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伝説の教師の新伝説~ 風雲・パラ実協奏曲【3/3】 ~

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伝説の教師の新伝説~ 風雲・パラ実協奏曲【3/3】 ~

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第三十七章:なんか、超スゲェらしいよ!


 また時間を戻そう。

荒野で助けてくれた人にもう一度会いたくてしかたがない件




131 名前: るしあじゃないよ 2023/10/30 (金) 15:38:22
 空京新幹線きっぷ取った
 ちょっと筑波行ってくる

132 名前: 上岡菊子(うえおかきくこ) 2023/10/30 (金) 15:49:09
 ちょっと待て。筑波は管制センターがあるだけだぞ。宇宙と連絡取りたいなら筑波行きだが、ロケット乗りたいなら種子島だ

133 名前: kan-u 2023/10/30 (金) 16:09:15
 勘違いだったわ、すまねえ
 いいか、るしあじゃないひとよ。行きかたを教える

 東京駅に着いたら丸の内口から出て、新新丸ビルへ全力ダッシュしろ
 正面から入って守衛に「金ちゃんのお使い」と言えば、屋上へ連れて行ってくれる
 屋上にヘリが待っているから乗れ
 ヘリが羽田に着陸したら傍に止まっている黒いジェット機に乗れ
 専用機で種子島まで30分くらいで着く……らしい

 いいか、道草すんなよ

134 名前: さすらいのトラベラー 2023/10/30 (金) 16:14:41
 kan-u、こらー!
 飛行機までチャーターしてんじゃねえよ! 団長のコネか? 
 止めれなくなったじゃないか!

135 名前: るしあじゃないよ 2023/10/30 (金) 16:32:34
 ありがとう。ちょうど今東京駅に着いたところ
 これからヘリ乗る

136 名前: みっこみこにしてやんよ 2023/10/30 (金) 16:38:53
 ヘリ乗った。私もついているから大丈夫だよ

137 名前: 私と勝負しろ! 2023/10/30 (金) 16:42:17
 分校内を散策中





 
 そんなわけで……。
「地下のロケットを借りに来た? お前たちは実にバカだな。そこがいいところでもあるんだが」
 今や分校内を根城に勢力を振るっている吉井 ゲルバッキー(よしい・げるばっきー)は、なんだかんだぶつぶつと言いながらも契約者たちを奥へと案内してくれる。
 謎の人工衛星がパラミタに落ちてくる。そんな噂が現実のものとされて数時間。分校内でも宇宙行きのメンバー選びが難航していた。
 誰もが行きたがらないのではない。誰もが行きたがるのだ。
 用意されているロケットに、地球まで帰還する能力はなかった。理由は簡単で、造れなかったのだ。資金不足、人員不足、設備不足の上、重要性もあまり理解されていなかったため、実験もほとんど行われてこなかった。
 分校の地下に備えられていたロケット、通称『壊天(かいてん)』は、劣悪環境の下で完成した。動力となる機晶石はどこかから強奪してきた中古。機体の部品類は、モヒカンたちが盗み出してきたものが多くを占めており、廃棄されたイコンのジャンクも流用されていた。軍の横流し備品もブラックマーケットに行けば手に入る。横流しした軍人は処分されたが、資材は大切に扱われ、ロケットの精度向上に役立った。他国から誘拐されてきた何人かの技術者は金か女か脅しによって協力させられていた。
 そんなブラックな環境にもかかわらず、分校に眠っていたロケットは『超スゲェ』性能だった。ただ宇宙まで飛んでいくだけなら、どこにも負けないだろう。
 パラ実極西分校の工業科をナメてはいけない。彼らは、分類上では高校生なのだが一部規格外がいた。非常に高度な技術力を誇り、同時にバカだった。煩悩と欲望と野生の赴くまま、まあなんかこんな感じじゃね? と造ったロケットは、コレジャナイ感で一杯だった。
 存在を秘密にされている地下教室のマッドサイエンティストが設計し、工業科の生徒たちが特に疑問もはさまずに作り上げる。一般常識から外れた能力を持った生徒たちが少なからずいたのだ。
 工業科のピーキーな能力を秘める生徒たち。彼らを最初に仕込んだのは、数年前の分校動乱で臨時教師として教えていたセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)だった。
 この事実を、彼女らは知らない。教えた生徒たちのこともすっかり忘れていた。
 あの時、ビキニに誘惑され妄想エロパゥアを爆発させ猛勉強を始めた工業科の生徒たちは、パラミタを救うかもしれない技術を身につけるまでに成長していたのだった。詳しくは、第一回参照だが、あの時の生徒たち。
 セレンフィリティとセレアナは、今頃どこにいるだろう、と彼らは空を見上げる。聞くところによると、彼女らは人工衛星事件に志願したそうだが、どこかで会えるだろうか?
「会いに行こうぜ、先生に」
 機体はできた。後は飛ばす目的だけが必要。そして、その時がやってきたのだ。
 分校生たちは、不謹慎ながらも今回の事件を歓迎し喜んでいたのだ。やっと飛べる、と。
「五機あるロケットの中で、一号機から三号機までは、モヒカンたちを乗せてもう飛び立った。途中で爆発もしていないようだから、無事に大気圏外に出たんだろうね」
 ロケットの紹介をするゲルバッキーは、志願者の受付窓口も兼ねていた。
 金ワッペン保有者になり、分校では中心的存在だったのだ。そのため、宇宙行きモヒカンたちの取りまとめも行っていた。
「ボクのお勧めは、こちらの四号機だね。性能的にも安定しているし内装も悪くないはず」
「私たちは、特にえり好みはないわよ。パラ実製品にそんなに贅沢なもの求めていないもの」
 地下基地に備えられたロケットを見上げながら言ったのは、蒼学から手伝いに来た小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)だった。彼女は、他の志願者たちのように種子島から日本のロケットで宇宙へ行くことを望んでいなかった。
 とにかく速さを求めたからだ。美羽は、別に内装にこだわっていなかったし、乗り心地も少々悪くてもいいと考えていた。その通り、分校のロケットは速いとゲルバッキーは言う。
「ルシアは結局種子島へ行っちゃったんでしょ。これから飛び立つにしても、今から私たちが追いかけていたんじゃ間に合わないわよ」
 美羽は、お面モヒカンに会いに行ったらしいルシアの心配をしていた。
「たぶんそうだろうな」
 と、ゲルバッキー。


