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  4・川辺の対決

 川辺で釣りをする葉月ショウ(はづき・しょう)
「きたきたっ! これはでかいぜっ!」
 勢いよく竿を引っ張りあげたショウ、その先には見事にくっついていた。
 ゴム長靴が。
「あぁ……ざんねん。やっぱ初心者の俺じゃ、簡単には釣れないなぁ」
「あはは。そんなの本当に釣る人、初めて見ましたよ」
 くすくすと笑うのは、彼のパートナー、葉月アクア(はづき・あくあ)だった。
「ちぇ。悪かったな」
「でもだいじょうぶ。そのぶん私がちゃんと捕まえるから。魚を捕るための玉網もちゃんと準備してきたんだから。見ててよー」
「気をつけろよ、そのへん滑りやすいから」
「うん。へいきへいき……あっ、やばっ!」
 と、そう言ったそばからつるりと足元の石に滑り、そのまま川にはまる結果となってしまった。
「ああっ、だ、大丈夫? アクア!」
 幸いさほど深くない場所だったが、それでもアクアの着ていた空色のワンピースがびしょびしょになってしまっていた。
「だ、だいじょうぶ……こういうことも考えてちゃんと予備に、蒼学の制服も持ってきて……くしゅん!」
「風邪引いたら大変だ、はやく着替えないと」
「う、うん。ゴメンね、ショウ」
 そうしてふたりは、近くのバンガローへと入っていった。
 そんなふたりを眺めて、
「お熱いなぁ……ま、こっちは釣りに熱くならないと、ね!」
 そんなことを叫び竿を振っているのは、陽神光(ひのかみ・ひかる)だった。
 彼女の釣り方はウキ釣りで、川底が極端に深くなっている(川の色が濃い部分)や岩と岩の間の流れが強くなっている部分を重点に狙う本格派だった。
「白熱するのもいいですけれど、そろそろ日が沈みますから、ほどほどにしてくださいね」
 そう声をかけるのは彼女のパートナー、レティナ・エンペリウス(れてぃな・えんぺりうす)。彼女は彼女で、光の釣った魚の頭と尻尾に切れ目をいれ、血抜きを行っていた。血抜きした魚は事前に用意しておいた保冷剤の入った大き目のクーラーボックスに入れ、鮮度を保っている。その準備万端さは、驚嘆に値すると言えるだろう。
 ちなみにそのボックスにはもう十数匹もの魚が入っていた。
「確かに暗くなってきたね、そろそろ切り上げ時かなぁ」
 そう呟くのは近くで釣りをする時枝みこと(ときえだ・みこと)
 そんな彼女の釣り糸の近くに、ちゃぽん、と石が投げ込まれた。
「ん……?」
 思わず傍らにいたパートナーのフレア・ミラア(ふれあ・みらあ)に目線を向ける。彼女も気がついたらしい。こくん、と首を動かす。
 またまた、ちゃぽん、とどこからか石が放り込まれる。その行為は明らかにただのイタズラに見える。が、この場にいる誰もそんなイタズラをしているようには見えない。つまり……。
「妖精のパックさん、でしょうか?」
 ひそひそ、とフレアはレティナに耳打ちする。
「かもね……ちょっと試してみるか」
 みことは釣竿を置いて、サイドスローの投げ方で小石を跳ねるように投げて見せる。すると水面を三度ほど跳ねて、沈んだ。
 すると、再びどこかから飛んできた石が、似たように水面を二度跳ねた。
「ふふん、オレのほうがたくさん跳ねたな」
「あ、でもワタシも得意なんですよ、これ」
 レティナが小石を投げると、四回跳ねた。そしてまたフレアが投げ、今度は五回跳ねた。
「むぅっ!」
 聞こえてきた少年の声を、ふたりは聞き逃さなかった。しかしそれでも探そうとはせずに、小石投げ勝負を続けるのだった。
 そんな様子を眺めているのは、風森巽(かぜもり・たつみ)と、パートナーのティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)
「飽きてきたんなら、一緒にやってもいいぞ?」
 うずうずしていたティアに、巽は優しく声をかける。言われた通り魚釣りに若干飽き始めていたティアは、喜々として小石投げに参戦する。
 そして投げた小石は七回も跳ねて、川へと沈んだ。
「やったぁ! ボクがいっちばーんっ!」
 ぴょんぴょんと自分も跳ねて、喜ぶティア。
「どれ、我もやってみますか」
 巽も腰をあげて、無邪気な彼らに交わっていった。

 そうしてしばらく小石投げを満喫する内に、陽は沈み辺りは黒く染まり始める。
「さて、そろそろ戻ろうか。バーベキューしてる皆も待ってるだろうし」
 そうして声をかけた巽だったが、
「八回跳ねさせた私が一番だったよね。ね? レティナ?」
「あら、私は九回でしたけれど」
 いつの間にか、釣りを終えた光とレティナも参加して総勢7名での勝負となっていた。
「オレは結局五回だったなぁ、残念」
「ワタシは六回が限界でしたよ」
 笑いあうみこととラミア。
「あっ! 今、十回も跳ねたよ! やったぁ、これでボクが一番だねっ!」
 粘り強く挑戦していたティアが、また両手を挙げて跳ねる。
「待てよっ! いちばんはオレだっ!」
 その時、ようやくパックが姿を現した。
 パックはそのまま巽たちのクーラーボックスを引っ掴む。
「オレがいちばんだからなっ! だからこれ、もらっちゃうから。ははっ!」
 そして、森の中へと逃げようとするパック。
「あ、ちょっと! 待って!」
 裸足のまま追いかけようとしたティアだったが、巽の手によって静止させられる。
「元々あげるつもりだったし、いいんじゃないか? それに盗られたのは我らのぶんだけのようだし……」
 てっきり追ってくると思っていたパックは、逆に意表をつかれて立ち止まってしまっていた。
「欲しいなら、オレらのぶんもいいぜ、パック!」
 そのパックの様子を見て、みことはそんなことを叫んだ。
 みことが自分達のクーラーボックスも掲げて差し出そうとする。
 それでますます居心地の悪そうになってしまうパック。
「いや。オレ、こんなに食べれないし……そもそも、別に魚が欲しいんじゃないし……」
 ただ負けたのが悔しかったからイタズラしただけ、とは言えなかった。
「そうか、なら皆にも食べてもらうか? 近くにいるんだ、そこに行けば調理してくれるし何より1人で食べる事も無い、どうする。無理にとは言わないよ」
「どうしますか? 皆さんと楽しく食事というのはいかがでしょう?」
 レティナも説得に参加する。
 しかし、パックはなにやら悔しいような困ったような複雑な表情になった後、持っていたクーラーボックスを放りだして、またどこかへ飛び去ってしまった。
「ああ……行っちゃった」