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【蒼空に架ける橋】第3話の裏 停滞からのリブート

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【蒼空に架ける橋】第3話の裏 停滞からのリブート

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「あああああああああ! 出口! 出口はどこだあああああああ!」
 通気ダクトの中、ヴァンビーノが叫びながら這っていた。
「早く! 早く進んでください!」
 その後ろを佐那達が追う形になる。当初とは逆に、ヴァンビーノが先頭になっている。

 通気ダクト内で白い影――マガツヒと鉢合わせたヴァンビーノと佐那達。
 咄嗟に先頭のエレナが【神の目】を放ち、駄目押しとばかりに【洗礼の光】を浴びせた。
 どうやらそれが効果があったようで、襲い掛かろうとしていたマガツヒが動きを止めたのである。
「佐那さん今です! 戻ってください!」
 エレナが叫ぶと同時に方向転換し、来た道を逃げるのであった。

「全く何て日だ! 僕は本来物語的には動かない存在なんだぞ! ヴァンビーノ・スミスは動かないッ! ああ畜生! せめて紙とペン! 紙とペンがあれば今この状況を新鮮な状態でメモが出来るというのにぃッ! 現実とは非情すぎるッ!」
「マーマ……あの人五月蝿い」
 うんざりしたように呟くソフィアに「今は我慢しましょう」と佐那が宥める様に言った。
 さて、駆けずり回るというが、このダクトは人が入り駆けずり回る程頑丈には出来ていなかった。
 メキ、という音が鳴る。それと同時に、ダクトの継ぎ目が外れた。
「ぬおおおおおおおお!」
 乗っている全員がそのまま垂直に落下。身体をしこたま打ち付ける。
「いてて……全く、何て日だ……む?」
 ヴァンビーノが顔を見上げると、そこには突然の事に身構えるコントラクター達が居た。
「……結果オーライ、というやつですね」
 佐那がドヤ顔で呟く。

「――ボロボロに血まみれにゴミ塗れにダンボール、その次は上から降ってくるか……もう何が来ても驚かないよあたしは」

 落下してきた佐那達を見て、オミ・ナが何処か呆れた様に呟く。
 そこで佐那達は気づく。自分達がナオシに案内されたエレベーター前に居る事と、他のコントラクター達が集まっている事、そしてエレベーターの扉が開いている事に。
 少し前に、他のコントラクター達は全員エレベーター前に無事到着する事が出来たのであった。
 そしてすぐに起動したエレベーターの扉が開き、本部区域からオミ・ナと同行していたコントラクター達が姿を現したのであった。佐那とヴァンビーノが落下してきたのはその少し後である。
「これで、生きてるのは全員かい?」
 オミ・ナがぐるりと見回すと、コントラクター達はお互いを見合い、やがて頷く。
「よしよし、それじゃ逃げるよ」
「いやちょっと待った。さっきも言ったが、策って一体なんなんだ?」
「向こうに引き返しても、あの黒い影がいますよ?」
 唯斗とマルティナの言葉に「まあまあ」とオミ・ナが宥めるような仕草を見せる。
「そう慌てなさんなって――用意はどう?」
 オミ・ナの言葉に、側近が通信機を片手に「何時でも」と頷く。
「よし、じゃあやっちゃって」
 その言葉に側近が頷くと、通信機に一言「やれ」と告げる。

     * * *

――雲海、漁船。
「ハーティオン! ただいま無事に生還!」
「やれやれ……一体どうなるかと思った……」
 漸く漁船へと戻って来るなりポーズをとるコアと壁に寄りかかり座り込むモリ・ヤ。戻ってくるまでに一悶着あったようだ。
「ところで、あっちの船はどうなっている?」
「ああ、無事だぞ。見てみろよ」
 モリ・ヤの言葉に桂輔が答えた。ゆっくりと立ち上がったモリ・ヤはオミ・ナの船を見る。
「……ん? 動き出したぞ?」
 モリ・ヤの言う通り、監獄島のデッキを照らしていた船はゆっくりと動き出した。
 そして監獄島のとある場所まで移動すると、船から砲台のような物が出てくる。
「……何をするつもりでしょうか?」
 アルマが呟くが、誰も答える事が出来ない。

――直後、監獄島に向けて砲撃を放った。
 砲撃は監獄島の壁を破壊し、大きな穴を開ける。
 その光景を、モリ・ヤ達は唖然と見る事しかできなかった。

     * * *

――すぐ近くから轟音が響く。
 一体何事か、とどよめく中オミ・ナは「いくよ」と歩き出す。
 皆慌てて後を追ったその先には、壊された壁があった。先程の轟音は壁を壊した音だろう。
 壁の向こうには雲海、そして砲台をこちらに向けた、オミ・ナの船があった。船は隣接している。
「前もこうやって助けるつもりだったんだけどねぇ……それなのに勝手に逃げちまうんだからなぁ……」
 そう言ってオミ・ナはラルクに担がれているナオシを見る。息こそしているものの意識は無く、見ていてこのままでは危険な事が解る。
「っと、そんな事言ってる場合じゃないね……逃げるよ、あの船に乗り込みな!」
 その言葉を合図に、皆船に乗り込み始める。
 全員が乗り込んだのを確認すると、船は動き出したのであった。

     * * *

『ああ、逃げられた。逃げられてしまった』
――壊された壁から去る船を眺め、タタリがそう独り言を言うとけたけたと笑う。
 その姿から悔しさのような物は一切感じられない。それどころか何処か愉しそうな印象がある。
 実際愉しんでいるのだろう。追い詰め、嬲り殺す事をまるでゲームの様に。
「……もう時間がありませぬぞ」
 それとは対照的に、ミサキガラスからは焦りを感じる。後一歩という所まで目標のナオシを追い詰めたというのに、仕留め損ねたからだろう。
『ふむ……今回は退かざるをえないのぉ……ああ、口惜しや。口惜しや』
 そう言ってタタリは血で濡れた歯を見せるように口をあけて笑った。言葉で言う程悔しいとは思ってないだろう。
「――戯れが過ぎますぞ」
 ミサキガラスはそう言うと通路に転がる死体の山を見る様に振り返る。
『そう言ってくれるな。それにあの男、余と貴様の一撃を受けたのだ。ただでは済むまい』
 タタリの言葉に何か言いたそうな様子を見せるも、ミサキガラスはただ「はぁ」と相槌を打つ。
『それに、だ』
 タタリが口元を歪める。
『――生きているようならば、また殺せばよいではないか。ああ、愉しみだ愉しみだ。あの男の血の味は悪くは無かった。それに、あの男の周りの劣等共、付属品かと思えばそうでも無い。奴らの肉を、血を是非とも味わいたい……ああ、愉しみだ愉しみだ』
 一人、悦に入るタタリ。その横でミサキガラスはただ黙っているだけしかできなかった。