 なんでも、ここまでで聞いたところによると。
 ルシアは、結局あの後目的のお面モヒカンを探して大荒野へ行ってしまったのだった。
 彼女の身を案じるハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)の希望もあって、葦原明倫館から父母清 粥(ふぼきよし・かゆ)が護衛と報告も兼ねてついていったらしい。
 二人は案の定モヒカンたちと遭遇し、身を守りながら決闘委員会のお面モヒカンの出現を待った。そしてやってきた委員会メンバーに事情を話し頼み込んだところ、ルシアの目的のお面モヒカンと出会うことができたのだった。男は、ゲロッパという名で呼ばれていた。
 彼は、ルシアの話を聞く前にすげなく断ったという。
「俺は今回の事件で宇宙へ行く。もう会えないし、荒野へ来ないほうがいい」
「あ、あの……?」
 何も伝えることができず唖然と立ち尽くすルシアを残して、お面モヒカンたちは姿を消した。その後、何度呼び出しても、会うことはできなかったという。
「こ、こんなこともあるわよ。元気出して」
 粥はそう慰めるのが精一杯だった。
 ルシアのような可愛いくて魅力的ないい子でもモテないこともあるのだ。恋愛って、本当に難しい……。
「昨夜の『乙ちゃんねる』での助言を参考にしたのが悪かったのかな?」
 勧めた粥は気まずそうに言った。
 ちらちらと胸が見えそうなキワドイ服にぱんつが見えそうなくらい短いスカートをはいて、相手を押し倒す勢いだったから、引かれたのかもしれない。ヤバイ女と思われたのだろうか。
「……」
 ルシアは、しばらくの間思いつめるような表情で考え事をしていたが、みなの制止を振り切ってお面モヒカンを追って宇宙へ行くことを決意したのだ。そしてそのまま、ふらふらといずこかへ姿を消したという。
 そんな映像が確かに脳裏に浮かんだ。
 

