いた。
「さて、この件については以上じゃ。
 そしてメニエス、お前にはこれからもう少し、付き合ってもらうぞ」
「は、はい……何でしょう」
 メニエスが尋ねた直後、後ろの扉が開いてミーミルとルピナスが入って来た。
「お母さん、ただいま戻りました」
「お母様、いかがでしょう」
 新しい服に着替えた――それまでの裾の長いものから短くしたもの――ルピナスがふわり、と回ってみせる。
「お似合いですよぅ。準備はいいですかぁ?」
 エリザベートが椅子から立ち、やって来たルピナスが横につく形になる。
「メニエス、お前もエリザベートに付いていくのじゃ」
「はい……えっと、何を……」
 何をされるか分からずに居るメニエスへ、エリザベートが回答を示す。

「入学式をしますよぅ」