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リアクション
「……何でついてくるんだよ」
頭を押さえつつナオシが呟く。前には今朝霧 垂(あさぎり・しづり)が彼を守る様にして前方を歩いている。
「決まってるだろ、皆で脱出する為だよ。こんな所で死ぬのはゴメンだからな」
垂が足を止めず、顔だけ振り返りつつ答える。
「さっきの話聞いてただろうよ……固まって歩いたところで全滅するのがオチだってよ」
大きく溜息を吐くナオシに、今度は垂は足を止めた。
「ナオシ、あんたこの……監獄島だっけ? ここの事知ってるんだろ?」
そう言われてナオシは「まぁな」と頷いた。
「だったら尚更あんたを死なせるわけにはいかねぇさ、俺達は此処の事を碌に知らねぇんだからな。それにこんな所で死ぬのもゴメンだけど、目の前で誰かにこれ以上死なれるのもゴメンなんでね。ああ、それと……俺達の無実も証明しないとならねぇしな。このままじゃ密漁者の冤罪被されたままだしな」
「……いや、お前ら正直冤罪以上の事しでかしたじゃねぇか。話聞いた限りじゃ参ノ島の傭兵襲うわ屯所と武器庫破壊するわ――」
「『俺は』やってねぇ」
「お、おう……」
確かに。
「いいか? 武器庫の件は関わってねぇし、屯所もその場に居たが一切関係ねぇ。俺がやろうとしたのはあそこの調理器具を借りてだな――」
「待て」
ヒートアップし捲し立てる垂をナオシが制する。
「どうした?」
「――悲鳴みたいな声が聞こえた」
その一言で垂の表情も変わる。お互い顔を見合わせ、頷くとほぼ同時に走り出した。
今度はナオシが前に出て、その後を垂がついて行く。そして行き着いた先は――食堂であった。
駆け込んだナオシと垂が見たのは、血を流し倒れるさゆみと、彼女を守る様にして立っているアデリーヌ。
そしてその口から血を滴らせている白い影――マガツヒであった。
さゆみは何とか立ち上がろうとしているが、そこまで深くは無いはずの傷だというのに力が入らない様子である。その彼女を庇うように立つアデリーヌであるが、彼女自身も肩の辺りが血で滲んでいた。
この状況を楽しんでいるのかのように、マガツヒは一気に襲い掛かるようなことはせず、じりじりと近寄りアデリーヌにプレッシャーを与えていた。
「目と耳塞げバカヤロウ!」
ナオシはそう叫ぶなり、手のひらサイズの何かを投げる。
少し遅れてそれは炸裂し――爆音と閃光を放った。
咄嗟に目と耳を塞いでいたアデリーヌが恐る恐る瞼を開けると、眼前に居たはずのマガツヒは消えていた。
「ボケッとしてんじゃねぇバカヤロウ! 今の内逃げろ!」
少しキン、と残響音がする耳に飛び込むナオシの声に、ハッとしたようにアデリーヌは立ち上がるとさゆみを何とか引き起こし、手を取るようにして逃げ出したのだった。
「よし、俺達もずらかるぞ! ボサッとすんなコノヤロウ!」
その姿を見届けると、ナオシは踵を返す。
「あ! お、おい! おまえ何時の間にフラッシュグレネードなんて手に入れたんだよ!?」
少しばかり呆気にとられていた垂が慌ててナオシの後を追う。
「さっき看守から拝借したんだよ! それよりとっととこの場を離れねぇと奴らに気付かれ――」
そこまで言ってナオシが足を止める。
「何だ、どうした――」
そこで垂も足を止める。
廊下の前方に見える巨大な黒い影――ミサキガラスがそこに居た。
「随分仕事が早いじゃねぇかあの野郎」
軽く舌打ちするナオシ。左右にあるのは監房で逃げ道は後ろしかない。
「……おい、何のつもりだ?」
ナオシの前に垂が歩み出る。
「今更後ろに引き返せないだろ? 正直相手にしたくはねえけど、ここは強行突破させてもらおうぜ」
そう言って垂が構える。光に関係する技で今垂が使えそうなのは【我は射す光の閃刃】であった。それがどれほど効果があるかはわからないが、一瞬怯ませて隙を作るくらいは出来るだろうと垂は考えていた。
『余を忘れては困るな、俗物共』
背後から声が聞こえた直後、ナオシの身体は吹き飛ばされた。
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