「私たちが探し出してくるから安心して」
 美羽は元気な声で返事をするが、同時に気持ちを引き締め直していた。ルシアたちは、なんとしてでも無事に救出するつもりだ。そのために、来たのだから。
「しかし、本当にいいのか? 何度も言っているように、分校のロケットは地球に帰ってくる能力はないんだぞ」
 ゲルバッキーは念を押す。
「私たちにはイコンがあるから」
 美羽は、ロケットに積み込まれたイコンの乙グラディウスを指しながら答えた。衛星の解体作業が終わったら、帰りはこの乙グラディウスで地球へ帰ってくることができる。分校生たちもイコンは持っているが、たいていは喪悲漢だ。美羽たちのものと性能がはるかに劣るので一緒に考えることはできない。今回美羽が持ち込んできた機体は、イコン格闘大会で優勝した{ICN0001227#グラディウス}の後継機で、可変型なのだ。真紅のマントを羽織った黄金のイコンで非常に目立つ。
「分校では大勢の生徒が帰るあてもないのに志願していて、抽選も含めて選考中なんだ。三機はすでに飛び立ち残り二機。でも、お前たちなら金ワッペン保有者だから最優先だよ」
 分校の金ワッペン保有者は、望むなら何でも優先されるのだ。普通は、金ワッペン保有者は、分校での待遇のよさを捨てきれずに志願しないものなのだが、美羽たちは特別だな、とゲルバッキーは言った。
「そして、あっちのバカもな」
 ゲルバッキーは、地下基地に入ってきた吉井 真理子(よしい・まりこ)にちらりを視線をやった。
「お待たせー。遅れてごめんね。結局ルシア捕まえられなかったわ。ごめんね」
 真理子は、落胆気味に言った。
 彼女は、あのルシアの書き込みを見た後、すぐに空京駅に向かった。空京新幹線に乗り込む前にルシアを捕まえることができれば、無理やりにでも連れて帰ってくることが出きる。だが、真理子が駅の混雑で迷っている間に、ルシアと粥の乗った新幹線は出発してしまっていた。
「エンヘドゥは、関羽のところにやんわりと抗議に行ったわ。彼が手はずを整えなければ、ルシアは途中で立ち往生して追いつけたのに」
 余計なおせっかいなのよ、と真理子は不満げに言った。
 もちろん、関羽に悪気はない。むしろルシアを応援しようと好意で種子島までのチャーター便を手配したのだ。金団長としても、ルシアが志願してくれるなら断る理由はなかった。
 真理子と一緒にルシアを探しに行ったエンヘドゥ・ニヌア(えんへどぅ・にぬあ)は、ハイナとも会いに行っているらしい。昨夜の書き込みの真意はどこにあるのか。ハイナはルシアをどうしたいのか?
「エンヘドゥはパラミタで留守番だけど、私は美羽たちと一緒に行くわ。いいでしょ?」
 真理子は聞く。もちろん、美羽たちにも異存はなかった。が……。
「その格好で、ですか?」
 真理子の装備を確認してベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)は驚いた口調で聞いた。
 真理子は、いつもどおりの軽装だ。ちょっとピクニックにでも行くスタイルで宇宙へ行くつもりだろうか。
「分校のロケットは、慣性制御が効いているわよ。重力が機体内部で独立しているし、空気だって供給できるんだもの」
 SF小説で出てきそうな機能は、地球の技術をはるかに超えていた。重い装備は必要ないのだ、と真理子は言う。なんとこの機体は専用宇宙服に着替える必要もないらしい。美羽もベアトリーチェもコハクも、イコンに搭乗する格好だ。とはいえ、真理子は軽装すぎる気がするが。
「いいわよ。いざとなったら私たちが守ってあげる」
 美羽は小さく笑って言った。あのラフなスタイルは真理子の個性なのだ。彼女の好きにさせておこう。それでハンデになることはない。
「もしかして、お父さんは地球に残るのですか?」
 話の流れから、ゲルバッキーも宇宙へは行かなそうだと思ったベアトリーチェは意思を確認する。ベアトリーチェはゲルバッキーの娘なのだ。だからお父さんと呼ぶ。
「ああ、本当は行きたいんだけどね。僕にしかできないこともあるんだよ」
 事情を良く知る留守番がいないとな、とゲルバッキーは答えた。万一の場合にはなるべく多くの人たちを避難させる準備もしていた。
 この地下教室も、最悪の場合シェルターになるのだ。むしろ安全なんだよ、と彼は笑う。
「一緒に行きたかったのに残念です」
 ベアトリーチェは、がっかりしたようだった。彼女もゲルバッキーの娘として父親とは仲がいい。さらに交流を深めるいい機会だったのだが、ゲルバッキーにも仕事があるのだから仕方がない。
「ああ、あの手紙を途中で落としてしまったらどうしましょう」
 ベアトリーチェはあらぬ方向を向いて言った。
「お父さんの恥ずかしい手紙、お空から降ってきたら大変でしょうねー」
 ベアトリーチェは【ニビルの手紙】を複数持ってきていた。ニビルとは、ゲルバッキーの昔の名前らしい。彼のトラウマの一つなのだ。
「ぐぬぬ」
 ゲルバッキーは唸った。
「まあまあ、そんな脅迫みたいなことをしなくてもいいじゃないか」
 パートナーのコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)は苦笑交じりにベアトリーチェをたしなめる。一緒に行って欲しくてお父さんを困らせている小さな女の子みたいだ。
「ドーナツあるよ?」
 コハクはなぜか【ドーナツ】をいくつも用意してきていた。だから、ふと言ってみただけだ。
 ゲルバッキーはかっこよく答えた。
「行く」
「え?」
 ベアトリーチェが目を丸くする。手紙には抵抗するのにドーナツに釣られるお父さんって何?
「まあ、真面目な話をすると、だ」
 ゲルバッキーは、宇宙行きを告げておいてから、何事もなかったように説明する。
「お前ら、ルシアが追いかけている男の顔知らないだろ? どうやって見つけるつもりだったんだ?」
「適当にお面全員集めてくる」
 美羽はきっぱりと言った。
「お面は、アイテムで【変身】している姿で、一人一人は分校の生徒だぞ。“中の人”は全部違うのさ」
 ゲルバッキーは、何気に決闘委員会の重要な秘密を口にしていた。お面モヒカンたちは、普段は普通の生徒で、決闘が始まったときだけあの姿になるのだ。
「そうなんですか!?」
 金ワッペンを手に入れたのに全然知らなかったベアトリーチェは驚いたようだった。無理もない。分校で戦い続けてきたゲルバッキーと、ほとんどいないベアトリーチェでは知識量が違うのだ。
「じゃあ、ルシアはそのお面モヒカンの正体を知ってて好きになったの? もしかして、普段は超美形だとか?」
 まあ、パラ実にもイケメンはいるかもしれないし、と美羽は聞いた。
「いや、僕なりに気になって調べてみたんだけど、そいつ正体は海賊みたいな髭生やしたマッチョだぞ」
 ルシアは外見で人を選ばないだろう、とゲルバッキーは言った。
「じゃあ、すごくいい人なのね。何かの才能に溢れているとか」
 ルシアならそんな相手もありかもしれない、と美羽は思った。
「いや、すげーバカだと思う。性格もまんま海賊みたいな奴だし。荒野のモヒカンとあんまり変わらない」
「じゃあ、どうして?」
 「きっと、ルシアは彼らの薄命にいても立ってもいられなくなったんだ。天然に見えるけど直感の鋭い子だからね。感受性にも優れているし、やさしい子だよ。言葉にはできないけど何とかしてあげたくなったんじゃないのかな?」
 ルシアは、最初にお面モヒカンに出会ったとき、彼らの死を予感していたのではないか、というのがゲルバッキーの推測だった。
 決闘委員会なんかやっていたら、男たちはいずれ他のモヒカンたちと同じように荒野で無意味に屍をさらす。いや、パラ実生の多くは自然の摂理に従って野生獣のように死んでいくのだ。それは、彼らにとってはもやは当たり前のこと。長く生きて何になる? 派手に短く散るのもまた一興、というのが彼らの主張でもあった。
 これまで世間を知らなかったルシアはその事実に大きな衝撃を受けたのだ。
 どうしてあげたらいいんだろう。しかし、自分ひとりではどうしようもないし、そもそもそれが果たして正しいのか。余計なお世話ではないのか。自己満足の感情ではないのか。……ルシアは葛藤していたのだろう。
 荒野のならず者たちを擁護するつもりはない、とゲルバッキーは前置きをしてから続けた。
「モヒカンたちはさ、もちろんほとんどチンピラで悪いやつらなんだけど、それでも一人一人に名前があってそれぞれの人生もあるんだよ。夢も希望も将来もあって、感情を持った人間なんだ。ただの十把ひとからげの虫けらじゃない。自分を助けてくれたお面モヒカンを一人の男として見た時、ルシアはその事に気づいたんだ。決闘委員会のスカウターのような機械がおかしくなった影響もあるのかもしれないけど、初めての感情に戸惑って、少し自分を見失っているだけだよ」
 目を覚まして欲しいものだね、とゲルバッキー。悪はやはり悪なのだ。エンヘドゥもそうだが、ルシアにも悪の概念はない。だから無警戒で危なっかしいのだ。
「ルシア……」
 美羽は、胸にこみ上げてくるものがあった。ルシアは、モヒカンにも偏見を持つことなく分け隔てのない思いやりの心を持っていたのだ。好きとか嫌いとか以前に、モヒカンたちを一人の人間としてみなしバカな真似はやめて欲しいと願っていたのだろう、と思った。
「奴らはバカだから、宇宙行きの一番乗りを目指して、先に出発しちゃったよ」
 ゲルバッキーは今更ながらに言った。
「え、もう宇宙へいっちゃったの?」
 コハクは、どうしてそうなった? と疑問顔だ。もしその人物がまだいたら、美羽たちと一緒に宇宙へいくことも考えていた。だが、彼女らが分校へついた時には、そのお面モヒカンはもう空へと飛び立った後だったのだ。
「お前たちが遅かったわけじゃないよ。奴らは命を顧みていないんだ」 
 露払いのつもりらしいが所詮はモヒカンだ、とゲルバッキーは皮肉を交えた。彼らは後先を考えていない。過酷な環境に慣れきっており、命の値段が安いのだ。彼らにしてみれば、荒野で無駄な争いをして勝手にのたれ死ぬのも宇宙へ行くのも同じ事なのだった。それは、決闘委員会のお面モヒカンも例外ではない。
「でも、そう考えるとルシアは追いつけないんじゃない。地球型ロケットよりも速い機体で先に行ったんだから。ルシアはどうするつもりなんだろう」
 コハクはやきもきする。
「無理やり引き合わせるわよ。私たちが全員連れてくるわ」
 美羽は言った。ルシアが本当に本気なら、相手が海賊髭でも恋の橋渡しをしてもいいと考えていた。
 そんな雑談をしていると、美羽たちを送り届けてくれるロケットの発射準備ができた、と工業科の整備士が伝えに来た。
 ロケットは全長50m以上もあり、その大きさに驚かされるが、地下にそれを収納できるスペースがあることもさらに驚きだ。パラ実は奥が深い。
「じゃあ、行きましょう」
「まあいいけど、留守番がいなくなるな」
 ゲルバッキーは、この後の5号機は誰が受付をするんだろう、と心残りのようだった。彼なりに、分校を心配していたのだ。
「まあ、子分たちに任せるか」
 ゲルバッキーは、戦い続け金ワッペン保有者だった。子分のモヒカンはたくさんいた。
「では、行ってきます」
「ヒャッハー! 後のことは任せておけよ!」
 ゲルバッキーの子分たちが見送る中、美羽たちはロケットに乗り込んだ。真理子は軽装のままだった。
「トラベラーだから」
 といつものように彼女は答えた。全然安心できないが。
「発射ニ十秒前……」
 ロケットが発射体勢に入り、デジタル合成の声が響く。
 天井が開いた。地下の基地から、空が見えるようになる。いつ誰がこんな設備を作ったのだろうか。本当に何でもありだ。
「三、ニ、一、ゼロ……」
 カウントダウンが読み上げられ、美羽たちが乗ったロケット、『壊天・四号機』はエンジンを噴射した。爆音が響き、炎が吹き荒れる。
 ドォォォォ……ンッ!
 ロケットは、予想以上の速さで飛び去っていき、ほどなく雲の向こうに見えなくなった。無事に発射が成功したので、一安心。あとは、彼女らの宇宙空間での活躍に期待しよう。